公開日 2008/10/05 11:27
<炭山アキラのTIAS2008レポート>デジタルオーディオの注目機たち − 名機を予感させる数々のモデルが登場
今年のショウはアナログ・イヤーであると述べたが、デジタルオーディオだって負けてはいない。
今年最も注目すべき流れは個人的に2つあったと思う。ひとつは従来のデジタルディスクをいかにうまく再生するかの新技術、もう一つはこれから先に主流となるであろうダウンロード音源の高音質再生である。
■自社開発のドライブメカを搭載した国産ハイエンドプレーヤーに注目
まずデジタルディスク関連から。デジタルディスク用のピックアップ・メカニズムに、ハイエンド級にも使えるような高品位なものが少なくなってきたと言われて久しい昨今だが、そんな中でティアック・エソテリックは10年以上も前から独自メカとしてVRDSを開発、海外メーカーにも供給され、世界一のメカニズムと謳われた。現在も世代を重ね、素晴らしい精度・強度のメカが開発されているのはご存知の通りだ。
一方、近年ではアキュフェーズとマランツが自社開発のSACDメカニズムを開発、自社製品に採用している。そういう流れにあって今年、ついにラックスマンも独自開発のピックアップ・メカニズムを発表、最新デジタルプレーヤー「D-08」に搭載してきた。また一方で、独自のベルトドライブ・メカニズムを開発したCECは1年越しでハイエンド・トランスポート「TL1N」を仕上げてきた。これで当分、ハイエンド方向のピックアップ・メカニズムに不足が起こる事態は避けられそうである。
独自開発の新メカニズム搭載、ラックスマンD-08。同社としては10年ぶりの2ch専用SACDプレーヤーである。同社が長年取り組んでいるSACDをマルチビットで出力するためのデシメーション・フィルターは、本機にも搭載されている。
昨年の発表から1年がかりで熟成を重ね、つい先日発売にこぎつけたCECのベルトドライブCDトランスポートTL1Nと、DAコンバーターDA53。どちらも同社独自のスーパーリンク接続に対応している。
■リンの“DSシリーズ”からも高音質再生のための新提案が登場
もう一方はダウンロード・ミュージックの高音質再生である。それらの音源は主にハードディスクに収められるものだが、それらの高音質化を積極的に進めているのはリンの「DS」シリーズである。このたび同社の3セグメントに沿ってクライマックス、マジック、アキュレートのそれぞれにDSモデルが投入された。きちんと音質を構築することができるならば、HDD音源は無尽蔵ともいうべき容量を持つゆえこんなに快適な音楽環境もない。リンの先駆者的努力には拍手を送りたい。
一方、同社は更なる大きな一歩も用意していた。HDDは高速で回転するため、どうしてもその摺動音から逃れられない。そこで同社は音楽信号を固体メモリーに溜め込んで出力する外部ストレージ「ZSS-1」を出展した。固体メモリーは発熱が少ないため、シャシーのファンレス化も実現できたという。入出力はUSBとLAN端子だが、それらもXLR並みにがっちりとした組み付けが可能なノイトリック社製の端子を採用、これだけで音質が仰天するほど向上したという。これこそ同社DSに最高のパフォーマンスを演じさせるための最終対策というべきであろう。
リンのダウンロード・ミュージック高音質化計画「DS」はこれまで最高級のクライマックスのみだったが、このたびマジックとアキュレートにも追加された。「ライバルはクライマックスのみ」だそうである。
さえない写真で申し訳ないが、これこそDSを補完する最終対策品というべき外部サイレント・ステージ「ZSS-1」である。HDDのノイズに悩まされているダウンロード音楽愛好家にぜひとも薦めたい、メモリー系記録媒体を使ったストレージだ。
■真空管アンプの注目モデル
例年数多くの真空管アンプがお目見えしてきたが、今年はちょっと少なめだった。それでもびっくりするような新製品はある。個人的に今年最も目を引いたのは、ラックスマンの「SQ-38u」だった。シルバーフェイスにウッドケース、シーメンス型のツマミを持つ何とも懐かしい外観ながら、背がぐんと高くなっている所に現代性を感じさせる。終段はEL34プッシュプルのUL接続で、定格30W+30W(6Ω)の出力を持つ。PHONOはMM/MC両対応で、MCは高品位のトランスで対応する。
