公開日 2023/04/08 07:00
邦画初ドルビービジョン。カラーグレーダーにインタビュー
『シン・ウルトラマン』UHD BD、監督も「劇場と同じ」と太鼓判! こだわり満載の制作過程を聞く
編集部:松永達矢
円谷プロダクション(以下、円谷プロ)は、2022年5月公開の劇場映画『シン・ウルトラマン』の4K UHD BD/BD/DVDを4月12日(水)に発売する。その発売に先駆けて、ドルビービジョングレーディングを担当した、東宝スタジオポストプロダクションセンター DI Factory 齋藤精二氏へのインタビューを実施した。
監督に樋口真嗣、企画・脚本に庵野秀明という布陣で制作された『シン・ウルトラマン』は、2016年公開の『シン・ゴジラ』同様に原典の魅力を再提示しながらも、これまでに無い新たな「ウルトラマン像」を打ち立て、興行収入44億円の大ヒットを記録したほか、第46回日本アカデミー賞では、優秀作品賞をはじめとする計7部門を受賞した。
既に昨年11月からAmazon Prime Videoでの見放題配信が行われている本作だが、先記したように、4月12日に各フォーマットでディスクパッケージとして登場。最上位パッケージとなる「Blu-ray特別版 4K Ultra HD Blu-ray同梱4枚組」に収録される4K UHD本編ディスクは、「実写邦画劇映画初のドルビービジョン採用タイトル」となる。(リマスター版は除く)
今回お話しを伺った齋藤氏は、上映本編、およびディスク収録のドルビービジョングレーディングを担当した人物。円谷プロで本商品のディレクションを担当した・小西 潤氏(以下敬称略)を交え、『シン・ウルトラマン』最高グレードの映像パッケージに込められた想いをご紹介する。
───発売を控える『シン・ウルトラマン』の4K UHD盤が「実写邦画劇映画ソフト初のドルビービジョン採用タイトル」であるということに、作品ファンのみならず、AVファンからも興味・関心が集まっております。作品をパッケージ化するにあたり、ドルビービジョンフォーマットを採用するに至った経緯をお聞かせください。
齋藤 二次利用のパッケージ化という話が円谷さんからあった際、「どこまでクオリティを追求するか、どういった規格で行こうか」という相談から始まり、4KをサポートするUHD盤で出したいというところから話がスタートしました。ですが、パッケージ収録本編の映像効果としてHDR効果を含めるのか否かという議題も上がったりしました。
そもそもHDR効果というのは、コンテンツを作る段階から演出していかないと、本来のクオリティを画面上で発揮できないというのがあります。というのも、劇場のスクリーンに掛けることを前提とした『シン・ウルトラマン』は、基本的にSDRで完成させている作品です。そういった作品をHDRコンテンツとしてパッケージングする際、どの程度までその効果を引き出せるのか、どこまで手間と時間を掛けるかという懸念点がありました。
ただ、ご存知の通り本作は、公開から約1ヶ月後に「ドルビーシネマ版」の上映がありました。その時に “SDRマスターからのHDR化” というプロセスを1回踏んでいたこともあり、「同じようなアプローチであれば対応できます」と、お返事しました。
そういったやり取りを経て、当初はHDR10ベースでHDR効果を付与する流れになっていたのですが、本作の監督である樋口真嗣さんから、「ドルビービジョン、できますか?」というオーダーをいただきまして。
こちらとしてはドルビービジョンでも技術的に対応可能でしたが、パッケージ商品という考えに立ち返ると、新たな懸念点が生まれてきます。Netflixなどの動画配信サービスで観ることのできるドルビービジョン作品というのは、作品信号にドルビーのデータを載せているため、対応テレビさえあればドルビービジョン作品を観ることができます。
ただ、今回のようにドルビービジョンフォーマットをディスクに収録するとなると、再生するプレーヤーもドルビービジョンに対応したものが必要になってくるわけです。国内に流通するドルビービジョン対応プレーヤーは数も限られますし、高価なものが多くなってきます。そうなってくると「ドルビービジョン収録ディスク」というアピールポイントも自然と少ない層への訴求になりますし、「それはパッケージとしてどうなのか?」という声も出ました。
