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公開日 2007/09/08 10:38
<大橋伸太郎のCEDIAレポート>ドルビーの新提案“ドルビー・ボリューム”を聴く
ハイビジョンディスクの展示はHD DVDがコンベンションセンターの前庭にトレーラーを横付けし、テントを張り液晶テレビをズラリ並べてソフトのデモをしている。「HD DVDの製造は一社だけ」と5日、ソニーに煽られたHD DVD陣営だが、オンキヨー、アルコからのプレーヤー発売もあり、反撃ムードに転じている。
さて、例年通りドルビーラボラトリーズは、コンベンションセンター・メインホール内にブースを出展した他、ストレートを隔ててセンターと対面するハイアットリージェンシーホテル16階の「ブルースプルーズ・スイート」にクライアントやジャーナリストを招いてプライベートショーを行った。
テーマの一つは、急速に採用が増えているドルビーTrueHD。デモは5日に同じハイアットリージェンシーで記者発表会を催したソニーが来場者にプレゼントした、デイブ・マシューズとティム・レイノルズのN.Y.ラジオシティ・ミュージックコンサートホールでのライブを収録したブルーレイディスク。
2時間半にわたるサウンドはドルビーTrueHDの96kHz/24ビット5.1chのサラウンドである。リニアPCMではサラウンドで収録できなかったコンテンツである(ただし、LPCMステレオ音声を収録)。サラウンド嫌いの“Stereo Phile”誌のエディター、ウェス・フィリックス氏が「これはいい!」と大絶賛して帰ったと、ドルビーの民生機器担当のシニアマネージャー・クレイグ・エガースは鼻高々だ。
もう一つ、サンフランシスコ交響楽団の演奏するアーロン・コープラン作曲の組曲『アパラチアの春』のドルビー・トゥルーHD5.1chサラウンドによる一部も披露された。こちらも96kHz/24ビットの5.1chサラウンドである。
もう一つのテーマは、2007年のInternational CESで発表された「ドルビー・ボリューム」である。どちらかというと本格的なオーディオビジュアルより、一般的なサラウンドセットやテレビへの搭載を前提とした新提案だが、実用的価値は高い。その機能とは、
(1)音声レベルを異にした視聴コンテンツを切替えた時、再生音圧レベルを自動的に一定に調整する。
(2)演奏やセリフといった主要部分のボリュームをキープ、サラウンドの中のさほど重要でない成分はレベルを下げる。
これを自動的に行うのである。こうした機能はこれまでにすでに実用化されているのだが、例えば、一般的なオートマティックゲインコントロールでは、セリフをボリュームアップしていった時に一緒に背景ノイズのレベルを上げてしまう(ブリーディング)、また、音の出だしのレベルが大きくて次第に小さくなる(バンピング)、などの欠点があった。これは、コンテンツの内容を分析しない単純な電気的処理に止まっていて、コントロールをかけるアタックタイム、リリースタイムが固定だと起きるのだ、とドルビーは説明する。
コンテンツの内容を聴き取り理解する上での主要情報はセンターだが、ドルビー・ボリュームはさらにコンテンツの音声トラック全てを監視・分析している。インテリジェントにそれを理解して、マルチチャンネルの中の特定の情報がアンビエンスなのかセリフなのかを識別、音量をコントロールして聴きやすくするべき特定の周波数帯域のみを抽出して処理するのである。
この日のデモは、デヴィッド・リンチの映画『ストレイト・ストーリー』の夜の焚き火を前にした静かな語らいのシーンを題材に、ドルビー・ボリュームが会話(セリフの音量をキープして聴き取りやすさを保ちながら、セリフの背景のノイズだけを下げてみせた。
ドルビー・ボリュームは現段階で製品には未搭載なので、DVDの音声情報をインストール済みのPCに入力、PC内でドルビー・ボリュームがリアルタイムに分析と調整を行ってアンプに出力する様子を、専用ソフトが全チャンネル20-20kHzを40バンドに分割しグラフィック表示して見せる。画面上の水平のラインによって調整前のレベルとドルビー・ボリュームが調整した後のレベルの両方を比較できるのだが、調整の遅れがなく俊敏かつ非常に安定しているのが印象的だ。
ドルビー・ボリュームは音楽ソフトをボリュームを下げて再生する時、聴感上のバランスを整える機能もある。一般的に最初に低音が聴こえなくなりスカスカの音になりやすいが、コンテンツ本来の帯域バランス(レファレンスレベルで再生したバランス)に戻して聴こえるように調整する。シャーデーのコンサートビデオで実演すると、やはり、PC画面でドルビー・ボリュームが瞬時に帯域を補償し適切な聴感バランスに整えていくのが一目でわかる。
このドルビー・ボリューム、利用範囲は大変に広いものと考えられるが、薄型テレビから搭載が始まるもようだ。
(大橋伸太郎)
筆者プロフィール
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて美術書、児童書を企画編集後、 (株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年にはホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論活動を行っている。
