公開日 2021/06/02 10:24
ニコンIJ・若尾氏が語る、「人とつながり、喜びを共有できるカメラの真の楽しさ、美しさをもっと多くの人に知ってもらいたい」
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞インタビュー
ニコンZシリーズを代表する大口径標準レンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」が「デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER」で交換レンズの総合金賞を受賞した。カメラでは3月に開発発表を行ったフラグシップ機「Z 9」が大きな注目を集めている。コロナ禍が追い打ちをかけ、厳しい環境に立たされるカメラ業界だが、「CP+2021」で練り上げたオンラインイベントに大きな手応えを掴むなど、ニューノーマル時代を見据えたカメラの新しい価値の発信、新しいユーザーの獲得にも積極的な展開を見せるニコンイメージングジャパンの若尾郁之氏に話を聞く。
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞一覧はこちら(※リンク先PDF)
株式会社ニコンイメージングジャパン
執行役員 マーケティング本部長
若尾郁之氏
わかおふみゆき Fumiyuki Wakao
プロフィール/1968年11月26日生まれ、神奈川県出身。1991年 (株)ニコンに入社、二度の海外販売子会社への駐在を経て、現在、(株)ニコンイメージングジャパンでマーケティング本部に所属。好きな言葉は「一期一会」。趣味はテニスと写真。
■Zシリーズを代表する大口径標準レンズが登場
―― 「デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER」で、「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」が交換レンズの総合金賞を獲得されました。おめでとうございます。審査会では、覚悟を持ってZマウントに臨んだニコンから、その象徴とも言えるレンズがいよいよ誕生したと高い評価が集まりました。市場では各社からも魅力的なレンズの新製品が発売されていますが、高価格化の流れが顕著ななかで、頑張れば手が届く20万円台中ごろの価格も評価されました。
若尾 まずは、このたびは「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」を『総合金賞』にお選びくださりありがとうございます。これまでNIKKOR Zレンズの中でも象徴的な存在と言われてきたのが、圧倒的な明るさを誇る超ハイスペックの「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」ですが、今回総合金賞を受賞した「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、それにも匹敵する相当に高い意気込みで開発に臨んだレンズになります。50oという非常にスタンダードな画角でありながら、これまでとはまったく違うアウトプットを出すことができ、まさにその徹底したこだわりが総合金賞として結実したのだと思います。
光学性能に力点を置き、ビオゴン(Biogon)タイプを発展させ、対称型を積み重ねたレンズ構成で、収差を抑え、その実力をいかんなく発揮すると同時に、これをマニュアルフォーカスではなく、高速で高精度なオートフォーカスで撮れるようにすることで、いままでにない描写性能を実現しました。
50oでf1.2といえば誰しもがポートレート撮影を思い浮かべますが、「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、物撮りやスナップ撮影などどんなシーンでも大変美しく描写できます。自分自身も購入してスナップ撮影を楽しんでいます。確かに少々重量感があるのは事実なのですが、それを忘れてしまうくらいの面白さを味あわせてくれます。フォーカスリングを少しずつ動かすたびに絵が生き物のように変わっていく。手にする楽しさ、撮影する楽しさを感じさせてくれるレンズです。
―― 本来ならリアル店舗で直に触れて、ファインダーを覗いて実感いただきたいところですね。
若尾 本当にそう思います。手に取ってファインダー越しに、もしくはパネル越しに変化を見ていただくだけでも、面白くて楽しいレンズであることをすぐに実感いただけます。「撮る写真がすべて上手くなっているように感じる」という声をよくいただいています。
