公開日 2020/08/20 11:50
Xperiaが目指すのはプロも惚れる“本物感”。ソニーモバイル 復活ストーリーを岸田光哉社長が語る
VGP2020 SUMMER受賞インタビュー
受賞インタビュー:ソニーモバイルコミュニケーションズ
2020年度第1四半期のソニーの決算会見で、モバイル・コミュニケーションが110億円の営業利益を計上し、スマートフォン事業においては2年前に掲げた公約通り、本年度の黒字化達成が見込まれると公言された。「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」と再定義されたコーポレートビジョンのもと、ブレないものづくりでXperiaらしさを取り戻した新しいソニーモバイルの姿がそこにはある。その成果を結実させたXperia 1 IIは市場で大きな注目と高い評価を受け、VGP2020 SUMMERでは「スマホAVクオリティ大賞」の栄誉に輝いた。2年にわたる復活ストーリーを岸田光哉社長に聞く。
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ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)代表取締役社長
岸田光哉氏
プロフィール/昭和35年(1960年)2月7日生まれ。香川県高松市出身。昭和58年(1983年)4月 ソニー(株) 入社。平成21年(2009年) 4月 生産本部 生産戦略部門 部門長、平成23年(2011年) 3月 生産本部 副本部長、平成24年(2012年)4月 生産本部 本部長、平成25年(2013年) 1月 ソニーイーエムシーエス(株)代表取締役社長、平成26年(2014年)7月 ソニー(株) 生産センター長、平成26年(2014年)7月 Sony EMCS (Malaysia) Sdn.Bhd. Managing Director、平成28年(2016年)4月 ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(株)代表取締役社長、平成28年(2016年)6月 ソニー(株)執行役員ビジネスエグゼクティブ、平成30年(2018年)4月 ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)代表取締役社長 現在に至る、平成30年(2018年)6月 ソニー(株)執行役員 現在に至る。座右の銘は「You can get it if you really want」「Never too late」。趣味は音楽演奏、オンラインライブ(練習中)
インタビュアー 竹内 純(ファイルウェブビジネス編集部)
■好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを
―― 昨年、「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」という新たなコーポレートビジョンを掲げ、製品名を刷新して大幅にモデルチェンジしたXperia 1を発表されました。そして今年6月、ソニーの技術を結集した最上のコンテンツ体験を提供する製品、Xperia 1 IIへと進化を果たしましたが、同時に発表されたXperia 10 IIを含め、市場での目下の手応えや反響はいかがでしょう。
岸田 日本を皮切りにアジア、欧米各国など世界中に導入いたしましたが、各地でとても手応えある反応を実感しています。Xperia 1から新しくスタートを切りましたが、それ以前は正直、ソニーモバイルとしての商品の拠り所、これから未来に向け何を目指すのかを少し見失いかけていました。そこで約2年前にマネージメントのメンバーが結集し、世界中から社員の声をフィードバックしてもらいました。僕らが存在する意義を熱く語り合い、方向性を見定め、私たちが揺るがなく目指すコーポレートビジョンとして再定義したのが「好きを極めたい人々に想像を超えるエクスペリエンスを」だったのです。そのアウトプット第1弾となったのが、昨年発売したXperia 1でしたが、ビジョンの完成から時間的な猶予もなかったこともあり、完全な形で具現化できたのが、今回のXperia 1 IIとなります。
