公開日 2016/04/15 10:00
【第153回】“iPhoneのAACファイルをAACでBluetooth伝送すると音質劣化しない”は本当か?
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
■iPhoneからAACファイルをAACコーデックでBluetoothれば再変換されない?
先日、本連載で取り上げ予定の別件取材で、エレコムの方にお話を聞かせていただいた。そちらはそちらでもちろん記事にするのだが、その前に・・・その取材の本筋とは別に、以前から釈然としないままだった“ある件”についても、しっかりとした回答をいただけたのだ。そこで今回は、こちらを先に記事にしておこうと思う。
早速だがその釈然としなかった件、そしてその件への回答とは…
【問】iPhoneで再生するファイルがAAC形式なら、AACコーデック対応のBluetooth機器との組み合わせでは別のコーデックに再変換されず、AACのまま伝送されるから音が良いって本当ですか?
【答】現状では違います。送信側のiPhoneでAACから一度復元され、またAACに再変換されてから送信されるので、他のコーデックでの伝送と同じように、そこで再圧縮による音質ロスが起きます。
…ということなのだ。もちろんその理由も解説していただいたが、まずは「期待」と「現実のずれ」を確認しておこう。
赤の部分で「非可逆圧縮での変換による音質ロス」が起きる。青の部分は「変換されないので音質ロスが起きない」と一部で期待されていた部分だ。
で、いちばん下の「iPhoneのAAC伝送の現実」ではそこが赤。「AACからAACへの変換」が行われており、AACの非可逆圧縮による音質ロスが起きている。
なお念のため説明しておくと、Bluetoothは高速伝送向けの規格ではなく、通信速度に限りがあるので、非可逆圧縮によるデータ量低減は必須だ。
一部の期待に反したこの現実。そういう処理になっている理由は何なのか? それは聞いてみれば「…なるほどそういうことか」という理由だった。
「音楽再生と各種の通知音等をミキシングして出力するため」
音楽再生中に電話を着信したとする。するとユーザーの耳に聞こえてくるのは「再生中の音楽がすっとフェードアウトして着信音がフェードインしてくる」だ。内蔵のイヤホン出力やスピーカーでも外部のBluetoothオーディオでも、これは変わらない。この滑らかな音声処理が、音楽再生と通知音等が内部でミキシングされていることの証だ。
そして音声データのミキシングのためには、データをまずはPCMに復元しなければならない。
このミキシングは通常、問題点として挙げられることはない。音楽ファイルを再生するにはAACだろうが何だろうが、まずはPCMに復元する。ミキシングがあろうがなかろうが必須の過程で、イレギュラーなボトルネックではないからだ。
しかしBluetoothかつAACの話となると復元のタイミングが問題になる。送信前に一度復元することで、送信時にもう一度圧縮する必要が出てきてしまうからだ。単に「再生のために復元する」のであれば、送信前に送信側で復元する必要はない。受信側のDA変換時だけに行えばよい処理なのだが…
しかしその「単に〜であれば」が違っていた。この場合はもうひとつ「通知音等とのミキシングを行うために復元する」という役割があったのだ。これは送信側、iPhone側の時点でしか行えない。これはiPhoneに限らず、通知音が欠かせないスマートフォン全般で基本的には共通の話。逆に言えば音楽専用プレーヤーなら話は違うかも…ということだが。
となるとこれはもう、送られてきたものを受け取るしかない、受信側のオーディオ機器ではどうしようもない問題だ。例えば送信側のスマートフォンで、技術的に可能なのかわからないが、「フェードインフェードアウトを諦めて音楽再生と通知音をブツッと切り替える」という設定も用意するとか、何にしても送信側での対応に期待するしかない。
iPhoneに限って言えば、今後何かしら「音質」をアピールするような新サービスが開始されたり、標準イヤホンがBluetoothになったりといった大きな変化があれば、Bluetoothの音質周りを強化する新システムが導入されるかもしれない。Apple Watchが普及したりすれば、通知はApple Watchオンリーにして音楽再生から切り離すモードというのもあり得るかもしれない。
・・・のだが、どれも未来への希望にすぎず、現状では今回ここにまとめた内容だ。残念ながら。
一方、こういった仕組みはさておき、Bluetoothオーディオ機器全般の音質は数年前のものと比べて明らかに向上しているという実感もある。コーデックの熟成、それを反映したチップの登場。Bluetoothに合わせたチューニングノウハウの蓄積。理由は色々と考えられるが、理由が何であれ進歩は明らかだ。早めにBluetoothを試して早めに見限っていた方も、機会があれば最新機器を試してみて損はないと思う。
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先日、本連載で取り上げ予定の別件取材で、エレコムの方にお話を聞かせていただいた。そちらはそちらでもちろん記事にするのだが、その前に・・・その取材の本筋とは別に、以前から釈然としないままだった“ある件”についても、しっかりとした回答をいただけたのだ。そこで今回は、こちらを先に記事にしておこうと思う。
早速だがその釈然としなかった件、そしてその件への回答とは…
【問】iPhoneで再生するファイルがAAC形式なら、AACコーデック対応のBluetooth機器との組み合わせでは別のコーデックに再変換されず、AACのまま伝送されるから音が良いって本当ですか?
