公開日 2021/04/13 06:30
“音楽の神が宿る”オーディオ・ノートの旗艦パワーアンプ「Kagura 2」。神事にインスパイアされた誕生秘話
【特別企画】神楽物語 -第1回-
日本を代表するハイエンド・オーディオブランドのひとつであるオーディオ・ノート。そんな同社において不動のフラグシップを誇るのが「Kagura」である。2013年に誕生した稀代のモノラルパワーアンプだが、2020年にマイナーチェンジを果たし、現在は「Kagura 2」となっている。本製品はどんな思いで手掛けられ、そこにはどんな技術が搭載されているのだろうか?
今回から数回に分けて、林 正儀氏が「Kagura」に込められた“物語”を伝承していく。第1章はプロローグ。誕生までのエピソードやその魅力に触れていくことにしよう。
■人の魂ごと引き込むようなモノづくりがしたい
これまで3回に渡って“銀河通信”でお届けした超弩級ターンテーブル「Ginga」登場の翌年の2013年、この物語の主人公である「Kagura」は誕生している。大河的なスケールを思わせる堂々とした風貌。異色にも電源ケーブルの入力を2系統装備した、直熱3極管211のパラレルシングル・モノラルパワーアンプで、「Ginga」と並び世界の音楽ファンを魅了。ハイエンドアンプメーカーであるオーディオ・ノートが威信をかけて作りあげた最高傑作だ。
“音楽の神が宿る”というコンセプトから、「Kagura」(神楽)と命名。そんな希代のフラグシップアンプのルーツを知りたいと思う。チーフエンジニア廣川嘉行さんの案内でロマンの旅へ出よう。
昨年40周年を迎えたオーディオ・ノートのパワーアンプの系譜をたどると、「Kegon」や「Neiro」など代々日本語名が多い(海外メインなのでほぼ知られていないが)。その中で同社の名声を一躍高めたのが、創業当初に開発され、イギリスのアワードを受賞した銘機「Ongaku(1989年)」だ。2010年代はさらに飛躍の時を迎え、大旗艦モデルが誕生するわけだが、「Kagura」もまた、メイド・イン・ジャパンの最高峰に相応しい出来映えである。
当時を振りかえって廣川さんが語る。近藤公康会長(2006年に他界)亡きあと、ハイエンドアンプメーカーとして世界に通用する、真にオーディオ・ノートらしいフラグシップ機を持ちたいという機運が高まったそうだ。
企画、開発は廣川さんが主査として担当。「Kagura」への思いは火のように熱い。「ハイエンドブランドは一般的な高級オーディオメーカーとは違います」。ただ単によいものを作るのだけでなく、人を魂ごとぐーっと引き込むような。ある意味麻薬的な魅力というか、“音のたたずまい”が感じられるモノ作りがしたいのだという。
■“神事=音楽”と捉え、脚色ない真の美しさを追求
イメージが湧かなければ開発はスタートできない。音作りのイメージを高めるべく、島根の出雲大社で神楽や巫女舞いを観覧したそうである。そこで得たのは、「神事に対する謙虚でまっすぐな心と、力まず日々続けて行く自然さでした」という。
「Kagura」では“神事=音楽”と捉え、入念な音質調整にとりくんだという。「まず脚色や虚構のない真の美しさです。力みのない穏やかで自然体の音。一歩下がった余裕を持ちながら、しかし堂々として“王様的な雰囲気”がある。そんなアンプづくりが目標となりました」。なるほど“音楽の神が宿る”はただの謳い文句じゃなかった。驚いたうえに感服した。並のメーカーではまず聞けない開発秘話である。
2012年の9月に開発スタートした「Kagura」には、実はベースにしたモノラル・パワーアンプがあった。海外で主に展開していた「Gakuon II」だ。一見よく似ているが、MT管の構成やパーツが違い、だいいちシャーシが薄い。一方の「Kagura」は異様に背が高い。ほぼキューブ状だ。筐体の高さは約2.5倍、重量が2倍の62sというマンモス級だが、デザインありきではなく、設計の合理性があったのだ。
