公開日 2011/04/25 10:10
エラック「50 LINE」連続試聴 − フロアスタンド「FS 57.2」で聴くハイレゾ音源
最新モデルを山之内正が速報レビュー
欧州を代表するスピーカーブランドであるエラックから、最新モデル「50 LINE」が登場した。エラックの高音質技術を継承しながら高いコストパフォーマンスも追求した新シリーズ各モデルの魅力を、評論家の山之内正氏が連続レポート。第1回はフロアスタンドモデルの「FS 57.2」で聴くハイレゾ音源の魅力を紹介しよう。
本格オーディオの入門機「50 LINE」登場
少し前までオーディオ機器の価格と性能はほぼ比例関係にあったが、最近、一部のジャンルでその関係に異変が起き始めた。その代表がエントリーからミドルクラスのスピーカーで、特にこの数年、音が良い低価格モデルが各社から相次いで登場している。これは私たち音楽ファンには嬉しい異変というべきだろう。
ドイツのエラックはそのトレンドを牽引するブランドの一つで、なかでも同社の180 LINEはコストパフォーマンスの高さで注目すべき存在だ。エラックの代名詞ともいえる技術結集型の高域ユニット「JETトゥイーター」を積む最廉価シリーズということもあり、高い評価と人気を獲得したのもうなずける。
そして、180 LINEの登場から僅か1年という短いサイクルで、再びエラックから強力な新シリーズ「50 LINE」が登場することになった。180 LINEよりもさらに身近な、本格オーディオの入門機として導入される新シリーズだ。この数年の同社の快進撃ぶりは目を見張るものがあるが、一連の新製品のなかでも今回の50 LINEは2つの点で注目を集めることになるだろう。
新シリーズのためにエラックが独自開発したユニットを搭載
まず、本シリーズ発売を機にユニット群を新規に開発したことが目を引く。さすがにJETトゥイーターの搭載はコストを押し上げるので見送られたが、新たに開発されたシルク・ファブリックドーム型トゥイーターとパルプコーン型ウーファーはどちらも非常に完成度が高く、エラックの新しい魅力を伝えてくれそうだ。
もう一つのポイントは、50 LINEが一連の新製品群の後に開発されたという事実だ。最新技術を数多く投入して進化した上位機種のノウハウを生かすことで、エントリーモデルでありながら、エラックのサウンドデザインの継承を狙っている。
コンセプトの継承は、外見や仕上げからも読み取ることができる。ユニットのフレームやキャビネット細部の仕上げが精密で質感が高く、クラスの違いを感じさせないうえ、フロントバッフルには深みのあるラッカー仕上げを施すなど、美観にも気を配っているのだ。キャビネット内部は補強剤によって振動対策を強化。さらに、部屋の音響特性に合わせて低音の量感を調整するコントロールプラグがバスレフ型モデルに付属する点も、上位機種と共通する。また、実機を見て驚いたのだが、グリルは剛性の高いメタル製を採用している。フレームの共振が少ないタイプで、このクラスのスピーカーにはほとんど搭載例のない贅沢な装備だ。
50 LINEはセンタースピーカーやサブウーファーも含むフル・ラインナップが用意されるが、まずはステレオ再生を視野に入れた製品に注目していこう。ブックシェルフ型は密閉型のコンパクトなBS 52.2とバスレフ型のBS 53.2の2モデルが用意され、フロア型はツイン・ウーファー構成のFS 57.2が登場する。
その3機種のなかから、今回はFS 57.2に焦点を合わせ、実力を検証していく。
エラックの音づくりを忠実に踏襲 − ハイレゾ音源の透明な空気感をも再現する
FS 57.2はパルプコーン型の145mmウーファー2基とシルクドーム型のトゥイーターで構成される2.5ウェイタイプの本格的なフロア型スピーカーで、ベースプレートとスパイクで重量を支えており、構造面からも安心できる形状だ。付属のスパイク受けを介して試聴室の床に設置し、早速音を聴いてみた。
最初にCDとSACDで基本性能を確認する。ピアノ独奏と室内楽を聴いて気付くのは、ステレオ音場のなかに浮かび上がる楽器のイメージがとても自然で、すっきりとした輪郭を再現することだ。ピアノは低音が不必要にふくらんだり、中域が過剰に張り出すことがなく、高い音域まで落ち着いたバランスを確保。ピアノのアルペジオやグリッサンドを意識して聴けば、特定の音域が強調されることがなく、しかも音の粒がきれいに揃っていることがわかるはずだ。
