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公開日 2010/09/17 18:56
世界を見つめ、世界から見つめられる「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京」18日より開催!
ユーロスペース/ポレポレ東中野で上映
隔年秋に山形市で開催され、世界に誇る日本有数の国際映画祭として評価の高い「山形国際ドキュメンタリー映画祭」(Yamagata International Documentary Film Festival、以下、YIDFF)。山形での本祭のない今秋、「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形 in 東京2010」が18日より東京の2会場で開催されている。
9月18日(土)〜10月1日(金)は、東京渋谷のユーロスペースでの上映。10月9日(土)〜10月29日(金)はポレポレ東中野での上映となる。
プログラムは、本祭での受賞作に加え、ドキュメンタリーを語る上で欠かせない過去の古典的傑作と、現在の最先端映像作家の作品を特集。
前半のユーロスペースでの上映では、ベネチア、カンヌの国際映画祭で話題の最先端を走るアジア若手監督特集や、めったに見られない音楽ドキュメンタリー特集など、見逃せないプログラムだ。
YIDFFディレクターの藤岡朝子さんは、「9月11日に閉幕した今年のベネチア映画祭のコンペで、中国の王兵(ワン・ピン)監督の最新作品「ディッチ」が、サプライズ上映されました。この作品は中国当局からの出品許可がおりず、サプライズ上映となったのですが、その発端となった作品が、YIDFF2007で大賞を受賞した王兵監督のドキュメンタリー作品『鳳鳴(フォンミン)− 中国の記憶』です。また、タイのアピチャポン監督は、「ブンミおじさん」で今年のカンヌ国際映画祭で、東南アジア映画として初めてパルム・ドール(最優秀作品賞)を受賞しています。二人とも、フィクション/ドキュメンタリーという枠を超えて映像表現を続けるアジアの監督ですが、発端はドキュメンタリー映像でYIDFFで長編デビューしているんです。今回、意欲的に特集を組みましたので、世界で注目されるアジアの映像作家の原点をぜひご覧になってください」と語る。
以下、コンペ・エントリー作品と特集上映から、いくつかご紹介しよう。
◯<インターナショナル・コンペティション>特集では、2009年度山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション部門エントリー作品からは10作品が上映される。
大賞を受賞した「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」は、現代の世界を席巻するネオリベラリズムの歴史を、歴史的事項の検証とインタビューを通じてじっくり描く。監督は「1982年前後に、サッチャーやレーガンの体制下で形成され、共産主義体制ブロックの崩壊によって前面に出、ついには制御不能な化け物となったネオリベラリズム(新自由主義)と呼ばれる思考を描きたいと考えた」と述べている。審査員からは「イデオロギーの時代が終わり、新しい多面的な世界に期待するこの時代において、考えることを祝福する作品」と評価された重厚な作品だ。
「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」(Encirclement - Neo Liberalism Ensnares Democracy /リシャール・ブルイエット監督/カナダ/2008/フランス語・英語/ブルーレイ/160分)
現在のメディアを覆い尽くす、単純で表面的に物事を還元する表現にあらがって、一人の人間のインタビューに丁寧な時間をかけ、観客に現代社会についての考察を提起している。〔9月18日(土)午前、10月1日(金)夜、10月19日(火)午後上映〕
「RIP! リミックス宣言」(RiP! A Remix Manifesto / ブレッド・ゲイラー監督/カナダ/2008/英語/DVカム/86分)
既成曲をサンプリング、アレンジするアーティストの活動からガン治療に及ぶ知的財産権問題を扱い、論議を巻き起こした。〔9月26日(日)午後、10月20日(水)午後〕
◯特集上映<ドキュメンタリーの扉を開いた20年>と<“ドキュメンタリーの父”ロバーロ・フラハティ>では、ロバート・フラハティ監督「アラン」、ヨリス・イヴェンス監督「風の物語」、ロバート・クレイマー監督「ルート1」、アッバス・キアロスタミ監督「トラベラー」、佐藤真「SELF AND OTHERS」など、ドキュメンタリーの歴史を開いた古典作品とドキュメンタリー史上の名作がならぶ。
