公開日 2023/04/10 06:30
北欧らしい端正な音楽性が魅力。ダリの中核スピーカー「OBERONシリーズ」5モデルの個性を探る
【特別企画】デンマーク・DALIの人気の秘密を探る(1)
デンマーク発のスピーカーブランド、DALI(ダリ)。ライフスタイルに合う北欧テイストのデザインも相まって、日本市場でも人気の高いブランドである。なかでも中核となる「OBERON」(オベロン)は、2018年の登場以来着実にユーザーを増やし続けている。その人気の秘密はどこにあるのか?井上千岳氏がその答えを探る。
OBERONはエントリー・モデルSPEKTORのひとつ上級クラスにあたるベーシックなシリーズで、装備や音質、価格がちょうどいいレンジでバランスしたスタンダード機である。一昨年に3ウェイのOBERON9が加わって5モデルの充実したラインアップとなった。DALIを代表する人気シリーズである。
デンマークは早くからスピーカー産業が盛んだが、これは電磁気学の父ハンス・エルステッド以来の伝統なのだという。人口600万に満たない国内に、大学の電磁気関連学部が100以上もあると聞いたことがある。それくらいの伝統産業なのである。
一方でデンマーク家具という伝統もある。さらに我々もよく知っているアンデルセンに代表される童話や文学の国。もちろん北欧の神話と伝説にも彩られている。
DALIの音を聴いていると、こうした伝統に培われた感性や品位が自然にしみ込んでいるのを感じる。特に技術の粋を凝らした上級機よりも、OBERONのようなスタンダード・モデルにそれが色濃くにじんでいるのが興味深い。
そのOBERONの5モデルを、これからひとつずつ聴いていくことにしたい。面白いのは基本コンセプトに違いはないにもかかわらず、一台一台再現の指向性が少しずつ異なることだ。その違いも感じていただけると嬉しい。早速始めることにしよう。
まず始めは2ウェイ・ブックシェルフ型2種、OBERON1とOBERON3である。いずれも径29mmのソフトドーム・トゥイーターを搭載。これは以下全機種共通である。またウーファーはOBERON1が15cm、OBERON3が18cmのSMCウッドファイバー・コーンである。
OBERON1はウーファーが小口径であるだけトゥイーターとのつながりがよく、スピードが揃ってピントがよくまとまっている。このため空間の奥行や楽器の位置感がわかりやすく、これはある程度広い室内で聴いても変わることはなさそうだ。
バロックは低音楽器に適度な張りがあり、ヴァイオリンは艶と粘りが古楽器らしさに富んで表情も繊細だ。チェンバロの手触りにも瀟洒な潤いがある。またピアノはタッチのクリアネスが自然に引き出され、透明な響きの中に緻密な表情が乗って彫りが細かい。オーケストラは楽器どうしの分離がよく、それぞれが鮮やかな色彩感を持ってアンサンブルが華麗に展開されている。
これに対してOBERON3は勢いのいい鳴り方で、立ち上がりのエネルギーが高く、質感が厚手なうえに切れも利いているため張りのある明るさが出てくる。
バロックは弦楽器が艶やかで歯切れがよく、リュートやオルガンの低音とよく溶け合って起伏に富んだ再現が展開される。ピアノは骨格がしっかりして輪郭線が明瞭。がっしりとした低音の把握力が、音楽をくっきりと描き出している。タッチも澄んで明確な芯を持ち、ひ弱なところがどこにもない。オーケストラはピンと張りつめた緊張感を感じさせる音色で、鮮やかな彩りも華やかでエネルギッシュな力強さにも富んでいる。常に活気に溢れて説得力の高い音調だ。
フロア型のOBERON7とOBERON5も好一対と言える。どちらもダブルウーファーの2ウェイだが、ウーファー・サイズの違いに留まらず再現の性格まで対照的なように思える。
先にOBERON7から触れると、ダブルウーファーの量感を生かした出方が一般的な室内空間にちょうどよく、フロア型としてのスケール感を得るにも手ごろと言える。バロックでも低音用リュートやコントラバスの響きがアンサンブルに厚みを加えている。ヴァイオリンも艶や輝かしさを強調することはなく、瑞々しい響きが自然に引き出されて流れるような鳴り方だ。
ピアノはクリアなタッチががっしりと響いて、重心の下がった安定感を作り上げている。幾分柄の大きな出方で、それが弱音部でも肉付きの豊かさを引き出す。オーケストラは鮮烈さと同時にシャープな切れにも富み、大きなうねりで表情を豊かに再現する。思い切り鳴らしてみたくなる音だ。
