公開日 2021/08/13 06:30
“DX化する呪霊”たち!脱オールドメディア、VHSの次は?
呪霊にも訪れるワークライフバランスの変化
昨年から続く新型コロナウイルス感染症の流行は、我々の生活スタイルを大きく変えた。特に顕著なのが、リモートワークに代表されるデジタル化、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の促進だろう。
しかしDXに勤しんでいるのは、何も “生きている人間” だけではない。呪霊もまた、日々進化するデジタルテクノロジーに順応しようと頑張っているのだ。
例えばジャパニーズホラーのトップランナー・貞子。1998年公開の『リング』ではVHSを媒介にしていた彼女だが、2012年公開の『貞子3D』ではニコニコ動画、2019年公開の『貞子』ではYouTubeを活用していたりと、実にしなやかに時代の流れに適応している。
そこで今回は、Amazon Prime VideoやNetflixで配信(記事執筆時)されている「DXホラー映画」の一部を紹介していきたいと思う。夏の納涼コンテンツとして楽しむだけではなく、DXについて何か学べることがある…かもしれない。
■『アンフレンテッド』:公開時考えもしなかった「テレワークあるある」も満載?
まず紹介したいのは遡ること5年前の国内2016年公開作、『アンフレンテッド』。映画全編がPC画面で繰り広げられることでも話題になった作品だ。現在Prime Videoではレンタルでの視聴となっているが、Netflixでは見放題作品としてラインナップされている。Skypeでグループチャットを楽しむ若者達の中に、紛れる見知らぬアカウント。「通話をやめると殺す」と、物騒なメッセージを送りつけ、通話参加者から次々と犠牲者が…という展開を見せる。
時代を先取っていたというべきか、現在見舞われているコロナ禍で「オンライン飲み」という新しい文化が根付いた今だからこそ、身近に感じられる怖さというものもあるだろう。自分の話になって恐縮だが、昨年初めて発令された緊急事態宣言に伴う自粛期間中、友人から招待されたグループチャット名が「アンフレンテッドの会」だった。物騒がすぎる。
怪異の元となる見知らぬアカウントによるチャット入力中の「…」画面表示にフォーカスする演出、映画内では不吉な展開の予兆となっているが、これも業務中に使用するビジネスチャットツールにて上司からの急な発言につい身構える…といった「テレワークあるある」にも通ずるものが…と、公開時には覚えなかった妙なポイントで登場人物に共感できることだろう。
■『ワウンズ: 呪われたメッセージ』:知らない相手とのメッセージのやり取りは控えよう
次に紹介する作品はNetflixオリジナルの『ワウンズ: 呪われたメッセージ』(2019年)。『コードネーム U.N.C.L.E.』などに出演するアーミー・ハマー主演のサイコホラーだ。
アーミー・ハマー演じるバーテンダーのウィルが、客の落としたスマートフォンを拾ったことから物語は展開。通知欄に表示される不吉なメッセージが気になってしまいロックを解除してしまったところ、そのスマホの中に保存されたおぞましい画像や、受信されるメッセージが原因で徐々に精神に異常を来たしていく、というもの。
ありがちな邦題を付けてしまえば「スマホを拾っただけなのに」とでも言うような導入。しかし、主人公が迎えることとなる顛末は精神的な弱みに起因するとも読み解ける内容となっている。メッセージやショッキングな画像の送信といった方法で揺さぶり、 “出来た人間” を装うための「メッキ」を剥がしに掛かる…というアプローチは悪辣そのもの。実にスマホ社会に即した戦い方を心得ている。拾ったスマホは即座に警察に届け出よう、「向こう側」と通じてしまっていたら厄介どころではない…。