「風の物語」(A Tale of the Wind /フランス/1988/フランス語・中国語/35ミリ/80分)
20世紀の世界を駆け巡ったドキュメンタリー監督ヨリス・イヴェンスの遺作。
〔9月20日(祝)午前〕
「ルート1」(Route One/ USA /ロバート・クレイマー監督/1989年/英語/35ミリ/255分)
カナダからフロリダへ至るハイウェイ、ルート1を巡るロード・ムービー。孤高の映画作家ロバート・クレイマー最高傑作の1本とされる。〔9月21日(火)午前〕
◯<王兵(ワン・ピン)の世界、アピチャポンの原点>では、世界映画の先端をいく二人の若手アジア作家の作品を上映する。先鋭な表現でドキュメンタリーのみならず、世界の映画シーンで話題の作家の映画をとくとご覧あれ。
「鉄西区」(Tie Xi Qu: West of Tracks /王兵監督/中国/2003/中国語/DVカム/545分)
2003年のYIDFF で、無名の若い監督の実に545分の作品が上映され大賞を受賞した。世界に王兵と中国ドキュメンタリーの力を知らしめた傑作。日本占領下に計画経済の象徴として栄えた中国瀋陽の工業地域、鉄西区を監督一人クルーのキャメラが鮮烈に描き出す。〔9月28日(火)午後、29日(水)午後上映)
「鳳鳴(フォンミン)- 中国の記憶」( FENMING A Chinese Memoir /王兵監督/中国/2007年/中国語/DVカム/183分)
1950年代の中国文化大革命の中、反革命分子とされ粛清の歴史を経験した老女が語る歴史。固定カメラがひたすら語る老女に対峙する映像は、2007年YIDFFの観客で賛否両論となったが、その年の大賞を受賞した。この作品に続く作品「ディッチ」は本年のベネチア映画祭コンペで中国当局の認可を得ないサプライズ上映されたばかり。〔9月30日(木)午後上映〕
「真昼の不思議な物体」( Mysterious Object at Noon /アピチャッポン・ウィーラセタクン監督/タイ/2000/タイ語/35ミリ/83分)
本年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した、アピチャッポンの長編第1作。語ることと見ることが入り交じったアピチャッポン的世界の真骨頂。〔 9月27日(月)夜上映〕
◯特集「世界の音楽に心湧く」では、フィンランド、フランス、インド、ポルトガル、ブエノスアイレス、ブラジル、アメリカ、フィリピンの各地から、人が音楽を生む現場、その歴史をドキュメンタリー映像によって体感することができる。
「予言の夜」(A Night of Prophecy / アマル・カンワル監督/インド/2002/英語・インド諸言語/DVカム/77分)
中上健次に親近感を持つという監督がインド各地を音楽でつなぐ魂の旅。社会の最下層に遇される人々が生み出す音楽のリズムが圧倒的だ。〔9月27日(月)夜上映〕
「12タンゴ ブエノスアイレスへの往復切符」(12 Tangos: Adios Buenos Aires /アルネ・ビルケンシュトック監督/ドイツ/2005/スペイン語/35ミリ/86分)
祖国アルゼンチンへの慕情と哀しみの込められたタンゴに、ダンサーたちの人生が重なる。〔9月23日(祝)夜上映〕
「テキサス・テナー:イリノイ・ジャケー・ストーリー」(Texas Tenor: The Illinois Jacquet Story / アーサー・エルゴート監督/アメリカ/1991−2/英語/35ミリ/81分)
ジャズ・サックス奏者イリノイ・ジャケーの伝記。L・ハンプトン、D・ガレスビー、S・ロリンズなどジャズの巨匠たちの語りも見逃せない。〔9月26日(日)夜上映〕
「アレンテージョ、めぐりあい」(Encounters/ピエール=マリー・グレ監督/ポルトガル・フランス/2006/ポルトガル語/DVカム/105分)
ポルトガル南部アレンテージョ地方の民謡に見せられた映画監督や詩人の記憶に、哀愁をたたえた歌が蘇る。2007年YIDFF山形市長賞(最優秀賞)受賞。〔9月20日(祝)夜/10月1日(金)夜上映〕
◯<エディ・ホニグマン監督特集>は、ペルーのリマに生まれ、オランダ、フランスで映画制作を行ってきた監督の作品特集。ヤマガタで愛されてきた作品を一挙上映する。
「忘却」(Oblivion / エディ・ホニグマン監督/オランダ・ドイツ/2008/スペイン語/DVカム/93分)
ペルー歴代首長をもてなしてきた老バーテンダーやカフェ主人。高級レストランで働きながらつつましい暮らしを送る人たちなどの記憶を通して語られる歴史と、現在のリマで路上で生きる子供たちの姿を丁寧に追った作品。2009年YIDFFインターナショナル・コンペティション山形市長賞受賞(最優秀賞)。〔9月19日(日)午後、9月22日(水)夜、10月19日(火)午前上映〕
