公開日 2014/09/29 11:25
<進化した超解像技術>エプソン新プロジェクター「EH-TW6600」の実力に迫る
【特別企画】“シネフィル御用達”の3LCDクオリティを実感
昨年(2013年)のささやかながら注目すべき現象に、プロジェクターの国内販売が実に久しぶりに増加したことがある。2012年の17,000台に対し、2013年は26,000台が出荷された(出典:富士キメラ総研)。4Kプロジェクターが増加したのではない。4K対応モデルの出荷台数比率はほとんど変わっていないが、販売価格十万円前後のフルハイビジョン機の増加が数字を押し上げたのである。Acer、Ben-Qなど海外(アジア)勢が気を吐いているのがこのセグメントの特徴だが、最大の牽引車は国内で圧倒的な強さを誇るエプソンの「EH-TW5200(関連レビュー)」だった。
プロジェクターの需要を支えるのはホームシアターであり、メインコンテンツは圧倒的に高画質映画ソフトである。ビジュアル業界は今4K中心に動いているが、4K映画ソフトは現実に流通していない。メインディッシュの映画BDを完成度の高いフルハイビジョン機でしゃぶり尽したい層に、コストパフォーマンス抜群の十万円FHD機は訴えたのだろう。
今季、4K試験放送が始まるものの映画コンテンツのオンエアはなく、ひかりTVが4K VOD配信を10月から開始するが本稿執筆時点では詳細は発表されていない。また、4KBDの発売時期も不透明である。加えて、今期は各社とも上級セグメントの4K含むプロジェクター新製品の国内発売がない。エプソンも9月のCEDIA EXPO(米インディアナポリス)でLCOS 方式の画素ずらし4Kプロジェクターを出品したが、国内発売は未定だ。
そうした中でめぼしい新製品として挙げられるのが、エプソンの“ハイクオリティモデル”として登場した「EH-TW6600/TW6600W」である(関連ニュース)。当然FHDだが、FHDのフラグシップ「EH-TW8200/TW8200W」が継続であるため、そのパフォーマンスに注目が集まる。もしかしたら全プロジェクターカテゴリーの最注目機かもしれない。試聴の機会を得たので、早速インプレッションをお届けしよう。
EH-TW6600は、昨期の「EH-TW6100」の後継に位置づけられる。しかしこのクラスで初のレンズシフト機能を搭載した。エプソンのプロジェクターが販売(設置)業界の支持が厚く国内市場のシェアが高い理由の1つに、LCOS機に比べレンジシフト量が大きく設置の自由度が高いことが挙げられる。それがFHD中堅機に搭載されたのは朗報。本機の出現によって、上位機種EH-TW7200は販売終了となった。
そしてもうひとつの特徴が、超解像機能に新たにディテール強調をプラスしたこと。エプソンの超解像はフレーム巡回型の本格的なもので定評があるが、従来のエッジ検出に加えてテクスチュアの質感表出が加わった。リモコン上の独立したボタンでそれぞれ調整出来る。この機能は入力毎にメモリーされる。
カラーモードは継承したが、ランプは新型のものを搭載し、最大輝度がTW6100の2,300ルーメンに比べ2,500ルーメン(全白/カラー)に向上している。コントラストについてもアイリスを最適化したのに加え、液晶透過時に発生する乱光を調整する補償素子を新たに搭載しており、ネイティブコントラストが向上した。
進化した超解像技術が奏功する
映画らしい映像の一体感
視聴は音元出版の視聴室で行った。筆者はかねがねエプソンの3LCDプロジェクターはシネフィルに使ってほしい映像機器と主張してきた。LCOSの画質が高精細の写真やCGだとするならば、3LCDは〈絵画〉である。よく油絵は(絵具をカンバスに)置いていく、水彩画は流す、と喩えられる。いずれにしても色彩の量感と中間色の〈透明感〉〈濁り〉の表現がポイントである。エプソンはカラープリンター始め光学機器分野で経験が厚く、IT家電メーカーの追随を許さない色彩工学のノウハウを持つ。フィルム、デジタルVTR、セル画から3DCGまで多岐多様な映画の表現で、それがものをいうのである。
