公開日 2016/07/28 17:46
発表会を開催。Roonのことも聞いてみた
LINN「EXAKTBOX」がKEF Reference 5とJBL S9900に対応 - 技術部長が詳細を語る
編集部:小澤貴信
リンジャパンは、LINN「EXAKTBOX」によるデジタルクロスオーバーについて発表会を開催。EXAKTシステムによるデジタルクロスオーバーが、KEF「Reference 5」とJBL「S9900」の2つのスピーカーシステムに新たに対応したと発表した。
発表会にはLINNの技術部長であるキース・ロバートソン氏が登場し、EXAKTクロスオーバーの特徴について改めて説明。また、Reference 5への対応については、LINNとKEFが技術レベルでコラボレーションを行って実現したことも紹介、KEFの技術部長であるジャック・オクリーブラウン氏も登場した。KEFとEXAKTのコラボのメリットについて説明を行った。
■デジタルクロスオーバー「EXAKTBOX」とは?
LINNのEXAKTシステムは、スピーカー内部にアンプ、デコードやD/A変換などを行うEXAKT ENGINEを搭載した「EXAKTスピーカー」からスタート。プレーヤーからスピーカーユニットの直前までLANケーブルでデジタル伝送を行うことで、情報の損失を排除した信号伝送、デジタルクロスオーバーによる理想的な位相整合を目指した。
その後、EXAKTのラインナップにチャンネルデバイダー「EXAKTBOX」が登場した。これは通常のパッシブ型スピーカーをEXAKTシステム化するもので、“デジタルクロスオーバー”の役割を果たす。
またEXAKTBOXは、LINN製のスピーカーに加えて、B&Wの802 Diamondやオリジナルノーチラスなど、他社製スピーカー用のクロスオーバーフィルターも追加していた。
今回、このEXAKTBOXが対応するスピーカーに、新たにKEF「Reference 5」とJBL「S9900」が加わった。なお、両スピーカー共にそもそもがクロスオーバーネットワークを内蔵したスピーカーなので、そのままではEXAKTBOXを使うことはできない。
KEFについては、EXAKT対応のReference 5となる「Reference 5 EXAKT」を新たに発売する。本機はバイパス可能なクロスオーバーネットワークを備えており、通常使用かEXAKTかを選択できる。通常のReference 5向けには、EXAKT化を行えるキットとして「EXAKT KIT」を発売する。なお、価格はReference 5 EXAKTが通常モデル(¥1,926,000/税抜)の10%アップ程度、EXAKT KITは通常のReference 5の10%程度の値段になるという。JBLについては後述する。
■EXAKTが実現する究極の位相特性/タイムアライメント
LINNのキース・ロバートソン氏は、EXAKTシステムのそもそものコンセプトと優位性について改めて説明した。アナログレコード時代のオーディオにおいては、レコーディングからレコードの製造、家庭でのオーディオ再生に至るまで、マスター音源からの情報の損失/ロスが非常に大きかったと同氏。
デジタル化によって、この「情報の損失/ロス」は改善されてきたものの、CDフォーマットであればマスタークオリティーを44.1kHz/16bitへとダウンコンバートしなくてはならず、またそのCDを圧縮してしまうMP3の隆盛もあった。さらに、家庭のオーディオシステムでは、プレーヤー→アンプ→スピーカーという形態である以上逃れられないロスが常につきまとうとロバートソン氏は指摘する。
LINNはネットワークプレーヤー「DS」において、スタジオで録音されたマスター音源をプレーヤーまで損失なく送り届ける方法を確立したと同氏は自負する。しかし、プレーヤーからスピーカーまでの経路においては、ロスの原因が残ったままだった。ロバートソン氏は、スピーカーのぎりぎりまでロスなく音楽情報を伝送することで損失を排除したのがEXAKTなのだと語る。
EXAKTが実現した“ロスのない伝送”というのは、単純にスピーカーユニットのより直近までデータをデジタル伝送するということではない。だからこそ、EXAKTBOXを使って従来型スピーカーをEXAKT化する意味があるとも言える。
通常のスピーカーはパッシブのクロスオーバーネットワーク回路を持っていて、ここで入力された信号を各ユニットの帯域へ分割する。しかし、各種素子を含むのこアナログ回路を通過することが、歪みやロスの原因なる。素子の個体差もその原因となる。また、その先のドライバーユニットの駆動自体も歪の原因になる(究極に理想的な駆動ができるドライバーユニットは現時点で存在しないからだ)。
EXAKTは、IIRフィルター(無限インパルス応答フィルター)によるデジタルクロスオーバーフィルターを採用することで、歪や位相の問題を解決したとのこと。「この方法ならばクロスオーバーによる歪みを0にできます。しかし、このタイプのクロスオーバーの歴史はまだ20年程度と浅く、手がけるメーカーもわずかです」(ロバートソン氏)。EXAKTでは、さらに踏み込んで歪の排除と理想的な位相特性の追い込んでいったという。
