公開日 2021/07/29 06:35
“サンダーロン”とは?オーディオ専用除電アイテムのパイオニア「SFC」、その魅力に迫る
【特別企画】開発者インタビュー&最新モデルの効果を体験
本項ではSFCの創設者である関 勝夫氏と、実際の製品を製造する日本蚕毛染色(株)の安部宏正氏をゲストに迎え、オーディオ評論家の林 正儀氏がインタビュー。本誌でもこれまでに紹介したことのない、これらの真相にせまっていくことにしよう。記事の後半では、劇的な進化を遂げたSFCの最新静電気対策アイテム3モデルを紹介。実際の効果をレポートしていくことにしよう。
除電ブラシは3世代目、帯電イレーサーも刷新された
『オーディオアクセサリー181号』(2021年2月21日発売)では「静電気を制するものはオーディオを制す」という特集を担当し、私は各社の静電対策アイテムを紹介した。なかでも歴史と実績があり、オーディオ仲間が熱烈に愛用したのが除電ブラシでお馴染みのSFCの製品だ。
その除電ブラシは3世代目の「SK-III RHODIUM」が発売中だが、今回はアナログ専用の帯電イレーサーとディスク用帯電イレーサーもリニューアルされた。ちょうどその発売日にタイミングよくインタビューを担当することができたのは筆者冥利だ。
■SFCブランドの成り立ち
音楽を愛する一人の人物が、巡り巡ってオーディオに参入
「若い頃、ハイフェッツ(世界的なヴァイオリニスト)の演奏を生で聴いて、音楽が好きになりました。それがSFCの開発の動機なんですよ」。ブランド創設者である関 勝夫さんはにこやかに語りはじめた。1968(昭和43年)のブランド誕生から現在に至るまでのエピソードを伺おう。
もともと映像・光学系で、スチール写真やマクロレンズが専門だった関さん。SFCの除電ブラシが鑑識(指紋認証)で使われている話はご存知かもしれないが、これにはストーリーがある。
「映像機器の経験を生かして、鑑識用のスタンドや被疑者写真の撮影システムを開発し、50年間全国の警察畑をまわってきました」。これを皮切りにやがて医療やテレビ局、出版関連など広い付き合いが始まる。そんななかで静電対策に着目して開発したのが一般向けのSFCのブラシだ。
のちほど詳しくお聞きするが、京都の老舗繊維メーカー、日本蚕毛染色が開発した「サンダーロン」という特許技術を採用したのが始まりである。だが売れ行きは芳しくない。そんななかでメーカーの営業から警察関係への導入を薦められたそうだ。
「静電気キラーであるサンダーロンは、私が心酔するくらいの性能でした。すばらしく用途が広く、産業の事故も未然に防ぐレアな素材。そもそも地球に生きている我々は静電気を絶対にとりのぞかなければ……」。熱弁をふるう関さんである。
サンダーロンに惚れ込み、次は自分の愛する音楽の分野、オーディオ用途だと……。ユーザーが渇望する高音質の提案をすべく、研究の日々は続く。こうして1997年(平成9年)、待望のオーディオ業界に参入する。SK-Iが製品一号で、以来20年、静電気アクセサリーのパイオニアとして一線を歩み続けている。
そもそもSFCとは「システム(またはスーパー)・フィデリティ・コピー」の略だそうで、コンセプトは誰もやらないことに挑戦すること。そして最終ユーザーに喜ばれモノづくりをしたい。情熱と哲学のある語り口に、正直感動した。
■「サンダーロン」の起源とその効果
繊維に付加価値をつける、老舗メーカーの戦略の一環
もうひとりのキーパーソンが、京都に本社を置く日本蚕毛染色(株)繊維営業部の安部宏正さんだ。「サンダーロン」のエキスパートで、沿革からお聞きすると、80年以上の歴史を持ち、1938年(昭和13年)の創立だ。社名通り、蚕(かいこ)の糸=蚕毛糸、蚕毛生地の生産で、シルクをウール仕立てにする加工から始まった老舗メーカーである。当初は軍のパラシュート素材に使われたそうだが、戦後は染色業が加わった。
「生地で染めるのと綿から染めるのとでは、色の深みが違います」。天然、化学系の区別なく、ほぼ全種類を染色するという。
染色といえば水質だろう。「当社は伏見区にあり、まわりには大小の造り酒屋があります。お酒造りと同じ水脈を使っているため、水質がよく染色には最適なのです」と安部さんは胸を張る。
酒好きの筆者には羨ましいほどの環境だが、合成繊維の着色に重点を移すなか、時代の要望でカジュアル、ファッシヨン系にも力を入れたという。抗菌や抗ウイルス、消臭繊維など繊維に付加価値をつけて販売する戦略だ。「サンダーロン」はその一環である。
「長い研究の末、1980年に開発に成功しました」。製造特許を取得し、関係業界がこぞって高く評価したことはいうまでもなく、各分野で広く活用されているのだ。
銅イオンで導電膜を形成、適度にコロナ放電させる
さあ、ここから話は佳境に入る。除電ブラシなどの現物に触れながら、読者にはやや難解な「サンダーロン」の原理や構造。技術ポイントなどを解説していただこう。
SFCの除電ブラシは柄の部分の金属に手を触れながら、盤面をさっと掃くだけだから使い方は簡単だ。素材はご存じのように天然毛(黒山羊髭)とアクリル繊維の人工毛。つまり有機導電性繊維(複合繊維)の「サンダーロン」からなり、それぞれ分散状に混合結束しているというのだが、その一本を1万倍に拡大したのが下図のイメージだ。
