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公開日 2024/03/05 11:00

【インタビュー】芯の通った音作りで魅了するBowers&Wilkins、600 S3シリーズ最先端の進化とは

VGP2024受賞:ディーアンドエムホールディングス 岡田一馬氏
PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
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VGP2024
受賞インタビュー:ディーアンドエムホールディングス


ディーアンドエムホールディングスのグループ企業である名門スピーカーブランド、Bowers&Wilkinsの展開する製品群の中で、より幅広い音楽愛好者に向けられる600シリーズ。国内で2023年9月より発売されているその最新バージョン600 S3シリーズが、VGP2024 映像音響部門での批評家大賞を受賞した。同アワードの審査委員長である大橋伸太郎氏をインタビュアーに迎え、製品の卓越した存在感や今後の展開についてなど、さまざまな話をディーアンドエムホールディングスのメンバーに聞いた。

左から、大橋伸太郎氏、岡田一馬氏、高山健一氏、狩野徹也氏

株式会社ディーアンドエムホールディングス
アジアパシフィック コマーシャル・オペレーションズ ヴァイスプレジデント 岡田一馬
国内営業本部 営業企画室 室長 高山健一
国内営業本部 営業企画室 ブランドマネージャー 狩野徹也


インタビュー:大橋伸太郎氏(評論家・VGPアワード審査委員長)/音元出版 徳田ゆかり(ファイルウェブビジネス編集部)

■トゥイーターのダイヤフラムをアルミからチタンへ、重厚感ある仕上がりの音に
Bowers&Wilkinsは、常に最先端の技術をお客様に提供し続ける



VGP2024 映像音響部門での批評家大賞を受賞したBowers&Wilkinsの600 S3シリーズ。左から、フロアスタンディング型「603 S3」、ブックシェルフ型「606 S3」、「607 S3」、センタースピーカー「HTM6 S3」とスピーカースタンド「FS-600 S3」

大橋 VGP2024 における批評家大賞のご受賞、誠におめでとうございます。近年、ハイエンドオーディオ製品の高額化が進み、1000万円を超える価格も珍しくない状態となっています。至上の音質の達成というミッションのため、妥協なく資材と技術要素を積み上げた必然の帰結ということでしょうけれど、スーパーリッチのためのステイタスシンボルを志向したような姿勢に、多少の違和感を覚えなくもないところです。

しかしそのような中でもBowers&Wilkinsの直近の製品の価格設定は常識的で、たとえば、フラグシップ801 D4 Signatureのペア700万円(※)という価格には説得力があり、ここにBowers&Wilkinsの「踏ん張り」を見る思いです。同社が見つめているのはスーパーリッチではなく、あくまで鋭敏でピュアな音の感性を持つオーディオファイルだということ。このブレない姿勢に心から共感を覚えます。

(※)インタビュー時の税抜定価ベース。2024年4月23日より価格改定でペア税抜770万円に変更予定

岡田 ありがとうございます。Bowers&Wilkins本社の面々にも、この大橋先生のご意見を伝えておりまして、設計メンバーともどもとても喜んでおります。皆自分たちの努力をとてもよくわかっていただけていると申しております。本当にありがたいことです。


大橋 今回受賞された600 S3シリーズには、多岐にわたる変更点の積み重ねがありますが、その最大のものは、トゥイーターのダイヤフラムがアルミのダブルドームからチタンに変わったことと言えます。一般的に、アルミは明るくカラリとした音質が特徴ですが、一方で質量のあるチタンは、落ち着いた音色が特徴です。こういった変更点について、リリース後の手応えはいかがでしょうか。

狩野 まずご販売店様の店頭に展示した際、1つ前のモデルとの比較試聴がよく行われますが、その中でのお客様のご反応は先生がおっしゃるとおりの感じです。アルミとチタンでは質量が違いますし、音の傾向も今回はより大人っぽいと。アルミのカラリとした軽い音とは違い、チタンの質量感がありながら指向性もより強く、全帯域で大人っぽい仕上がりになったといったご感想をいただいています。お客様からもご販売店の方からも、総じて好印象で捉えていただいています。


大橋 チタンドームの採用は、サウンドバー製品で先行した実績を踏まえてですね。

狩野 一昨年に発売となったBowers&Wilkinsのサウンドバー「Panorama 3」のトゥイーターに、チタンドームが採用されました。またそれ以前にも、Bowers&Wilkinsと提携関係にありますフィリップスのLCDテレビに搭載されたサウンドバーにもチタンドームトゥイーターが使われました。このように、テレビの音を耳馴染みよく聞かせることになった実績をもとに、600 S3シリーズにも最先端のチタンドームを使うことになったということです。