発表会では、位相の整合の重要性について特に説明に時間が割かれた。マルチウェイのスピーカーは、何の対策も施さなければ、各帯域のユニットが再生する音の位相がズレてしまう。そこでEXAKTでは、その中核となるEXAKT EngineのDSPが理想的なタイムアライメントを行う。さらに、前述のようなスピーカーユニットに起因する歪や位相ズレまでを測定して、EXAKT Engineで最適化を行っているという。
なお、デジタルクロスオーバーフィルターはスピーカー毎に必要となるが、もちろんEXAKTシステム上で上書きや追加が可能となっている。
■KEFの「UniQ」とLINNの「EXAKT」は同じことを目指している
KEFの技術部長であるジャック・オクリーブラウン氏は、なぜ今回のLINN EXAKTとのコラボが実現したのかを紹介してくれた。
KEFは独自の同軸ユニットであるUniQドライバーによって、スピーカー再生における位相ズレの問題に徹底して取り組んできた。この点は、LINNがEXAKTで目指したタイムアライメントと合致したとのこと。
同氏はオリジナル信号と、クロスオーバーネットワーク、ユニットをそれぞれ経た信号との差を示し、その問題について紹介。
そして、同社がアナログ領域でのタイムアライメントを追求してきたUniQドライバーと、デジタル領域でのタイムアライメントを追求するEXAKTシステムと組み合わせることで生まれるシナジーは非常に大きいとした。
なお、今回のEXAKT対応についても、LINN側から提供されたEXAKTクロスオーバーフィルターのアルゴリズムをKEF側にて調整を行ったという。この点からも、LINNとKEFが一歩踏み込んだ技術協力を行ったことが伺える。
オクリーブラウン氏は、UniQとEXAKTを組み合わせたことによる実際の利点として、試聴ポイントがずれても波形が崩れないこと、ひいてはフレキシブルな試聴位置で自然なサウンドを楽しめることだとも語っていた。これはそれぞれの正確な位相再現があってこそ為せる技なのだという。
オクリーブラウン氏のプレゼンを受けて、ロバートソン氏は「EXAKTシステムを他社のスピーカーにまで展開していくことを検討していたとき、どのメーカーに話を持っていっていくべきか、LINNのスピーカー担当技術者であるフィリップ・バンドに相談したら、『KEFに行くべきだ、きっと理解してくれるから』と助言をしてくれたのです」とコラボへの最初のきっかけを語ってくれた。
ちなみに、1974年に登場したLINNのスピーカーシステム「Isobarik」にはKEF製のウーファーとミッドレンジが搭載されており、両者はすでにコラボを経験済みだ。しかし、今回のEXAKTのコラボについては、これとは関係なくまったく新規に行われたことだという。
なお、JBL「S9900」のEXAKT対応については、リンジャパンから「日本のハイエンドファンに非常に人気があるモデルなのでぜひ検討してほしい」との要請で対応を行ったとのこと。よって今回はJBL本社との直接の交流はなかったという。ただ、LINNとしては、EXAKTに興味のあるスピーカーメーカーとは、KEFとのように踏み込んだコラボレーションを行っていく意思がるとのことだ。
S9900のEXAKT対応については、リンジャパンが専用クロスオーバーを用意するかたちで行っていく。
会場ではKEF「Reference 5」とJBL「S9900」を、通常のパッシブスピーカーとしての再生と、EXAKTシステムによるデジタルクロスオーバーを用いた再生で比較試聴する時間もたっぷりと設けられた。
■「Roon? あれはクローズドなやり方だ」。LINN技術部長にRoon
について聞いてみた
今回の発表内容とは無関係だが、記者はLINNのキース・ロバートソン氏に「Roonはどう思いますか? Roon独自のRAATプロトコルは、オーディオ再生でUPnPより優位だと言っていますが」と質問してみた。
ロバートソン氏は「LINNはUPnPではなく、OpenHomeだよ」とまず一言。そして「Roonのことは認識しているけれど、あれは“クローズド”なやり方だよ。OpenHomeという言葉が示すとおり、LINNのアプローチはオープンで、だからこそDSが世界でこれだけの成功を収めたんだ。今日のKEFとのコラボからもわかる通り、EXAKTもオープンなシステムだ。クローズドなやり方はきっと成功しないと思う。それはSACDのようなかつてのフォーマットが示しているんじゃないかな」とコメントしてくれた。
発表会にはLINNの技術部長であるキース・ロバートソン氏が登場し、EXAKTクロスオーバーの特徴について改めて説明。また、Reference 5への対応については、LINNとKEFが技術レベルでコラボレーションを行って実現したことも紹介、KEFの技術部長であるジャック・オクリーブラウン氏も登場した。KEFとEXAKTのコラボのメリットについて説明を行った。
■デジタルクロスオーバー「EXAKTBOX」とは?