SQ-38といえば、年配のマニアなら一度はお使いになった方が多いのではないだろうか。ラックスマンにとっても「ゴールデンナンバー」で、この型番をまとうからには中途半端なものを作るわけにいかないという、ある種の執念を感じさせる製品である。近いうちにぜひじっくりと試してみたいものだ。
真空管アンプではもうひとつ、コンバージェント・オーディオ・テクノロジーの超弩級パワー、「JL-2 Signature」がすごい。6550をchあたり8本使用、3極管結合で100W+100W(8Ω)の出力を持つ。昨年登場したプリアンプの「SL-1 Legend」に準じ、テフロン基板やブラックゲート・コンデンサーを採用したことが前モデルからの違いという。奥行き69cm、重量81.5kgの偉丈夫である。
コンバージェント・オーディオ・テクノロジーはスケールの大きな製品作りに定評があるが、それにしてもこれは只者でない。いったいどれほどの余裕を持たせたら理想に近づくことができるのか、本機がある種の解答を示しているのではないかと思う。
■ソリッドステートアンプにも名機を予感させるモデルが
ソリッドステート・アンプでは、比較的手ごろなクラスの製品が目立った。まず目を引いたのはマランツの定番プリメインPM-11がS2になったことが挙げられよう。新規開発のメカニズムを搭載したSACDプレーヤー「SA-15S2」とともに、日本メーカーでなければ実現し得ない物量投入と細部にわたるこだわりが光る逸品である。
マランツの上級プリメインPM-11がS2となった。独自の超高速電圧増幅段HDAMはSA3に進化し、ボリュームは0.5dBステップの電子制御型、フォノイコライザーはMM/MC両対応のフルディスクリート構成だ。パワーアンプは瞬時電源供給能力を向上させ、より大電流に強くなった。
PM-11S2とほぼ同時にモデルチェンジされるSA-15S2は、前作S1から内容がすべて一新されている。最も注目すべきは最新のオリジナルメカSACD M-10が採用されていることだ。アナログ出力は最新のハイブリッドHDAMが使用され、ヘッドホン出力の音質が一段と向上しているのもうれしい。
CECからまもなく登場するCDとプリメインの3800シリーズは、これまでの3300などとまったく違う、美しい顔つきをまとっての登場となった。残念ながらまだ音は聴けなかったが、まるで海外の高級オーディオに見間違えてしまいそうなたたずまいは、部屋へ招き入れるための大きな後押しとなるだろう。
CECの新ラインアップ3800シリーズのCDプレーヤーとプリメインアンプは、ある種の無骨さを漂わせていた前世代から思い切って外観を変更、びっくりするほど優美なデザインになった。一見して高価格帯の製品かと思うと、実に手ごろなクラスの製品である。思わず部屋へ招き入れたくなる顔である。
また、日本メーカー一方の雄たるデノンも久々に高級SACDプレーヤーとプリメインを発表してきた。こちらは音を聴くことがかなったが、大迫力ウルトラワイドレンジと風格、気品を併せ持つ、デノンならではの骨太サウンドを味わうことができた。これは大いに期待できる。
デノンが自らの限界を打ち破るために採算度外視で開発したS1シリーズの登場から14年、またさらに新たな第一歩を記すための作品がこのPMA-SXだ。
PMA-SXとともに開発された新たなSACDプレーヤーがこのDCD-SX。ブースではこの両社でダリのHelicon 800 Mk2を鳴らしていたが、何というスケールの大きな再現かと、感動を覚えずにはいられなかった。
ソリッドステートの大物で気になったのは、ユキムが輸入業務を開始した英チャプター社のアンプとデジタルプレーヤーだ。元CHORDのエンジニアが開発に携わったというだけに、大変な解像度と色彩感の豊かさを聴かせる。フルセットでそろえれば1,000万円の大台が近いシステムだが、この技術を使ってもっと求めやすい製品も開発中というから、この社には注目していきたいと思う。
英国の新進メーカー、チャプターのSonnet CDプレーヤーとPreface Plusプリアンプ。どちらも価格未定だが200万円くらいになるのではないか、とのこと。
チャプターのモノーラル・パワーアンプCouplet500M Reference。税別ペア500万円と大変な価格だが、新開発の「アナログ・クラスD回路」を搭載するなど、それだけの手はかかっている超大作といえよう。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。
