HOME > ニュース > AV&ホームシアターニュース
公開日 2009/11/10 19:56
SARVH、「私的録画補償金」不払いで東芝を提訴 − Culture First 推進91団体が会見
「日本は法治国家なのか」
コンテンツ権利者団体で構成されるCulture First 推進91団体は本日、私的録画補償金制度に関する記者会見を開催した。
今年4月、(株)東芝とパナソニック(株)の2社は、私的録画補償金管理協会(SARVH)に対し、地上デジタルチューナーのみを搭載したレコーダーは「私的録画補償金制度の対象とはならないため、補償金徴収に関する協力を行わない」と通告。実際に東芝は今年上半期分の補償金を支払わなかった。地上アナログ放送はコピーが無制限に行えるが、デジタル放送はダビング10によるコピー制限がかかっており、補償金の対象かどうかが不明確のため、支払う必要はないという考え方だ。
これを受けてSARVHは10月、東芝に対して補償金の支払いを求める提訴する方針を固めたと発表。この方針に基づいて、本日正式に提訴を行った。
本日の記者会見では、実演家著作隣接権センター 運営委員の椎名和夫氏、日本音楽著作権協会 常務理事の菅原瑞夫氏、日本映画製作者連盟 事務局長の華頂尚隆氏らが出席して、権利者サイドからの主張を行った。
椎名氏は「補償金制度で訴訟が起こされるのは初めてのこと。一つの節目となる出来事と言えるだろう」とし、「我々の主張が認められなければ文化が成り立たない。そのような結論が成されることはあり得ないと考えている」と自信を示した。
今後の訴訟では、地上アナログチューナー非搭載機が補償金制度の対象と認定されるかが争点になるが、これについては専門家の間でも見解が分かれている。出席者から「著作権法を見ると、アナログからデジタルへのコピーに関して補償金が必要という見方がある」と尋ねられると、椎名氏は「CGを除けば、あらゆる映像はもともとアナログだ。そこの部分を考えると、補償金の対象に該当するのだろうと思う」と、地上アナログチューナー非搭載機であっても対象になるという考えを示した。
椎名氏はまた、「権利者に与えられている権利を事実上否定して、その上で話し合いを行おうという姿勢が、果たして正当なものと言えるのか」と主張。「法が存在する以上は法を尊重すべきで、将来の制度に対する意見は、見直しに関する議論の中で述べられるべきだ」と、論点を明確に分けるように訴えた。
華頂氏は「このような現行法を無視するような行為を黙過したままでは、日本は本当に法治国家なのかというような危機感さえ覚える。メーカーの行為は、“義務を果たさないで権利を主張する”という子供じみたもの。これを是正するには親が子を叱るように、言って聞かせなければならない。補償金制度の見直しに関する話し合いでも、途中で空中分解させるような蛮行があった。本当に子供のわがままと同じレベル。更生の道に導いて欲しい」と挑発した。
菅原氏は補償金の未払いを高速道路無料化にたとえ、「無料化に賛成している人が、無料化に関する議論が現在なされているから、現段階でも払わないで良いと主張して支払わない行為と同じだ」とし、「世界、日本を代表する東芝がこういった行為を行うのは、法人のコンプライアンス上いかがなものか」と非難した。
椎名氏は、「私的録音録画補償金制度は廃止すべきだ、というメーカーや役所、消費者団体の主張とは裏腹に、複製されたコンテンツで世の中はますます溢れており、コンテンツの作り手側の被る被害は決して小さなものではない」と説明。現行の補償金制度については「使用される機器や複製の規模拡大、またインターネットの普及によって制度そのものの大幅な見直しが必要になってきているが、文化庁において4年越しで続いている見直しの議論は中断されたままになっており、事態が改善される気配がない」ことを問題視した。
さらに椎名氏は、東芝やパナソニックがSARVHに対して行った通告について、「これを容認した場合、2011年に地上デジタル完全移行した時点で、これまでの補償金制度の見直しに関する議論が決着しなくても、事実上、補償金制度が機能を停止することを意味しており、到底容認できない」と主張。またダビング10導入を決めた答申でも、導入には「クリエーターへの対価の還元」が前提となることが明言されていたとし、その話し合いには東芝、パナソニックの2社も参加して、答申に合意していたと述べた。
