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公開日 2022/11/02 11:21
コロナ禍では在宅時間が長くなり、様々な家電製品にスポットライトが当たった。外食の機会が減り、家庭で調理する機会が増えたことから関心が高まったのが、電子レンジ、炊飯器、トースターなどの調理家電。“電気圧力鍋” もそのひとつだ。
手の込んだ料理が簡単に作れることから人気を集める電気圧力鍋には海外勢を含め様々なブランドが参入。そのなかで “いぶし銀” とも言える存在感を放つのは、1951年に大阪豊中市で創業した「ワンダーシェフ」。家庭のキッチンからプロの厨房、さらには南極昭和基地でも使われている調理道具を作っているメーカーで、家庭用と業務用の圧力鍋が主力商品だ。
圧力鍋の普及率は約55%。「爆発など事故が起こりそうで怖い」といったイメージから敬遠する人もいるが、ここ数年の出荷台数では電気圧力鍋の構成比が半数を超え、「電気だから安全」と購入する人も増えている。
「圧力鍋のシュシュシュシュという音を気にされる方も多いようですが、実は圧を抜いている安全な証拠なんです」と語るワンダーシェフ代表取締役社長・伊藤彰浩氏。「一方、電気圧力鍋は音がしないため、安全だと勘違いされる人も少なくありません。構造が異なるから音がしないだけで、圧力をかけて100度以上で調理する基本的な仕組みは同じ。圧力鍋も電気圧力鍋もその危険性に変わりはありません」と解説する。
事故情報データバンク(消費者庁・独立行政法人国民生活センター)によると、圧力鍋に関連する事故情報は、平成20年度から令和2年度までの13年間に231件が報告されている。「蓋が外れて内容物が噴き出る」「鍋と蓋の隙間などから蒸気や内容物が噴出して鍋がコンロから落ちる」「調理中に部品が脱落する」「鍋を移動させる際に内容物をこぼす」など。けがも「熱傷」59件、「擦過傷・挫傷・打撲傷」4件、「骨折」3件などが発生。SNSでも、水と食材は3分の2以下(※豆類・麺類の場合は水と合わせて3分の1以下)と定められた内容量を間違え、内容物が噴出した失敗事例などが数多く見受けられる。
事故を起こさないためには製品の正しい使い方、そして安全・安心な商品を使用することが大事となる。家電製品の製造拠点としては依然、部品供給など様々な理由から中国に頼らざるを得ないのが実情だ。ワンダーシェフもファブレスメーカーであり、中国の協力工場で長年にわたり製造を行っている。コロナや政情不安から、他に移すことも検討課題のひとつとはしているそうだが、「圧力鍋はパーツが中国でないと揃わないこともあり、中国での生産を継続しています」と事情を説明する。
人気が高まる電気圧力鍋は2014年から手掛けている。「これまで中国で非電気の圧力鍋を作ってきていますから、中国での製造の難しさは身をもって体験しています。最大の問題はやはり品質です」と指摘。協力工場のため自社工場のように100%の管理は行き届かない。「品質についてはゼロから徹底して教育しているのですが、少しでも目を離すと元に戻ってしまいます」と一筋縄ではいかない厳しい環境にある。
そんな状況を逆手にとるような、ワンダーシェフの徹底した品質へのこだわりには目を見張るものがある。通常なら輸入してすぐに販売できるはずの圧力鍋を、中国(一部マレーシア)の製造工場から輸入されたすべての製品を開梱し、大阪に構える専用の品質チェックの検査ラインで、熟練の検査員がひとつひとつ検査を行っているのだ。
検査は手順書に沿ってひとつひとつ確認していく。サイズ・外観の確認、ネジは1本1本を締め直し、パッキンの傷、フィルターの装着強度、内釜のバリの変形なども確認され、実際にひとつひとつ圧力をかけて安全性を確認する。
「残念ながら傷などの外観不良はたくさん入ってきます。ヒヤリハットで言えばやはり寸法違い。全品加圧検査をしていたので気づきましたが、していなかったらと思うとぞっとします」とはじめから作り直すのと変わらない手間をかけている。
もちろん中国の工場での検査は行っている。「そのまま国内で販売してしまう会社もありますが、国内で全数検査をやらなければ、安全性は担保できないと私は思います。私たちの事業目的は『おいしくて楽しくてしあわせな食卓をつくること』。食卓を彩る料理を作る大切な道具を提供しています。そこに不安になるようなことがあっては絶対になりません」と力を込める。
さらに、これだけでは終わらない。家庭用の圧力鍋・圧力釜は、消費生活用製品安全法の「特別特定製品以外の特定製品」に指定されており、国が定めた安全基準に適合していることを示す「PSCマーク」の付いた製品でければ国内で販売することはできない。さらに、一般財団法人製品安全協会が定めた安全基準に適合していることを認証された製品には「SGマーク」が表示される。
電気圧力鍋についても、電気用品安全法の「特定電気用品以外の電気用品」として指定され、PSCマークに加え、「PSEマーク」の表示がない製品は販売および販売目的での陳列はすることができない。さらに、第三者認証機関が安全性を確認した機器には「Sマーク」を表示することができる。
