公開日 2013/09/10 11:31
【特別インタビュー】創始者・ガルマン氏が語る、MSB Technologyの開発フィロソフィー
既成のDACに満足できず自らの手で開発を始めた
日本における本格導入を果たした先進のブランド「MSB Technology」。この導入に合わせて、MSBの創始者で、代表でもあるローレンス・S・ガルマン氏が来日を果たした。ここでは、注目のハイエンドブランドのフィロソフィーや製品の特徴などを、山之内 正氏のインタビューにより明らかにしていきたい(なお、山之内 正氏の「AnalogDAC」レビューはこちら)。
■既成のDACに満足できずに自らの手で開発することにした
山之内 正(以下、山之内) 最初に会社創立のバックグラウンドと、ブランドフィロソフィーをお聞かせください。
ローレンス・S・ガルマン(以下、ガルマン) 1980年代中盤に、自分でCDをいじり始めたんです。フィリップスのCDプレーヤーを分解して、DACの部分を改造してみたり、アナログの部分も。それを友達に譲ったりしていました。そのうちに「Stereo Phile」誌でレビューをしていただけるチャンスが巡ってきたんです。レビュアーのTom Norton氏が、私のCDプレーヤーを評価してくれました。その頃は、まだまだCDそのものの音が悪い物が多かったんですが、私が作ったCDプレーヤーは音が良いと認められ、売れたんです。それが元で会社をスタートさせました。
MSBは技術が中心の会社としてやってきました。決してマーケティングの会社ではないということです。それからOEMもかなりやっています。やはりDACが重要ということで、まずそこに注力しました。DAC部でも、既存のチップを使わないということで、自社開発を始めました。いまやUSBの部分もそうですし、インプット、アウトプット、それから最近はクロックまでも、すべて自社内で作っています。他のメーカーは、通常他社からDACチップを購入して、その周辺回路を作るのが常套手段ですが、MSBは、DACに関しても、全て自分達で組んでいるというのが、我々の大変なアドバンテージだと思います。
■さまざまなアップデートが可能で広く長く対応できる事がポリシー
山之内 いまはメディアを使わない色々な再生方法が出てきたので、本当にチャレンジすることがたくさんあると思いますが、その状況をどのように見ていますか。
ガルマン まず、音楽ありきということ。どんなメディアであっても、それはウェルカムという態度が基本にあります。例えばiPodからデジタルデータを取り出して、DACへ送るということは、WADIAが出す2年前にもう既にやっていたこと。iPodそのものは音楽を再生するツールとして非常に将来のあるものだし、大変面白い物だと思ってやってみたんです。例えば、いま話題のサーバーであれば、現在はOEMの供給をすべくやっています。まあ色々な形であって、USBインターフェースやストリーミングなども含めて、7社ぐらいとやり取りをしているところです。
ただ、MSBブランドのサーバーということを考えると、そのスタイルもまだまだ変わるんじゃないかということもあって、すぐに変わっちゃうものを作って出すというのはどうしても自分としては納得できません。つまりトレンドとかマーケットとか、そういうものにあくまでコントロールされないように、自分たちがマーケットをリードしていきたい。自分達が信じられる製品を出して、この先、10年でも20年でも使ってもらいたい、ということが念頭にあるので、いまは手をつける気持ちはありません。
山之内 現在のトランスポートとDACの2つは、その考えが形になったものと考えていいんでしょうか。
ガルマン そうですね。もちろんこれが具現化しているものになります。DAC4シリーズは3機種ありますが、基本設計は10年前に導入されたものです。アップデート、アップグレードという形でやってきています。ですから10年前のDACを持ってきて、今のと同じパフォーマンスにしてくれ、ということであれば、それもできます。
それから新しいモデルとして「AnalogDAC」があります。これは、さほどアップデートはできないんですが、インプットに関しては、モジュール式になっていて、どんなものにも替えられます。それから社内でDSDの4倍速も、ほぼでき上がっていて、完成すればもちろん搭載できるような形にします。これがMSBのやり方なんです。