Zマウントレンズのラインナップは18本となり、2022年末までに約30本まで拡充させるロードマップ(※リンク先PDF)を公開しています。マイクロレンズや望遠レンズを早く出して欲しいという声は特に強く、安価で気軽に使える軽量でコンパクトなものを望まれる声もよくお聞きします。いかにタイムリーなレンズを投入してラインナップを拡充できるかが大事だと感じています。
■大きな期待と責任を背負ったZ 9
―― カメラでは各社から新製品が話題を提供していますが、店頭からは「高価なものばかり」との指摘もあり、課題である新しいお客様へアプローチできる製品も待望されています。ニコンのカメラの商品展開についてお聞かせください。
若尾 お客様の嗜好は大きく変化しており、一昔前ならば静止画で子供の成長を撮ることができれば満足されていましたが、今は動画と静止画の垣根も曖昧となり、以前のようにハイエンドのモデルがまずあり、そこからミドル、エントリーとラインナップを展開していくやり方では通用しなくなっています。お客様がカメラに対して何を求めているのか。多様化するニーズを深掘りした、それぞれのニーズを満たすことができる展開が求められています。
例えばWEBカメラが話題を集めていますが、リモート会議やリモート飲み会でPCの画面に映る自分や相手の顔の画質の違いは一目瞭然です。そこで自分をいかにアピールするか。WEBカメラに“道具”としての価値を感じる人になら、コスト感も違ってくる。そこにいち早く気づき、どのような商品やサービスを提供していけるか。古い固定概念を払拭していかなければなりません。
なお、ニコンのミラーレスやデジタル一眼レフカメラは現在、PC専用ソフトウェア「Webcam Utility」を入れることでWebカメラとしてご使用いただけます。CP+2021で各社のエンジニアの代表が集まって行われたパネルディスカッションの際に、ニコンではWEBカメラで映像をお届けしたところ、ニコンの画質がキレイだとSNSでも話題になり、本当に皆さんWEBカメラに注目されているんだなと実感しました。
―― 新しいトレンドを捉える一方、往年のカメラファンから熱い眼差しを向けられているのが3月に開発発表されたミラーレス一眼のフラグシップ機「Z 9」です。
若尾 数多くの写真家の方々から「ニコンはミラーレスのフラグシップをいつ出すのか」と尻を叩かれていました。弊社のユーザーが求める“フラグシップ感”は相当に高いレベルにあるものですから、開発陣も苦労に苦労を重ねてゴールを目指しています。今回の開発発表にあった「D 6を超えるものを目指す」との言葉を見て、開発陣の並々ならぬ覚悟を感じました。プレッシャーも相当なものではないかと想像されます。
Z 9には新開発の高解像積層CMOSセンサーや画像処理エンジンの搭載を予定し、これまでとは次元の違う実力やパフォーマンスを目指しています。静止画だけでなく、今は絶対に外すことができない動画においては「8K動画対応」を目標に掲げています。これまでのニコンのカメラでは撮影するジャンルによる強みや弱みを指摘されることもありましたが、Z 9はあらゆるジャンルの写真家が満足して使えるカメラとして開発が進められています。
フラグシップとなる「Z 9」を中心に、カメラ、レンズともに新製品を投入してラインナップを拡充し、市場全体を盛り上げて参ります。
■CP+オンラインイベントで感じた確かな手応え
―― 先ほどお話にあったWEBカメラやVlogなど新しいカメラの価値が注目を集めていますが、カメラ市場の近況についてはどのようにご覧になられていますか。
若尾 2021年になってもなかなか先が見通せない状況が続いています。CP+も例年なら横浜に多くのファンが集まって盛大に行われるのですが、今年はオンライン単独での開催となりました。コロナ禍で依然、日々の生活にもいろいろな制約があります。しかし、SNSを覗いてみれば、「写真を撮りたい」「写真で自己表現をしたい」と毎日数多くの写真や動画がアップされ続けています。
そこで、今年のCP+2021で弊社が行ったオンラインイベントでは、ユーチューバーやプロトラベラーをお呼びして講演やセミナーを行うなど、これまでのイベントよりも幅広い層にアプローチいたしました。チャットでの反応に対して極力お応えするなど、双方向のコミュニケーションも重視しました。わずか数日の間ですが、まるで数年前に行って大反響を得たファンミーティングのような雰囲気を築くことができ、いままでとは違った感触で、大きな手応えを得ることができました。コロナ禍においても多くの方が写真を撮りたい、学びたいと思っている切実な思いを痛感しました。
―― 御社は昨年のCP+でもオンラインによるイベントを独自に開催されています。