例えばカメラでは、デジタル一眼カメラ「α」で培った瞳AFを搭載しています。ご興味がない方にはあまり響かないかもしれませんが、そこに物凄い意味を見出していただける “好きを極めたい人” が確実にいて、Xperia 1 IIの良さを確実にご理解いただくことができました。さらに、ZEISS Lens、思いのままに撮影体験が広がるカメラ機能「Photography Pro」など、ひとつひとつのテーマに確かな手応えがあります。Xperia 1 II、Xperia 10 IIの魅力あふれるさまざまな機能を、お客様に価値として正しく実感いただくため、コミュニケーションの手法にも工夫を凝らしてもう一段進化させています。とりわけコロナ禍の環境も考慮し、WEB媒体を活用した発信力強化に力を入れています。
―― いろいろな先進的な機能も、お客様が知り、理解して初めて魅力になります。
岸田 そこはわれわれの永遠のチャレンジです。ビジョンの “好きを極めたい人々” には、オーディオ、ビデオ、ゲームなど世界の最先端のエレクトロニクスが凝縮されたスマートフォンの商品づくりに対し、誰もがやっていることをしていたのでは、われわれソニーが業界で勝ち残る戦略展開にはならないとの意味が込められています。社内向けに用意した長いビジョンには、「万人受けと決別する」「あなたの好きを極めるためなら、昨日までを否定し、徹底的につきぬける覚悟がある」など厳しめの文句も掲げています。
■歴史的とも言える大きな変化が起こり始めた
―― スマートフォンはもはやカメラ機能にとどまらず、動画を見る、音楽を聞く、ゲームをする最先端の技術が搭載され、それらをもっとも身近に高品位に楽しめるデバイスです。VGP2020 SUMMERの審査会では、Xperia 1 IIに対して「まるでオーディオ・ビジュアル機器を手にしているような圧倒的な存在感がある」と全審査員が口を揃え、高い評価が集まりました。
岸田 今回の「スマホAVクオリティ大賞」の受賞は、われわれが作りたかったもの、訴えたかったことをご評価いただくことができ、本当にうれしかったです。14億台超、30兆円超と言われる巨大なスマートフォン市場において、私たちがXperia 1 IIで実現した方向性は、必ずしも業界の時流と一致するものではありません。なぜなら、われわれがやりたかったのは “本物感” を実現することだからです。
例えば、さまざまな動画コンテンツも、以前より数多くのお客様から要望をいただきながら実現できていなかった3.5mmオーディオジャックの復活や2つのスピーカーの向きを揃えてステレオ再現性を向上させた “トゥルーステレオサウンド” など、コンテンツ制作者と一緒に相談しながら作り上げたXperia 1 IIなら存分に楽しむことができます。コンテンツを手掛けるソニーだからこそ、コンテンツが傷つくようなことは一切しない。21:9シネマワイド/4K HDR対応有機ELディスプレイは、現在、14億台超あるスマートフォンの市場で採用しているものは他にありません。好きを極めたい方、こだわりを極めたい方のための「これはいい」が随所に実現されています。
昨年Xperia 1をつくったとき、映画とほぼ同じ比率の21:9シネマワイドディスプレイを搭載し、世界初となる4K HDR対応有機ELディスプレイを採用したところ、映画を撮るソニーピクチャーズの皆さんからも感動いただきました。また、これをきっかけにXperia 1で短編映画を撮る活動が始まったほどです。今回、Xperia 1 IIでは、ソニーのお家芸とも言えますが、プロカメラマンの方々にもいろいろなアドバイスをいただきながら、もう少し広い “フォト” のオーディエンスに対し、確実に響く商品になったと自負しています。プロの方に実際にお使いいただき、さらに、満足いただけているか。これは私たちの挑戦になります。
―― Xperia 1からXperia 1 II への進化が劇的ですね。
岸田 進化は決して止まりません。今後も進化は続きますから楽しみにしていてください。少し前までは「こういう機能を入れて、これくらいの日程とコストでこういうものをつくりたい」とカメラのチームとやりとりを重ねる必要がありました。しかし今は、Xperiaのカメラの部分はソニーのカメラのチームが手掛けます。カメラの進化のロードマップをわれわれソニーモバイルのメンバーが語ったり、反対に、カメラのチームが自分たちのロードマップとしてスマートフォンの技術ロードマップを語ったりすることも珍しくなく、歴史的とも言える大きな変化が起こり始めています。
