公開日 2019/03/08 07:00
プロジェクターの映像表現が新時代に突入。パナソニックとJVC “メーカーを超えた” コラボの成果
UB9000とDLA-V9Rが実現した美麗映像
プロジェクターはテレビに比べ、HDR映像の表示にあまり向いていないのでは、とお考えの方は少なくないだろう。
何しろプロジェクターは、液晶テレビや有機ELテレビに比べて、絶対的な輝度が足りない場合がほとんどだ。1,000nit以上の明るさが出るものもある液晶テレビに比べ、ホームシアタープロジェクターはランプや投写距離などにもよるが、一般的にはその半分以下しか出ない。場合によってはもっと暗い。
有機ELなど自発光型デバイスであれば、たとえば「真っ暗な映像の中に置かれた照明」といった映像が入力されてきた場合、黒い部分は全く光らせず、明るい部分はピークを立てる、といったことも難なく行える。だが、プロジェクターにはそういった芸当はできない。また液晶テレビのように、エリアごとにバックライトコントロールを行うこともできない。
だが今回、パナソニックのUHD-BDプレーヤー「DP-UB9000(Japan Limited)」とJVCのD-ILAプロジェクター「DLA-V9R/V7/V5」という、AV業界では珍しい「企業を超えたコラボ」が実現したことにより、プロジェクターによるHDR映像の表現は新時代に突入した。
両社が共同で行った実際のデモを見て、その映像の美しさに感嘆した。もちろん有機ELテレビで見るHDR表現も非常に美しいのだが、それとは異なるベクトルの映像美が、そこにはあったのだ。
プロジェクターならではの柔らかくしっとりとした、それでいて解像感のある映像に、自然かつ効果的なHDR表現が加わった印象だ。有機ELテレビと比べて「どちらが良い」というより「どちらもアリ」。視聴時は120インチの大画面で、JVC「DLA-V9R」から投映されたHDR映像を堪能したが、こういった超大画面のHDR映像を見るのは、逆にテレビでは不可能だ。どちらもアリと感じたというのはそういうことで、「絶対的な画面の大きさ+HDR」という迫力の前に打ちのめされたというのが実感だ。
■プレーヤーとプロジェクター、それぞれでできることを
さて、このコラボレーションがどういうもので、どういった点がすごいのか、ということについては、以前コラムでかんたんに紹介したので、こちらの記事を参照してほしい。かんたんにまとめると「HDRコンテンツの、高輝度部のトーンマッピングはパナソニックのDP-UB9000に任せる。その代わり、そこで空いたリソースを使って暗部の表現精度を高めたり、トータルの画質最適化を行うのはJVCのプロジェクターが担当する」という仕組みになる。
何度も書いているので繰り返しになるが、DP-UB9000には「自動HDRトーンマップ」という機能が搭載されている。UHD-BDには、ソフトによって様々な輝度情報が記録されている。HDR10の上限である1,000nitに収まらない、超高輝度映像も時折ある。こういった映像も、画質劣化が出ないようR/G/Bで連携しながら高精度に処理し、滑らかなトーンマップを生成し直すのが「自動HDRトーンマップ」だ。
さらにUB9000は、メタデータの変換機能という “荒技” まで搭載している。たとえばHDR10でも最高輝度4,000nitなどというソフトがあるが、こういったものも、特定のターゲット輝度にあわせたメタデータに書き換えて出力できるのだ。これによって、たとえばソフト側のメタデータが妙な場合でも、ディスプレイがそれを真に受けて処理してしまい、結果として画質が劣化するといった心配がなくなる。
このターゲット輝度のうち、プロジェクターに最適化したモードとして、UB9000は「高輝度部のプロジェクター」(500nit)と、「ベーシックな輝度のプロジェクター」(350nit)という2つのモードを備えている。このUB9000側で行ったHDRトーンマッピングを、JVC側でそのまま利用するのが、今回のコラボレーションの基本にある。
■トントン拍子で進んだ企業間コラボ