詳しくは次号以降にまわすとして、「Kagura」の増幅回路は全体の1/3、残りの2/3は電源という構成だ。「そこで縦に空間を広げ、立体的なレイアウトにすると最短結線ができる。シンプルな回路でコンパクトにまとめ、それを贅沢な電源でドライブするという発想において理にかなった設計なのです」
面白いエピソードを披露しよう。2013年の1月、プロトタイプをラスベガスで発表したときのことだ。音質は大好評だったが、ブレーカースイッチ(ヒューズを省くため)の感触に不満を漏らすディーラーもいた。
音質最優先の廣川さんとしては、ただのスイッチ変更には納得しない。そこで電源ケーブルをヒーター系とB電源系の2本にすることを思いつく。音の純度と余裕感が劇的に向上。それ以来Kaguraはこの仕様となった。有名な「電源ケーブル2本伝説」である。私は運のよい男だ。「Kagura」の誕生前(同年2月)に居合わせたのは何と幸いなことか。
このほか「Kagura」専用に銀コンデンサや基板などのパーツを開発している。つい内容に深入りしたが、「Kagura」で得た技術は、例えばプリアンプのG-1000やフォノアンプのGE-10など他のモデルにも展開している。さすが最高峰の先進性と余裕だ。「Ginga」を宇宙とするならば、「Kagura」は神の領域といえるだろう。
■真空管ソケットを新たに開発、登場から7年を経てブラッシュアップ
最後に嬉しい知らせがある。7年を経た「Kagura」がアップデートされたのだ。おもな変更点は、新設計の出力トランスで4、8、16Ωの出力線を単独で引き出せ、便利になった(従来は内部にて切り替え)こと。入力端子に待望のXLRが増設され、真空管ソケットをオリジナルで開発・搭載したなどの点だ。極厚の純銀メッキ、パラジウムメッキなどにより、音質はさらにブラッシュアップされた。
短時間の比較試聴であるが、きれいに帯域バランスの整ったオリジナルのよさを引き継ぎつつ、さらに微細音のレスポンスや空間情報量が向上。中〜低域の密度感もアップし、より音楽的で神々しい「Kagura」の世界感を味わうことができた。次号第2章にぜひご期待あれ。
(提供:オーディオ・ノート)
本記事は『季刊アナログ vol.69』からの転載です。
今回から数回に分けて、林 正儀氏が「Kagura」に込められた“物語”を伝承していく。第1章はプロローグ。誕生までのエピソードやその魅力に触れていくことにしよう。
■人の魂ごと引き込むようなモノづくりがしたい
これまで3回に渡って“銀河通信”でお届けした超弩級ターンテーブル「Ginga」登場の翌年の2013年、この物語の主人公である「Kagura」は誕生している。大河的なスケールを思わせる堂々とした風貌。異色にも電源ケーブルの入力を2系統装備した、直熱3極管211のパラレルシングル・モノラルパワーアンプで、「Ginga」と並び世界の音楽ファンを魅了。ハイエンドアンプメーカーであるオーディオ・ノートが威信をかけて作りあげた最高傑作だ。
“音楽の神が宿る”というコンセプトから、「Kagura」(神楽)と命名。そんな希代のフラグシップアンプのルーツを知りたいと思う。チーフエンジニア廣川嘉行さんの案内でロマンの旅へ出よう。
昨年40周年を迎えたオーディオ・ノートのパワーアンプの系譜をたどると、「Kegon」や「Neiro」など代々日本語名が多い(海外メインなのでほぼ知られていないが)。その中で同社の名声を一躍高めたのが、創業当初に開発され、イギリスのアワードを受賞した銘機「Ongaku(1989年)」だ。2010年代はさらに飛躍の時を迎え、大旗艦モデルが誕生するわけだが、「Kagura」もまた、メイド・イン・ジャパンの最高峰に相応しい出来映えである。
当時を振りかえって廣川さんが語る。近藤公康会長(2006年に他界)亡きあと、ハイエンドアンプメーカーとして世界に通用する、真にオーディオ・ノートらしいフラグシップ機を持ちたいという機運が高まったそうだ。