ワンダーシェフの圧力鍋は、全製品に「PSCマーク」と「SGマーク」、そして、電気圧力鍋全製品には加えて「PSEマーク」と「Sマーク」が付いている。伊藤社長は「安全な商品をお届けするために、しっかりと検査をするのは当たり前のこと」と胸を張る。
同社ではこれまで電気製品の取扱いの経験がなく、Sマークについては「当社は元々が鍋屋で電気製品に携わる技術者もいませんでしたし、品質管理においても未知の領域になりました。圧力鍋のワンダーシェフから待望の電気圧力鍋が出たと期待してくださる消費者の気持ちに応えるためにも、品質保証として第三者認証であるSマークを取得したのは当然の流れ」と品質への徹底したこだわりを訴える。
電気製品の安全性を担保する上では電安法に基づくPSEマークが存在するのだが、「PSEの規格はまさに使用者の安全を守るもので大変重要です。日本の製品が高品質だと言われる所以のひとつもそこにあります。ただし、最低限の守るべき安全規格であって、規格通りに作れているかどうかは、メーカー自らが確認しなくてはなりません」と課題を指摘する。
製品の安全性を取り巻く環境は劇的に変化している。商品の種類も限られ、そこで大手ナショナルブランドが大きなシェアを占めていた時代とは一変。商品ジャンルは用途に応じて多岐に細分化され、参入メーカーも国内外問わず多数に及ぶ。そのようななかでSマークの取得率は残念ながら減少傾向にある。伊藤社長は「なぜSマークを取得せずに商売ができるのか不思議でなりません。海外から輸入されている事業者さんはよほど品質管理に自信があるのでしょうか」と疑問を投げ掛ける。
ワンダーシェフでは調理家電を新発売するに際してSマーク認証を取得しているが、一発で合格したことは一度もないという。「PSEマークとは違い、Sマークはなくても国内で販売することはできます。しかし、Sマークの試験に合格していないということは、消費者安全を守るための国の基準であるPSE規格にも合格していないわけです。PSEマークにおける安全性の自己確認には限界も指摘されており、使用者の安全を守る観点から大変心配でなりません」とSマーク取得の意義を強調する。
「家電製品の歴史が浅い企業や小さな企業が、社内で製品の電気的な安全性を確認するのは大変な負担になります。第三者認証であるSマークを取得するのは、お客様が安心して製品を使っていただくことを目的とするメーカーとしては当然のこと。美味しい食卓を囲んでもらっている風景を常に想像しながら日々仕事に取り組んでおり、今後もこの方針がブレることはありません」と断言する。
電気圧力鍋はコロナ禍の一時のブームは過ぎたものの、ここに来ての電気代高騰により、時短調理で省エネにつながる点が注目を集めている。「高齢化が進むなか、摂食嚥下リハビリテーション学会では飲み込みやすさの基準が定められており、手軽に柔らかく調理できる電気圧力鍋には大きなメリットがあります。調理室の設置が義務付けられるこども園からも需要が伸長しています」と活躍の場はさらに広がっている。
製品の安全性に対する意識を高めていくために、「Sマークの存在やその意味を、消費者にもっと知っていただきたい」と訴える伊藤社長。「そのためには特に販売店さんがPSEマークだけでなく、Sマークが付いた製品の安全性の高さの認識を啓発していくことも大切ではないでしょうか。メーカーや仕入れ業者に対し、『Sマークが付いているものを納品してくれ』と言えるくらいでもいいと思います」と提言する。
Sマークは消費者およびメーカーのそれぞれの立場において、我が身を守る手段となるのはもちろんのこと、製品の安全性を担保するための取り巻く環境が複雑化していくなか、ひいてはそれが、販売事業者やメーカーが販売促進にも役立てることができる武器として、今後、注目されていくことになるかもしれない。
コロナ禍で人気急上昇「電気圧力鍋」の品質を徹底
ワンダーシェフは安心にこだわる。“おいしくて、楽しくて、しあわせな食卓”を提供する調理家電にSマーク取得は必然
PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純■南極昭和基地の調理道具もつくる「ワンダーシェフ」
コロナ禍では在宅時間が長くなり、様々な家電製品にスポットライトが当たった。外食の機会が減り、家庭で調理する機会が増えたことから関心が高まったのが、電子レンジ、炊飯器、トースターなどの調理家電。“電気圧力鍋” もそのひとつだ。
手の込んだ料理が簡単に作れることから人気を集める電気圧力鍋には海外勢を含め様々なブランドが参入。そのなかで “いぶし銀” とも言える存在感を放つのは、1951年に大阪豊中市で創業した「ワンダーシェフ」。家庭のキッチンからプロの厨房、さらには南極昭和基地でも使われている調理道具を作っているメーカーで、家庭用と業務用の圧力鍋が主力商品だ。