若尾 毎年多くの来場者で会場が熱気に包まれるCP+ですが、大多数のお客様が首都圏から訪れています。これがオンラインになると本当に全国津々浦々からアクセスいただけるのが大きなメリットです。「こんな素晴らしい時間をありがとう」とオンライン開催に対する感謝の言葉も多くの方からいただきましたし、また、手元に自分のカメラを用意して、写真家が説明している設定方法にその場で合わせ、撮影して試せるのもオンラインならではと言えます。
同じメディアでも、文字よりも映像の方が頭に情報が入りやすく、理解しやすい面もあります。努力と工夫次第で情報伝達の効果ももっと変わってくるはずです。コロナが終息して日常が戻ったときにも、引き続きオンラインが大きな役割を担う存在となります。CP+でも「やはりきちんと機材に触れることができてこそ」との声があるのは事実ですが、これからはオンラインとオフラインの双方のシナジーで、より多くの人に製品の魅力を実感いただけるかたちを模索していかなくてはなりません。
―― 新しい芽をどう開花させていくかですね。コロナ禍でカメラやレンズに実際に触れることができる機会は激減しており、各社がそれに対してどのようなアイデアを出してくるのかも注目されます。
若尾 アフターコロナ、withコロナのニューノーマル時代となり、大事なのは、過去にやってきたことで変えていかなければならないところをいかに速やかに改善できるかです。次に成功を収める上では欠かせない条件となります。最近特に感じているのは、メーカーが発信する情報をお客様は鵜呑みにされません。ではどうするのか。注目しているのは、ユーチューバーやインフルエンサーが実際に使った製品を、良いところも悪いところも、リアルな言葉で率直に発信した情報がお客様に響いていること。ニコンではここをひとつに切り口にして訴えかけていきたいと考えています。
■新しい発見や進歩がないと飽きられてしまう
―― スマホがカメラにとって仇でもあるかのような言われ方をされますが、一方、SNSで写真や映像がこれでもかと取り上げられ、写真業界が本来待ち望んでいた写真文化を世界中に浸透させました。そこでスマホだけではなく、コンテンツで他の人に差をつけるためには別の選択肢「カメラ」で一歩ステップアップしませんかと訴えるまたとない好機でもあると思います。
若尾 SNSでは全く知らない人とつながることができます。世代も国境も関係なく、世界中の人から「この写真凄くいいね!」「この写真どうやって撮ったの?」とメッセージが届きます。それがごく当たり前のライフスタイルになっているのはとても素晴らしいことだと思います。私自身もInstagramに写真をアップしていますが、そうした人とつながる喜びがカメラにはあります。この感激・感動をひとりでも多くの人に伝えていきたいですね。カメラってこんなに楽しい使い方ができるんだよともっと知って欲しい。
そのためには、メーカーは今の時代、次の時代へ向けて早急にステップアップしていかなくてはなりません。そこで他社よりも先に、より魅力的に訴える手段が実現できれば、「ニコンのカメラで是非体験してみたい」と思う人も増えてくると思います。
―― 目に留まった写真をどんなカメラで撮ったのかがわかるといいですね。
若尾 SNSを楽しむ自然の流れのなかで、気づかせることができるのが理想ですね。実際にInstagram等では、半プロカメラマンとも呼べるようなアマチュアの方が使っている機材が何か、写真が好きな人たちはしっかりとみつけて、同じ機材を購入されるケースも珍しくありません。そうしたカスタマージャーニーを理解し、応えていく必要があります。
世代でもまた違ってきますから、総花的にやるのではなく、それぞれに丁寧にカスタマイズしていかなければ心に刺さりません。あまり尖らせないで発するメッセージは伝わりにくいですね。それはまた時間軸によっても変わってきますから、そこも意識しながらコミュニケーションしていかなければなりません。新しいライフスタイルの中では、今までと違った使い方でも、それがルーチンとなる可能性も十分にあります。
―― いろいろなアプローチでカメラをより身近に感じていただきたいですね。
若尾 昨年10月からは、月額制のレンタルサービス「airCloset Mall」(エアクロモール)で、「Z 5」と「Z 50」でスタートしたレンタルサービスに、今ではNIKKOR Zレンズや「Z 6II」も追加をし、新規のお客様にカメラの良さを実感いただく取り組みも開始していますし、レンズについては今後、写真家を通して使い勝手や魅力を感じていただけるスペシャルコンテンツも充実させていきたいとと考えています。
新宿に構えるショールーム「ニコンプラザ東京」では、クリエイティブスタジオからイベントのライブ配信を行ったり、写真教室「ニコンカレッジ」をオンラインとオフラインを融合させて展開したりしています。カメラに目を向け、そして、その興味をいかに継続させられるかが大きな課題のひとつ。新しい発見や進歩がないと飽きられてしまいますからね。