一方のOBERON5はスリムな見かけによらず、線の太い厚手の出方をするのが意外である。中・低域は切れもよく、トゥイーターとのつながりがいいため音調はいたって滑らかだ。バロックはエネルギー・バランスがちょうどよく、わずかに下寄りの落ち着きが音楽に活気を与えている。ピアノは低音部の和音がずっしりと響き、余韻が澄んで表情がデリケートに変化する。オーケストラは鮮やかさが際立ち、華やかなアンサンブルもエッジがぴたりと決まって再現力の向上に寄与している。
OBERON9はシリーズ唯一の3ウェイ。スケールの大きさが聴きどころだが低域の力感を強調した感触はなく、大きな再現力がひとりでに出てくる印象だ。バロックは近くで聴く感覚で、広めの空間で鳴らすとその出方がいっそう生きてライブ空間のような雰囲気ができ上がってくるように思える。大型スピーカーだが粗さがなく、ピアノは弱音部の繊細なタッチや余韻の透明感などがそっと触れるようなデリカシーで描かれているのが印象的だ。
オーケストラではいっそうその観を強くする。色彩の鮮やかさが引き立ち、柔和で潤いのある質感が軽やかな厚みを加えるのだ。隅々までくっきりと照らし出されたような明瞭な再現が、ダイナミックな起伏でたっぷりと描き出されている。大型機ならではの弾力に富んだ力強さである。
どのモデルも北欧らしい端正な音楽性に溢れて自然に楽しくなる。その心地好さを味わってほしい。
DALIの最新のニュースとしては、昨年秋に上陸した最高峰スピーカー「KORE」が大きな話題を呼んでいる。しかしながら本機を手にすることができる方は、ごくごく限られているはず。そんななかで同ブランドの一貫したポリシーは「新しいものも大事だけど、従来の製品を大切にしたい」ということ。
その姿勢は全シリーズにわたる妥協のないモノづくりと音に反映させていると思う。なかでも今回紹介するOBERONはオーディオ製品の価格が上昇を続けているなか、昨年12月に実は本国の要請でプライスダウンを実現したという。企業努力の賜物としか言えない。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー188号』からの転載です。
デンマークの伝統に培われた感性や品位が自然にしみ込んでいる
OBERONはエントリー・モデルSPEKTORのひとつ上級クラスにあたるベーシックなシリーズで、装備や音質、価格がちょうどいいレンジでバランスしたスタンダード機である。一昨年に3ウェイのOBERON9が加わって5モデルの充実したラインアップとなった。DALIを代表する人気シリーズである。
デンマークは早くからスピーカー産業が盛んだが、これは電磁気学の父ハンス・エルステッド以来の伝統なのだという。人口600万に満たない国内に、大学の電磁気関連学部が100以上もあると聞いたことがある。それくらいの伝統産業なのである。
一方でデンマーク家具という伝統もある。さらに我々もよく知っているアンデルセンに代表される童話や文学の国。もちろん北欧の神話と伝説にも彩られている。
DALIの音を聴いていると、こうした伝統に培われた感性や品位が自然にしみ込んでいるのを感じる。特に技術の粋を凝らした上級機よりも、OBERONのようなスタンダード・モデルにそれが色濃くにじんでいるのが興味深い。
そのOBERONの5モデルを、これからひとつずつ聴いていくことにしたい。面白いのは基本コンセプトに違いはないにもかかわらず、一台一台再現の指向性が少しずつ異なることだ。その違いも感じていただけると嬉しい。早速始めることにしよう。
ピンとよくまとまったOBERON1、質感が厚手で張りのあるOBERON3
まず始めは2ウェイ・ブックシェルフ型2種、OBERON1とOBERON3である。いずれも径29mmのソフトドーム・トゥイーターを搭載。これは以下全機種共通である。またウーファーはOBERON1が15cm、OBERON3が18cmのSMCウッドファイバー・コーンである。
OBERON1はウーファーが小口径であるだけトゥイーターとのつながりがよく、スピードが揃ってピントがよくまとまっている。このため空間の奥行や楽器の位置感がわかりやすく、これはある程度広い室内で聴いても変わることはなさそうだ。