最近発売されたBD新作タイトル中の難関ソフトに、ロバート・レッドフォード主演の『オール・イズ・ロスト』がある。スマトラ沖を漂流する男の生存を書けた孤独な闘いを描いた映画で、オールロケゆえ特に高画質ではないが、大洋の不安定な大空、強い陽光、海中風景、そして暗黒の闇夜にぽつんと現れる艦船の灯火と固定画素方式が悲鳴を挙げる映像を満載している。EH-TW6600では、原画に存在しない映像の妨害要素を発生させないのでDLP方式に比べ映画の恐怖と孤独を実感出来る。このあたりは面で描き込まずラインで描画していくアナログ駆動の利。なおディープブラックテクノロジーを搭載しないので、上級機種のEH-TW8200に比較すると黒の締まりはやや甘さが感じられるが、映像調整である程度まで黒表現の補正ができることは大きい。
この日見た旧作映画が1992年の名作『ピアノ・レッスン』(HDリマスター版)。ここで印象的だったのが、フィルムグレインのぎらつかない自然さとディテールが自然にロールオフしていくフィルム映画らしい映像の佇まいであった。映画らしい映像の一体感といってもいい。進化版超解像が奏功している証左である。本作は主演女優の表情にしばしばシアン系の色被りが発生するが(ソフトの問題)、EH-TW6600はマイルドなので許容範囲に止まる。そして主演のホリー・ハンターの目の輝きの怖さがハンパでない。元来輝度パワーに余裕があるプロジェクターである。実戦的なコントラスト性能が優れているのである。情念と運命の葛藤のドラマを、本機が一際輝かせる。
シネフィルに使ってほしい
エプソンの3LCDクオリティを実感
CG主体のハリウッド新作(SF、CGアニメ)ならLCOS優位の面もあるかもしれないが、古今東西の映画を広く楽しむのに格好のプロジェクターはEH-TW6600だ。ワイヤレスユニットも試したが、設定はイージーで懸念されるロスもない。
実勢価格も、ワイヤレス対応機が220,000円前後、有線専用機が190,000円前後とコストパフォーマンスが高い。改めて自信を持って断言しよう。エプソンの3LCD プロジェクターは全てのシネフィル御用達のプロジェクターである、と。
(大橋伸太郎)
プロジェクターの需要を支えるのはホームシアターであり、メインコンテンツは圧倒的に高画質映画ソフトである。ビジュアル業界は今4K中心に動いているが、4K映画ソフトは現実に流通していない。メインディッシュの映画BDを完成度の高いフルハイビジョン機でしゃぶり尽したい層に、コストパフォーマンス抜群の十万円FHD機は訴えたのだろう。
今季、4K試験放送が始まるものの映画コンテンツのオンエアはなく、ひかりTVが4K VOD配信を10月から開始するが本稿執筆時点では詳細は発表されていない。また、4KBDの発売時期も不透明である。加えて、今期は各社とも上級セグメントの4K含むプロジェクター新製品の国内発売がない。エプソンも9月のCEDIA EXPO(米インディアナポリス)でLCOS 方式の画素ずらし4Kプロジェクターを出品したが、国内発売は未定だ。
そうした中でめぼしい新製品として挙げられるのが、エプソンの“ハイクオリティモデル”として登場した「EH-TW6600/TW6600W」である(関連ニュース)。当然FHDだが、FHDのフラグシップ「EH-TW8200/TW8200W」が継続であるため、そのパフォーマンスに注目が集まる。もしかしたら全プロジェクターカテゴリーの最注目機かもしれない。試聴の機会を得たので、早速インプレッションをお届けしよう。