また、録画補償金制度のそもそもの意義が「私的に行われる録画を保証するもの」であり、「ダビング10によるコピーが補償金制度の対象にならないというメーカーの主張は理解できない」と非難。「補償金徴収に協力しないということを持って半ば強引に既成事実化しようという2社の姿勢は、法の遵守という観点からも大きな問題があると考えている」と説明した。
その上で椎名氏は、「制度の見直しに関する議論が中断している現在、必要なのは、実力行使で問題を解決しようとすることではなく、それぞれの利害の対立について、どうすれば解決できるかという観点から相互理解を得るための真摯な話し合いを冷静に再開することだ。落としどころを見つけたいという気持ちは変わらない」と、メーカー側との交渉を続ける意向を示した。
華頂氏は見直しの具体的な議論の内容についても言及し、「HDD内蔵レコーダーだけでなく、パソコンに関する話もしていかないと筋が通らない。ダビング10ならいいじゃない、などという子供じみた意見は通らない。ハードの持つ機能についても着目して具体的な議論をしていく必要がある。それでこそ(メーカー側が)立派な社会人になれるのかな」と述べた。
さらに椎名氏は、知的財産権の権利者は「既得権者や抵抗勢力というレッテルを貼られる場面が多かった」とし、「あらゆるものが無償で提供されるような原則に従って、コンテンツに関する法律や制度が差配された場合、額に汗してコンテンツを生み出そうという人間がいずれいなくなってしまう。長い目で見たときに、何が国民や国にとって最善の選択であるかは、損得のレベルの話だけでなく、高い視点からの冷静な検討が必要」と主張した。
また椎名氏は私的録音補償金制度について「メーカーがコピー制限がかかっているから補償が必要ないというのなら、現在無制限に行われている音楽CDからのコピーにこそ補償の必要性が存在すると言えるが、対象機器に関する制度と実体との乖離が進んだ結果、現在崩壊寸前にある私的録音補償金制度の見直しに応じないのはなぜか」と問いかけ、この点についても改めて見直しの議論を行うべきと述べた。
今後は訴訟の行方もさることながら、私的録画補償金制度の見直しがどのように行われるのかということも焦点となる。メーカー側はダビング10によって1世代限りのDRMがかかっていることから、権利者への不利益は発生しない、ゆえに補償金は必要ないという論陣を張るものと予想される。これに対してCulture First 推進91団体では、「そういうことを主張するなら、不利益が生じないことを証明しうる、客観的なデータを示すべきでないか」と反論している。
ただしそれ以前に、実際にデジタル放送をダビング10で運用する際、どの程度権利者側が不利益を被っているのかという客観的な数字がなければ、補償金制度の存続や廃止、また1台あたりの補償金の金額は決定しようがない。これまでの補償金金額は厳密に算定されたものではなかったため、この点が補償金制度に対するネガティブな側面として報道されることが多かった。
この点を記者に質問されると、菅原氏は「不利益の証明などという議論があるが、もともとから考えれば、著作物は著作権者だけが利用できる。これが大前提だ。ただし、技術の進歩にともない、これまで私的利用や極めて狭い範囲での利用に限られていたものが、ボタン一つでコピーし、世界中で共有できるようになってしまった。このような状況から考えると、私的補償金制度はベストとは言えないが、モアベターなものと言えるのではないか」と説明。
華頂氏は「映画はワンソースマルチユースがビジネスモデルで、こういったモデルを回さない収益が出ない構造となっている。このビジネスモデルはすべて“複製”が根幹となっている。だから、我々が損失を受けているということではない。アメリカはタイムシフト利用が一般的で、一度HDDに録っておいて、一回見たら消す。これなら許容できるのではないか。ただし、タイムシフトではなく自分のHDDにコレクションする場合は問題だ。我々はDVDを販売してメシを食ってるが、正規品を作るのと同じことになってしまう。それならばきちっと対価を支払って欲しい、と言いたい」と主張した。
華頂氏はさらに、「映画についてはコピーネバーにしてしまえば補償金が要らないが、今度はタイムシフトができなくなり、ユーザーの利便性が損なわれる。タイムシフトまでやめろというつもりはない。未来永劫残るものではなく、一過性のものにするなどの工夫ができないか、我々も技術的なことを勉強する必要がある」と述べた。