5G時代が到来し、画素数も物凄いレベルになってきています。ただし、それを信号として受け取り、処理をして、絵として認識してフォーカスを合わせていくにはさらなるスピードが必要です。自らイメージセンサーを作るソニーだからこそ行き着いたのは、イメージセンサーで取り出すスピードも考慮してパチッとフォーカスを充てていくこと。スピードを重視し、貫いていく、「ビルト・フォー・スピード(Built For Speed)」です。カメラの本道を極めて参ります。
―― 目を向ける視線の先が他のスマホに搭載されるカメラとは明らかに違う印象を受けます。
岸田 やはり大切なのは姿勢です。そこをしっかりと持つために、マネージメント一同がビジョンを共有しています。われわれの事業がドラスティックにかなり小さくなっていったとき、新たに「好きを極めたい人に」「万人受けと決別する」といった文句が入ったコーポレートビジョンを掲げた途端、社員からは「本当にそれでいいのですか」「会社をもっと小さくするつもりですか」といった批判の声も挙がりました。この会社はどうなっていくのか。議論を重ねて、皆が心をひとつにして、ソニーが持つ力を吸収していいものをつくりあげていくという答えを結実させたのがXperia 1 IIなのです。
■ゴールは “ソニーのモバイルの仕事の在り方をソニー化する” こと
―― ソニーの力を結集する意味からは、昨年4月にイメージング・プロダクツ&ソリューション事業、ホームエンタテインメント&サウンド事業、モバイル・コミュニケーション事業を統合し、新たにエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業の新体制がスタートを切りました。
岸田 世界中のスマートフォンメーカーがそうであるように、いろいろな商品カテゴリーの最先端の技術が詰まったスマートフォンには、当時、ディスプレイ、カメラ、スピーカー、マイクなどそれぞれに担当が存在しました。しかし、ソニーという目線で一歩引いて、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社が何をどこまでやるべきなのかを見てみると、オーディオにもテレビにもカメラにももっと凄いエキスパートがいるし、厚木には放送局が使うモニターやカメラを作るプロのチームまである。まさしくその可能性は無限大で、それを活かすためには、われわれが全部やり切るのではなく、One Sonyを具現化できる体制を構築すること。ソニー中の協力を得て、最先端の技術やノウハウを集約させるべきだと考えを改めました。
EP&Sという組織では、エレクトロニクスが今後どうあるべきか以前より議論を重ねてきました。映画もあり音楽もあり、今回100%子会社化したファイナンスもある。ひとつの塊として、これまでソニー株式会社の大きな部分を占めてきたエレクトロニクスが今後どう進化していくかは、経営陣の長年の課題でもありました。そして、これまで横たわってきた枠を取り払うことで、進化をもっと加速できると期待されています。
―― 構造改革の進捗についてお聞かせいただけますか。
岸田 厳しいスマートフォンの業界で何をすべきなのか。構造改革には非常に痛みを伴います。マネージメントの面々とひざ詰めで喧々諤々と意見を戦わせてきて、「すべてのプロセスをやり直そう」と結論を出しました。やり直していくゴールは “ソニーのモバイルの仕事の在り方をソニー化する” ことです。
ソニーモバイルはかつてソニーエリクソンというジョイントベンチャーで私もその1期生です。大成功を収めた経験があります。さらに、業務、設計、品質管理、工場運営、販売など、すべてにスマートフォン特有の独自プロセスがありました。それらをすべてソニー化しようというわけです。すべて自前で持っていた販売部門は、昨年4月に欧州でソニーヨーロッパと一体になり、国内でも今年4月1日にソニーのコンスーマー営業部隊と一緒になりました。非常に辛い構造改革のプロセスではありましたが、目指すのは “ソニーの通常プロセスに合わせる” こと。目標がブレることなく、当初3年の計画を2年で完遂し、成長モードに切り替え、今日に至っています。
■今回の黒字化がかつてない大きな転換点となる
―― 先日開催されたソニーの第1四半期の決算会見では、十時副社長よりソニーモバイルの第1四半期の営業黒字と年度の黒字化達成見込みが報告されました。
岸田 8月4日に開催されたソニーの決算会見では、2020年度第1四半期のモバイル・コミュニケーションセグメントが110億円の営業利益を出し、スマートフォン事業においては2年前に公約した2020年度の黒字化も達成が見込まれることが公言されました。あるマネージャーから「我々がこの2年、何のために苦しい構造改革をやり遂げてきたのか、その意味が本当にわかりました」と熱いメールが送られてきことが強く印象に残っています。
