公開日 2023/04/06 10:48
「日本のリスナーの皆様に、質の高いクラシック音楽をお届けします」
ドイツ・グラモフォン125年目の挑戦。映像配信サービス「STAGE+」日本上陸会見レポート
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
ドイツ・グラモフォン(以下DG)が運営する映像ストリーミングサービス「STAGE+」の日本版正式ローンチが発表された。その概要発表記者会見が東京文化会館で開催され、DG社社長のクレメンス・トラウトマン氏と副社長のローベルト・ツィンマーマン氏らが登壇し、サービスへの意気込みを語った。
「STAGE+」は、2022年11月にグローバルにてスタートしていたが、この度正式に日本版がリリースされたかたち。価格は月額1,990円、年間契約で19,990円で、ドイツ・グラモフォンが制作に関わったコンサート映像や音楽祭、アーティストインタビューやドキュメンタリーといったさまざまな映像作品を4K/ハイレゾ/ドルビーアトモスなどのフォーマットで楽しむことができる。
ユニバーサルミュージック社長の藤倉 尚氏は、まず、ドイツ・グラモフォンと日本との長い歴史に言及。
「日本とドイツ・グラモフォンは長い歴史があります。1927年、DGの実質的な日本支社であるポリドール蓄音器が設立され、DGの音源が正式に流通するようになりました。当時、フルトヴェングラーの指揮するベルリン・フィルの演奏は人気でした。その後もDGの名盤はファンの皆様に愛されて、日本のクラシック文化が根付いていく上で欠かすことのできない役割を担ってきました。
複雑な歴史を経てDGはユニバーサルミュージックグループの傘下に入りました。音楽の聴き方もアナログレコードからCD、ダウンロードを経て、現在はサブスクリプションが一般的になりつつあります。膨大な音楽ライブラリに気軽にアクセスできるサブスクリプションはクラシックファンの裾野を広げる意味でとても素晴らしいものです」とコメント。
「カジュアルな音楽の届け方とは別に、熱心なクラシックリスナー、DGのファンの皆様に心から満足できるようなプレミアムサービスを提供したいというのは、ユニバーサルミュージックジャパンとしてもかねてからの願いでした。STAGE+の日本語化は、そういった思いが具現化したもので、大変喜ばしく思っています。多くのクラシックの愛好家の皆様に、DGの華麗なる遺産と、今をときめくアーティストの熱演を堪能いただけたらと思います」と言葉を続ける。
そして、DGが先日作曲家の久石譲氏と契約したことを紹介。久石氏が先週出演したウィーン交響楽団の音源も近々楽しめるようになるとし、「革新的なプラットフォームを通じて、日本の優れた音楽家たちも世界で活躍できることを心から楽しみにしています」と語った。
続いて、DG社長のクレメンス・トラウトマン氏は、DGの125年にわたる歴史を振り返りながら、クラシックを心から愛するリスナーが多くいる日本市場への期待を語る。
「2023年はDGにとってとても重要な年となります。日本でSTAGE+を正式スタートできることだけではなく、今年の12月にDGが創立125周年を迎えるからです」というトラウトマン氏は、「この2つが密接に結びついている」と説明。
「1898年に、エミール・ベルリナーによってDGは設立されました。グラモフォン(蓄音器)が発明されて10年程が経っていました。テクノロジーと音楽が結びつき、クリエイティブな内容を新しい技術をもって紹介できるようになったのです。それから125年経って、いまSTAGE+という新しいサービスで歴史をつなぐことができるのです」と語る。
そして、日本語版のローンチがDGにとって非常に重要なことであると説明。「それは、日本には見識豊かでクラシック音楽に対し敬意を持って接しているファンの皆様がいるからです。そういう皆様にアーティストの活動を紹介していきたいと願っています。知識豊かで熱狂的にクラシックを愛している日本のリスナーの皆様に、質の高いクラシック音楽をお届けします」とアピールする。
続けて、「私は年に2回ほど日本に来て、東京文化会館やサントリーホールなど、さまざまなコンサートを訪れています。日本におけるコンサート体験はとても素晴らしいもので、毎回強い印象を残しています。日本におけるコンサート体験は、舞台上のアーティストと客席の皆様との内なるつながりを強く感じます。お客様もアーティストも、クラシック音楽を愛情を持って接していることが伝わってきます」とコメント。
「この素晴らしい音楽体験をもっと遠いところまで届けることができないだろうか、と考えました。STAGE+では、その可能性を実現することができます。数々の音楽体験を、日本の皆様だけではなく世界の皆様にお届けしたいと思っています」と説明した。