シンプルな編成のジャズでは、リズム楽器の輪郭がクリアで浮き沈みがなく、テンポ感が安定していることに感心した。リズムとテンポという音楽の基本をしっかり押さえることはエラックのスピーカーに共通する美点だが、それは本機にも確実に受け継がれているようだ。なお、自宅の環境では、ウーファー側のバスレフダクトのみ、セパレート型のコントロールプラグをフルに装着した状態で試聴したが、部屋の音響条件によっては、プラグなしの状態や1個のみで最良のバランスが得られる場合もありそうだ。
次に、NASとパソコンに保存したハイレゾリューション音源でオーケストラとジャズボーカルを聴く。いずれもディスクの音源に比べて低音がオープンで音場に深みがあることが特徴だが、本機はその臨場感を生き生きと再現し、ストリーム再生ならではの透明な空気感が部屋を満たした。ボーカルは高音の感触がしなやかで柔らかく、ぬくもりのある声の描写が美しい。スピード感と解像感を確保しつつ、木質の柔らかい響きを引き出す柔軟性の高さは上位の200 LINEや300 LINEに通じるものがあり、本機がエラックのサウンドデザインを忠実に受け継いでいることを示している。
ここまで本格的な内容を実現しながら、本機はペアで84,000円(税込)という手頃な価格で販売される。スケールの大きな音場再現と粒立ちの良いサウンドを両立させ、再生ジャンルを問わないフレキシブルな性能を獲得している点も特筆に値する。コストパフォーマンスの高さで他機を脅かす存在になりそうだ。
【FS 57.2 スペック】●価格:84,000円(ペア・税込) ●型式:2.5ウェイ・バスレフ型 ●ウーファー:145mm ELACオリジナル・パルプコーン×2 ●トゥイーター:25mm ELACオリジナル・シルクドーム×1 ●クロスオーバー周波数:700/2,000Hz ●能率:89dB(2.83 V/1m) ●インピーダンス:4Ω ●周波数特性:38〜25,000Hz ●定格入力:80W ●最大入力:120W ●外形寸法:200W×940H×300Dmm ●質量:14kg ●問い合わせ先:(株)ユキム Mail/support@yukimu.com TEL/03-5743-6202
山之内正 プロフィール
出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。
本格オーディオの入門機「50 LINE」登場
少し前までオーディオ機器の価格と性能はほぼ比例関係にあったが、最近、一部のジャンルでその関係に異変が起き始めた。その代表がエントリーからミドルクラスのスピーカーで、特にこの数年、音が良い低価格モデルが各社から相次いで登場している。これは私たち音楽ファンには嬉しい異変というべきだろう。
ドイツのエラックはそのトレンドを牽引するブランドの一つで、なかでも同社の180 LINEはコストパフォーマンスの高さで注目すべき存在だ。エラックの代名詞ともいえる技術結集型の高域ユニット「JETトゥイーター」を積む最廉価シリーズということもあり、高い評価と人気を獲得したのもうなずける。
そして、180 LINEの登場から僅か1年という短いサイクルで、再びエラックから強力な新シリーズ「50 LINE」が登場することになった。180 LINEよりもさらに身近な、本格オーディオの入門機として導入される新シリーズだ。この数年の同社の快進撃ぶりは目を見張るものがあるが、一連の新製品のなかでも今回の50 LINEは2つの点で注目を集めることになるだろう。
新シリーズのためにエラックが独自開発したユニットを搭載
まず、本シリーズ発売を機にユニット群を新規に開発したことが目を引く。さすがにJETトゥイーターの搭載はコストを押し上げるので見送られたが、新たに開発されたシルク・ファブリックドーム型トゥイーターとパルプコーン型ウーファーはどちらも非常に完成度が高く、エラックの新しい魅力を伝えてくれそうだ。
もう一つのポイントは、50 LINEが一連の新製品群の後に開発されたという事実だ。最新技術を数多く投入して進化した上位機種のノウハウを生かすことで、エントリーモデルでありながら、エラックのサウンドデザインの継承を狙っている。