本当に皆がやり抜いてくれました。今回の黒字は、かつてない大きな転換点と言えます。黒字化することを目標とした単なる結果ではなく、そこには、コーポレートビジョンを定義し直し、そこへ向けたブレないものづくりを通してXperiaらしさを取り戻すことで、好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを提供し、信頼を勝ち取ることができたことを意味しているのです。
―― コロナの影響が気になりますがいかがですか。
岸田 スマートフォン全体の市場を、我々が今のビジネス規模の目線から語ることには語弊がありますが、ビジョンとして掲げる “万人受けをせず、好きを極めたい人にお届けする” 目線からは、本当に驚いたことに、コロナの影響によりお客様が買い控える傾向はほとんど見受けられません。むしろこういう環境下ゆえ「本当にいいものは早く手にしたい」との声をたくさんいただいています。世界中であらゆる商品の買い物のオンライン化が進んでいますが、冒頭に申し上げたように、お客様とのコミュニケーションの在り方をオンラインへシフトしたことで、われわれのメッセージをかなりクリアにお届けできるようになってきたことも幸いしたようです。これから先、コロナ禍では情報発信の戦いとなり、そこはしっかりと勝ち抜いていきます。
コロナ禍にはまた、日本の4Gの優秀さを再認識しました。世界中で比べても間違いなく最上位のレベルにあります。それが5Gになっていくメリットを体感いただける商品づくりを、ソニーモバイルが国内のオペレーターの皆様と一緒になってリードしていかなくてはならないと認識しています。2年前にこの会社に来て、世界中で働く皆さんの話を聞いたとき、これから5Gの時代にどのような世界を創造していくのか。好きを極めたい人に応えられる商品を確実に届けていかなければならないという皆さんのパッションに、「ここには間違いなく未来がある」と直感したことを今でも憶えています。
これだけ高品質の4Gを築き上げた日本の事業者が築き上げる5Gですから、どこにも負けるはずがありません。そこに必要とされる端末に求められることも、 “安い” ことではないはずです。「5Gってこんなことができるのか!」、そんな驚きや感動を、通信インフラだけでなく、端末やそれに伴うサービスを含めて実感いただかなくてはならない。Xperia 1 IIがまさにその1号機となります。ソニーモバイルはこれからも、そうした驚きや感動の世界をもっと拡大していくことに全力で貢献して参ります。どうぞご期待ください。
2020年度第1四半期のソニーの決算会見で、モバイル・コミュニケーションが110億円の営業利益を計上し、スマートフォン事業においては2年前に掲げた公約通り、本年度の黒字化達成が見込まれると公言された。「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」と再定義されたコーポレートビジョンのもと、ブレないものづくりでXperiaらしさを取り戻した新しいソニーモバイルの姿がそこにはある。その成果を結実させたXperia 1 IIは市場で大きな注目と高い評価を受け、VGP2020 SUMMERでは「スマホAVクオリティ大賞」の栄誉に輝いた。2年にわたる復活ストーリーを岸田光哉社長に聞く。
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ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)代表取締役社長
岸田光哉氏
プロフィール/昭和35年(1960年)2月7日生まれ。香川県高松市出身。昭和58年(1983年)4月 ソニー(株) 入社。平成21年(2009年) 4月 生産本部 生産戦略部門 部門長、平成23年(2011年) 3月 生産本部 副本部長、平成24年(2012年)4月 生産本部 本部長、平成25年(2013年) 1月 ソニーイーエムシーエス(株)代表取締役社長、平成26年(2014年)7月 ソニー(株) 生産センター長、平成26年(2014年)7月 Sony EMCS (Malaysia) Sdn.Bhd. Managing Director、平成28年(2016年)4月 ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(株)代表取締役社長、平成28年(2016年)6月 ソニー(株)執行役員ビジネスエグゼクティブ、平成30年(2018年)4月 ソニーモバイルコミュニケーションズ(株)代表取締役社長 現在に至る、平成30年(2018年)6月 ソニー(株)執行役員 現在に至る。座右の銘は「You can get it if you really want」「Never too late」。趣味は音楽演奏、オンラインライブ(練習中)