現在開催中の『東京・春・音楽祭』では、DGの所属アーティストであるヤン・リシエツキのコンサートをSTAGE+でライブ配信することを紹介。
海外公演の配信では、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮によるベルサイユ宮殿で行われる『バッハのロ短調ミサ』をライブ配信予定であることや、ユジャ・ワンとデュダメルによってロサンゼルスで行われるラフマニノフの交響曲を収録配信することを紹介した。また、バイロイト音楽祭の配信も予定しており、「STAGE+ではバイロイト音楽祭を、これまでにない完全な形でお楽しみにいただけます」と続けた。
もちろん、STAGE+では新しい公演だけではなく、古い公演も配信。「カール・ベームに始まり、ブーレーズ指揮による『ニーベルングの指環』もお楽しみにいただけます」と説明する。
そして、「『変化するもののみが忠実であり続ける』という少しパラドックスにも聞こえることばがありますが、DGはこのことばに忠実でありたいと思っています。125年の伝統には忠実に、これを守り育てていきたいと思っています。カラヤンやバーンスタインから、アルゲリッチやバレンボイム、ポリーニといったピアニスト、そして現代のヤン・リシエツキさんまで、若い世代に連なるこの伝統をつなげていきたいと考えています」とコメント。
「DGは常に高い要求をしてきました。また批判的観点を持って、注目すべき音楽体験を求めてきました。時代と共にメディアは変わっていきます。今ある最上・最先端のテクノロジーを使ってライブのような没入できる体験を可能にするのが、STAGE+です。
私たちはこれからも忠実であるために、変化し続けます。その時代にあった最良のメディアをお届けしたいと考えています。
DGはお客さまに対して最良のサービスを提供するだけではありません。アーティストの皆様とも素晴らしい関係を築いていきたいと考えています。STAGE+のように一人のアーティストの全てのコンテンツを一堂に紹介できるメディアはこれまでありませんでした。録音音源から映像作品、ドキュメンタリー、インタビューなどです。このように、アーティストの音楽人生を丸ごと紹介することができるのがSTAGE+です」と述べた。
続けて、ローベルト・ツィンマーマン氏が実際にアプリを操作しその画面を映像で見せながら、STAGE+でどのようなことができるのかの説明がなされた。
「私たちが2年間、昼夜を問わず力を注いできたプロジェクト」だとSTAGE+を紹介するツィンマーマン氏は、このようなプラットフォームを新たにスタートする際、既存のプロジェクトといかに差別化を図るかが重要だったとコメント。
「DGはコンサートホールでもオペラ歌劇場でもありません。レーベルとして、まったく新しいことを始めなければなりませんでした」とし、「DGにとっての挑戦は、数多くのアーティスト、協力関係を結んでいるホールやオペラ劇場、音楽祭を一つにまとめるということでした。ユーザーに音楽の多彩さをいかに楽しんでいただけるかが課題でした」と続ける。
そして、大切な点のひとつは、ライブコンサート(生配信)を体験できるということであると説明。また、ライブ配信は未来の予定であるため、いつ開催されるのかを予告して、さらにリマインドすることも大切だと考えていると述べる。
また、時差も考慮して、ライブ配信のあとは2回の再配信を提供。ただし、DGのクオリティスタンダードに従った形でポストプロダクションを行ってから配信するため、再配信はライブ配信後およそ1週間からの提供を予定しているという。
コンサートが配信されると、共演する全てのアーティストや作曲家、また演奏された場所、またアーティストの他のコンサートの予定についても、同じアプリの上からアクセスして情報を得ることができる。アーティストのプロフィールを確認したり、これまでどのような録音があるのか、DGだけではなく他のレーベルの音源についても情報を得ることができる。
「すべてのコンサート、すべての録音に関してハイクオリティで完全な形の『メタデータ』を提供することが重要でした」と語るツィンマーマン氏。「ライブ配信やアーカイブに加えて、インタビュー、ドキュメンタリーといった背景情報も多方面にお届けすることを考えています」と語る。
現在、ビデオアーカイブは約300本、音源については約1200タイトルを用意しており、今後も継続的に増やしていくとのこと。ただし、「なんでも出せば良いとは考えていなくて、『きちんとしたキュレーション』に従って音源を増やしてきます」とのこと。
オーディオフォーマットも多数用意し、ロスレスからドルビーアトモスまで選択可能。「今後はAirPlayやChromecastへも展開を予定しています」とのことだった。
最後に、ヤン・リシエツキさんがアーティストの視点からSTAGE+の魅力を語った。