大橋 変更というともうひとつ、チューブローディングの容積が長く大きくなり、減衰効果、背圧の影響を小さくするためということですね。そしてミッドユニットにエアリリースする穴の径が5.5mmから8mmに大きくなり、これは外からの音の混入を回避するためですね。600 S3シリーズは総合的に、どういう音を狙って設計されたのでしょう。

狩野 Bowers&Wilkinsの方向性はいつも同じです。それは原音再生、つまり何も足さない・何も引かないということです。録音した音をそのままリスナーのもとに伝える、その考え方は一貫してぶれません。ただ、これを追求して常によくしていくという考えのもとに、素材はその時代ごとに最先端のものを採用しています。

彼らはこんなことを言っています。製品開発にあたって、その時々で発売する全てのモデルに最先端技術を投入すると。600シリーズはBowers&Wilkinsのエントリーシリーズですが、ここでもコストを惜しまずに、その時にできる最先端の技術を投入しているのです。技術の進化を常に続けているということであり、これが音の方向性をぶらさずに追求できる要因のひとつと言えるでしょう。

そういう意味で、600シリーズに求められるのは、常にお客様にとってリーズナブルで、かつ最先端の技術を搭載しお届けする存在であること。これは彼らのポリシーですね。

■サブスクもアナログも、そしてホームシアターも、懐深い再現性を誇る600 S3シリーズ



大橋 800系のシリーズはモニタースピーカーであり、良い意味で「厳しい音」と表現できます。いわゆる癒し系の音ではないですね。700系シリーズは、音楽美を忠実に表現しようとする音。それに対して600系シリーズは、広範なオーディオソース、サブスクからアナログ、そしてホームシアターにまで対応する懐深い存在と言えますね。

岡田 おっしゃるとおりです。素晴らしい表現をしていただきまして有難うございます。

狩野 Bowers&Wilkinsはずっとドームの素材にアルミを用いてきて、2005年に800Seriesでダイヤモンドを採用し、700Seriesは昨今ダイヤモンドのような素材のアルミドームになっていますが、600Seriesはずっとアルミのままでした。今回600 S3シリーズで初めてチタンドームになったというのは、大きな進歩ですね。

大橋 Bowers&Wilkinsは、カリスマ的な天才エンジニアのインスピレーションが牽引するというより、コンピューター解析で追求した理詰めの研究で技術を追求し、それが人の手によって丁寧に製品としてつくられている印象です。新製品はどんな体制でつくられているのですか。


岡田 体制は昔から大きくは変わっていないのです。基本的に今も、チーフ・アコースティック・エンジニアが全体を統括して音のポリシーを追求し、全体の技術を統括しています。1986年からジョン・バウワーに教えてもらって設計をしている人物であり、彼が一貫して関わっているので芯が通っているわけです。私もUKのBowers&Wilkinsの研究所に行ったことがありますが、昔のサウンドルームをそのまま残してありました。何か変えると音が変わるからということで、室内の家具や装飾もできる限り昔のままにしているとの事でした。

大橋 今回600系が新たにS3シリーズになりました。700系もS3シリーズになりましたし、800系もD4になっています。次の展開はどうなりますでしょうか。

岡田 基本的に600、700、800の新製品を更新させていくパターンで、おそらく今後もそういう形になると思います。もっと上のものをつくりたいといった意思はありますが、技術的なハードルが高く、いつ製品にできるかは模索しているところです。いずれにしても、次に出てくる製品も必ず素晴らしいものになりますので、しばらくのお時間を頂戴しますがご期待いただきたいと思います。

■人々の想像を超える魅力的な世界観をわかりやすくお伝えする
SNSや雑誌、店頭施策、さまざまな施策でお客様との接点を重ねる



徳田 ありがとうございます。昨今のハイファイオーディオの市況の手応えについてもお聞かせいただけますでしょうか。

岡田 国内は、他の国と比較して安定している状況です。コロナ禍が終息して全世界でどこのマーケットも需要が大きく落ちたのですが、日本はあまり変わらないですね。短期間および製品カテゴリ間での凹凸はありますが、年間で均してみればコロナ禍からの落ち込みは抑えられています。