[CEDIA2007REPORT]
さて、例年通りドルビーラボラトリーズは、コンベンションセンター・メインホール内にブースを出展した他、ストレートを隔ててセンターと対面するハイアットリージェンシーホテル16階の「ブルースプルーズ・スイート」にクライアントやジャーナリストを招いてプライベートショーを行った。
テーマの一つは、急速に採用が増えているドルビーTrueHD。デモは5日に同じハイアットリージェンシーで記者発表会を催したソニーが来場者にプレゼントした、デイブ・マシューズとティム・レイノルズのN.Y.ラジオシティ・ミュージックコンサートホールでのライブを収録したブルーレイディスク。
2時間半にわたるサウンドはドルビーTrueHDの96kHz/24ビット5.1chのサラウンドである。リニアPCMではサラウンドで収録できなかったコンテンツである(ただし、LPCMステレオ音声を収録)。サラウンド嫌いの“Stereo Phile”誌のエディター、ウェス・フィリックス氏が「これはいい!」と大絶賛して帰ったと、ドルビーの民生機器担当のシニアマネージャー・クレイグ・エガースは鼻高々だ。
もう一つ、サンフランシスコ交響楽団の演奏するアーロン・コープラン作曲の組曲『アパラチアの春』のドルビー・トゥルーHD5.1chサラウンドによる一部も披露された。こちらも96kHz/24ビットの5.1chサラウンドである。
もう一つのテーマは、2007年のInternational CESで発表された「ドルビー・ボリューム」である。どちらかというと本格的なオーディオビジュアルより、一般的なサラウンドセットやテレビへの搭載を前提とした新提案だが、実用的価値は高い。その機能とは、
(1)音声レベルを異にした視聴コンテンツを切替えた時、再生音圧レベルを自動的に一定に調整する。
(2)演奏やセリフといった主要部分のボリュームをキープ、サラウンドの中のさほど重要でない成分はレベルを下げる。
これを自動的に行うのである。こうした機能はこれまでにすでに実用化されているのだが、例えば、一般的なオートマティックゲインコントロールでは、セリフをボリュームアップしていった時に一緒に背景ノイズのレベルを上げてしまう(ブリーディング)、また、音の出だしのレベルが大きくて次第に小さくなる(バンピング)、などの欠点があった。これは、コンテンツの内容を分析しない単純な電気的処理に止まっていて、コントロールをかけるアタックタイム、リリースタイムが固定だと起きるのだ、とドルビーは説明する。
コンテンツの内容を聴き取り理解する上での主要情報はセンターだが、ドルビー・ボリュームはさらにコンテンツの音声トラック全てを監視・分析している。インテリジェントにそれを理解して、マルチチャンネルの中の特定の情報がアンビエンスなのかセリフなのかを識別、音量をコントロールして聴きやすくするべき特定の周波数帯域のみを抽出して処理するのである。
この日のデモは、デヴィッド・リンチの映画『ストレイト・ストーリー』の夜の焚き火を前にした静かな語らいのシーンを題材に、ドルビー・ボリュームが会話(セリフの音量をキープして聴き取りやすさを保ちながら、セリフの背景のノイズだけを下げてみせた。
ドルビー・ボリュームは現段階で製品には未搭載なので、DVDの音声情報をインストール済みのPCに入力、PC内でドルビー・ボリュームがリアルタイムに分析と調整を行ってアンプに出力する様子を、専用ソフトが全チャンネル20-20kHzを40バンドに分割しグラフィック表示して見せる。画面上の水平のラインによって調整前のレベルとドルビー・ボリュームが調整した後のレベルの両方を比較できるのだが、調整の遅れがなく俊敏かつ非常に安定しているのが印象的だ。
ドルビー・ボリュームは音楽ソフトをボリュームを下げて再生する時、聴感上のバランスを整える機能もある。一般的に最初に低音が聴こえなくなりスカスカの音になりやすいが、コンテンツ本来の帯域バランス(レファレンスレベルで再生したバランス)に戻して聴こえるように調整する。シャーデーのコンサートビデオで実演すると、やはり、PC画面でドルビー・ボリュームが瞬時に帯域を補償し適切な聴感バランスに整えていくのが一目でわかる。
このドルビー・ボリューム、利用範囲は大変に広いものと考えられるが、薄型テレビから搭載が始まるもようだ。
(大橋伸太郎)
筆者プロフィール
1956年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて美術書、児童書を企画編集後、 (株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年にはホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。2006年に評論家に転身。西洋美術、クラシックからロック、ジャズにいたる音楽、近・現代文学、高校時代からの趣味であるオーディオといった多分野にわたる知識を生かした評論活動を行っている。
[CEDIA2007REPORT]