「DGとは長年に渡りコラボレーションしてきて、伝説的なイエローレーベルの一員になれたことを大変光栄に思っています。またDGが新しい方向に向かっている踏み出していることも素晴らしいことだと感じています。
私たちにとって録音はとても大切です。ですがクラシック音楽にとって本当の場所はコンサートホールだとも思っています。コンサートホールからのライブ配信を、皆様がご自宅でお楽しみいただけることは本当に素晴らしいことです。
私たちはさまざまな技術を手にしており、誰でもマイクを手にしてネットに配信することができます。ですが、その中でもハイレベルなものを探すとなると、やはり大切なのは『音のクオリティ』だと考えています。もちろんビジュアルも大切ですが、やはり私たちは『音を作っている』アーティストですから、音がとても大切です。その点STAGE+には大きなアドバンテージがあります。
皆様はこのアプリでさまざまな音楽にアクセスすることができますが、それらがすべてハイレベル、最高の品質で提供されているのがこのSTAGE+です。
私は長年DGと素晴らしい関係を築いてきました。私にとって一番大切なのは、『一緒に何かを作っていく』ということです。1回のコンサートを配信するだけではなくて、長期に渡って一緒に計画を建てることができるということです。今後も素晴らしいプロジェクトを一緒に作っていきたいと思います」
質疑応答の模様は以下の通り。
ーー日本版というのはどういう意味がありますか?画面の表示が日本語になって、円で決済できるということ以外に、日本からだけアクセスできるコンテンツ、あるいはアクセスできないコンテンツがある、ということはありますか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:日本版においては、100%日本語で提供されます。バイオグラフィーやコンサート情報、インタビューなども日本語で提供されます。メタデータも日本語で表示されています。
また、コンテンツに関して「原則としては」違いがありません。ただし、一部のテレビ局などの権利が絡んでいるものは、提供がブロックされる場合があります。ドイツにはアルテというテレビ局がありますが、アルテが共同プロダクションで作った映像の場合は、しばらくの間特定の地域以外で見られないということもあります。ですが、原則的としては世界で見られるものは日本でも視聴できます。
ーークラシックのストリーミングサービスといえばベルリン・フィルの「デジタル・コンサートホール」という成功例があり、ロベルト・ツィンマーマン氏も携わっていました。今回のSTAGE+のクオリティについても、それと同等のものを期待して良いのでしょうか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:デジタル・コンサートホールでは、場所がコンサートホールでしたから、ホールにおける技術はすべて掌握した状態で配信することができました。もしDGが100%自前でコンサートを制作する場合は、同じようにクオリティを完全にコントロールすることができるでしょう。
しかし、多くの場合はテレビ局など他の団体との共同制作になります。お恥ずかしい話ですが、ドイツのテレビ局にはまだ4K対応できていないところもあります。その場合は私たちが求めているクオリティを貫き通すことが必ずしもできるわけではありません。ですが、私たちは常に最良を求めることを心がけています。
ただ、オーディオに関しては、私たちの求めるハイクオリティを貫き通します。オーディオは手間もかかりませんし、プロダクションをコントロール下に置くことが可能だからです。
ーーSTAGE+では、どのようなコンサートをピックアップして配信するのでしょうか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:リシエツキさんがアーティストの視点からおっしゃっていただいたことが、私たちにとっての重要なポイントだと思います。つまり、「長期的な計画のもと、アーティストにとって重要なものをピックアップする」ということです。私たちはアーティストと一緒に、物語を語りたいと考えています。アーティストの全体像を届けることができることが大切です。
ーー配信される音声フォーマットはどのようなものでしょうか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:AACとFLACで配信していますが、FLACは96kHz/24bitのフォーマットです。
クレメンス・トラウトマン氏:一つ補足しますと、DGは多くのマンパワーと時間、時間を費やして、200を超えるドルビーアトモスフォーマットの音源を制作しました。イマーシブな体験のために新たにミックスし直しているのです。