■『コンジアム』:配信者vs悪霊 異種格闘技戦
8/11公開のPrime Video配信中の作品のまとめコラム内でも紹介されている韓国産ホラー映画『コンジアム』(2018年)。こちらは劇中の登場人物(酷い目に遭う方々)が心霊スポットからのライブ配信を実施するというPOV(=Point Of View、登場人物の撮影カメラ視点)ホラーだ。
YouTube上で人気を誇るというホラー動画専門チャンネル「ホラータイムズ」のメンバーが、 “ライブ配信の広告収入” を餌に一般からの参加者を募集、「実在する」心霊スポットコンジアム精神病院跡から生放送でお届けします! と言う不埒な理由で入り込んだが最後、スポットに乗り込んだクルー達は、配信主催者の想定を越えた事態に巻き込まれるというもの。「配信者」が絡むということ以外「よくあるホラーではないか」という感を覚えても仕方がないが、呪霊の類がどうデジタルの領域に絡んでいくのか、ぜひ一見頂きたい。
◇
なぜ呪霊たちはDX化するのか、それは侵される日常感というホラーの醍醐味的な要素を現代劇で描く以上、もはやデジタル機器の使用描写を避けることが不可能だからだろう。『リング』におけるVHSや、『着信アリ』(2004年/Netflixにて配信中)での “ガラケー” も、今ではすっかりレトロアイテムとなり隔世の感を覚えるが、作品公開当時の「日常」を演出する上で、映画を象徴するアイテムとしても非常に深い印象を与えていた。それらのアイテムが今日ではPCやスマホに置き換わる…というのも自明の理だろう。
デジタル機器に順応する呪霊という本記事のコンセプトからはやや外れてしまうかもしれないが、Prime Videoで配信されている2020年公開のホラー映画『シライサン』では、現代における「日常」の演出としてSNSのやり取りが随所に挿入されているほか、「名前を聞いたら最期」という「呪いのビデオ」や「チェーンメール」の頃から見られる “拡散する恐怖” の要素も、このSNS時代にマッチしたものとなっているのも非常に面白い。
今回は「見放題配信」対象作品にフォーカスを当てたことで、あまり数を紹介できなかったが、デジタル機器に囲まれることが日常になったいま、最新技術を巧みに活用した呪霊たちの登場する作品がより目立って来ることだろう。
なお、導入では「デジタル機器に順応しようと頑張っている」と触れてみたものの、絶えず日常に潜み人間に干渉してきた「彼ら」からすれば、DX化などこれまでのやり方を “ほんの少し” 変えた程度のことなのかもしれない…。
しかしDXに勤しんでいるのは、何も “生きている人間” だけではない。呪霊もまた、日々進化するデジタルテクノロジーに順応しようと頑張っているのだ。
例えばジャパニーズホラーのトップランナー・貞子。1998年公開の『リング』ではVHSを媒介にしていた彼女だが、2012年公開の『貞子3D』ではニコニコ動画、2019年公開の『貞子』ではYouTubeを活用していたりと、実にしなやかに時代の流れに適応している。
そこで今回は、Amazon Prime VideoやNetflixで配信(記事執筆時)されている「DXホラー映画」の一部を紹介していきたいと思う。夏の納涼コンテンツとして楽しむだけではなく、DXについて何か学べることがある…かもしれない。
■『アンフレンテッド』:公開時考えもしなかった「テレワークあるある」も満載?