EH-TW6600は、昨期の「EH-TW6100」の後継に位置づけられる。しかしこのクラスで初のレンズシフト機能を搭載した。エプソンのプロジェクターが販売(設置)業界の支持が厚く国内市場のシェアが高い理由の1つに、LCOS機に比べレンジシフト量が大きく設置の自由度が高いことが挙げられる。それがFHD中堅機に搭載されたのは朗報。本機の出現によって、上位機種EH-TW7200は販売終了となった。
そしてもうひとつの特徴が、超解像機能に新たにディテール強調をプラスしたこと。エプソンの超解像はフレーム巡回型の本格的なもので定評があるが、従来のエッジ検出に加えてテクスチュアの質感表出が加わった。リモコン上の独立したボタンでそれぞれ調整出来る。この機能は入力毎にメモリーされる。
カラーモードは継承したが、ランプは新型のものを搭載し、最大輝度がTW6100の2,300ルーメンに比べ2,500ルーメン(全白/カラー)に向上している。コントラストについてもアイリスを最適化したのに加え、液晶透過時に発生する乱光を調整する補償素子を新たに搭載しており、ネイティブコントラストが向上した。
進化した超解像技術が奏功する
映画らしい映像の一体感
視聴は音元出版の視聴室で行った。筆者はかねがねエプソンの3LCDプロジェクターはシネフィルに使ってほしい映像機器と主張してきた。LCOSの画質が高精細の写真やCGだとするならば、3LCDは〈絵画〉である。よく油絵は(絵具をカンバスに)置いていく、水彩画は流す、と喩えられる。いずれにしても色彩の量感と中間色の〈透明感〉〈濁り〉の表現がポイントである。エプソンはカラープリンター始め光学機器分野で経験が厚く、IT家電メーカーの追随を許さない色彩工学のノウハウを持つ。フィルム、デジタルVTR、セル画から3DCGまで多岐多様な映画の表現で、それがものをいうのである。
最近発売されたBD新作タイトル中の難関ソフトに、ロバート・レッドフォード主演の『オール・イズ・ロスト』がある。スマトラ沖を漂流する男の生存を書けた孤独な闘いを描いた映画で、オールロケゆえ特に高画質ではないが、大洋の不安定な大空、強い陽光、海中風景、そして暗黒の闇夜にぽつんと現れる艦船の灯火と固定画素方式が悲鳴を挙げる映像を満載している。EH-TW6600では、原画に存在しない映像の妨害要素を発生させないのでDLP方式に比べ映画の恐怖と孤独を実感出来る。このあたりは面で描き込まずラインで描画していくアナログ駆動の利。なおディープブラックテクノロジーを搭載しないので、上級機種のEH-TW8200に比較すると黒の締まりはやや甘さが感じられるが、映像調整である程度まで黒表現の補正ができることは大きい。
この日見た旧作映画が1992年の名作『ピアノ・レッスン』(HDリマスター版)。ここで印象的だったのが、フィルムグレインのぎらつかない自然さとディテールが自然にロールオフしていくフィルム映画らしい映像の佇まいであった。映画らしい映像の一体感といってもいい。進化版超解像が奏功している証左である。本作は主演女優の表情にしばしばシアン系の色被りが発生するが(ソフトの問題)、EH-TW6600はマイルドなので許容範囲に止まる。そして主演のホリー・ハンターの目の輝きの怖さがハンパでない。元来輝度パワーに余裕があるプロジェクターである。実戦的なコントラスト性能が優れているのである。情念と運命の葛藤のドラマを、本機が一際輝かせる。
シネフィルに使ってほしい
エプソンの3LCDクオリティを実感
CG主体のハリウッド新作(SF、CGアニメ)ならLCOS優位の面もあるかもしれないが、古今東西の映画を広く楽しむのに格好のプロジェクターはEH-TW6600だ。ワイヤレスユニットも試したが、設定はイージーで懸念されるロスもない。
実勢価格も、ワイヤレス対応機が220,000円前後、有線専用機が190,000円前後とコストパフォーマンスが高い。改めて自信を持って断言しよう。エプソンの3LCD プロジェクターは全てのシネフィル御用達のプロジェクターである、と。
(大橋伸太郎)