古い音源についても、元のオリジナルのアーカイヴから新たに作成し直しています。相当お金がかかるのですが、その甲斐あって、世界でも類をみないほどのコンテンツを所有しています。カラヤンやバーンスタインといた70〜80年代の音源も、新たにドルビーアトモスとして蘇っています。
「STAGE+」は、2022年11月にグローバルにてスタートしていたが、この度正式に日本版がリリースされたかたち。価格は月額1,990円、年間契約で19,990円で、ドイツ・グラモフォンが制作に関わったコンサート映像や音楽祭、アーティストインタビューやドキュメンタリーといったさまざまな映像作品を4K/ハイレゾ/ドルビーアトモスなどのフォーマットで楽しむことができる。
ユニバーサルミュージック社長の藤倉 尚氏は、まず、ドイツ・グラモフォンと日本との長い歴史に言及。
「日本とドイツ・グラモフォンは長い歴史があります。1927年、DGの実質的な日本支社であるポリドール蓄音器が設立され、DGの音源が正式に流通するようになりました。当時、フルトヴェングラーの指揮するベルリン・フィルの演奏は人気でした。その後もDGの名盤はファンの皆様に愛されて、日本のクラシック文化が根付いていく上で欠かすことのできない役割を担ってきました。
複雑な歴史を経てDGはユニバーサルミュージックグループの傘下に入りました。音楽の聴き方もアナログレコードからCD、ダウンロードを経て、現在はサブスクリプションが一般的になりつつあります。膨大な音楽ライブラリに気軽にアクセスできるサブスクリプションはクラシックファンの裾野を広げる意味でとても素晴らしいものです」とコメント。
「カジュアルな音楽の届け方とは別に、熱心なクラシックリスナー、DGのファンの皆様に心から満足できるようなプレミアムサービスを提供したいというのは、ユニバーサルミュージックジャパンとしてもかねてからの願いでした。STAGE+の日本語化は、そういった思いが具現化したもので、大変喜ばしく思っています。多くのクラシックの愛好家の皆様に、DGの華麗なる遺産と、今をときめくアーティストの熱演を堪能いただけたらと思います」と言葉を続ける。
そして、DGが先日作曲家の久石譲氏と契約したことを紹介。久石氏が先週出演したウィーン交響楽団の音源も近々楽しめるようになるとし、「革新的なプラットフォームを通じて、日本の優れた音楽家たちも世界で活躍できることを心から楽しみにしています」と語った。
「変化するもののみが忠実であり続ける」。新たな時代を見据えたクラシック音楽の試み
続いて、DG社長のクレメンス・トラウトマン氏は、DGの125年にわたる歴史を振り返りながら、クラシックを心から愛するリスナーが多くいる日本市場への期待を語る。
「2023年はDGにとってとても重要な年となります。日本でSTAGE+を正式スタートできることだけではなく、今年の12月にDGが創立125周年を迎えるからです」というトラウトマン氏は、「この2つが密接に結びついている」と説明。
「1898年に、エミール・ベルリナーによってDGは設立されました。グラモフォン(蓄音器)が発明されて10年程が経っていました。テクノロジーと音楽が結びつき、クリエイティブな内容を新しい技術をもって紹介できるようになったのです。それから125年経って、いまSTAGE+という新しいサービスで歴史をつなぐことができるのです」と語る。
そして、日本語版のローンチがDGにとって非常に重要なことであると説明。「それは、日本には見識豊かでクラシック音楽に対し敬意を持って接しているファンの皆様がいるからです。そういう皆様にアーティストの活動を紹介していきたいと願っています。知識豊かで熱狂的にクラシックを愛している日本のリスナーの皆様に、質の高いクラシック音楽をお届けします」とアピールする。
続けて、「私は年に2回ほど日本に来て、東京文化会館やサントリーホールなど、さまざまなコンサートを訪れています。日本におけるコンサート体験はとても素晴らしいもので、毎回強い印象を残しています。日本におけるコンサート体験は、舞台上のアーティストと客席の皆様との内なるつながりを強く感じます。お客様もアーティストも、クラシック音楽を愛情を持って接していることが伝わってきます」とコメント。
「この素晴らしい音楽体験をもっと遠いところまで届けることができないだろうか、と考えました。STAGE+では、その可能性を実現することができます。数々の音楽体験を、日本の皆様だけではなく世界の皆様にお届けしたいと思っています」と説明した。
現在開催中の『東京・春・音楽祭』では、DGの所属アーティストであるヤン・リシエツキのコンサートをSTAGE+でライブ配信することを紹介。
海外公演の配信では、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮によるベルサイユ宮殿で行われる『バッハのロ短調ミサ』をライブ配信予定であることや、ユジャ・ワンとデュダメルによってロサンゼルスで行われるラフマニノフの交響曲を収録配信することを紹介した。また、バイロイト音楽祭の配信も予定しており、「STAGE+ではバイロイト音楽祭を、これまでにない完全な形でお楽しみにいただけます」と続けた。