インタビュアー 竹内 純(ファイルウェブビジネス編集部)
■好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを
―― 昨年、「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」という新たなコーポレートビジョンを掲げ、製品名を刷新して大幅にモデルチェンジしたXperia 1を発表されました。そして今年6月、ソニーの技術を結集した最上のコンテンツ体験を提供する製品、Xperia 1 IIへと進化を果たしましたが、同時に発表されたXperia 10 IIを含め、市場での目下の手応えや反響はいかがでしょう。
岸田 日本を皮切りにアジア、欧米各国など世界中に導入いたしましたが、各地でとても手応えある反応を実感しています。Xperia 1から新しくスタートを切りましたが、それ以前は正直、ソニーモバイルとしての商品の拠り所、これから未来に向け何を目指すのかを少し見失いかけていました。そこで約2年前にマネージメントのメンバーが結集し、世界中から社員の声をフィードバックしてもらいました。僕らが存在する意義を熱く語り合い、方向性を見定め、私たちが揺るがなく目指すコーポレートビジョンとして再定義したのが「好きを極めたい人々に想像を超えるエクスペリエンスを」だったのです。そのアウトプット第1弾となったのが、昨年発売したXperia 1でしたが、ビジョンの完成から時間的な猶予もなかったこともあり、完全な形で具現化できたのが、今回のXperia 1 IIとなります。
例えばカメラでは、デジタル一眼カメラ「α」で培った瞳AFを搭載しています。ご興味がない方にはあまり響かないかもしれませんが、そこに物凄い意味を見出していただける “好きを極めたい人” が確実にいて、Xperia 1 IIの良さを確実にご理解いただくことができました。さらに、ZEISS Lens、思いのままに撮影体験が広がるカメラ機能「Photography Pro」など、ひとつひとつのテーマに確かな手応えがあります。Xperia 1 II、Xperia 10 IIの魅力あふれるさまざまな機能を、お客様に価値として正しく実感いただくため、コミュニケーションの手法にも工夫を凝らしてもう一段進化させています。とりわけコロナ禍の環境も考慮し、WEB媒体を活用した発信力強化に力を入れています。
―― いろいろな先進的な機能も、お客様が知り、理解して初めて魅力になります。
岸田 そこはわれわれの永遠のチャレンジです。ビジョンの “好きを極めたい人々” には、オーディオ、ビデオ、ゲームなど世界の最先端のエレクトロニクスが凝縮されたスマートフォンの商品づくりに対し、誰もがやっていることをしていたのでは、われわれソニーが業界で勝ち残る戦略展開にはならないとの意味が込められています。社内向けに用意した長いビジョンには、「万人受けと決別する」「あなたの好きを極めるためなら、昨日までを否定し、徹底的につきぬける覚悟がある」など厳しめの文句も掲げています。
■歴史的とも言える大きな変化が起こり始めた
―― スマートフォンはもはやカメラ機能にとどまらず、動画を見る、音楽を聞く、ゲームをする最先端の技術が搭載され、それらをもっとも身近に高品位に楽しめるデバイスです。VGP2020 SUMMERの審査会では、Xperia 1 IIに対して「まるでオーディオ・ビジュアル機器を手にしているような圧倒的な存在感がある」と全審査員が口を揃え、高い評価が集まりました。
岸田 今回の「スマホAVクオリティ大賞」の受賞は、われわれが作りたかったもの、訴えたかったことをご評価いただくことができ、本当にうれしかったです。14億台超、30兆円超と言われる巨大なスマートフォン市場において、私たちがXperia 1 IIで実現した方向性は、必ずしも業界の時流と一致するものではありません。なぜなら、われわれがやりたかったのは “本物感” を実現することだからです。