なお、パナソニックとJVCが、今回の協業について話したのは昨年4月頃のこと。「4Kオリンパック」というイベントに参加した両社の技術者が、「純粋に技術的に、プロジェクターに最適化したHDR画質の共同開発・共同研究を開始した」という。そこからはトントン拍子で進んでいったと、パナソニックの甲野和彦氏は語る。
現段階のJVCプロジェクターの動作は、JVCのプロジェクター側で最大コンテンツ輝度レベル(Maximum Content Light Level=Max CLL)のメタデータが500nit、もしくは350nitの映像を受けると、それをもとに、プロジェクター側で階調を12bitで非線形にリマップする。特別なフラグなどはないという。
たとえば、Max CLLが4,000nitの映像をDLA-V9Rに入力し、プロジェクター側で表示できる輝度幅にリマップするより、UB9000側であらかじめ500nitもしくは350nitへと、高精度にトーンマップした映像をもとにリマップして表示した方が、明部の色や階調の再現範囲を拡大でき、画質面で有利に働く。
さて、ここまではパナソニックの自動HDRトーンマップを中心にした説明を行ったが、今回の連携処理はそれにとどまらない。この続きがあるのだ。
それが「JVC Special Color Profile」である。3月中旬のファームウェアアップデートによって、JVCプロジェクターの映像設定から、特別なカラープロファイルをマニュアルで設定することが可能になる。このカラープロファイルを適用することによって、今回のコラボはさらに効果を増す。
JVCプロジェクターに追加されるプロファイルの名称と、対応するUB9000のターゲット輝度モードは以下の通りだ。
・「Pana_PQ_HL」(「高輝度のプロジェクター」)500nit程度
・「Pana_PQ_BL」(「ベーシックな輝度のプロジェクター」)350nit程度
両社の説明によると、「Pana_PQ_HL」は「明るさを重視した設定で、ビデオコンテンツやピーク感のある映画などに最適」、「Pana_PQ_BL」は「色再現性を重視した設定で、HDRならではの広色域を楽しめる。映画コンテンツ全体におすすめ」だという。Pana_PQ_BLを選んだ場合、DCIの色域を100%カバーする。ちなみにHLは「High Luminance」、BLは「Basic Luminance」の略だ。
今回のデモでは「Pana_PQ_BL」が主に使われたが、実際にはコンテンツの画作りによっても変わってくるだろうから、しっくりこなかったら両方を試してみることをオススメする。
さて、この独自に作成したカラープロファイルを適用する恩恵は何か。それは、500nit/350nitの映像をもとに、18bit階調で、しかも非線形ではなく線形でリマップできることにある。
これまではPQ信号が入ってきたとき、ガンマ2.2の非線形信号に置き換える必要があり、これによって暗部階調などが今ひとつしっくりこない、などという課題を、JVC側では感じていたという。今回、UB9000側でトーンマップした映像に専用カラープロファイルを当てれば、18bit階調で線形にリマップすることができる。このことによって、階調表現がより滑らかになり、立体感や奥行き感、透明感などが高まる。
この効果は絶大である。実際の映像ソフトのシーンから、例をいくつか挙げていこう。
■いくつかの作品で自動トーンマップ+専用カラープロファイルの効果を実感
まず『ハドソン川の奇蹟』では、夜のタイムズ・スクエアをトム・ハンクスがジョギングするシーン。ここではUB9000のターゲット輝度モードを「高輝度のプロジェクター」、JVC側のカラープロファイルは「Pana_PQ_HL」で視聴した。
このシーンは、ネオンサインを中心に、4,000nitを超える超高輝度部がたくさん出てくる。うまくトーンマップしないと、その部分が白飛びしてしまったり、色情報が欠落したり、色ズレしたりなどといった問題が出てくる。だがUB9000+V9Rの組み合わせ、そして両機のトーンマップを連携させると、自動HDRトーンマップ切時には全く見えなかった映像情報がしっかり見えてくる。かといって映像全体が暗くなったりはせず、HDRらしい煌びやかな映像美は損なわれていない。