もちろん、STAGE+では新しい公演だけではなく、古い公演も配信。「カール・ベームに始まり、ブーレーズ指揮による『ニーベルングの指環』もお楽しみにいただけます」と説明する。
そして、「『変化するもののみが忠実であり続ける』という少しパラドックスにも聞こえることばがありますが、DGはこのことばに忠実でありたいと思っています。125年の伝統には忠実に、これを守り育てていきたいと思っています。カラヤンやバーンスタインから、アルゲリッチやバレンボイム、ポリーニといったピアニスト、そして現代のヤン・リシエツキさんまで、若い世代に連なるこの伝統をつなげていきたいと考えています」とコメント。
「DGは常に高い要求をしてきました。また批判的観点を持って、注目すべき音楽体験を求めてきました。時代と共にメディアは変わっていきます。今ある最上・最先端のテクノロジーを使ってライブのような没入できる体験を可能にするのが、STAGE+です。
私たちはこれからも忠実であるために、変化し続けます。その時代にあった最良のメディアをお届けしたいと考えています。
DGはお客さまに対して最良のサービスを提供するだけではありません。アーティストの皆様とも素晴らしい関係を築いていきたいと考えています。STAGE+のように一人のアーティストの全てのコンテンツを一堂に紹介できるメディアはこれまでありませんでした。録音音源から映像作品、ドキュメンタリー、インタビューなどです。このように、アーティストの音楽人生を丸ごと紹介することができるのがSTAGE+です」と述べた。
すべての録音や映像作品に日本語でのメタデータを提供
続けて、ローベルト・ツィンマーマン氏が実際にアプリを操作しその画面を映像で見せながら、STAGE+でどのようなことができるのかの説明がなされた。
「私たちが2年間、昼夜を問わず力を注いできたプロジェクト」だとSTAGE+を紹介するツィンマーマン氏は、このようなプラットフォームを新たにスタートする際、既存のプロジェクトといかに差別化を図るかが重要だったとコメント。
「DGはコンサートホールでもオペラ歌劇場でもありません。レーベルとして、まったく新しいことを始めなければなりませんでした」とし、「DGにとっての挑戦は、数多くのアーティスト、協力関係を結んでいるホールやオペラ劇場、音楽祭を一つにまとめるということでした。ユーザーに音楽の多彩さをいかに楽しんでいただけるかが課題でした」と続ける。
そして、大切な点のひとつは、ライブコンサート(生配信)を体験できるということであると説明。また、ライブ配信は未来の予定であるため、いつ開催されるのかを予告して、さらにリマインドすることも大切だと考えていると述べる。
また、時差も考慮して、ライブ配信のあとは2回の再配信を提供。ただし、DGのクオリティスタンダードに従った形でポストプロダクションを行ってから配信するため、再配信はライブ配信後およそ1週間からの提供を予定しているという。
コンサートが配信されると、共演する全てのアーティストや作曲家、また演奏された場所、またアーティストの他のコンサートの予定についても、同じアプリの上からアクセスして情報を得ることができる。アーティストのプロフィールを確認したり、これまでどのような録音があるのか、DGだけではなく他のレーベルの音源についても情報を得ることができる。
「すべてのコンサート、すべての録音に関してハイクオリティで完全な形の『メタデータ』を提供することが重要でした」と語るツィンマーマン氏。「ライブ配信やアーカイブに加えて、インタビュー、ドキュメンタリーといった背景情報も多方面にお届けすることを考えています」と語る。
現在、ビデオアーカイブは約300本、音源については約1200タイトルを用意しており、今後も継続的に増やしていくとのこと。ただし、「なんでも出せば良いとは考えていなくて、『きちんとしたキュレーション』に従って音源を増やしてきます」とのこと。
オーディオフォーマットも多数用意し、ロスレスからドルビーアトモスまで選択可能。「今後はAirPlayやChromecastへも展開を予定しています」とのことだった。
「音のクオリティ」が保証されていることがSTAGE+の強み
最後に、ヤン・リシエツキさんがアーティストの視点からSTAGE+の魅力を語った。
「DGとは長年に渡りコラボレーションしてきて、伝説的なイエローレーベルの一員になれたことを大変光栄に思っています。またDGが新しい方向に向かっている踏み出していることも素晴らしいことだと感じています。
私たちにとって録音はとても大切です。ですがクラシック音楽にとって本当の場所はコンサートホールだとも思っています。コンサートホールからのライブ配信を、皆様がご自宅でお楽しみいただけることは本当に素晴らしいことです。