山之内 ではCD専用のトランスポートについてもお聞かせください。
ガルマン 「Signature Data CD」は今、私達のレファレンスになっています。CDのみのモデルなんですが、ベースはCD-ROM。先程のiPod用トランスポートを作った後に開発したんですが、実はその時に使っていたCDトランスポートと比べ、自分達で作ったiPodの方が音がいい結果となってしまいました。これはどう考えてもおかしいと、色々検証した結果、そのiPodにリッピングする時のCD-ROMのリッパーによる精度の違いで、音の違いが出てきているということが分かったんです。その点を何とかしようと、作り上げたのがこのモデル。
あるメーカーのある時期に作ったCD-ROM機が、やっぱり非常に良い。それをベースに、レファレンス機になれるように、トレイなんかも削り出しにしたり、筐体の部分も自分達で全部モデファイしました。メカの部分もかなり自社で、色々やっているんですよ。
山之内 要するにリッピングして、バッファーに入れて、それを再生するわけですね。
ガルマン そうです。384kHz/32bitのデータディスクにまで対応できます。
山之内 リッピングする場合でも、そこまでトレイに精度が必要なんですか。やりすぎなんじゃないかなぁ(笑)。でも、ディスクメディアを大切にされていることが良いですね。もう全部データ再生にシフトしちゃっても良いわけでしょう。そういうメーカーもあるし……。だけど、ディスクをちゃんと再生するというポリシーがある。その点はとても素晴らしいと思います。
ガルマン 色々な国に行って色々なお客様と会いますと、ほとんどの人はやっぱりSACD、CDの再生を大事にしていますし、そういうお客様をケアしていきたいです。いきなり、一切ディスク使えませんよって言うわけには、自分としてはいかないし、毎日のようにPCを使って仕事はしますけれども、音楽をエンジョイするときはディスクをポッと入れて、エンジョイして……そういう時間が大切ということですね。
山之内 本日は有難うございました。
本記事は、「オーディオアクセサリー150号」のインタビュー記事からの抜粋です(インタビュー全文は誌面をご覧ください)。
(写真/君嶋寛慶)
■既成のDACに満足できずに自らの手で開発することにした
山之内 正(以下、山之内) 最初に会社創立のバックグラウンドと、ブランドフィロソフィーをお聞かせください。
ローレンス・S・ガルマン(以下、ガルマン) 1980年代中盤に、自分でCDをいじり始めたんです。フィリップスのCDプレーヤーを分解して、DACの部分を改造してみたり、アナログの部分も。それを友達に譲ったりしていました。そのうちに「Stereo Phile」誌でレビューをしていただけるチャンスが巡ってきたんです。レビュアーのTom Norton氏が、私のCDプレーヤーを評価してくれました。その頃は、まだまだCDそのものの音が悪い物が多かったんですが、私が作ったCDプレーヤーは音が良いと認められ、売れたんです。それが元で会社をスタートさせました。
MSBは技術が中心の会社としてやってきました。決してマーケティングの会社ではないということです。それからOEMもかなりやっています。やはりDACが重要ということで、まずそこに注力しました。DAC部でも、既存のチップを使わないということで、自社開発を始めました。いまやUSBの部分もそうですし、インプット、アウトプット、それから最近はクロックまでも、すべて自社内で作っています。他のメーカーは、通常他社からDACチップを購入して、その周辺回路を作るのが常套手段ですが、MSBは、DACに関しても、全て自分達で組んでいるというのが、我々の大変なアドバンテージだと思います。
■さまざまなアップデートが可能で広く長く対応できる事がポリシー
山之内 いまはメディアを使わない色々な再生方法が出てきたので、本当にチャレンジすることがたくさんあると思いますが、その状況をどのように見ていますか。