―― それでは最後に、市場創造に向けての意気込みをお願いします。
若尾 Z 9の開発発表に想像以上に大きな注目が集まり、ニコンに対する期待の大きさを改めて受け止めました。いままでニコンを使われてきた方にはもちろん、「ニコン使ってみたい」と思われている方やカメラに対する関心が今、沸々と湧いてきた方まで、幅広い皆様に「このカメラだったら自分を魅力的に表現できるのではないか」と感じていただけるようなものを、Zシリーズを筆頭に全力を出して提供して参ります。これからのニコンにどうぞご期待ください。
デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER受賞一覧はこちら(※リンク先PDF)
執行役員 マーケティング本部長
若尾郁之氏
わかおふみゆき Fumiyuki Wakao
プロフィール/1968年11月26日生まれ、神奈川県出身。1991年 (株)ニコンに入社、二度の海外販売子会社への駐在を経て、現在、(株)ニコンイメージングジャパンでマーケティング本部に所属。好きな言葉は「一期一会」。趣味はテニスと写真。
■Zシリーズを代表する大口径標準レンズが登場
―― 「デジタルカメラグランプリ2021 SUMMER」で、「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」が交換レンズの総合金賞を獲得されました。おめでとうございます。審査会では、覚悟を持ってZマウントに臨んだニコンから、その象徴とも言えるレンズがいよいよ誕生したと高い評価が集まりました。市場では各社からも魅力的なレンズの新製品が発売されていますが、高価格化の流れが顕著ななかで、頑張れば手が届く20万円台中ごろの価格も評価されました。
若尾 まずは、このたびは「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」を『総合金賞』にお選びくださりありがとうございます。これまでNIKKOR Zレンズの中でも象徴的な存在と言われてきたのが、圧倒的な明るさを誇る超ハイスペックの「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」ですが、今回総合金賞を受賞した「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、それにも匹敵する相当に高い意気込みで開発に臨んだレンズになります。50oという非常にスタンダードな画角でありながら、これまでとはまったく違うアウトプットを出すことができ、まさにその徹底したこだわりが総合金賞として結実したのだと思います。
50oでf1.2といえば誰しもがポートレート撮影を思い浮かべますが、「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、物撮りやスナップ撮影などどんなシーンでも大変美しく描写できます。自分自身も購入してスナップ撮影を楽しんでいます。確かに少々重量感があるのは事実なのですが、それを忘れてしまうくらいの面白さを味あわせてくれます。フォーカスリングを少しずつ動かすたびに絵が生き物のように変わっていく。手にする楽しさ、撮影する楽しさを感じさせてくれるレンズです。
―― 本来ならリアル店舗で直に触れて、ファインダーを覗いて実感いただきたいところですね。
若尾 本当にそう思います。手に取ってファインダー越しに、もしくはパネル越しに変化を見ていただくだけでも、面白くて楽しいレンズであることをすぐに実感いただけます。「撮る写真がすべて上手くなっているように感じる」という声をよくいただいています。
Zマウントレンズのラインナップは18本となり、2022年末までに約30本まで拡充させるロードマップ(※リンク先PDF)を公開しています。マイクロレンズや望遠レンズを早く出して欲しいという声は特に強く、安価で気軽に使える軽量でコンパクトなものを望まれる声もよくお聞きします。いかにタイムリーなレンズを投入してラインナップを拡充できるかが大事だと感じています。
■大きな期待と責任を背負ったZ 9
―― カメラでは各社から新製品が話題を提供していますが、店頭からは「高価なものばかり」との指摘もあり、課題である新しいお客様へアプローチできる製品も待望されています。ニコンのカメラの商品展開についてお聞かせください。