私たちはさまざまな技術を手にしており、誰でもマイクを手にしてネットに配信することができます。ですが、その中でもハイレベルなものを探すとなると、やはり大切なのは『音のクオリティ』だと考えています。もちろんビジュアルも大切ですが、やはり私たちは『音を作っている』アーティストですから、音がとても大切です。その点STAGE+には大きなアドバンテージがあります。
皆様はこのアプリでさまざまな音楽にアクセスすることができますが、それらがすべてハイレベル、最高の品質で提供されているのがこのSTAGE+です。
私は長年DGと素晴らしい関係を築いてきました。私にとって一番大切なのは、『一緒に何かを作っていく』ということです。1回のコンサートを配信するだけではなくて、長期に渡って一緒に計画を建てることができるということです。今後も素晴らしいプロジェクトを一緒に作っていきたいと思います」
「長期的な計画のもと、アーティストにとって重要なものをピックアップする」
質疑応答の模様は以下の通り。
ーー日本版というのはどういう意味がありますか?画面の表示が日本語になって、円で決済できるということ以外に、日本からだけアクセスできるコンテンツ、あるいはアクセスできないコンテンツがある、ということはありますか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:日本版においては、100%日本語で提供されます。バイオグラフィーやコンサート情報、インタビューなども日本語で提供されます。メタデータも日本語で表示されています。
また、コンテンツに関して「原則としては」違いがありません。ただし、一部のテレビ局などの権利が絡んでいるものは、提供がブロックされる場合があります。ドイツにはアルテというテレビ局がありますが、アルテが共同プロダクションで作った映像の場合は、しばらくの間特定の地域以外で見られないということもあります。ですが、原則的としては世界で見られるものは日本でも視聴できます。
ーークラシックのストリーミングサービスといえばベルリン・フィルの「デジタル・コンサートホール」という成功例があり、ロベルト・ツィンマーマン氏も携わっていました。今回のSTAGE+のクオリティについても、それと同等のものを期待して良いのでしょうか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:デジタル・コンサートホールでは、場所がコンサートホールでしたから、ホールにおける技術はすべて掌握した状態で配信することができました。もしDGが100%自前でコンサートを制作する場合は、同じようにクオリティを完全にコントロールすることができるでしょう。
しかし、多くの場合はテレビ局など他の団体との共同制作になります。お恥ずかしい話ですが、ドイツのテレビ局にはまだ4K対応できていないところもあります。その場合は私たちが求めているクオリティを貫き通すことが必ずしもできるわけではありません。ですが、私たちは常に最良を求めることを心がけています。
ただ、オーディオに関しては、私たちの求めるハイクオリティを貫き通します。オーディオは手間もかかりませんし、プロダクションをコントロール下に置くことが可能だからです。
ーーSTAGE+では、どのようなコンサートをピックアップして配信するのでしょうか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:リシエツキさんがアーティストの視点からおっしゃっていただいたことが、私たちにとっての重要なポイントだと思います。つまり、「長期的な計画のもと、アーティストにとって重要なものをピックアップする」ということです。私たちはアーティストと一緒に、物語を語りたいと考えています。アーティストの全体像を届けることができることが大切です。
ーー配信される音声フォーマットはどのようなものでしょうか?
ローベルト・ツィンマーマン氏:AACとFLACで配信していますが、FLACは96kHz/24bitのフォーマットです。
クレメンス・トラウトマン氏:一つ補足しますと、DGは多くのマンパワーと時間、時間を費やして、200を超えるドルビーアトモスフォーマットの音源を制作しました。イマーシブな体験のために新たにミックスし直しているのです。
古い音源についても、元のオリジナルのアーカイヴから新たに作成し直しています。相当お金がかかるのですが、その甲斐あって、世界でも類をみないほどのコンテンツを所有しています。カラヤンやバーンスタインといた70〜80年代の音源も、新たにドルビーアトモスとして蘇っています。
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