例えば、さまざまな動画コンテンツも、以前より数多くのお客様から要望をいただきながら実現できていなかった3.5mmオーディオジャックの復活や2つのスピーカーの向きを揃えてステレオ再現性を向上させた “トゥルーステレオサウンド” など、コンテンツ制作者と一緒に相談しながら作り上げたXperia 1 IIなら存分に楽しむことができます。コンテンツを手掛けるソニーだからこそ、コンテンツが傷つくようなことは一切しない。21:9シネマワイド/4K HDR対応有機ELディスプレイは、現在、14億台超あるスマートフォンの市場で採用しているものは他にありません。好きを極めたい方、こだわりを極めたい方のための「これはいい」が随所に実現されています。
昨年Xperia 1をつくったとき、映画とほぼ同じ比率の21:9シネマワイドディスプレイを搭載し、世界初となる4K HDR対応有機ELディスプレイを採用したところ、映画を撮るソニーピクチャーズの皆さんからも感動いただきました。また、これをきっかけにXperia 1で短編映画を撮る活動が始まったほどです。今回、Xperia 1 IIでは、ソニーのお家芸とも言えますが、プロカメラマンの方々にもいろいろなアドバイスをいただきながら、もう少し広い “フォト” のオーディエンスに対し、確実に響く商品になったと自負しています。プロの方に実際にお使いいただき、さらに、満足いただけているか。これは私たちの挑戦になります。
―― Xperia 1からXperia 1 II への進化が劇的ですね。
岸田 進化は決して止まりません。今後も進化は続きますから楽しみにしていてください。少し前までは「こういう機能を入れて、これくらいの日程とコストでこういうものをつくりたい」とカメラのチームとやりとりを重ねる必要がありました。しかし今は、Xperiaのカメラの部分はソニーのカメラのチームが手掛けます。カメラの進化のロードマップをわれわれソニーモバイルのメンバーが語ったり、反対に、カメラのチームが自分たちのロードマップとしてスマートフォンの技術ロードマップを語ったりすることも珍しくなく、歴史的とも言える大きな変化が起こり始めています。
5G時代が到来し、画素数も物凄いレベルになってきています。ただし、それを信号として受け取り、処理をして、絵として認識してフォーカスを合わせていくにはさらなるスピードが必要です。自らイメージセンサーを作るソニーだからこそ行き着いたのは、イメージセンサーで取り出すスピードも考慮してパチッとフォーカスを充てていくこと。スピードを重視し、貫いていく、「ビルト・フォー・スピード(Built For Speed)」です。カメラの本道を極めて参ります。
―― 目を向ける視線の先が他のスマホに搭載されるカメラとは明らかに違う印象を受けます。
岸田 やはり大切なのは姿勢です。そこをしっかりと持つために、マネージメント一同がビジョンを共有しています。われわれの事業がドラスティックにかなり小さくなっていったとき、新たに「好きを極めたい人に」「万人受けと決別する」といった文句が入ったコーポレートビジョンを掲げた途端、社員からは「本当にそれでいいのですか」「会社をもっと小さくするつもりですか」といった批判の声も挙がりました。この会社はどうなっていくのか。議論を重ねて、皆が心をひとつにして、ソニーが持つ力を吸収していいものをつくりあげていくという答えを結実させたのがXperia 1 IIなのです。
■ゴールは “ソニーのモバイルの仕事の在り方をソニー化する” こと
―― ソニーの力を結集する意味からは、昨年4月にイメージング・プロダクツ&ソリューション事業、ホームエンタテインメント&サウンド事業、モバイル・コミュニケーション事業を統合し、新たにエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業の新体制がスタートを切りました。
岸田 世界中のスマートフォンメーカーがそうであるように、いろいろな商品カテゴリーの最先端の技術が詰まったスマートフォンには、当時、ディスプレイ、カメラ、スピーカー、マイクなどそれぞれに担当が存在しました。しかし、ソニーという目線で一歩引いて、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社が何をどこまでやるべきなのかを見てみると、オーディオにもテレビにもカメラにももっと凄いエキスパートがいるし、厚木には放送局が使うモニターやカメラを作るプロのチームまである。まさしくその可能性は無限大で、それを活かすためには、われわれが全部やり切るのではなく、One Sonyを具現化できる体制を構築すること。ソニー中の協力を得て、最先端の技術やノウハウを集約させるべきだと考えを改めました。
