公開日 2010/02/04 11:39
「500万対1」の実力やいかに − 新パネル搭載のパナソニック“VIERA"G2を旧モデルと比較視聴
パナソニックと”KURO”の技術を融合
今年の薄型テレビ技術も大きく進化することが予想されるが、早くもプラズマテレビの雄・パナソニックが注目すべき動きを見せた。1月18日に発表されたプラズマテレビ“VIERA”G2シリーズ(関連ニュース)は、今年1月のIntenational CESの会場で初めて披露された、ネイティブコントラスト比500万対1の新プラズマパネルを搭載している。
プラズマパネルの生産・開発から撤退したパイオニアのプラズマテレビの研究・開発を手がけていた技術者は、その多くがパナソニックに移籍した。今年は”KURO”の技術とパナソニックのPDP技術とを融合させた新パネルが投入されると予告されていた年でもある。
「TH-P50G2」の持つ、ネイティブコントラストコントラスト比500万対1のスペックを実現した新開発の「ブラックパネル」を構成する技術のうち、光変換効率を上げる新「高密度蛍光体」などのキーテクノロジーは、パナソニックとパイオニアの技術提携を発表した際に「高発光効率化技術」として当初から挙げられたものだ。
二段階の予備放電によって実現された発光も、もともとは予備放電レスとして2008年にパイオニアがKUROで当初発表していた技術を利用しているものと予想できる。さらにプラズマパネルの前面板を一体化させる「低反射ブラックフィルター」による黒色の締まりは、パイオニアのKUROシリーズが特徴としてきたものだ。
新VIERAに搭載された新技術を眺めていると、パイオニアがKUROシリーズの強みとして打ち出してきた技術思想、高画質テクノロジーが、パナソニックの技術とうまく融け合い、VIERAにブランドを変えて甦ってきたようにも感じられる。
さて、今回取り上げる“VIERA”G2シリーズを昨年のラインナップに置き換えてみると、最上位ではないハイエンドシリーズという位置づけのモデルである。VIERAの2010年ラインナップは、3D対応を大命題としてフラグシップモデルの開発が進められている事は間違いないが、ネイティブコントラスト比500万対1を誇る“VIERA”G2シリーズだけをとってみても、単純に比較することはできないとは言え、いくつかの液晶テレビ フラグシップモデルの特徴であるLEDローカルディミング対応モデルに相当するほどのスペックを備えていることがわかる。
今回、画質の最終チューニングが済んでいない試作機段階ではあるが、ネイティブコントラスト500万対1の新パネルの実力を確かめるため、2009年発売の同シリーズのモデルと比較してどれほど画質が向上しているか、比較検証を試みた。
●ピーク輝度が大きく向上。精細感、立体感も飛躍的に進化
比較検証用として、音元出版の視聴室に2010年モデルであるVIERA Gシリーズの50V型「TH-P50G2」と、同シリーズの2009年モデルである50V型「TH-P50G1」の2モデルを用意した。同一条件で比較するため、パナソニックのBDプレーヤー「DMP-BD60」を用意して、HDMI分配機を用いて2台のテレビに並列接続して比較検証した。
キューテックが発売している画質チェック用BD『Hi-Definition Reference Disc』を視聴すると、一見して画質の違いは歴然としている。「シアター」設定にして夜景を撮影した「Tokyo Night」を見ると、絶対的な黒レベルの低下はさほど大きくないものの、ピーク輝度が大きく向上しており、夜景に煌めく光の力強さが増している。
その後視聴を続けるうちに、TH-P50G2の、単純に黒の締まりだけに還元できない、画面全体の精密な描写に魅力を感じるようになった。たとえば、ライトアップされた東京タワーの映像の塔脚部の明瞭な描写や、空撮による地上の形式の鮮明さ。1台のBDプレーヤーから分岐した映像の比較の筈だが、まさに1枚ヴェールを剥ぎ取ったような、見違えるほど緻密な描写に感嘆させられた。
色再現性を検証するため、その他のシーンを視聴しても、発色の傾向の変化は小さいながらも、瑞々しいほどの被写体の立体感に目を奪われたほどだ。
BDソフト『ベンジャミンバトン 数奇な人生』を視聴しても、明らかな画質向上が感じられた。チャプター4の冒頭の病院のシーンでは肌の緻密さが増し、影の部分の階調性も高まっていることで全体に映像がギュッと締まった印象だ。
その後の庭のシーン、食事のシーンと視聴を続けても、映像は真に迫るかのような深みで描かれる。物語はその後、テーブルの下の密会に進むが、以前のモデルで暗部に見られたグリーンが抜けて、本機ではほんのわずかに赤みがかる色調となり、漆黒に近い色合いを出しはじめた。”KURO”の高画質思想の一つであった、暗部での色の自然さを受け継がれたことは大いに歓迎したい。