若尾 お客様の嗜好は大きく変化しており、一昔前ならば静止画で子供の成長を撮ることができれば満足されていましたが、今は動画と静止画の垣根も曖昧となり、以前のようにハイエンドのモデルがまずあり、そこからミドル、エントリーとラインナップを展開していくやり方では通用しなくなっています。お客様がカメラに対して何を求めているのか。多様化するニーズを深掘りした、それぞれのニーズを満たすことができる展開が求められています。
例えばWEBカメラが話題を集めていますが、リモート会議やリモート飲み会でPCの画面に映る自分や相手の顔の画質の違いは一目瞭然です。そこで自分をいかにアピールするか。WEBカメラに“道具”としての価値を感じる人になら、コスト感も違ってくる。そこにいち早く気づき、どのような商品やサービスを提供していけるか。古い固定概念を払拭していかなければなりません。
なお、ニコンのミラーレスやデジタル一眼レフカメラは現在、PC専用ソフトウェア「Webcam Utility」を入れることでWebカメラとしてご使用いただけます。CP+2021で各社のエンジニアの代表が集まって行われたパネルディスカッションの際に、ニコンではWEBカメラで映像をお届けしたところ、ニコンの画質がキレイだとSNSでも話題になり、本当に皆さんWEBカメラに注目されているんだなと実感しました。
―― 新しいトレンドを捉える一方、往年のカメラファンから熱い眼差しを向けられているのが3月に開発発表されたミラーレス一眼のフラグシップ機「Z 9」です。
若尾 数多くの写真家の方々から「ニコンはミラーレスのフラグシップをいつ出すのか」と尻を叩かれていました。弊社のユーザーが求める“フラグシップ感”は相当に高いレベルにあるものですから、開発陣も苦労に苦労を重ねてゴールを目指しています。今回の開発発表にあった「D 6を超えるものを目指す」との言葉を見て、開発陣の並々ならぬ覚悟を感じました。プレッシャーも相当なものではないかと想像されます。
Z 9には新開発の高解像積層CMOSセンサーや画像処理エンジンの搭載を予定し、これまでとは次元の違う実力やパフォーマンスを目指しています。静止画だけでなく、今は絶対に外すことができない動画においては「8K動画対応」を目標に掲げています。これまでのニコンのカメラでは撮影するジャンルによる強みや弱みを指摘されることもありましたが、Z 9はあらゆるジャンルの写真家が満足して使えるカメラとして開発が進められています。
フラグシップとなる「Z 9」を中心に、カメラ、レンズともに新製品を投入してラインナップを拡充し、市場全体を盛り上げて参ります。
■CP+オンラインイベントで感じた確かな手応え
―― 先ほどお話にあったWEBカメラやVlogなど新しいカメラの価値が注目を集めていますが、カメラ市場の近況についてはどのようにご覧になられていますか。
若尾 2021年になってもなかなか先が見通せない状況が続いています。CP+も例年なら横浜に多くのファンが集まって盛大に行われるのですが、今年はオンライン単独での開催となりました。コロナ禍で依然、日々の生活にもいろいろな制約があります。しかし、SNSを覗いてみれば、「写真を撮りたい」「写真で自己表現をしたい」と毎日数多くの写真や動画がアップされ続けています。
そこで、今年のCP+2021で弊社が行ったオンラインイベントでは、ユーチューバーやプロトラベラーをお呼びして講演やセミナーを行うなど、これまでのイベントよりも幅広い層にアプローチいたしました。チャットでの反応に対して極力お応えするなど、双方向のコミュニケーションも重視しました。わずか数日の間ですが、まるで数年前に行って大反響を得たファンミーティングのような雰囲気を築くことができ、いままでとは違った感触で、大きな手応えを得ることができました。コロナ禍においても多くの方が写真を撮りたい、学びたいと思っている切実な思いを痛感しました。
―― 御社は昨年のCP+でもオンラインによるイベントを独自に開催されています。
若尾 毎年多くの来場者で会場が熱気に包まれるCP+ですが、大多数のお客様が首都圏から訪れています。これがオンラインになると本当に全国津々浦々からアクセスいただけるのが大きなメリットです。「こんな素晴らしい時間をありがとう」とオンライン開催に対する感謝の言葉も多くの方からいただきましたし、また、手元に自分のカメラを用意して、写真家が説明している設定方法にその場で合わせ、撮影して試せるのもオンラインならではと言えます。
同じメディアでも、文字よりも映像の方が頭に情報が入りやすく、理解しやすい面もあります。努力と工夫次第で情報伝達の効果ももっと変わってくるはずです。コロナが終息して日常が戻ったときにも、引き続きオンラインが大きな役割を担う存在となります。CP+でも「やはりきちんと機材に触れることができてこそ」との声があるのは事実ですが、これからはオンラインとオフラインの双方のシナジーで、より多くの人に製品の魅力を実感いただけるかたちを模索していかなくてはなりません。