とはいえ、第一にドルビービジョンも比較的新しいフォーマットなので、これから発売されるプレーヤーに標準搭載されるだろうという希望的観測がありました。第二に、国内の「実写ソフト」という括りでは、嵐のライヴ盤「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」がドルビービジョン対応として既にあるところ、リリースタイミング的にも『シン・ウルトラマン』が実写 “邦画劇映画” ソフト初のドルビービジョン対応パッケージになるというので、タイトル的にもふさわしいですし、関係各位に確認した上で「やってみましょう」という流れになりました。
───ドルビーシネマ(ビジョン)フォーマットで公開された実写邦画作品がまだ片手で収まる本数というところから、タイミング的に「初」という枕詞が付いたものとばかり思っていました。
齋藤 技術的な要素はこちらで対応できるので、請け負う身とすれば「どのフォーマットでも」というところはありましたが、パッケージのマーケットについて調べてみると、ドルビービジョン収録メディアを再生できる環境はかなり限られている事がわかりました。『シン・ウルトラマン』の4K UHD盤が視聴環境普及のキッカケの一つになればと期待しています。
小西 ドルビービジョンでの収録は従来のパッケージとの差別化になると思いまして、委員会の方でも採用する流れに舵を取ったという背景もありました。
───齋藤さんは、発売される4K UHD盤のグレーディング以前に、『シン・ウルトラマン』本編にもスタッフ参加されているということですが、映画制作におけるカラーグレーディングとはどういった作業か、全体の流れのどういった段階で行われるのか、といったことを教えて頂けますか。
齋藤 工程自体は、動画や写真を撮影したあとに、色を加工するという一般の方にもイメージしやすい物ですが、私が思うに、カラーグレーディングは「物語の世界観をどうまとめるのか」というのが大事なポイントです。コントラストや明るさ、配色という様々なファクターがある中、撮影された画を物語のジャンルにあった色調にする、画作りの方向性を整えていくというのが基本的な考え方です。
映画というのは、合成カットやCGなど、様々な人達が撮ったパーツ単位の画が一つになって初めて物語が完成します。自分の作業はそこに対して全体を整えていくというイメージになりますね。
───ありがとうございます。全ての画を世界観のトーンに合わせて取りまとめていくということは、カラーグレーディングという作業は、制作の流れの中では後段に位置するのでしょうか?
齋藤 いえ、どのように撮影を行うのか確認するため、撮影前から参加しています。カメラマンを中心とした撮影部、監督と共に、クランクイン前のテスト撮影で「画の方向性」を定めていきます。極端なことを言ってしまうと、撮影で素晴らしい画が撮れていたら、私の役目は無いくらいで、画作りの中心はカラーグレーディングではなく、撮影・照明を代表とした撮影現場だと考えてます。
ただ、それぞれ過酷な条件で画が撮影されているわけですから、日によっては70点の画だったり、80点の画だったりと、当然完成度にバラつきが出てしまいます。それらの撮影素材が「目指すべき画に対して何点足りないのか」というのをブラッシュアップして、目指すところにまとめ上げるのが自分の役目だと思っているので、制作序盤から携わらせて頂いています。
クランクイン前のテスト撮影時だけでなく、編集・合成チェックにも参加するので、「出来上がった画にだけアプローチ」という方法ではありません。画が出来上がるまでのプロセス全てに参加して、途中経過を全てチェックしていくことで、最終的なイメージを自分なりにまとめ上げています。
いろんな場所で同様の話をしていますけど、カラーグレーディングというのは料理に似ていると感じています。魅力的な料理というのは、食材に拘っていて、その食材の味を引き出す調理に拘っていると思います。撮影現場において、食材とは被写体(芝居や美術)、調理とは撮影や照明です。
僕にとってのカラーグレーディングとは撮影された画に対して調味料的な役割であるべきだと考えていて、最高の素材を現場で構築してもらえたら、その素材の味を引き立てる役目であり、間違っても素材の味を邪魔してはいけない、個人的にもそういう料理のほうが好きなので(笑)。
この例えでいうと、「調味料の掛け間違いをしないようにする」というのも大事なポイントですね。料理にも様々な種類があるように、映画にもSF、ラブストーリー、アクションみたいに様々なジャンルがあります。掛ける調味料を間違えてしまうと元来の味の邪魔をしてしまうことになります。