余談になるが、ハイライトまでの輝度の素直な伸びと精密描写に裏付けられた「TH-P50G2」では、より明るい部屋向けの「リビング」設定の完成度が大きく高まっている。本格的な映像は「シネマ」で視聴と思ってしまいがちだが、カジュアルな視聴環境でも高画質の恩恵を受けられる「リビング」モードは、ぜひ試してみてもらいたい。
●設定項目が増えたことでモニターとしての価値も高まった
パナソニックの新ビエラ“VIERA”G2シリーズでは、画質関連の設定機能でもブラッシュアップが図られている。
まず、部屋の明るさに応じて画質を自動調整する「エコナビ」と、画質モード「オート」が搭載されたことに注目したい。実際に照明の点灯・消灯を繰り返して検証してみたが、照明を付けた状態でも、ちょうど暗室で見た「シネマ」に印象が近い、映像の輝度ピークと情報量のバランスを両立した画作りになる。暗室で見た場合は「シネマ」設定より、さらにハイライトを抑えた本格志向の画質となり、しっとりとした映像を作り出す。
画質の設定項目も選択肢が増えている。ガンマ設定は従来の「低」「中」「高」という設定から、プロジェクターなどと同様の「2.2」を基本とした1.8〜2.6の、0.2ステップ刻みの設定項目へ変更された。さらに画質の個別チューニングでも、RGB各色のドライブとカットオフは、従来ではR/Bのみ可能だったが、本機では「Gドライブ」「Gカットオフ」が追加された。パネルのポテンシャル向上と同時に、自分で画質を追い込めるモニターとして見た場合にも、その商品性が高まったと評価できる。
“VIERA”G2シリーズの画質は、ネイティブコントラスト比500万対1というスペックに目を奪われがちだが、映像の質感を大きく作り替える新「ダイナミックブラックレイヤー」の持つポテンシャルに、よりいっそう感銘を受けた。
最上位機種ではないG2シリーズですら、これほどの画質を見せるのであれば、最上位シリーズが2009年モデルと比べてどれほどのジャンプアップを果たすのか、興味は尽きない。今後登場するであろうVIERAの最上位モデルでは、もちろん3D視聴の実現が最も大きなポイントとなるだろうが、同時に2D画質のさらなる向上にも期待したい。
(折原一也)
執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。
プラズマパネルの生産・開発から撤退したパイオニアのプラズマテレビの研究・開発を手がけていた技術者は、その多くがパナソニックに移籍した。今年は”KURO”の技術とパナソニックのPDP技術とを融合させた新パネルが投入されると予告されていた年でもある。
「TH-P50G2」の持つ、ネイティブコントラストコントラスト比500万対1のスペックを実現した新開発の「ブラックパネル」を構成する技術のうち、光変換効率を上げる新「高密度蛍光体」などのキーテクノロジーは、パナソニックとパイオニアの技術提携を発表した際に「高発光効率化技術」として当初から挙げられたものだ。
二段階の予備放電によって実現された発光も、もともとは予備放電レスとして2008年にパイオニアがKUROで当初発表していた技術を利用しているものと予想できる。さらにプラズマパネルの前面板を一体化させる「低反射ブラックフィルター」による黒色の締まりは、パイオニアのKUROシリーズが特徴としてきたものだ。
新VIERAに搭載された新技術を眺めていると、パイオニアがKUROシリーズの強みとして打ち出してきた技術思想、高画質テクノロジーが、パナソニックの技術とうまく融け合い、VIERAにブランドを変えて甦ってきたようにも感じられる。
さて、今回取り上げる“VIERA”G2シリーズを昨年のラインナップに置き換えてみると、最上位ではないハイエンドシリーズという位置づけのモデルである。VIERAの2010年ラインナップは、3D対応を大命題としてフラグシップモデルの開発が進められている事は間違いないが、ネイティブコントラスト比500万対1を誇る“VIERA”G2シリーズだけをとってみても、単純に比較することはできないとは言え、いくつかの液晶テレビ フラグシップモデルの特徴であるLEDローカルディミング対応モデルに相当するほどのスペックを備えていることがわかる。
今回、画質の最終チューニングが済んでいない試作機段階ではあるが、ネイティブコントラスト500万対1の新パネルの実力を確かめるため、2009年発売の同シリーズのモデルと比較してどれほど画質が向上しているか、比較検証を試みた。