ガルマン まず、音楽ありきということ。どんなメディアであっても、それはウェルカムという態度が基本にあります。例えばiPodからデジタルデータを取り出して、DACへ送るということは、WADIAが出す2年前にもう既にやっていたこと。iPodそのものは音楽を再生するツールとして非常に将来のあるものだし、大変面白い物だと思ってやってみたんです。例えば、いま話題のサーバーであれば、現在はOEMの供給をすべくやっています。まあ色々な形であって、USBインターフェースやストリーミングなども含めて、7社ぐらいとやり取りをしているところです。
ただ、MSBブランドのサーバーということを考えると、そのスタイルもまだまだ変わるんじゃないかということもあって、すぐに変わっちゃうものを作って出すというのはどうしても自分としては納得できません。つまりトレンドとかマーケットとか、そういうものにあくまでコントロールされないように、自分たちがマーケットをリードしていきたい。自分達が信じられる製品を出して、この先、10年でも20年でも使ってもらいたい、ということが念頭にあるので、いまは手をつける気持ちはありません。
山之内 現在のトランスポートとDACの2つは、その考えが形になったものと考えていいんでしょうか。
ガルマン そうですね。もちろんこれが具現化しているものになります。DAC4シリーズは3機種ありますが、基本設計は10年前に導入されたものです。アップデート、アップグレードという形でやってきています。ですから10年前のDACを持ってきて、今のと同じパフォーマンスにしてくれ、ということであれば、それもできます。
それから新しいモデルとして「AnalogDAC」があります。これは、さほどアップデートはできないんですが、インプットに関しては、モジュール式になっていて、どんなものにも替えられます。それから社内でDSDの4倍速も、ほぼでき上がっていて、完成すればもちろん搭載できるような形にします。これがMSBのやり方なんです。
山之内 ではCD専用のトランスポートについてもお聞かせください。
ガルマン 「Signature Data CD」は今、私達のレファレンスになっています。CDのみのモデルなんですが、ベースはCD-ROM。先程のiPod用トランスポートを作った後に開発したんですが、実はその時に使っていたCDトランスポートと比べ、自分達で作ったiPodの方が音がいい結果となってしまいました。これはどう考えてもおかしいと、色々検証した結果、そのiPodにリッピングする時のCD-ROMのリッパーによる精度の違いで、音の違いが出てきているということが分かったんです。その点を何とかしようと、作り上げたのがこのモデル。
あるメーカーのある時期に作ったCD-ROM機が、やっぱり非常に良い。それをベースに、レファレンス機になれるように、トレイなんかも削り出しにしたり、筐体の部分も自分達で全部モデファイしました。メカの部分もかなり自社で、色々やっているんですよ。
山之内 要するにリッピングして、バッファーに入れて、それを再生するわけですね。
ガルマン そうです。384kHz/32bitのデータディスクにまで対応できます。
山之内 リッピングする場合でも、そこまでトレイに精度が必要なんですか。やりすぎなんじゃないかなぁ(笑)。でも、ディスクメディアを大切にされていることが良いですね。もう全部データ再生にシフトしちゃっても良いわけでしょう。そういうメーカーもあるし……。だけど、ディスクをちゃんと再生するというポリシーがある。その点はとても素晴らしいと思います。
ガルマン 色々な国に行って色々なお客様と会いますと、ほとんどの人はやっぱりSACD、CDの再生を大事にしていますし、そういうお客様をケアしていきたいです。いきなり、一切ディスク使えませんよって言うわけには、自分としてはいかないし、毎日のようにPCを使って仕事はしますけれども、音楽をエンジョイするときはディスクをポッと入れて、エンジョイして……そういう時間が大切ということですね。
山之内 本日は有難うございました。
本記事は、「オーディオアクセサリー150号」のインタビュー記事からの抜粋です(インタビュー全文は誌面をご覧ください)。
(写真/君嶋寛慶)
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