―― 新しい芽をどう開花させていくかですね。コロナ禍でカメラやレンズに実際に触れることができる機会は激減しており、各社がそれに対してどのようなアイデアを出してくるのかも注目されます。
若尾 アフターコロナ、withコロナのニューノーマル時代となり、大事なのは、過去にやってきたことで変えていかなければならないところをいかに速やかに改善できるかです。次に成功を収める上では欠かせない条件となります。最近特に感じているのは、メーカーが発信する情報をお客様は鵜呑みにされません。ではどうするのか。注目しているのは、ユーチューバーやインフルエンサーが実際に使った製品を、良いところも悪いところも、リアルな言葉で率直に発信した情報がお客様に響いていること。ニコンではここをひとつに切り口にして訴えかけていきたいと考えています。
■新しい発見や進歩がないと飽きられてしまう
―― スマホがカメラにとって仇でもあるかのような言われ方をされますが、一方、SNSで写真や映像がこれでもかと取り上げられ、写真業界が本来待ち望んでいた写真文化を世界中に浸透させました。そこでスマホだけではなく、コンテンツで他の人に差をつけるためには別の選択肢「カメラ」で一歩ステップアップしませんかと訴えるまたとない好機でもあると思います。
若尾 SNSでは全く知らない人とつながることができます。世代も国境も関係なく、世界中の人から「この写真凄くいいね!」「この写真どうやって撮ったの?」とメッセージが届きます。それがごく当たり前のライフスタイルになっているのはとても素晴らしいことだと思います。私自身もInstagramに写真をアップしていますが、そうした人とつながる喜びがカメラにはあります。この感激・感動をひとりでも多くの人に伝えていきたいですね。カメラってこんなに楽しい使い方ができるんだよともっと知って欲しい。
そのためには、メーカーは今の時代、次の時代へ向けて早急にステップアップしていかなくてはなりません。そこで他社よりも先に、より魅力的に訴える手段が実現できれば、「ニコンのカメラで是非体験してみたい」と思う人も増えてくると思います。
―― 目に留まった写真をどんなカメラで撮ったのかがわかるといいですね。
若尾 SNSを楽しむ自然の流れのなかで、気づかせることができるのが理想ですね。実際にInstagram等では、半プロカメラマンとも呼べるようなアマチュアの方が使っている機材が何か、写真が好きな人たちはしっかりとみつけて、同じ機材を購入されるケースも珍しくありません。そうしたカスタマージャーニーを理解し、応えていく必要があります。
世代でもまた違ってきますから、総花的にやるのではなく、それぞれに丁寧にカスタマイズしていかなければ心に刺さりません。あまり尖らせないで発するメッセージは伝わりにくいですね。それはまた時間軸によっても変わってきますから、そこも意識しながらコミュニケーションしていかなければなりません。新しいライフスタイルの中では、今までと違った使い方でも、それがルーチンとなる可能性も十分にあります。
若尾 昨年10月からは、月額制のレンタルサービス「airCloset Mall」(エアクロモール)で、「Z 5」と「Z 50」でスタートしたレンタルサービスに、今ではNIKKOR Zレンズや「Z 6II」も追加をし、新規のお客様にカメラの良さを実感いただく取り組みも開始していますし、レンズについては今後、写真家を通して使い勝手や魅力を感じていただけるスペシャルコンテンツも充実させていきたいとと考えています。
新宿に構えるショールーム「ニコンプラザ東京」では、クリエイティブスタジオからイベントのライブ配信を行ったり、写真教室「ニコンカレッジ」をオンラインとオフラインを融合させて展開したりしています。カメラに目を向け、そして、その興味をいかに継続させられるかが大きな課題のひとつ。新しい発見や進歩がないと飽きられてしまいますからね。
―― それでは最後に、市場創造に向けての意気込みをお願いします。
若尾 Z 9の開発発表に想像以上に大きな注目が集まり、ニコンに対する期待の大きさを改めて受け止めました。いままでニコンを使われてきた方にはもちろん、「ニコン使ってみたい」と思われている方やカメラに対する関心が今、沸々と湧いてきた方まで、幅広い皆様に「このカメラだったら自分を魅力的に表現できるのではないか」と感じていただけるようなものを、Zシリーズを筆頭に全力を出して提供して参ります。これからのニコンにどうぞご期待ください。
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