まず紹介したいのは遡ること5年前の国内2016年公開作、『アンフレンテッド』。映画全編がPC画面で繰り広げられることでも話題になった作品だ。現在Prime Videoではレンタルでの視聴となっているが、Netflixでは見放題作品としてラインナップされている。Skypeでグループチャットを楽しむ若者達の中に、紛れる見知らぬアカウント。「通話をやめると殺す」と、物騒なメッセージを送りつけ、通話参加者から次々と犠牲者が…という展開を見せる。
時代を先取っていたというべきか、現在見舞われているコロナ禍で「オンライン飲み」という新しい文化が根付いた今だからこそ、身近に感じられる怖さというものもあるだろう。自分の話になって恐縮だが、昨年初めて発令された緊急事態宣言に伴う自粛期間中、友人から招待されたグループチャット名が「アンフレンテッドの会」だった。物騒がすぎる。
怪異の元となる見知らぬアカウントによるチャット入力中の「…」画面表示にフォーカスする演出、映画内では不吉な展開の予兆となっているが、これも業務中に使用するビジネスチャットツールにて上司からの急な発言につい身構える…といった「テレワークあるある」にも通ずるものが…と、公開時には覚えなかった妙なポイントで登場人物に共感できることだろう。
■『ワウンズ: 呪われたメッセージ』:知らない相手とのメッセージのやり取りは控えよう
次に紹介する作品はNetflixオリジナルの『ワウンズ: 呪われたメッセージ』(2019年)。『コードネーム U.N.C.L.E.』などに出演するアーミー・ハマー主演のサイコホラーだ。
アーミー・ハマー演じるバーテンダーのウィルが、客の落としたスマートフォンを拾ったことから物語は展開。通知欄に表示される不吉なメッセージが気になってしまいロックを解除してしまったところ、そのスマホの中に保存されたおぞましい画像や、受信されるメッセージが原因で徐々に精神に異常を来たしていく、というもの。
ありがちな邦題を付けてしまえば「スマホを拾っただけなのに」とでも言うような導入。しかし、主人公が迎えることとなる顛末は精神的な弱みに起因するとも読み解ける内容となっている。メッセージやショッキングな画像の送信といった方法で揺さぶり、 “出来た人間” を装うための「メッキ」を剥がしに掛かる…というアプローチは悪辣そのもの。実にスマホ社会に即した戦い方を心得ている。拾ったスマホは即座に警察に届け出よう、「向こう側」と通じてしまっていたら厄介どころではない…。
■『コンジアム』:配信者vs悪霊 異種格闘技戦
8/11公開のPrime Video配信中の作品のまとめコラム内でも紹介されている韓国産ホラー映画『コンジアム』(2018年)。こちらは劇中の登場人物(酷い目に遭う方々)が心霊スポットからのライブ配信を実施するというPOV(=Point Of View、登場人物の撮影カメラ視点)ホラーだ。
YouTube上で人気を誇るというホラー動画専門チャンネル「ホラータイムズ」のメンバーが、 “ライブ配信の広告収入” を餌に一般からの参加者を募集、「実在する」心霊スポットコンジアム精神病院跡から生放送でお届けします! と言う不埒な理由で入り込んだが最後、スポットに乗り込んだクルー達は、配信主催者の想定を越えた事態に巻き込まれるというもの。「配信者」が絡むということ以外「よくあるホラーではないか」という感を覚えても仕方がないが、呪霊の類がどうデジタルの領域に絡んでいくのか、ぜひ一見頂きたい。
なぜ呪霊たちはDX化するのか、それは侵される日常感というホラーの醍醐味的な要素を現代劇で描く以上、もはやデジタル機器の使用描写を避けることが不可能だからだろう。『リング』におけるVHSや、『着信アリ』(2004年/Netflixにて配信中)での “ガラケー” も、今ではすっかりレトロアイテムとなり隔世の感を覚えるが、作品公開当時の「日常」を演出する上で、映画を象徴するアイテムとしても非常に深い印象を与えていた。それらのアイテムが今日ではPCやスマホに置き換わる…というのも自明の理だろう。
デジタル機器に順応する呪霊という本記事のコンセプトからはやや外れてしまうかもしれないが、Prime Videoで配信されている2020年公開のホラー映画『シライサン』では、現代における「日常」の演出としてSNSのやり取りが随所に挿入されているほか、「名前を聞いたら最期」という「呪いのビデオ」や「チェーンメール」の頃から見られる “拡散する恐怖” の要素も、このSNS時代にマッチしたものとなっているのも非常に面白い。
今回は「見放題配信」対象作品にフォーカスを当てたことで、あまり数を紹介できなかったが、デジタル機器に囲まれることが日常になったいま、最新技術を巧みに活用した呪霊たちの登場する作品がより目立って来ることだろう。
なお、導入では「デジタル機器に順応しようと頑張っている」と触れてみたものの、絶えず日常に潜み人間に干渉してきた「彼ら」からすれば、DX化などこれまでのやり方を “ほんの少し” 変えた程度のことなのかもしれない…。