ですので、制作に参加する際は、作品に一番いい調味料を選び、食材の味を殺さないよう調整がしたい。最高の材料(撮影素材)を用意していただければ、僕はほんのちょっと掛ける(手を加える)だけで良い(笑)。合成も撮影も最高のものを目指していただいて、それを支えていくというのが、僕個人のカラーグレーディングへの考え方ですね。
監督に樋口真嗣、企画・脚本に庵野秀明という布陣で制作された『シン・ウルトラマン』は、2016年公開の『シン・ゴジラ』同様に原典の魅力を再提示しながらも、これまでに無い新たな「ウルトラマン像」を打ち立て、興行収入44億円の大ヒットを記録したほか、第46回日本アカデミー賞では、優秀作品賞をはじめとする計7部門を受賞した。
既に昨年11月からAmazon Prime Videoでの見放題配信が行われている本作だが、先記したように、4月12日に各フォーマットでディスクパッケージとして登場。最上位パッケージとなる「Blu-ray特別版 4K Ultra HD Blu-ray同梱4枚組」に収録される4K UHD本編ディスクは、「実写邦画劇映画初のドルビービジョン採用タイトル」となる。(リマスター版は除く)
今回お話しを伺った齋藤氏は、上映本編、およびディスク収録のドルビービジョングレーディングを担当した人物。円谷プロで本商品のディレクションを担当した・小西 潤氏(以下敬称略)を交え、『シン・ウルトラマン』最高グレードの映像パッケージに込められた想いをご紹介する。
「ドルビービジョン、できますか?」実写邦画劇映画初の対応ソフトに『シン・ウルトラマン』が選ばれた理由
───発売を控える『シン・ウルトラマン』の4K UHD盤が「実写邦画劇映画ソフト初のドルビービジョン採用タイトル」であるということに、作品ファンのみならず、AVファンからも興味・関心が集まっております。作品をパッケージ化するにあたり、ドルビービジョンフォーマットを採用するに至った経緯をお聞かせください。
齋藤 二次利用のパッケージ化という話が円谷さんからあった際、「どこまでクオリティを追求するか、どういった規格で行こうか」という相談から始まり、4KをサポートするUHD盤で出したいというところから話がスタートしました。ですが、パッケージ収録本編の映像効果としてHDR効果を含めるのか否かという議題も上がったりしました。
そもそもHDR効果というのは、コンテンツを作る段階から演出していかないと、本来のクオリティを画面上で発揮できないというのがあります。というのも、劇場のスクリーンに掛けることを前提とした『シン・ウルトラマン』は、基本的にSDRで完成させている作品です。そういった作品をHDRコンテンツとしてパッケージングする際、どの程度までその効果を引き出せるのか、どこまで手間と時間を掛けるかという懸念点がありました。
ただ、ご存知の通り本作は、公開から約1ヶ月後に「ドルビーシネマ版」の上映がありました。その時に “SDRマスターからのHDR化” というプロセスを1回踏んでいたこともあり、「同じようなアプローチであれば対応できます」と、お返事しました。
そういったやり取りを経て、当初はHDR10ベースでHDR効果を付与する流れになっていたのですが、本作の監督である樋口真嗣さんから、「ドルビービジョン、できますか?」というオーダーをいただきまして。
こちらとしてはドルビービジョンでも技術的に対応可能でしたが、パッケージ商品という考えに立ち返ると、新たな懸念点が生まれてきます。Netflixなどの動画配信サービスで観ることのできるドルビービジョン作品というのは、作品信号にドルビーのデータを載せているため、対応テレビさえあればドルビービジョン作品を観ることができます。
ただ、今回のようにドルビービジョンフォーマットをディスクに収録するとなると、再生するプレーヤーもドルビービジョンに対応したものが必要になってくるわけです。国内に流通するドルビービジョン対応プレーヤーは数も限られますし、高価なものが多くなってきます。そうなってくると「ドルビービジョン収録ディスク」というアピールポイントも自然と少ない層への訴求になりますし、「それはパッケージとしてどうなのか?」という声も出ました。
とはいえ、第一にドルビービジョンも比較的新しいフォーマットなので、これから発売されるプレーヤーに標準搭載されるだろうという希望的観測がありました。第二に、国内の「実写ソフト」という括りでは、嵐のライヴ盤「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」がドルビービジョン対応として既にあるところ、リリースタイミング的にも『シン・ウルトラマン』が実写 “邦画劇映画” ソフト初のドルビービジョン対応パッケージになるというので、タイトル的にもふさわしいですし、関係各位に確認した上で「やってみましょう」という流れになりました。