LINNのEXAKTシステムは、スピーカー内部にアンプ、デコードやD/A変換などを行うEXAKT ENGINEを搭載した「EXAKTスピーカー」からスタート。プレーヤーからスピーカーユニットの直前までLANケーブルでデジタル伝送を行うことで、情報の損失を排除した信号伝送、デジタルクロスオーバーによる理想的な位相整合を目指した。
その後、EXAKTのラインナップにチャンネルデバイダー「EXAKTBOX」が登場した。これは通常のパッシブ型スピーカーをEXAKTシステム化するもので、“デジタルクロスオーバー”の役割を果たす。
またEXAKTBOXは、LINN製のスピーカーに加えて、B&Wの802 Diamondやオリジナルノーチラスなど、他社製スピーカー用のクロスオーバーフィルターも追加していた。
今回、このEXAKTBOXが対応するスピーカーに、新たにKEF「Reference 5」とJBL「S9900」が加わった。なお、両スピーカー共にそもそもがクロスオーバーネットワークを内蔵したスピーカーなので、そのままではEXAKTBOXを使うことはできない。
KEFについては、EXAKT対応のReference 5となる「Reference 5 EXAKT」を新たに発売する。本機はバイパス可能なクロスオーバーネットワークを備えており、通常使用かEXAKTかを選択できる。通常のReference 5向けには、EXAKT化を行えるキットとして「EXAKT KIT」を発売する。なお、価格はReference 5 EXAKTが通常モデル(¥1,926,000/税抜)の10%アップ程度、EXAKT KITは通常のReference 5の10%程度の値段になるという。JBLについては後述する。
■EXAKTが実現する究極の位相特性/タイムアライメント
LINNのキース・ロバートソン氏は、EXAKTシステムのそもそものコンセプトと優位性について改めて説明した。アナログレコード時代のオーディオにおいては、レコーディングからレコードの製造、家庭でのオーディオ再生に至るまで、マスター音源からの情報の損失/ロスが非常に大きかったと同氏。
デジタル化によって、この「情報の損失/ロス」は改善されてきたものの、CDフォーマットであればマスタークオリティーを44.1kHz/16bitへとダウンコンバートしなくてはならず、またそのCDを圧縮してしまうMP3の隆盛もあった。さらに、家庭のオーディオシステムでは、プレーヤー→アンプ→スピーカーという形態である以上逃れられないロスが常につきまとうとロバートソン氏は指摘する。
LINNはネットワークプレーヤー「DS」において、スタジオで録音されたマスター音源をプレーヤーまで損失なく送り届ける方法を確立したと同氏は自負する。しかし、プレーヤーからスピーカーまでの経路においては、ロスの原因が残ったままだった。ロバートソン氏は、スピーカーのぎりぎりまでロスなく音楽情報を伝送することで損失を排除したのがEXAKTなのだと語る。
EXAKTが実現した“ロスのない伝送”というのは、単純にスピーカーユニットのより直近までデータをデジタル伝送するということではない。だからこそ、EXAKTBOXを使って従来型スピーカーをEXAKT化する意味があるとも言える。
通常のスピーカーはパッシブのクロスオーバーネットワーク回路を持っていて、ここで入力された信号を各ユニットの帯域へ分割する。しかし、各種素子を含むのこアナログ回路を通過することが、歪みやロスの原因なる。素子の個体差もその原因となる。また、その先のドライバーユニットの駆動自体も歪の原因になる(究極に理想的な駆動ができるドライバーユニットは現時点で存在しないからだ)。
EXAKTは、IIRフィルター(無限インパルス応答フィルター)によるデジタルクロスオーバーフィルターを採用することで、歪や位相の問題を解決したとのこと。「この方法ならばクロスオーバーによる歪みを0にできます。しかし、このタイプのクロスオーバーの歴史はまだ20年程度と浅く、手がけるメーカーもわずかです」(ロバートソン氏)。EXAKTでは、さらに踏み込んで歪の排除と理想的な位相特性の追い込んでいったという。