椎名氏は「不利益の証明、不利益が存在しないことの証明などになると、話がややこしくなるので、いまの補償金制度がもしかしたら適当なのかも知れないと考えている。補償金を重篤な負担だと感じる方は恐らくいないだろう」と述べ、現行の補償金制度の運用方法などを手直しすることで対処したいという考え方を示した。
今年4月、(株)東芝とパナソニック(株)の2社は、私的録画補償金管理協会(SARVH)に対し、地上デジタルチューナーのみを搭載したレコーダーは「私的録画補償金制度の対象とはならないため、補償金徴収に関する協力を行わない」と通告。実際に東芝は今年上半期分の補償金を支払わなかった。地上アナログ放送はコピーが無制限に行えるが、デジタル放送はダビング10によるコピー制限がかかっており、補償金の対象かどうかが不明確のため、支払う必要はないという考え方だ。
これを受けてSARVHは10月、東芝に対して補償金の支払いを求める提訴する方針を固めたと発表。この方針に基づいて、本日正式に提訴を行った。
本日の記者会見では、実演家著作隣接権センター 運営委員の椎名和夫氏、日本音楽著作権協会 常務理事の菅原瑞夫氏、日本映画製作者連盟 事務局長の華頂尚隆氏らが出席して、権利者サイドからの主張を行った。
椎名氏は「補償金制度で訴訟が起こされるのは初めてのこと。一つの節目となる出来事と言えるだろう」とし、「我々の主張が認められなければ文化が成り立たない。そのような結論が成されることはあり得ないと考えている」と自信を示した。
今後の訴訟では、地上アナログチューナー非搭載機が補償金制度の対象と認定されるかが争点になるが、これについては専門家の間でも見解が分かれている。出席者から「著作権法を見ると、アナログからデジタルへのコピーに関して補償金が必要という見方がある」と尋ねられると、椎名氏は「CGを除けば、あらゆる映像はもともとアナログだ。そこの部分を考えると、補償金の対象に該当するのだろうと思う」と、地上アナログチューナー非搭載機であっても対象になるという考えを示した。
椎名氏はまた、「権利者に与えられている権利を事実上否定して、その上で話し合いを行おうという姿勢が、果たして正当なものと言えるのか」と主張。「法が存在する以上は法を尊重すべきで、将来の制度に対する意見は、見直しに関する議論の中で述べられるべきだ」と、論点を明確に分けるように訴えた。
華頂氏は「このような現行法を無視するような行為を黙過したままでは、日本は本当に法治国家なのかというような危機感さえ覚える。メーカーの行為は、“義務を果たさないで権利を主張する”という子供じみたもの。これを是正するには親が子を叱るように、言って聞かせなければならない。補償金制度の見直しに関する話し合いでも、途中で空中分解させるような蛮行があった。本当に子供のわがままと同じレベル。更生の道に導いて欲しい」と挑発した。
菅原氏は補償金の未払いを高速道路無料化にたとえ、「無料化に賛成している人が、無料化に関する議論が現在なされているから、現段階でも払わないで良いと主張して支払わない行為と同じだ」とし、「世界、日本を代表する東芝がこういった行為を行うのは、法人のコンプライアンス上いかがなものか」と非難した。
椎名氏は、「私的録音録画補償金制度は廃止すべきだ、というメーカーや役所、消費者団体の主張とは裏腹に、複製されたコンテンツで世の中はますます溢れており、コンテンツの作り手側の被る被害は決して小さなものではない」と説明。現行の補償金制度については「使用される機器や複製の規模拡大、またインターネットの普及によって制度そのものの大幅な見直しが必要になってきているが、文化庁において4年越しで続いている見直しの議論は中断されたままになっており、事態が改善される気配がない」ことを問題視した。
さらに椎名氏は、東芝やパナソニックがSARVHに対して行った通告について、「これを容認した場合、2011年に地上デジタル完全移行した時点で、これまでの補償金制度の見直しに関する議論が決着しなくても、事実上、補償金制度が機能を停止することを意味しており、到底容認できない」と主張。またダビング10導入を決めた答申でも、導入には「クリエーターへの対価の還元」が前提となることが明言されていたとし、その話し合いには東芝、パナソニックの2社も参加して、答申に合意していたと述べた。
また、録画補償金制度のそもそもの意義が「私的に行われる録画を保証するもの」であり、「ダビング10によるコピーが補償金制度の対象にならないというメーカーの主張は理解できない」と非難。「補償金徴収に協力しないということを持って半ば強引に既成事実化しようという2社の姿勢は、法の遵守という観点からも大きな問題があると考えている」と説明した。