今年最も注目すべき流れは個人的に2つあったと思う。ひとつは従来のデジタルディスクをいかにうまく再生するかの新技術、もう一つはこれから先に主流となるであろうダウンロード音源の高音質再生である。
■自社開発のドライブメカを搭載した国産ハイエンドプレーヤーに注目
まずデジタルディスク関連から。デジタルディスク用のピックアップ・メカニズムに、ハイエンド級にも使えるような高品位なものが少なくなってきたと言われて久しい昨今だが、そんな中でティアック・エソテリックは10年以上も前から独自メカとしてVRDSを開発、海外メーカーにも供給され、世界一のメカニズムと謳われた。現在も世代を重ね、素晴らしい精度・強度のメカが開発されているのはご存知の通りだ。
一方、近年ではアキュフェーズとマランツが自社開発のSACDメカニズムを開発、自社製品に採用している。そういう流れにあって今年、ついにラックスマンも独自開発のピックアップ・メカニズムを発表、最新デジタルプレーヤー「D-08」に搭載してきた。また一方で、独自のベルトドライブ・メカニズムを開発したCECは1年越しでハイエンド・トランスポート「TL1N」を仕上げてきた。これで当分、ハイエンド方向のピックアップ・メカニズムに不足が起こる事態は避けられそうである。
独自開発の新メカニズム搭載、ラックスマンD-08。同社としては10年ぶりの2ch専用SACDプレーヤーである。同社が長年取り組んでいるSACDをマルチビットで出力するためのデシメーション・フィルターは、本機にも搭載されている。
昨年の発表から1年がかりで熟成を重ね、つい先日発売にこぎつけたCECのベルトドライブCDトランスポートTL1Nと、DAコンバーターDA53。どちらも同社独自のスーパーリンク接続に対応している。
■リンの“DSシリーズ”からも高音質再生のための新提案が登場
もう一方はダウンロード・ミュージックの高音質再生である。それらの音源は主にハードディスクに収められるものだが、それらの高音質化を積極的に進めているのはリンの「DS」シリーズである。このたび同社の3セグメントに沿ってクライマックス、マジック、アキュレートのそれぞれにDSモデルが投入された。きちんと音質を構築することができるならば、HDD音源は無尽蔵ともいうべき容量を持つゆえこんなに快適な音楽環境もない。リンの先駆者的努力には拍手を送りたい。
一方、同社は更なる大きな一歩も用意していた。HDDは高速で回転するため、どうしてもその摺動音から逃れられない。そこで同社は音楽信号を固体メモリーに溜め込んで出力する外部ストレージ「ZSS-1」を出展した。固体メモリーは発熱が少ないため、シャシーのファンレス化も実現できたという。入出力はUSBとLAN端子だが、それらもXLR並みにがっちりとした組み付けが可能なノイトリック社製の端子を採用、これだけで音質が仰天するほど向上したという。これこそ同社DSに最高のパフォーマンスを演じさせるための最終対策というべきであろう。
リンのダウンロード・ミュージック高音質化計画「DS」はこれまで最高級のクライマックスのみだったが、このたびマジックとアキュレートにも追加された。「ライバルはクライマックスのみ」だそうである。
さえない写真で申し訳ないが、これこそDSを補完する最終対策品というべき外部サイレント・ステージ「ZSS-1」である。HDDのノイズに悩まされているダウンロード音楽愛好家にぜひとも薦めたい、メモリー系記録媒体を使ったストレージだ。
■真空管アンプの注目モデル
例年数多くの真空管アンプがお目見えしてきたが、今年はちょっと少なめだった。それでもびっくりするような新製品はある。個人的に今年最も目を引いたのは、ラックスマンの「SQ-38u」だった。シルバーフェイスにウッドケース、シーメンス型のツマミを持つ何とも懐かしい外観ながら、背がぐんと高くなっている所に現代性を感じさせる。終段はEL34プッシュプルのUL接続で、定格30W+30W(6Ω)の出力を持つ。PHONOはMM/MC両対応で、MCは高品位のトランスで対応する。
SQ-38といえば、年配のマニアなら一度はお使いになった方が多いのではないだろうか。ラックスマンにとっても「ゴールデンナンバー」で、この型番をまとうからには中途半端なものを作るわけにいかないという、ある種の執念を感じさせる製品である。近いうちにぜひじっくりと試してみたいものだ。