EP&Sという組織では、エレクトロニクスが今後どうあるべきか以前より議論を重ねてきました。映画もあり音楽もあり、今回100%子会社化したファイナンスもある。ひとつの塊として、これまでソニー株式会社の大きな部分を占めてきたエレクトロニクスが今後どう進化していくかは、経営陣の長年の課題でもありました。そして、これまで横たわってきた枠を取り払うことで、進化をもっと加速できると期待されています。
―― 構造改革の進捗についてお聞かせいただけますか。
岸田 厳しいスマートフォンの業界で何をすべきなのか。構造改革には非常に痛みを伴います。マネージメントの面々とひざ詰めで喧々諤々と意見を戦わせてきて、「すべてのプロセスをやり直そう」と結論を出しました。やり直していくゴールは “ソニーのモバイルの仕事の在り方をソニー化する” ことです。
ソニーモバイルはかつてソニーエリクソンというジョイントベンチャーで私もその1期生です。大成功を収めた経験があります。さらに、業務、設計、品質管理、工場運営、販売など、すべてにスマートフォン特有の独自プロセスがありました。それらをすべてソニー化しようというわけです。すべて自前で持っていた販売部門は、昨年4月に欧州でソニーヨーロッパと一体になり、国内でも今年4月1日にソニーのコンスーマー営業部隊と一緒になりました。非常に辛い構造改革のプロセスではありましたが、目指すのは “ソニーの通常プロセスに合わせる” こと。目標がブレることなく、当初3年の計画を2年で完遂し、成長モードに切り替え、今日に至っています。
■今回の黒字化がかつてない大きな転換点となる
―― 先日開催されたソニーの第1四半期の決算会見では、十時副社長よりソニーモバイルの第1四半期の営業黒字と年度の黒字化達成見込みが報告されました。
岸田 8月4日に開催されたソニーの決算会見では、2020年度第1四半期のモバイル・コミュニケーションセグメントが110億円の営業利益を出し、スマートフォン事業においては2年前に公約した2020年度の黒字化も達成が見込まれることが公言されました。あるマネージャーから「我々がこの2年、何のために苦しい構造改革をやり遂げてきたのか、その意味が本当にわかりました」と熱いメールが送られてきことが強く印象に残っています。
本当に皆がやり抜いてくれました。今回の黒字は、かつてない大きな転換点と言えます。黒字化することを目標とした単なる結果ではなく、そこには、コーポレートビジョンを定義し直し、そこへ向けたブレないものづくりを通してXperiaらしさを取り戻すことで、好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを提供し、信頼を勝ち取ることができたことを意味しているのです。
―― コロナの影響が気になりますがいかがですか。
岸田 スマートフォン全体の市場を、我々が今のビジネス規模の目線から語ることには語弊がありますが、ビジョンとして掲げる “万人受けをせず、好きを極めたい人にお届けする” 目線からは、本当に驚いたことに、コロナの影響によりお客様が買い控える傾向はほとんど見受けられません。むしろこういう環境下ゆえ「本当にいいものは早く手にしたい」との声をたくさんいただいています。世界中であらゆる商品の買い物のオンライン化が進んでいますが、冒頭に申し上げたように、お客様とのコミュニケーションの在り方をオンラインへシフトしたことで、われわれのメッセージをかなりクリアにお届けできるようになってきたことも幸いしたようです。これから先、コロナ禍では情報発信の戦いとなり、そこはしっかりと勝ち抜いていきます。
コロナ禍にはまた、日本の4Gの優秀さを再認識しました。世界中で比べても間違いなく最上位のレベルにあります。それが5Gになっていくメリットを体感いただける商品づくりを、ソニーモバイルが国内のオペレーターの皆様と一緒になってリードしていかなくてはならないと認識しています。2年前にこの会社に来て、世界中で働く皆さんの話を聞いたとき、これから5Gの時代にどのような世界を創造していくのか。好きを極めたい人に応えられる商品を確実に届けていかなければならないという皆さんのパッションに、「ここには間違いなく未来がある」と直感したことを今でも憶えています。
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