そのあとに続く、夜の闇に黒い船が浮かぶシーンも、暗部の粘りが美しい。濃厚でリッチな黒が表現されており、ノイズもしっかりと抑えられている。遙か昔、三管式プロジェクターで観たコクのある映像美と、8K e-Shiftによる高精細感が結びついたような、全く新しい映像美が眼前に現出していた。
さて、続いては『マリアンヌ』だ。チャプター2、モロッコのクラブで2人が出会う場面。夜闇の中に黒光りした車が集まり、照明が当たる、HDRの画質評価でおなじみのシーンだ。まずは自動HDRトーンマップを切った状態で鑑賞する。このソフトにはMax CLLやMax FALLのメタデータがないため、V9R側でトーンマップした映像を見るわけだが、「これでも十分綺麗じゃん」という感想を持った。
だが続いて、UB9000の自動HDRトーンマップをオンにして「ベーシックな輝度のプロジェクター」をターゲット輝度に設定し、V9Rのカラープロファイルも「Pana_PQ_BL」を選ぶと、まるで次元の異なる映像が出現する。先ほどと同じように明るい部分の情報量が高まり、暗部がさらにリッチになるのはもちろん、色乗りが良くなったことが一目でわかる。現金なもので、先ほど十分綺麗だと思った映像が平板に思えてくるのだ。
色の表現力が高まったことは、このあとに続くクラブ内のシーンでも顕著に感じられた。クラブのドアを開けるナチの腕章の赤色が鮮やかで、それだけで映像、いや作品全体の印象すら変わってくる。クラブ内の着飾った人々の衣服のディテールや色が濃密に描き出され、思わずため息が出る。シャンデリアの煌びやかさや精細感も、さらに高まる。
次は、同じマリアンヌから、ロンドンの空襲のシーン。実は、ここが今回の取材で最も驚いたシーンだ。連携させない設定で視聴すると暗部にノイズがザワザワと乗っているが、自動HDRトーンマップ+専用カラープロファイルの組み合わせを選ぶと、このノイズがピタッと止まるばかりか、暗部に埋もれていたディテールが克明に描き出される。空襲におびえる人々の表情や衣服の皺、細かな動きまでがクリアに見通せるのだ。先ほどまでは見えなかったものが見えてくる。「このディスクには、これほどの情報が詰まっていたのか!」と驚いたというのは、昔からAV評論やオーディオ評論の常套句だが、今回ばかりはこの表現を使いたくなった。
そのほか、アニメ作品『君の名は。』も視聴。こちらは「Pana_PQ_HL」と「Pana_PQ_BL」を見比べることができた。好みもありそうだが、個人的には「Pana_PQ_HL」のパワー感のある映像が適していたように感じた。
なお、今回のコラボはHDRのトーンマップやカラープロファイルが中心になるため余談ではあるが、今回のデモでは、全体的な映像の高画質化において、V9Rの8K e-Shiftが相当な効果を発揮していたことも特筆しておきたい。解像感としっとり感を両立させた素晴らしいチューニングで、この効果と自然かつ正確なHDR感、色再現性の高さが組み合わさった結果、これまで見たことのないような映像が実現したという印象だ。
◇
暗室で、120インチもの大画面映像を見る場合には、超高輝度は必要なく、350nit程度でも十分であることが改めて理解できた。また、輝度がソフトごとにバラツキのあるHDR映像をプロジェクターで表現するにあたり、プレーヤーとプロジェクターが役割分担することで、総合的な高画質化がしやすくなることも、今回の視聴を通して痛感した。
今後の展開も気になるところだ。ソニーのプロジェクターもこのUB9000の自動トーンマップを活用して、独自カラープロファイルなどを提供したら面白いことになりそうだが、実現は難しそうだろうか。近いところではVIERAがある。同じ会社同士だから、テレビでもこういった連携ができたら付加価値につながる。