発表会では、位相の整合の重要性について特に説明に時間が割かれた。マルチウェイのスピーカーは、何の対策も施さなければ、各帯域のユニットが再生する音の位相がズレてしまう。そこでEXAKTでは、その中核となるEXAKT EngineのDSPが理想的なタイムアライメントを行う。さらに、前述のようなスピーカーユニットに起因する歪や位相ズレまでを測定して、EXAKT Engineで最適化を行っているという。
なお、デジタルクロスオーバーフィルターはスピーカー毎に必要となるが、もちろんEXAKTシステム上で上書きや追加が可能となっている。
■KEFの「UniQ」とLINNの「EXAKT」は同じことを目指している
KEFの技術部長であるジャック・オクリーブラウン氏は、なぜ今回のLINN EXAKTとのコラボが実現したのかを紹介してくれた。
KEFは独自の同軸ユニットであるUniQドライバーによって、スピーカー再生における位相ズレの問題に徹底して取り組んできた。この点は、LINNがEXAKTで目指したタイムアライメントと合致したとのこと。
同氏はオリジナル信号と、クロスオーバーネットワーク、ユニットをそれぞれ経た信号との差を示し、その問題について紹介。
そして、同社がアナログ領域でのタイムアライメントを追求してきたUniQドライバーと、デジタル領域でのタイムアライメントを追求するEXAKTシステムと組み合わせることで生まれるシナジーは非常に大きいとした。
なお、今回のEXAKT対応についても、LINN側から提供されたEXAKTクロスオーバーフィルターのアルゴリズムをKEF側にて調整を行ったという。この点からも、LINNとKEFが一歩踏み込んだ技術協力を行ったことが伺える。
オクリーブラウン氏は、UniQとEXAKTを組み合わせたことによる実際の利点として、試聴ポイントがずれても波形が崩れないこと、ひいてはフレキシブルな試聴位置で自然なサウンドを楽しめることだとも語っていた。これはそれぞれの正確な位相再現があってこそ為せる技なのだという。
オクリーブラウン氏のプレゼンを受けて、ロバートソン氏は「EXAKTシステムを他社のスピーカーにまで展開していくことを検討していたとき、どのメーカーに話を持っていっていくべきか、LINNのスピーカー担当技術者であるフィリップ・バンドに相談したら、『KEFに行くべきだ、きっと理解してくれるから』と助言をしてくれたのです」とコラボへの最初のきっかけを語ってくれた。
ちなみに、1974年に登場したLINNのスピーカーシステム「Isobarik」にはKEF製のウーファーとミッドレンジが搭載されており、両者はすでにコラボを経験済みだ。しかし、今回のEXAKTのコラボについては、これとは関係なくまったく新規に行われたことだという。
なお、JBL「S9900」のEXAKT対応については、リンジャパンから「日本のハイエンドファンに非常に人気があるモデルなのでぜひ検討してほしい」との要請で対応を行ったとのこと。よって今回はJBL本社との直接の交流はなかったという。ただ、LINNとしては、EXAKTに興味のあるスピーカーメーカーとは、KEFとのように踏み込んだコラボレーションを行っていく意思がるとのことだ。
S9900のEXAKT対応については、リンジャパンが専用クロスオーバーを用意するかたちで行っていく。
会場ではKEF「Reference 5」とJBL「S9900」を、通常のパッシブスピーカーとしての再生と、EXAKTシステムによるデジタルクロスオーバーを用いた再生で比較試聴する時間もたっぷりと設けられた。
■「Roon? あれはクローズドなやり方だ」。LINN技術部長にRoon
について聞いてみた
今回の発表内容とは無関係だが、記者はLINNのキース・ロバートソン氏に「Roonはどう思いますか? Roon独自のRAATプロトコルは、オーディオ再生でUPnPより優位だと言っていますが」と質問してみた。
ロバートソン氏は「LINNはUPnPではなく、OpenHomeだよ」とまず一言。そして「Roonのことは認識しているけれど、あれは“クローズド”なやり方だよ。OpenHomeという言葉が示すとおり、LINNのアプローチはオープンで、だからこそDSが世界でこれだけの成功を収めたんだ。今日のKEFとのコラボからもわかる通り、EXAKTもオープンなシステムだ。クローズドなやり方はきっと成功しないと思う。それはSACDのようなかつてのフォーマットが示しているんじゃないかな」とコメントしてくれた。