真空管アンプではもうひとつ、コンバージェント・オーディオ・テクノロジーの超弩級パワー、「JL-2 Signature」がすごい。6550をchあたり8本使用、3極管結合で100W+100W(8Ω)の出力を持つ。昨年登場したプリアンプの「SL-1 Legend」に準じ、テフロン基板やブラックゲート・コンデンサーを採用したことが前モデルからの違いという。奥行き69cm、重量81.5kgの偉丈夫である。
コンバージェント・オーディオ・テクノロジーはスケールの大きな製品作りに定評があるが、それにしてもこれは只者でない。いったいどれほどの余裕を持たせたら理想に近づくことができるのか、本機がある種の解答を示しているのではないかと思う。
■ソリッドステートアンプにも名機を予感させるモデルが
ソリッドステート・アンプでは、比較的手ごろなクラスの製品が目立った。まず目を引いたのはマランツの定番プリメインPM-11がS2になったことが挙げられよう。新規開発のメカニズムを搭載したSACDプレーヤー「SA-15S2」とともに、日本メーカーでなければ実現し得ない物量投入と細部にわたるこだわりが光る逸品である。
マランツの上級プリメインPM-11がS2となった。独自の超高速電圧増幅段HDAMはSA3に進化し、ボリュームは0.5dBステップの電子制御型、フォノイコライザーはMM/MC両対応のフルディスクリート構成だ。パワーアンプは瞬時電源供給能力を向上させ、より大電流に強くなった。
PM-11S2とほぼ同時にモデルチェンジされるSA-15S2は、前作S1から内容がすべて一新されている。最も注目すべきは最新のオリジナルメカSACD M-10が採用されていることだ。アナログ出力は最新のハイブリッドHDAMが使用され、ヘッドホン出力の音質が一段と向上しているのもうれしい。
CECからまもなく登場するCDとプリメインの3800シリーズは、これまでの3300などとまったく違う、美しい顔つきをまとっての登場となった。残念ながらまだ音は聴けなかったが、まるで海外の高級オーディオに見間違えてしまいそうなたたずまいは、部屋へ招き入れるための大きな後押しとなるだろう。
CECの新ラインアップ3800シリーズのCDプレーヤーとプリメインアンプは、ある種の無骨さを漂わせていた前世代から思い切って外観を変更、びっくりするほど優美なデザインになった。一見して高価格帯の製品かと思うと、実に手ごろなクラスの製品である。思わず部屋へ招き入れたくなる顔である。
また、日本メーカー一方の雄たるデノンも久々に高級SACDプレーヤーとプリメインを発表してきた。こちらは音を聴くことがかなったが、大迫力ウルトラワイドレンジと風格、気品を併せ持つ、デノンならではの骨太サウンドを味わうことができた。これは大いに期待できる。
デノンが自らの限界を打ち破るために採算度外視で開発したS1シリーズの登場から14年、またさらに新たな第一歩を記すための作品がこのPMA-SXだ。
PMA-SXとともに開発された新たなSACDプレーヤーがこのDCD-SX。ブースではこの両社でダリのHelicon 800 Mk2を鳴らしていたが、何というスケールの大きな再現かと、感動を覚えずにはいられなかった。
ソリッドステートの大物で気になったのは、ユキムが輸入業務を開始した英チャプター社のアンプとデジタルプレーヤーだ。元CHORDのエンジニアが開発に携わったというだけに、大変な解像度と色彩感の豊かさを聴かせる。フルセットでそろえれば1,000万円の大台が近いシステムだが、この技術を使ってもっと求めやすい製品も開発中というから、この社には注目していきたいと思う。
英国の新進メーカー、チャプターのSonnet CDプレーヤーとPreface Plusプリアンプ。どちらも価格未定だが200万円くらいになるのではないか、とのこと。
チャプターのモノーラル・パワーアンプCouplet500M Reference。税別ペア500万円と大変な価格だが、新開発の「アナログ・クラスD回路」を搭載するなど、それだけの手はかかっている超大作といえよう。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。