なお、JVC独自のプロファイルが選べるようになるファームアップが行われる際には、簡易的なマニュアルも付くという。JVCのDLA-V9R/V7/V5とパナソニックのUB9000の両方を持っているという幸運な方は、ぜひ色々なソフトでその効果を堪能してみて欲しい。
何しろプロジェクターは、液晶テレビや有機ELテレビに比べて、絶対的な輝度が足りない場合がほとんどだ。1,000nit以上の明るさが出るものもある液晶テレビに比べ、ホームシアタープロジェクターはランプや投写距離などにもよるが、一般的にはその半分以下しか出ない。場合によってはもっと暗い。
有機ELなど自発光型デバイスであれば、たとえば「真っ暗な映像の中に置かれた照明」といった映像が入力されてきた場合、黒い部分は全く光らせず、明るい部分はピークを立てる、といったことも難なく行える。だが、プロジェクターにはそういった芸当はできない。また液晶テレビのように、エリアごとにバックライトコントロールを行うこともできない。
だが今回、パナソニックのUHD-BDプレーヤー「DP-UB9000(Japan Limited)」とJVCのD-ILAプロジェクター「DLA-V9R/V7/V5」という、AV業界では珍しい「企業を超えたコラボ」が実現したことにより、プロジェクターによるHDR映像の表現は新時代に突入した。
両社が共同で行った実際のデモを見て、その映像の美しさに感嘆した。もちろん有機ELテレビで見るHDR表現も非常に美しいのだが、それとは異なるベクトルの映像美が、そこにはあったのだ。
プロジェクターならではの柔らかくしっとりとした、それでいて解像感のある映像に、自然かつ効果的なHDR表現が加わった印象だ。有機ELテレビと比べて「どちらが良い」というより「どちらもアリ」。視聴時は120インチの大画面で、JVC「DLA-V9R」から投映されたHDR映像を堪能したが、こういった超大画面のHDR映像を見るのは、逆にテレビでは不可能だ。どちらもアリと感じたというのはそういうことで、「絶対的な画面の大きさ+HDR」という迫力の前に打ちのめされたというのが実感だ。
■プレーヤーとプロジェクター、それぞれでできることを
さて、このコラボレーションがどういうもので、どういった点がすごいのか、ということについては、以前コラムでかんたんに紹介したので、こちらの記事を参照してほしい。かんたんにまとめると「HDRコンテンツの、高輝度部のトーンマッピングはパナソニックのDP-UB9000に任せる。その代わり、そこで空いたリソースを使って暗部の表現精度を高めたり、トータルの画質最適化を行うのはJVCのプロジェクターが担当する」という仕組みになる。
何度も書いているので繰り返しになるが、DP-UB9000には「自動HDRトーンマップ」という機能が搭載されている。UHD-BDには、ソフトによって様々な輝度情報が記録されている。HDR10の上限である1,000nitに収まらない、超高輝度映像も時折ある。こういった映像も、画質劣化が出ないようR/G/Bで連携しながら高精度に処理し、滑らかなトーンマップを生成し直すのが「自動HDRトーンマップ」だ。
さらにUB9000は、メタデータの変換機能という “荒技” まで搭載している。たとえばHDR10でも最高輝度4,000nitなどというソフトがあるが、こういったものも、特定のターゲット輝度にあわせたメタデータに書き換えて出力できるのだ。これによって、たとえばソフト側のメタデータが妙な場合でも、ディスプレイがそれを真に受けて処理してしまい、結果として画質が劣化するといった心配がなくなる。
このターゲット輝度のうち、プロジェクターに最適化したモードとして、UB9000は「高輝度部のプロジェクター」(500nit)と、「ベーシックな輝度のプロジェクター」(350nit)という2つのモードを備えている。このUB9000側で行ったHDRトーンマッピングを、JVC側でそのまま利用するのが、今回のコラボレーションの基本にある。
■トントン拍子で進んだ企業間コラボ