企画、開発は廣川さんが主査として担当。「Kagura」への思いは火のように熱い。「ハイエンドブランドは一般的な高級オーディオメーカーとは違います」。ただ単によいものを作るのだけでなく、人を魂ごとぐーっと引き込むような。ある意味麻薬的な魅力というか、“音のたたずまい”が感じられるモノ作りがしたいのだという。
■“神事=音楽”と捉え、脚色ない真の美しさを追求
イメージが湧かなければ開発はスタートできない。音作りのイメージを高めるべく、島根の出雲大社で神楽や巫女舞いを観覧したそうである。そこで得たのは、「神事に対する謙虚でまっすぐな心と、力まず日々続けて行く自然さでした」という。
「Kagura」では“神事=音楽”と捉え、入念な音質調整にとりくんだという。「まず脚色や虚構のない真の美しさです。力みのない穏やかで自然体の音。一歩下がった余裕を持ちながら、しかし堂々として“王様的な雰囲気”がある。そんなアンプづくりが目標となりました」。なるほど“音楽の神が宿る”はただの謳い文句じゃなかった。驚いたうえに感服した。並のメーカーではまず聞けない開発秘話である。
2012年の9月に開発スタートした「Kagura」には、実はベースにしたモノラル・パワーアンプがあった。海外で主に展開していた「Gakuon II」だ。一見よく似ているが、MT管の構成やパーツが違い、だいいちシャーシが薄い。一方の「Kagura」は異様に背が高い。ほぼキューブ状だ。筐体の高さは約2.5倍、重量が2倍の62sというマンモス級だが、デザインありきではなく、設計の合理性があったのだ。
詳しくは次号以降にまわすとして、「Kagura」の増幅回路は全体の1/3、残りの2/3は電源という構成だ。「そこで縦に空間を広げ、立体的なレイアウトにすると最短結線ができる。シンプルな回路でコンパクトにまとめ、それを贅沢な電源でドライブするという発想において理にかなった設計なのです」
面白いエピソードを披露しよう。2013年の1月、プロトタイプをラスベガスで発表したときのことだ。音質は大好評だったが、ブレーカースイッチ(ヒューズを省くため)の感触に不満を漏らすディーラーもいた。
音質最優先の廣川さんとしては、ただのスイッチ変更には納得しない。そこで電源ケーブルをヒーター系とB電源系の2本にすることを思いつく。音の純度と余裕感が劇的に向上。それ以来Kaguraはこの仕様となった。有名な「電源ケーブル2本伝説」である。私は運のよい男だ。「Kagura」の誕生前(同年2月)に居合わせたのは何と幸いなことか。
このほか「Kagura」専用に銀コンデンサや基板などのパーツを開発している。つい内容に深入りしたが、「Kagura」で得た技術は、例えばプリアンプのG-1000やフォノアンプのGE-10など他のモデルにも展開している。さすが最高峰の先進性と余裕だ。「Ginga」を宇宙とするならば、「Kagura」は神の領域といえるだろう。
■真空管ソケットを新たに開発、登場から7年を経てブラッシュアップ
最後に嬉しい知らせがある。7年を経た「Kagura」がアップデートされたのだ。おもな変更点は、新設計の出力トランスで4、8、16Ωの出力線を単独で引き出せ、便利になった(従来は内部にて切り替え)こと。入力端子に待望のXLRが増設され、真空管ソケットをオリジナルで開発・搭載したなどの点だ。極厚の純銀メッキ、パラジウムメッキなどにより、音質はさらにブラッシュアップされた。
短時間の比較試聴であるが、きれいに帯域バランスの整ったオリジナルのよさを引き継ぎつつ、さらに微細音のレスポンスや空間情報量が向上。中〜低域の密度感もアップし、より音楽的で神々しい「Kagura」の世界感を味わうことができた。次号第2章にぜひご期待あれ。
(提供:オーディオ・ノート)
本記事は『季刊アナログ vol.69』からの転載です。