プログラムの詳細とチケット情報は以下を参照のこと。
「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2010」
http://www.cinematrix.jp/dds2010/
(取材・文 山之内優子)
9月18日(土)〜10月1日(金)は、東京渋谷のユーロスペースでの上映。10月9日(土)〜10月29日(金)はポレポレ東中野での上映となる。
プログラムは、本祭での受賞作に加え、ドキュメンタリーを語る上で欠かせない過去の古典的傑作と、現在の最先端映像作家の作品を特集。
前半のユーロスペースでの上映では、ベネチア、カンヌの国際映画祭で話題の最先端を走るアジア若手監督特集や、めったに見られない音楽ドキュメンタリー特集など、見逃せないプログラムだ。
YIDFFディレクターの藤岡朝子さんは、「9月11日に閉幕した今年のベネチア映画祭のコンペで、中国の王兵(ワン・ピン)監督の最新作品「ディッチ」が、サプライズ上映されました。この作品は中国当局からの出品許可がおりず、サプライズ上映となったのですが、その発端となった作品が、YIDFF2007で大賞を受賞した王兵監督のドキュメンタリー作品『鳳鳴(フォンミン)− 中国の記憶』です。また、タイのアピチャポン監督は、「ブンミおじさん」で今年のカンヌ国際映画祭で、東南アジア映画として初めてパルム・ドール(最優秀作品賞)を受賞しています。二人とも、フィクション/ドキュメンタリーという枠を超えて映像表現を続けるアジアの監督ですが、発端はドキュメンタリー映像でYIDFFで長編デビューしているんです。今回、意欲的に特集を組みましたので、世界で注目されるアジアの映像作家の原点をぜひご覧になってください」と語る。
以下、コンペ・エントリー作品と特集上映から、いくつかご紹介しよう。
◯<インターナショナル・コンペティション>特集では、2009年度山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション部門エントリー作品からは10作品が上映される。
大賞を受賞した「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」は、現代の世界を席巻するネオリベラリズムの歴史を、歴史的事項の検証とインタビューを通じてじっくり描く。監督は「1982年前後に、サッチャーやレーガンの体制下で形成され、共産主義体制ブロックの崩壊によって前面に出、ついには制御不能な化け物となったネオリベラリズム(新自由主義)と呼ばれる思考を描きたいと考えた」と述べている。審査員からは「イデオロギーの時代が終わり、新しい多面的な世界に期待するこの時代において、考えることを祝福する作品」と評価された重厚な作品だ。
「包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠」(Encirclement - Neo Liberalism Ensnares Democracy /リシャール・ブルイエット監督/カナダ/2008/フランス語・英語/ブルーレイ/160分)
現在のメディアを覆い尽くす、単純で表面的に物事を還元する表現にあらがって、一人の人間のインタビューに丁寧な時間をかけ、観客に現代社会についての考察を提起している。〔9月18日(土)午前、10月1日(金)夜、10月19日(火)午後上映〕
「RIP! リミックス宣言」(RiP! A Remix Manifesto / ブレッド・ゲイラー監督/カナダ/2008/英語/DVカム/86分)
既成曲をサンプリング、アレンジするアーティストの活動からガン治療に及ぶ知的財産権問題を扱い、論議を巻き起こした。〔9月26日(日)午後、10月20日(水)午後〕
◯特集上映<ドキュメンタリーの扉を開いた20年>と<“ドキュメンタリーの父”ロバーロ・フラハティ>では、ロバート・フラハティ監督「アラン」、ヨリス・イヴェンス監督「風の物語」、ロバート・クレイマー監督「ルート1」、アッバス・キアロスタミ監督「トラベラー」、佐藤真「SELF AND OTHERS」など、ドキュメンタリーの歴史を開いた古典作品とドキュメンタリー史上の名作がならぶ。
「風の物語」(A Tale of the Wind /フランス/1988/フランス語・中国語/35ミリ/80分)
20世紀の世界を駆け巡ったドキュメンタリー監督ヨリス・イヴェンスの遺作。
〔9月20日(祝)午前〕
「ルート1」(Route One/ USA /ロバート・クレイマー監督/1989年/英語/35ミリ/255分)