【答】現状では違います。送信側のiPhoneでAACから一度復元され、またAACに再変換されてから送信されるので、他のコーデックでの伝送と同じように、そこで再圧縮による音質ロスが起きます。
…ということなのだ。もちろんその理由も解説していただいたが、まずは「期待」と「現実のずれ」を確認しておこう。
赤の部分で「非可逆圧縮での変換による音質ロス」が起きる。青の部分は「変換されないので音質ロスが起きない」と一部で期待されていた部分だ。
で、いちばん下の「iPhoneのAAC伝送の現実」ではそこが赤。「AACからAACへの変換」が行われており、AACの非可逆圧縮による音質ロスが起きている。
なお念のため説明しておくと、Bluetoothは高速伝送向けの規格ではなく、通信速度に限りがあるので、非可逆圧縮によるデータ量低減は必須だ。
一部の期待に反したこの現実。そういう処理になっている理由は何なのか? それは聞いてみれば「…なるほどそういうことか」という理由だった。
「音楽再生と各種の通知音等をミキシングして出力するため」
音楽再生中に電話を着信したとする。するとユーザーの耳に聞こえてくるのは「再生中の音楽がすっとフェードアウトして着信音がフェードインしてくる」だ。内蔵のイヤホン出力やスピーカーでも外部のBluetoothオーディオでも、これは変わらない。この滑らかな音声処理が、音楽再生と通知音等が内部でミキシングされていることの証だ。
そして音声データのミキシングのためには、データをまずはPCMに復元しなければならない。
このミキシングは通常、問題点として挙げられることはない。音楽ファイルを再生するにはAACだろうが何だろうが、まずはPCMに復元する。ミキシングがあろうがなかろうが必須の過程で、イレギュラーなボトルネックではないからだ。
しかしBluetoothかつAACの話となると復元のタイミングが問題になる。送信前に一度復元することで、送信時にもう一度圧縮する必要が出てきてしまうからだ。単に「再生のために復元する」のであれば、送信前に送信側で復元する必要はない。受信側のDA変換時だけに行えばよい処理なのだが…
しかしその「単に〜であれば」が違っていた。この場合はもうひとつ「通知音等とのミキシングを行うために復元する」という役割があったのだ。これは送信側、iPhone側の時点でしか行えない。これはiPhoneに限らず、通知音が欠かせないスマートフォン全般で基本的には共通の話。逆に言えば音楽専用プレーヤーなら話は違うかも…ということだが。
となるとこれはもう、送られてきたものを受け取るしかない、受信側のオーディオ機器ではどうしようもない問題だ。例えば送信側のスマートフォンで、技術的に可能なのかわからないが、「フェードインフェードアウトを諦めて音楽再生と通知音をブツッと切り替える」という設定も用意するとか、何にしても送信側での対応に期待するしかない。
iPhoneに限って言えば、今後何かしら「音質」をアピールするような新サービスが開始されたり、標準イヤホンがBluetoothになったりといった大きな変化があれば、Bluetoothの音質周りを強化する新システムが導入されるかもしれない。Apple Watchが普及したりすれば、通知はApple Watchオンリーにして音楽再生から切り離すモードというのもあり得るかもしれない。
・・・のだが、どれも未来への希望にすぎず、現状では今回ここにまとめた内容だ。残念ながら。
一方、こういった仕組みはさておき、Bluetoothオーディオ機器全般の音質は数年前のものと比べて明らかに向上しているという実感もある。コーデックの熟成、それを反映したチップの登場。Bluetoothに合わせたチューニングノウハウの蓄積。理由は色々と考えられるが、理由が何であれ進歩は明らかだ。早めにBluetoothを試して早めに見限っていた方も、機会があれば最新機器を試してみて損はないと思う。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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