なお、パナソニックとJVCが、今回の協業について話したのは昨年4月頃のこと。「4Kオリンパック」というイベントに参加した両社の技術者が、「純粋に技術的に、プロジェクターに最適化したHDR画質の共同開発・共同研究を開始した」という。そこからはトントン拍子で進んでいったと、パナソニックの甲野和彦氏は語る。
現段階のJVCプロジェクターの動作は、JVCのプロジェクター側で最大コンテンツ輝度レベル(Maximum Content Light Level=Max CLL)のメタデータが500nit、もしくは350nitの映像を受けると、それをもとに、プロジェクター側で階調を12bitで非線形にリマップする。特別なフラグなどはないという。
たとえば、Max CLLが4,000nitの映像をDLA-V9Rに入力し、プロジェクター側で表示できる輝度幅にリマップするより、UB9000側であらかじめ500nitもしくは350nitへと、高精度にトーンマップした映像をもとにリマップして表示した方が、明部の色や階調の再現範囲を拡大でき、画質面で有利に働く。
さて、ここまではパナソニックの自動HDRトーンマップを中心にした説明を行ったが、今回の連携処理はそれにとどまらない。この続きがあるのだ。
それが「JVC Special Color Profile」である。3月中旬のファームウェアアップデートによって、JVCプロジェクターの映像設定から、特別なカラープロファイルをマニュアルで設定することが可能になる。このカラープロファイルを適用することによって、今回のコラボはさらに効果を増す。
JVCプロジェクターに追加されるプロファイルの名称と、対応するUB9000のターゲット輝度モードは以下の通りだ。
・「Pana_PQ_HL」(「高輝度のプロジェクター」)500nit程度
・「Pana_PQ_BL」(「ベーシックな輝度のプロジェクター」)350nit程度
両社の説明によると、「Pana_PQ_HL」は「明るさを重視した設定で、ビデオコンテンツやピーク感のある映画などに最適」、「Pana_PQ_BL」は「色再現性を重視した設定で、HDRならではの広色域を楽しめる。映画コンテンツ全体におすすめ」だという。Pana_PQ_BLを選んだ場合、DCIの色域を100%カバーする。ちなみにHLは「High Luminance」、BLは「Basic Luminance」の略だ。
今回のデモでは「Pana_PQ_BL」が主に使われたが、実際にはコンテンツの画作りによっても変わってくるだろうから、しっくりこなかったら両方を試してみることをオススメする。
さて、この独自に作成したカラープロファイルを適用する恩恵は何か。それは、500nit/350nitの映像をもとに、18bit階調で、しかも非線形ではなく線形でリマップできることにある。
これまではPQ信号が入ってきたとき、ガンマ2.2の非線形信号に置き換える必要があり、これによって暗部階調などが今ひとつしっくりこない、などという課題を、JVC側では感じていたという。今回、UB9000側でトーンマップした映像に専用カラープロファイルを当てれば、18bit階調で線形にリマップすることができる。このことによって、階調表現がより滑らかになり、立体感や奥行き感、透明感などが高まる。
この効果は絶大である。実際の映像ソフトのシーンから、例をいくつか挙げていこう。
■いくつかの作品で自動トーンマップ+専用カラープロファイルの効果を実感
まず『ハドソン川の奇蹟』では、夜のタイムズ・スクエアをトム・ハンクスがジョギングするシーン。ここではUB9000のターゲット輝度モードを「高輝度のプロジェクター」、JVC側のカラープロファイルは「Pana_PQ_HL」で視聴した。
このシーンは、ネオンサインを中心に、4,000nitを超える超高輝度部がたくさん出てくる。うまくトーンマップしないと、その部分が白飛びしてしまったり、色情報が欠落したり、色ズレしたりなどといった問題が出てくる。だがUB9000+V9Rの組み合わせ、そして両機のトーンマップを連携させると、自動HDRトーンマップ切時には全く見えなかった映像情報がしっかり見えてくる。かといって映像全体が暗くなったりはせず、HDRらしい煌びやかな映像美は損なわれていない。
