公開日 2011/09/30 18:20
ラックスマン28年ぶりのADプレーヤー「PD-171」の実力は? − 井上千岳が徹底レビュー
「徹底した磨きこみを感じさせる再現性」
■ラックスマン28年ぶりとなる強靭な筐体のADプレーヤー
ラックスマンのアナログプレーヤーでは、1980年に発売された吸着式の「PD-300」が記憶に鮮やかだが、その後1983年にリファインされた「PD-350」が最後の製品である。それから実に28年、再びラックスマンではアナログプレーヤーを世に送り出すこととなった。
同社のプリメインアンプには本格的なフォノイコライザーが装備されているが、そうしたことから自社製のプレーヤーを持っておきたいという意思も働いたかと推測される。いずれにしてもいたずらな高額化を避け、良識的な価格に収めた見識を賞賛したい。
スタイルはオーソドックスなボックスタイプである。ウッドパネルとアルミトップシャーシの組み合わせは、2004年に発売された管球式プリアンプ「CL-88」のイメージだそうだが、内部にはスチール製の船底型ボックスがあり、これがアルミシャーシを支えている構造である。
このアルミシャーシは厚みが15mmの削り出し製で、その重量だけでも相当なものになる。ボックス型のプレーヤーは少なくないが、これだけ厚いアルミ板を乗せた例はあまり見かけない。そしてそれがハウリングマージンを大幅に高め、振動を強力に抑制していることが明らかだ。もちろんボックスやサイドパネルとの相乗効果も利いている。
このアルミシャーシから、直接大型のインシュレーターが伸びている。これも全体の安定性を高めるとともに、振動を効率的に逃がすメカニカルアースとなっていることも見逃せない。
さらに内部の主要パーツは、このシャーシから吊り下げたアンダースラング方式によって取り付けられている。
この強靭な筐体機構が第一の音質といってよく、それが音質に与える影響には図り知れないものがある。
■アルミ削り出しのターンテーブルを高トルクモーターで精密に駆動
これに加えてターンテーブルはアルミ削り出しで、重量は5kgもある。これを支持する軸受けは、ベアリングボール仕様の大口径テフロン製となっている。
シャーシのターンテーブル外縁部にあたる部分は切削によって座繰りが入れられ、中心部には真鍮製の受けで強化されているのが見える。シャーシの強靭さが実感できる加工である。
この重量級ターンテーブルを精密に回転させるため、駆動は高トルクモーターによるベルトドライブとしている。ベルトはゴム製の扁平型で、幅も広い。密着度が高く、確実な動力伝送が可能だ。
それ以上にモーターの制御には、オーディオアンプと同じ構成による回路を搭載している。32ビットのマイコンを採用し、単なるACとの同期ではなく、専用のジェネレーターを内蔵して高精度なクロック制御を実現する方式である。これによってコギングなどの不良動作を排除し、針先のトレースによる微細な効力に影響されることなく、円滑な回転を確保することが可能だ。アンプメーカーならではの精密な回転制御が、もうひとつの特徴といっていい。
回転速度は、トップシャーシのウィンドウから確認することができる。反射視型のストロボを備え、33と45の文字列が静止して見えることで正しい速度が分かる。ちょっとした遊び心を感じさせる機構である。
トーンアームはS字型スタティックバランス方式である。カートリッジは12gまで対応するが、オプションで重量級のウェイトも用意されるようだ。ヘッドシェルはマグネシウム合金製。出力端子は一般的な5pin DIN端子で、OFCフォノケーブルも付属している。またアクリル製のダストカバーも同じく付属する。
■堅実な駆動力がもたらす静かで安定した再現性を発揮
静かで安定した再現性だ。ターンテーブルやベアリングの制度、そして高精度な発振器によるモーターの駆動力が利いている印象である。またアルミシャーシと大型インシュレーターによる防振構造も、静粛性に大きく寄与しているようだ。
エネルギーバランスはやや下寄りで、それがまた安定感を高めている。ことにSPUやDL-103計の古典的なカートリッジに対しても、親和性に富んだ音調といっていい。もちろん現代的なカートリッジでも暴れのない静寂な再現が得られる。
バロックなどですぐに感じるのが、柔らかな厚みを備えた弦楽器の質感である。古楽器のバイオリンや管楽器でもエキセントリックな響きを出さず、艶やかであたりのいい音色が快く流れてくる。背景が静かなため、音に濁りや棘がないののも特筆すべきだろう。
高低両端へなだらかな傾斜を備えたバランスが、どんな場面でも安心して聴いていられる充実感を引き出している。
ピアノは澄み切って芯のくっきりした鳴り方だ。タッチの歯切れがよく、さすがにこうしたソースでは現代的な軽快さとスピードが現れる。瞬発力に乱暴な力感がないのはどのソースにも共通しているが、立ち上がりは速く、表情の変化が細かくまた鮮明だ。背景が静かなためであろう。粒立ちも滑らかで少しの濁りも感じられない。
オーケストラは整然として解像度が高い。低域のしゅんぱつ的なエネルギーが若干抑えられるためか大音量での爆発的な力感は品よく収められているが、その代わり整理が利いて崩れや混濁のないことはこの上ない。
また弦楽器にしろ金管楽器にしろ艶と滑らかさを失わず、立ち上がりの細かな手触りが鮮やかに描き出される。そしてここでも相変わらず静かさが印象に残る。音以外の狭雑物が少しも入り込んでいない感触だ。
コーラスはこうした静かさにうってつけで、ひっそりとした協会の空間が目に浮かぶような鳴り方である。オルガンの響きが周囲へきれいに回り、声の肉質感と余韻にも清々しい潤いが満ちている。
各パートの分離もよく、それが一層生の感覚を生み出す。信号を取り出す土台として、徹底した磨きこみを感じさせる再現性である。