特に国内でのスピーカー分野は、我々がある程度のシェアをいただいていると思いますが、Bowers&Wilkinsの新製品が出ればその価格帯の市場が伸びて、我々の需要が落ち着くと市場の動きもそれに連動しているという手応えです。

海外ではコロナ禍で需要が先取りされて、その反動が来ている感じですね。また海外のインフレは日本の比ではなく、そういう要因が消費を減らしているところはあると思います。コロナが収束し、インバウンドの方々が今まで以上に日本で消費を楽しまれています。今の日本はそれだけ価格が安いということですね。

徳田 コロナ禍が収束して、お客様との接点における方策に変化はありますか。

岡田 基本的には、今も何も変えていません。SNSの活用といった、コロナ禍で新たに注力してきた取り組みがあり、一方で全国の専門店様の展示会のサポートなどは従来どおりやらせていただいています。リアルのイベントは、すでに全国各地でさかんに行われていますね。しかしアメリカや中国ですと、販売チャネル間のシェアが3年から5年でどんどん変わってしまいますから、そういった動きに我々も着いていかざるを得ない感じです。

国内での営業の施策も変えてはいません。少しずつの変化はありますが、比較的安定していますので、今は大きな変化を起こす時ではないと思います。人手をやりくりし、工夫しながらやっています。

徳田 新たに加わったデジタルの施策とリアルの施策、両輪での展開が大変ですね。

高山 ネットワークなどの技術の進化で、リビングルームでのオーディオのポジショニングは変わりつつあります。そんな中で我々としては、ご家族でコンテンツの楽しみをシェアできる環境づくりをしたいですし、技術革新とともにいい意味で変わって行けていると思います。

それを伝える手段としてSNSが必要であればSNSを、またロイヤリティを訴えるのであればトラディショナルなマガジンといった、伝えたいことや、お伝えしたい相手に応じた方策を考えています。


徳田 御社の情報の発信としてのデジタルと紙の方策を、お客様はどう捉えてらっしゃいますか。

岡田 製品群によると思います。ヘッドホンなどはデジタルメディア、Bowers&Wilkinsのスピーカーを求めるお客様はほぼ紙媒体の情報を求めていらっしゃると思います。

高山 また時間軸にもよります。カスタマージャーニーという捉え方がありますが、どこで商品を知るかというところでは、雑誌や店頭よりもWEB媒体での機会が多く、その後の商品の検討段階ではWebのみならず、雑誌や店頭の比率が上がります。そして最終的にご購入の決め手となる場所として、店頭がより重要になります。

徳田 気づきのところから、商品を深掘りして、店頭まで、どこに対しても施策が必要だということですね。

岡田 おっしゃるとおりです。

徳田 今回のVGPにおいては、映像音響部門での選出とさせていただきました。これはホームシアターの展開としてもBowers&Wilkinsにより活躍したいただきたいといった、審査員の方々の思いもあります。御社でのホームシアター市場への昨今の施策もお聞かせいただけますか。

高山 ホームシアターの枠組みは昔より多様化していて、特にコンテンツは映画に限らずいろいろなものがあります。ホームシアターの仕様としても、2chからマルチ、アトモスまで、入り口からシームレスなつながりがあり、そのグラデーションの中に様々なお客様がいる状況だと思います。以前はハイファイとホームシアターでお客様のタイプもはっきりと分かれていましたが、今はボーダレスになっていると感じます。

我々は2chのレシーバーやHDMI搭載のハイファイ製品を出させていただき、ここ数年大変ご好評をいただいています。お客様のライフスタイルの変化をいかに察知して製品化し、お客様がまだ想像していない世界観をいかにわかりやすくお伝えするか。それが大切だと思います。

今は映画館も進化し、クオリティが非常に上がっています。それに対する我々のアプローチとしては、マランツの15.4ch AVプリアンプ「AV10」や、16chパワーアンプ「AMP10」といったご提案がありますし、今年もさらに新たに出させていただきます。デノンでもAVアンプはもちろんですが、ハイファイでも意欲的な製品を発売し、音に対する技術的な方向性をお示ししたいです。

アトモスに対しては、導入の垣根が高いのは確かです。多くのお客様に対して、スピーカーの数ではなく、広い意味でのホームシアターの形をしっかりとご提案し、時代に合わせていい音で聞いていただける環境をつくる。それが我々のやるべきことと思っています。

徳田 ありがとうございました。今後の展開にも期待しております。

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