その上で椎名氏は、「制度の見直しに関する議論が中断している現在、必要なのは、実力行使で問題を解決しようとすることではなく、それぞれの利害の対立について、どうすれば解決できるかという観点から相互理解を得るための真摯な話し合いを冷静に再開することだ。落としどころを見つけたいという気持ちは変わらない」と、メーカー側との交渉を続ける意向を示した。
華頂氏は見直しの具体的な議論の内容についても言及し、「HDD内蔵レコーダーだけでなく、パソコンに関する話もしていかないと筋が通らない。ダビング10ならいいじゃない、などという子供じみた意見は通らない。ハードの持つ機能についても着目して具体的な議論をしていく必要がある。それでこそ(メーカー側が)立派な社会人になれるのかな」と述べた。
さらに椎名氏は、知的財産権の権利者は「既得権者や抵抗勢力というレッテルを貼られる場面が多かった」とし、「あらゆるものが無償で提供されるような原則に従って、コンテンツに関する法律や制度が差配された場合、額に汗してコンテンツを生み出そうという人間がいずれいなくなってしまう。長い目で見たときに、何が国民や国にとって最善の選択であるかは、損得のレベルの話だけでなく、高い視点からの冷静な検討が必要」と主張した。
また椎名氏は私的録音補償金制度について「メーカーがコピー制限がかかっているから補償が必要ないというのなら、現在無制限に行われている音楽CDからのコピーにこそ補償の必要性が存在すると言えるが、対象機器に関する制度と実体との乖離が進んだ結果、現在崩壊寸前にある私的録音補償金制度の見直しに応じないのはなぜか」と問いかけ、この点についても改めて見直しの議論を行うべきと述べた。
今後は訴訟の行方もさることながら、私的録画補償金制度の見直しがどのように行われるのかということも焦点となる。メーカー側はダビング10によって1世代限りのDRMがかかっていることから、権利者への不利益は発生しない、ゆえに補償金は必要ないという論陣を張るものと予想される。これに対してCulture First 推進91団体では、「そういうことを主張するなら、不利益が生じないことを証明しうる、客観的なデータを示すべきでないか」と反論している。
ただしそれ以前に、実際にデジタル放送をダビング10で運用する際、どの程度権利者側が不利益を被っているのかという客観的な数字がなければ、補償金制度の存続や廃止、また1台あたりの補償金の金額は決定しようがない。これまでの補償金金額は厳密に算定されたものではなかったため、この点が補償金制度に対するネガティブな側面として報道されることが多かった。
この点を記者に質問されると、菅原氏は「不利益の証明などという議論があるが、もともとから考えれば、著作物は著作権者だけが利用できる。これが大前提だ。ただし、技術の進歩にともない、これまで私的利用や極めて狭い範囲での利用に限られていたものが、ボタン一つでコピーし、世界中で共有できるようになってしまった。このような状況から考えると、私的補償金制度はベストとは言えないが、モアベターなものと言えるのではないか」と説明。
華頂氏は「映画はワンソースマルチユースがビジネスモデルで、こういったモデルを回さない収益が出ない構造となっている。このビジネスモデルはすべて“複製”が根幹となっている。だから、我々が損失を受けているということではない。アメリカはタイムシフト利用が一般的で、一度HDDに録っておいて、一回見たら消す。これなら許容できるのではないか。ただし、タイムシフトではなく自分のHDDにコレクションする場合は問題だ。我々はDVDを販売してメシを食ってるが、正規品を作るのと同じことになってしまう。それならばきちっと対価を支払って欲しい、と言いたい」と主張した。
華頂氏はさらに、「映画についてはコピーネバーにしてしまえば補償金が要らないが、今度はタイムシフトができなくなり、ユーザーの利便性が損なわれる。タイムシフトまでやめろというつもりはない。未来永劫残るものではなく、一過性のものにするなどの工夫ができないか、我々も技術的なことを勉強する必要がある」と述べた。
椎名氏は「不利益の証明、不利益が存在しないことの証明などになると、話がややこしくなるので、いまの補償金制度がもしかしたら適当なのかも知れないと考えている。補償金を重篤な負担だと感じる方は恐らくいないだろう」と述べ、現行の補償金制度の運用方法などを手直しすることで対処したいという考え方を示した。