バロックは低音楽器に適度な張りがあり、ヴァイオリンは艶と粘りが古楽器らしさに富んで表情も繊細だ。チェンバロの手触りにも瀟洒な潤いがある。またピアノはタッチのクリアネスが自然に引き出され、透明な響きの中に緻密な表情が乗って彫りが細かい。オーケストラは楽器どうしの分離がよく、それぞれが鮮やかな色彩感を持ってアンサンブルが華麗に展開されている。
これに対してOBERON3は勢いのいい鳴り方で、立ち上がりのエネルギーが高く、質感が厚手なうえに切れも利いているため張りのある明るさが出てくる。
バロックは弦楽器が艶やかで歯切れがよく、リュートやオルガンの低音とよく溶け合って起伏に富んだ再現が展開される。ピアノは骨格がしっかりして輪郭線が明瞭。がっしりとした低音の把握力が、音楽をくっきりと描き出している。タッチも澄んで明確な芯を持ち、ひ弱なところがどこにもない。オーケストラはピンと張りつめた緊張感を感じさせる音色で、鮮やかな彩りも華やかでエネルギッシュな力強さにも富んでいる。常に活気に溢れて説得力の高い音調だ。
OBERON7は量感のある絶妙な再現性で、一般的な室内空間に最適
フロア型のOBERON7とOBERON5も好一対と言える。どちらもダブルウーファーの2ウェイだが、ウーファー・サイズの違いに留まらず再現の性格まで対照的なように思える。
先にOBERON7から触れると、ダブルウーファーの量感を生かした出方が一般的な室内空間にちょうどよく、フロア型としてのスケール感を得るにも手ごろと言える。バロックでも低音用リュートやコントラバスの響きがアンサンブルに厚みを加えている。ヴァイオリンも艶や輝かしさを強調することはなく、瑞々しい響きが自然に引き出されて流れるような鳴り方だ。
ピアノはクリアなタッチががっしりと響いて、重心の下がった安定感を作り上げている。幾分柄の大きな出方で、それが弱音部でも肉付きの豊かさを引き出す。オーケストラは鮮烈さと同時にシャープな切れにも富み、大きなうねりで表情を豊かに再現する。思い切り鳴らしてみたくなる音だ。
一方のOBERON5はスリムな見かけによらず、線の太い厚手の出方をするのが意外である。中・低域は切れもよく、トゥイーターとのつながりがいいため音調はいたって滑らかだ。バロックはエネルギー・バランスがちょうどよく、わずかに下寄りの落ち着きが音楽に活気を与えている。ピアノは低音部の和音がずっしりと響き、余韻が澄んで表情がデリケートに変化する。オーケストラは鮮やかさが際立ち、華やかなアンサンブルもエッジがぴたりと決まって再現力の向上に寄与している。
シリーズ唯一の3ウェイ、OBERON9は繊細なタッチや余韻の透明感が魅力
OBERON9はシリーズ唯一の3ウェイ。スケールの大きさが聴きどころだが低域の力感を強調した感触はなく、大きな再現力がひとりでに出てくる印象だ。バロックは近くで聴く感覚で、広めの空間で鳴らすとその出方がいっそう生きてライブ空間のような雰囲気ができ上がってくるように思える。大型スピーカーだが粗さがなく、ピアノは弱音部の繊細なタッチや余韻の透明感などがそっと触れるようなデリカシーで描かれているのが印象的だ。
オーケストラではいっそうその観を強くする。色彩の鮮やかさが引き立ち、柔和で潤いのある質感が軽やかな厚みを加えるのだ。隅々までくっきりと照らし出されたような明瞭な再現が、ダイナミックな起伏でたっぷりと描き出されている。大型機ならではの弾力に富んだ力強さである。
どのモデルも北欧らしい端正な音楽性に溢れて自然に楽しくなる。その心地好さを味わってほしい。
従来のシリーズも末永く大切にするブランド(編集部)
DALIの最新のニュースとしては、昨年秋に上陸した最高峰スピーカー「KORE」が大きな話題を呼んでいる。しかしながら本機を手にすることができる方は、ごくごく限られているはず。そんななかで同ブランドの一貫したポリシーは「新しいものも大事だけど、従来の製品を大切にしたい」ということ。
その姿勢は全シリーズにわたる妥協のないモノづくりと音に反映させていると思う。なかでも今回紹介するOBERONはオーディオ製品の価格が上昇を続けているなか、昨年12月に実は本国の要請でプライスダウンを実現したという。企業努力の賜物としか言えない。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー188号』からの転載です。