●ピーク輝度が大きく向上。精細感、立体感も飛躍的に進化
比較検証用として、音元出版の視聴室に2010年モデルであるVIERA Gシリーズの50V型「TH-P50G2」と、同シリーズの2009年モデルである50V型「TH-P50G1」の2モデルを用意した。同一条件で比較するため、パナソニックのBDプレーヤー「DMP-BD60」を用意して、HDMI分配機を用いて2台のテレビに並列接続して比較検証した。
キューテックが発売している画質チェック用BD『Hi-Definition Reference Disc』を視聴すると、一見して画質の違いは歴然としている。「シアター」設定にして夜景を撮影した「Tokyo Night」を見ると、絶対的な黒レベルの低下はさほど大きくないものの、ピーク輝度が大きく向上しており、夜景に煌めく光の力強さが増している。
その後視聴を続けるうちに、TH-P50G2の、単純に黒の締まりだけに還元できない、画面全体の精密な描写に魅力を感じるようになった。たとえば、ライトアップされた東京タワーの映像の塔脚部の明瞭な描写や、空撮による地上の形式の鮮明さ。1台のBDプレーヤーから分岐した映像の比較の筈だが、まさに1枚ヴェールを剥ぎ取ったような、見違えるほど緻密な描写に感嘆させられた。
色再現性を検証するため、その他のシーンを視聴しても、発色の傾向の変化は小さいながらも、瑞々しいほどの被写体の立体感に目を奪われたほどだ。
BDソフト『ベンジャミンバトン 数奇な人生』を視聴しても、明らかな画質向上が感じられた。チャプター4の冒頭の病院のシーンでは肌の緻密さが増し、影の部分の階調性も高まっていることで全体に映像がギュッと締まった印象だ。
その後の庭のシーン、食事のシーンと視聴を続けても、映像は真に迫るかのような深みで描かれる。物語はその後、テーブルの下の密会に進むが、以前のモデルで暗部に見られたグリーンが抜けて、本機ではほんのわずかに赤みがかる色調となり、漆黒に近い色合いを出しはじめた。”KURO”の高画質思想の一つであった、暗部での色の自然さを受け継がれたことは大いに歓迎したい。
余談になるが、ハイライトまでの輝度の素直な伸びと精密描写に裏付けられた「TH-P50G2」では、より明るい部屋向けの「リビング」設定の完成度が大きく高まっている。本格的な映像は「シネマ」で視聴と思ってしまいがちだが、カジュアルな視聴環境でも高画質の恩恵を受けられる「リビング」モードは、ぜひ試してみてもらいたい。
●設定項目が増えたことでモニターとしての価値も高まった
パナソニックの新ビエラ“VIERA”G2シリーズでは、画質関連の設定機能でもブラッシュアップが図られている。
まず、部屋の明るさに応じて画質を自動調整する「エコナビ」と、画質モード「オート」が搭載されたことに注目したい。実際に照明の点灯・消灯を繰り返して検証してみたが、照明を付けた状態でも、ちょうど暗室で見た「シネマ」に印象が近い、映像の輝度ピークと情報量のバランスを両立した画作りになる。暗室で見た場合は「シネマ」設定より、さらにハイライトを抑えた本格志向の画質となり、しっとりとした映像を作り出す。
画質の設定項目も選択肢が増えている。ガンマ設定は従来の「低」「中」「高」という設定から、プロジェクターなどと同様の「2.2」を基本とした1.8〜2.6の、0.2ステップ刻みの設定項目へ変更された。さらに画質の個別チューニングでも、RGB各色のドライブとカットオフは、従来ではR/Bのみ可能だったが、本機では「Gドライブ」「Gカットオフ」が追加された。パネルのポテンシャル向上と同時に、自分で画質を追い込めるモニターとして見た場合にも、その商品性が高まったと評価できる。
“VIERA”G2シリーズの画質は、ネイティブコントラスト比500万対1というスペックに目を奪われがちだが、映像の質感を大きく作り替える新「ダイナミックブラックレイヤー」の持つポテンシャルに、よりいっそう感銘を受けた。
最上位機種ではないG2シリーズですら、これほどの画質を見せるのであれば、最上位シリーズが2009年モデルと比べてどれほどのジャンプアップを果たすのか、興味は尽きない。今後登場するであろうVIERAの最上位モデルでは、もちろん3D視聴の実現が最も大きなポイントとなるだろうが、同時に2D画質のさらなる向上にも期待したい。
(折原一也)
執筆者プロフィール
埼玉県出身。コンピューター系出版社編集職を経た後、フリーライターとして雑誌・ムック等に寄稿し、現在はデジタル家電をはじめとするAVに活動フィールドを移す。PCテクノロジーをベースとしたデジタル機器に精通し、AV/PCを問わず実用性を追求しながら両者を使い分ける実践派。