アクリル繊維に硫化銅(銅イオン)を吸着させて導電膜を形成。メッキではなく、日本蚕毛得意の化学的な結合(架橋という)である。これが「サンダーロン」の技術ポイント。
「メッキや100%のカーボンは火花が飛ぶので(火花放電)好ましくありません。ある程度抵抗を持たせて火花が出ない、ノイズが出ないようにコロナ放電させるのがサンダーロンの特徴です」。
天然毛と人工毛の構成自体も特許だそうで、「たとえば1000本だとしたら300本がサンダーロン、700本が天然毛という割合です」。また人口毛(サンダーロン)は天然毛よりも15o短いため盤面に触れることがない。これにより盤面にキズがつかず、非接触で静電気がとれるのも他社の製品との差別化のポイントだろう。
「新製品のSK-III RHODIUMでは、柄の金属部がロジウムメッキにかわり、人体アース効果がさらに高まりました」
■SFCの最新除電アイテムを紹介
●ディスク専用帯電イレーサー「SK-EX Σ」
効果が2倍以上に進化、盤との密着性も高まる
SFCの製品には、すべて「サンダーロン」の技術が入っている。まずはディスク用帯電イレーサーの「SK-EX Σ」を見よう。レコードを1枚収納して除電するタイプで(CDなら3枚まで)、「EX II」、「EX III」へと改良を進めてきた。今回の「EX Σ」では、悲願の100%除電をうたい、「サンダーロン」をシートから一足飛びにフェルト状にして、導電繊維の混率を数倍に高めたのが画期的だ。
「これは避雷針が無数に増えた状態ですね」。2倍以上の静電気除去能力を獲得したという。
確かにフワフワだ。両面から盤に密着してクッション性がよい。作業は簡単で、30秒ほど待ってオープン。人体アースはVの字ベルトのハトメで行えばOKだ。レコードを聴いている間に次のLPを入れておき、試聴時間の邪魔をしないのもヴァイナルファンにはありがたい。ケースも新色のダークレッドに変わり、高級アルバムのような雰囲気が漂う。
まったくの無音を生み、録音当時の世界が蘇る
「SK-EX Σ」は除電の王様、と改めて思った。2倍以上どころか体感は4〜5倍だ。チリチリした静電ノイズが懐かしく思えるほど、まったくの無音。実に背景が静かで、上質そのものの有機的なニュアンスの清涼さがある。手持ちのハイフェッツ盤を「Σ」で処理してみたところ、当時のスタジオの空気やヴァイオリンの鮮度が蘇るようで、一音一音がゆらぎまではっきりとする、芸術的な超絶テクニックを味わえた。一方、青天井に伸びるダイナミックさがあり、管弦楽やジャズの起伏も生々しく伝わった。
●アナログ専用帯電イレーサー
「SK-FILTER SUS」
増毛により効果が30%アップ、シャフトもステンレスに強化
こちらも関さんが開発に携わって2012年に登場した「SKフィルター」は、レコードを再生しながら静電気除去を行うというスグれものだ。盤面ぎりぎり触れない非接触であるが、ブラシの構造が違う。さわるとふわっとして優らかく、「サンダーロン」繊維を糸状に加工して編み上げた形状だ。
「つまり紡績ですね。機械的につむぎ、糸全体に毛羽があるため避雷針が沢山あるようなもの。表面積が広くなってコロナ放電しやすいわけです」
「SUS」へと進化したポイントは2つある。ブラシを1.5倍増毛したことにより、静電気除去能力が30%アップ。また台座シャフトも鉄からステンレスに変わり、重くどっしり安定した印象だ。ブラシの高さとリーチが変えられ、90度で回転が止まるストップ機能は親切だと思う。電源いらずの手軽さが特徴で、ターンテーブルの横に常時セットしておきたい。
増毛効果を明らかに感じる、全域にわたりレンジが伸びる
「サンダーロン」の増量効果は明らかで、全域にわたってレンジが伸び、クラシックならハーモニーや倍音の漂いがはっきり体感できる。ジャズの濃さやエネルギー表現がぐんと高まった。そんな印象だ。針先との摩擦でも静電気は生まれるわけだが、これなら除電が演奏中続くなという心感があって落ち着ける。リアルタイムの除電とはこれだ。「Σ」や「SUS」さえあれば毎日がアナログ三昧だ。
●SFCの除電アイテムの魅力はここ
ブラシのひと拭きだけでも、音場と定位感が変貌する
「サンダーロン」の効果、新しいSFCシリーズの魅力に心底驚いたというのが3アイテムの共通印象で、新旧聴き比べればその差は歴然以上だろう。
耳ざわりな歪みやノイズ成分がふっと消える。隠れていたギターやヴォーカルなど、音楽の微細なニュアンスが嬉しいように現れる。こうした解像度や透明感のアップは旧モデルでも十分なはずだが、そこからがすごかった。
「SK-III RHODIUM」のひと拭きでも帯磁かおさまるためか、音場全体が爽やかに、定位が
ハッキリとする。滲みが消え音像の彫りが深くなったし、もう一段階聴感S/Nが向上する確信が持てた印象だ。山羊毛が音溝深くまで入るため、ホコリ掃除の効果も実感できた。
SFCの販売は、代理店が岐阜のナスペック(株)に移管され、新しいスタートが切られた。多くの読者に新生SFCの魅力とパフォーマンスを知っていただき、アナログ熱を盛り上げて欲しいものだ。
本記事は季刊オーディオアクゼサリー181号からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから
(特別企画 協力:ナスペック)