───ドルビーシネマ(ビジョン)フォーマットで公開された実写邦画作品がまだ片手で収まる本数というところから、タイミング的に「初」という枕詞が付いたものとばかり思っていました。
齋藤 技術的な要素はこちらで対応できるので、請け負う身とすれば「どのフォーマットでも」というところはありましたが、パッケージのマーケットについて調べてみると、ドルビービジョン収録メディアを再生できる環境はかなり限られている事がわかりました。『シン・ウルトラマン』の4K UHD盤が視聴環境普及のキッカケの一つになればと期待しています。
小西 ドルビービジョンでの収録は従来のパッケージとの差別化になると思いまして、委員会の方でも採用する流れに舵を取ったという背景もありました。
「物語の世界観をどうまとめるのか」齋藤氏の考えるカラーグレーディングとは
───齋藤さんは、発売される4K UHD盤のグレーディング以前に、『シン・ウルトラマン』本編にもスタッフ参加されているということですが、映画制作におけるカラーグレーディングとはどういった作業か、全体の流れのどういった段階で行われるのか、といったことを教えて頂けますか。
齋藤 工程自体は、動画や写真を撮影したあとに、色を加工するという一般の方にもイメージしやすい物ですが、私が思うに、カラーグレーディングは「物語の世界観をどうまとめるのか」というのが大事なポイントです。コントラストや明るさ、配色という様々なファクターがある中、撮影された画を物語のジャンルにあった色調にする、画作りの方向性を整えていくというのが基本的な考え方です。
映画というのは、合成カットやCGなど、様々な人達が撮ったパーツ単位の画が一つになって初めて物語が完成します。自分の作業はそこに対して全体を整えていくというイメージになりますね。
───ありがとうございます。全ての画を世界観のトーンに合わせて取りまとめていくということは、カラーグレーディングという作業は、制作の流れの中では後段に位置するのでしょうか?
齋藤 いえ、どのように撮影を行うのか確認するため、撮影前から参加しています。カメラマンを中心とした撮影部、監督と共に、クランクイン前のテスト撮影で「画の方向性」を定めていきます。極端なことを言ってしまうと、撮影で素晴らしい画が撮れていたら、私の役目は無いくらいで、画作りの中心はカラーグレーディングではなく、撮影・照明を代表とした撮影現場だと考えてます。
ただ、それぞれ過酷な条件で画が撮影されているわけですから、日によっては70点の画だったり、80点の画だったりと、当然完成度にバラつきが出てしまいます。それらの撮影素材が「目指すべき画に対して何点足りないのか」というのをブラッシュアップして、目指すところにまとめ上げるのが自分の役目だと思っているので、制作序盤から携わらせて頂いています。
クランクイン前のテスト撮影時だけでなく、編集・合成チェックにも参加するので、「出来上がった画にだけアプローチ」という方法ではありません。画が出来上がるまでのプロセス全てに参加して、途中経過を全てチェックしていくことで、最終的なイメージを自分なりにまとめ上げています。
いろんな場所で同様の話をしていますけど、カラーグレーディングというのは料理に似ていると感じています。魅力的な料理というのは、食材に拘っていて、その食材の味を引き出す調理に拘っていると思います。撮影現場において、食材とは被写体(芝居や美術)、調理とは撮影や照明です。
僕にとってのカラーグレーディングとは撮影された画に対して調味料的な役割であるべきだと考えていて、最高の素材を現場で構築してもらえたら、その素材の味を引き立てる役目であり、間違っても素材の味を邪魔してはいけない、個人的にもそういう料理のほうが好きなので(笑)。
この例えでいうと、「調味料の掛け間違いをしないようにする」というのも大事なポイントですね。料理にも様々な種類があるように、映画にもSF、ラブストーリー、アクションみたいに様々なジャンルがあります。掛ける調味料を間違えてしまうと元来の味の邪魔をしてしまうことになります。
ですので、制作に参加する際は、作品に一番いい調味料を選び、食材の味を殺さないよう調整がしたい。最高の材料(撮影素材)を用意していただければ、僕はほんのちょっと掛ける(手を加える)だけで良い(笑)。合成も撮影も最高のものを目指していただいて、それを支えていくというのが、僕個人のカラーグレーディングへの考え方ですね。