コンセプトの継承は、外見や仕上げからも読み取ることができる。ユニットのフレームやキャビネット細部の仕上げが精密で質感が高く、クラスの違いを感じさせないうえ、フロントバッフルには深みのあるラッカー仕上げを施すなど、美観にも気を配っているのだ。キャビネット内部は補強剤によって振動対策を強化。さらに、部屋の音響特性に合わせて低音の量感を調整するコントロールプラグがバスレフ型モデルに付属する点も、上位機種と共通する。また、実機を見て驚いたのだが、グリルは剛性の高いメタル製を採用している。フレームの共振が少ないタイプで、このクラスのスピーカーにはほとんど搭載例のない贅沢な装備だ。
50 LINEはセンタースピーカーやサブウーファーも含むフル・ラインナップが用意されるが、まずはステレオ再生を視野に入れた製品に注目していこう。ブックシェルフ型は密閉型のコンパクトなBS 52.2とバスレフ型のBS 53.2の2モデルが用意され、フロア型はツイン・ウーファー構成のFS 57.2が登場する。
その3機種のなかから、今回はFS 57.2に焦点を合わせ、実力を検証していく。
エラックの音づくりを忠実に踏襲 − ハイレゾ音源の透明な空気感をも再現する
FS 57.2はパルプコーン型の145mmウーファー2基とシルクドーム型のトゥイーターで構成される2.5ウェイタイプの本格的なフロア型スピーカーで、ベースプレートとスパイクで重量を支えており、構造面からも安心できる形状だ。付属のスパイク受けを介して試聴室の床に設置し、早速音を聴いてみた。
最初にCDとSACDで基本性能を確認する。ピアノ独奏と室内楽を聴いて気付くのは、ステレオ音場のなかに浮かび上がる楽器のイメージがとても自然で、すっきりとした輪郭を再現することだ。ピアノは低音が不必要にふくらんだり、中域が過剰に張り出すことがなく、高い音域まで落ち着いたバランスを確保。ピアノのアルペジオやグリッサンドを意識して聴けば、特定の音域が強調されることがなく、しかも音の粒がきれいに揃っていることがわかるはずだ。
シンプルな編成のジャズでは、リズム楽器の輪郭がクリアで浮き沈みがなく、テンポ感が安定していることに感心した。リズムとテンポという音楽の基本をしっかり押さえることはエラックのスピーカーに共通する美点だが、それは本機にも確実に受け継がれているようだ。なお、自宅の環境では、ウーファー側のバスレフダクトのみ、セパレート型のコントロールプラグをフルに装着した状態で試聴したが、部屋の音響条件によっては、プラグなしの状態や1個のみで最良のバランスが得られる場合もありそうだ。
次に、NASとパソコンに保存したハイレゾリューション音源でオーケストラとジャズボーカルを聴く。いずれもディスクの音源に比べて低音がオープンで音場に深みがあることが特徴だが、本機はその臨場感を生き生きと再現し、ストリーム再生ならではの透明な空気感が部屋を満たした。ボーカルは高音の感触がしなやかで柔らかく、ぬくもりのある声の描写が美しい。スピード感と解像感を確保しつつ、木質の柔らかい響きを引き出す柔軟性の高さは上位の200 LINEや300 LINEに通じるものがあり、本機がエラックのサウンドデザインを忠実に受け継いでいることを示している。
ここまで本格的な内容を実現しながら、本機はペアで84,000円(税込)という手頃な価格で販売される。スケールの大きな音場再現と粒立ちの良いサウンドを両立させ、再生ジャンルを問わないフレキシブルな性能を獲得している点も特筆に値する。コストパフォーマンスの高さで他機を脅かす存在になりそうだ。
【FS 57.2 スペック】●価格:84,000円(ペア・税込) ●型式:2.5ウェイ・バスレフ型 ●ウーファー:145mm ELACオリジナル・パルプコーン×2 ●トゥイーター:25mm ELACオリジナル・シルクドーム×1 ●クロスオーバー周波数:700/2,000Hz ●能率:89dB(2.83 V/1m) ●インピーダンス:4Ω ●周波数特性:38〜25,000Hz ●定格入力:80W ●最大入力:120W ●外形寸法:200W×940H×300Dmm ●質量:14kg ●問い合わせ先:(株)ユキム Mail/support@yukimu.com TEL/03-5743-6202
山之内正 プロフィール
出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。