そのあとに続く、夜の闇に黒い船が浮かぶシーンも、暗部の粘りが美しい。濃厚でリッチな黒が表現されており、ノイズもしっかりと抑えられている。遙か昔、三管式プロジェクターで観たコクのある映像美と、8K e-Shiftによる高精細感が結びついたような、全く新しい映像美が眼前に現出していた。
さて、続いては『マリアンヌ』だ。チャプター2、モロッコのクラブで2人が出会う場面。夜闇の中に黒光りした車が集まり、照明が当たる、HDRの画質評価でおなじみのシーンだ。まずは自動HDRトーンマップを切った状態で鑑賞する。このソフトにはMax CLLやMax FALLのメタデータがないため、V9R側でトーンマップした映像を見るわけだが、「これでも十分綺麗じゃん」という感想を持った。
だが続いて、UB9000の自動HDRトーンマップをオンにして「ベーシックな輝度のプロジェクター」をターゲット輝度に設定し、V9Rのカラープロファイルも「Pana_PQ_BL」を選ぶと、まるで次元の異なる映像が出現する。先ほどと同じように明るい部分の情報量が高まり、暗部がさらにリッチになるのはもちろん、色乗りが良くなったことが一目でわかる。現金なもので、先ほど十分綺麗だと思った映像が平板に思えてくるのだ。
色の表現力が高まったことは、このあとに続くクラブ内のシーンでも顕著に感じられた。クラブのドアを開けるナチの腕章の赤色が鮮やかで、それだけで映像、いや作品全体の印象すら変わってくる。クラブ内の着飾った人々の衣服のディテールや色が濃密に描き出され、思わずため息が出る。シャンデリアの煌びやかさや精細感も、さらに高まる。
次は、同じマリアンヌから、ロンドンの空襲のシーン。実は、ここが今回の取材で最も驚いたシーンだ。連携させない設定で視聴すると暗部にノイズがザワザワと乗っているが、自動HDRトーンマップ+専用カラープロファイルの組み合わせを選ぶと、このノイズがピタッと止まるばかりか、暗部に埋もれていたディテールが克明に描き出される。空襲におびえる人々の表情や衣服の皺、細かな動きまでがクリアに見通せるのだ。先ほどまでは見えなかったものが見えてくる。「このディスクには、これほどの情報が詰まっていたのか!」と驚いたというのは、昔からAV評論やオーディオ評論の常套句だが、今回ばかりはこの表現を使いたくなった。
そのほか、アニメ作品『君の名は。』も視聴。こちらは「Pana_PQ_HL」と「Pana_PQ_BL」を見比べることができた。好みもありそうだが、個人的には「Pana_PQ_HL」のパワー感のある映像が適していたように感じた。
なお、今回のコラボはHDRのトーンマップやカラープロファイルが中心になるため余談ではあるが、今回のデモでは、全体的な映像の高画質化において、V9Rの8K e-Shiftが相当な効果を発揮していたことも特筆しておきたい。解像感としっとり感を両立させた素晴らしいチューニングで、この効果と自然かつ正確なHDR感、色再現性の高さが組み合わさった結果、これまで見たことのないような映像が実現したという印象だ。
暗室で、120インチもの大画面映像を見る場合には、超高輝度は必要なく、350nit程度でも十分であることが改めて理解できた。また、輝度がソフトごとにバラツキのあるHDR映像をプロジェクターで表現するにあたり、プレーヤーとプロジェクターが役割分担することで、総合的な高画質化がしやすくなることも、今回の視聴を通して痛感した。
今後の展開も気になるところだ。ソニーのプロジェクターもこのUB9000の自動トーンマップを活用して、独自カラープロファイルなどを提供したら面白いことになりそうだが、実現は難しそうだろうか。近いところではVIERAがある。同じ会社同士だから、テレビでもこういった連携ができたら付加価値につながる。
なお、JVC独自のプロファイルが選べるようになるファームアップが行われる際には、簡易的なマニュアルも付くという。JVCのDLA-V9R/V7/V5とパナソニックのUB9000の両方を持っているという幸運な方は、ぜひ色々なソフトでその効果を堪能してみて欲しい。