カナダからフロリダへ至るハイウェイ、ルート1を巡るロード・ムービー。孤高の映画作家ロバート・クレイマー最高傑作の1本とされる。〔9月21日(火)午前〕
◯<王兵(ワン・ピン)の世界、アピチャポンの原点>では、世界映画の先端をいく二人の若手アジア作家の作品を上映する。先鋭な表現でドキュメンタリーのみならず、世界の映画シーンで話題の作家の映画をとくとご覧あれ。
「鉄西区」(Tie Xi Qu: West of Tracks /王兵監督/中国/2003/中国語/DVカム/545分)
2003年のYIDFF で、無名の若い監督の実に545分の作品が上映され大賞を受賞した。世界に王兵と中国ドキュメンタリーの力を知らしめた傑作。日本占領下に計画経済の象徴として栄えた中国瀋陽の工業地域、鉄西区を監督一人クルーのキャメラが鮮烈に描き出す。〔9月28日(火)午後、29日(水)午後上映)
「鳳鳴(フォンミン)- 中国の記憶」( FENMING A Chinese Memoir /王兵監督/中国/2007年/中国語/DVカム/183分)
1950年代の中国文化大革命の中、反革命分子とされ粛清の歴史を経験した老女が語る歴史。固定カメラがひたすら語る老女に対峙する映像は、2007年YIDFFの観客で賛否両論となったが、その年の大賞を受賞した。この作品に続く作品「ディッチ」は本年のベネチア映画祭コンペで中国当局の認可を得ないサプライズ上映されたばかり。〔9月30日(木)午後上映〕
「真昼の不思議な物体」( Mysterious Object at Noon /アピチャッポン・ウィーラセタクン監督/タイ/2000/タイ語/35ミリ/83分)
本年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した、アピチャッポンの長編第1作。語ることと見ることが入り交じったアピチャッポン的世界の真骨頂。〔 9月27日(月)夜上映〕
◯特集「世界の音楽に心湧く」では、フィンランド、フランス、インド、ポルトガル、ブエノスアイレス、ブラジル、アメリカ、フィリピンの各地から、人が音楽を生む現場、その歴史をドキュメンタリー映像によって体感することができる。
「予言の夜」(A Night of Prophecy / アマル・カンワル監督/インド/2002/英語・インド諸言語/DVカム/77分)
中上健次に親近感を持つという監督がインド各地を音楽でつなぐ魂の旅。社会の最下層に遇される人々が生み出す音楽のリズムが圧倒的だ。〔9月27日(月)夜上映〕
「12タンゴ ブエノスアイレスへの往復切符」(12 Tangos: Adios Buenos Aires /アルネ・ビルケンシュトック監督/ドイツ/2005/スペイン語/35ミリ/86分)
祖国アルゼンチンへの慕情と哀しみの込められたタンゴに、ダンサーたちの人生が重なる。〔9月23日(祝)夜上映〕
「テキサス・テナー:イリノイ・ジャケー・ストーリー」(Texas Tenor: The Illinois Jacquet Story / アーサー・エルゴート監督/アメリカ/1991−2/英語/35ミリ/81分)
ジャズ・サックス奏者イリノイ・ジャケーの伝記。L・ハンプトン、D・ガレスビー、S・ロリンズなどジャズの巨匠たちの語りも見逃せない。〔9月26日(日)夜上映〕
「アレンテージョ、めぐりあい」(Encounters/ピエール=マリー・グレ監督/ポルトガル・フランス/2006/ポルトガル語/DVカム/105分)
ポルトガル南部アレンテージョ地方の民謡に見せられた映画監督や詩人の記憶に、哀愁をたたえた歌が蘇る。2007年YIDFF山形市長賞(最優秀賞)受賞。〔9月20日(祝)夜/10月1日(金)夜上映〕
◯<エディ・ホニグマン監督特集>は、ペルーのリマに生まれ、オランダ、フランスで映画制作を行ってきた監督の作品特集。ヤマガタで愛されてきた作品を一挙上映する。
「忘却」(Oblivion / エディ・ホニグマン監督/オランダ・ドイツ/2008/スペイン語/DVカム/93分)
ペルー歴代首長をもてなしてきた老バーテンダーやカフェ主人。高級レストランで働きながらつつましい暮らしを送る人たちなどの記憶を通して語られる歴史と、現在のリマで路上で生きる子供たちの姿を丁寧に追った作品。2009年YIDFFインターナショナル・コンペティション山形市長賞受賞(最優秀賞)。〔9月19日(日)午後、9月22日(水)夜、10月19日(火)午前上映〕
プログラムの詳細とチケット情報は以下を参照のこと。
「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京2010」
http://www.cinematrix.jp/dds2010/
(取材・文 山之内優子)