圧力鍋の普及率は約55%。「爆発など事故が起こりそうで怖い」といったイメージから敬遠する人もいるが、ここ数年の出荷台数では電気圧力鍋の構成比が半数を超え、「電気だから安全」と購入する人も増えている。
「圧力鍋のシュシュシュシュという音を気にされる方も多いようですが、実は圧を抜いている安全な証拠なんです」と語るワンダーシェフ代表取締役社長・伊藤彰浩氏。「一方、電気圧力鍋は音がしないため、安全だと勘違いされる人も少なくありません。構造が異なるから音がしないだけで、圧力をかけて100度以上で調理する基本的な仕組みは同じ。圧力鍋も電気圧力鍋もその危険性に変わりはありません」と解説する。
事故情報データバンク(消費者庁・独立行政法人国民生活センター)によると、圧力鍋に関連する事故情報は、平成20年度から令和2年度までの13年間に231件が報告されている。「蓋が外れて内容物が噴き出る」「鍋と蓋の隙間などから蒸気や内容物が噴出して鍋がコンロから落ちる」「調理中に部品が脱落する」「鍋を移動させる際に内容物をこぼす」など。けがも「熱傷」59件、「擦過傷・挫傷・打撲傷」4件、「骨折」3件などが発生。SNSでも、水と食材は3分の2以下(※豆類・麺類の場合は水と合わせて3分の1以下)と定められた内容量を間違え、内容物が噴出した失敗事例などが数多く見受けられる。
■全品開梱して熟練検査員がひとつひとつ厳しくチェック
事故を起こさないためには製品の正しい使い方、そして安全・安心な商品を使用することが大事となる。家電製品の製造拠点としては依然、部品供給など様々な理由から中国に頼らざるを得ないのが実情だ。ワンダーシェフもファブレスメーカーであり、中国の協力工場で長年にわたり製造を行っている。コロナや政情不安から、他に移すことも検討課題のひとつとはしているそうだが、「圧力鍋はパーツが中国でないと揃わないこともあり、中国での生産を継続しています」と事情を説明する。
人気が高まる電気圧力鍋は2014年から手掛けている。「これまで中国で非電気の圧力鍋を作ってきていますから、中国での製造の難しさは身をもって体験しています。最大の問題はやはり品質です」と指摘。協力工場のため自社工場のように100%の管理は行き届かない。「品質についてはゼロから徹底して教育しているのですが、少しでも目を離すと元に戻ってしまいます」と一筋縄ではいかない厳しい環境にある。
そんな状況を逆手にとるような、ワンダーシェフの徹底した品質へのこだわりには目を見張るものがある。通常なら輸入してすぐに販売できるはずの圧力鍋を、中国(一部マレーシア)の製造工場から輸入されたすべての製品を開梱し、大阪に構える専用の品質チェックの検査ラインで、熟練の検査員がひとつひとつ検査を行っているのだ。
検査は手順書に沿ってひとつひとつ確認していく。サイズ・外観の確認、ネジは1本1本を締め直し、パッキンの傷、フィルターの装着強度、内釜のバリの変形なども確認され、実際にひとつひとつ圧力をかけて安全性を確認する。
「残念ながら傷などの外観不良はたくさん入ってきます。ヒヤリハットで言えばやはり寸法違い。全品加圧検査をしていたので気づきましたが、していなかったらと思うとぞっとします」とはじめから作り直すのと変わらない手間をかけている。
もちろん中国の工場での検査は行っている。「そのまま国内で販売してしまう会社もありますが、国内で全数検査をやらなければ、安全性は担保できないと私は思います。私たちの事業目的は『おいしくて楽しくてしあわせな食卓をつくること』。食卓を彩る料理を作る大切な道具を提供しています。そこに不安になるようなことがあっては絶対になりません」と力を込める。
■全製品「PSCマーク」「SGマーク」「PSEマーク」「Sマーク」を取得
さらに、これだけでは終わらない。家庭用の圧力鍋・圧力釜は、消費生活用製品安全法の「特別特定製品以外の特定製品」に指定されており、国が定めた安全基準に適合していることを示す「PSCマーク」の付いた製品でければ国内で販売することはできない。さらに、一般財団法人製品安全協会が定めた安全基準に適合していることを認証された製品には「SGマーク」が表示される。
電気圧力鍋についても、電気用品安全法の「特定電気用品以外の電気用品」として指定され、PSCマークに加え、「PSEマーク」の表示がない製品は販売および販売目的での陳列はすることができない。さらに、第三者認証機関が安全性を確認した機器には「Sマーク」を表示することができる。
ワンダーシェフの圧力鍋は、全製品に「PSCマーク」と「SGマーク」、そして、電気圧力鍋全製品には加えて「PSEマーク」と「Sマーク」が付いている。伊藤社長は「安全な商品をお届けするために、しっかりと検査をするのは当たり前のこと」と胸を張る。
同社ではこれまで電気製品の取扱いの経験がなく、Sマークについては「当社は元々が鍋屋で電気製品に携わる技術者もいませんでしたし、品質管理においても未知の領域になりました。圧力鍋のワンダーシェフから待望の電気圧力鍋が出たと期待してくださる消費者の気持ちに応えるためにも、品質保証として第三者認証であるSマークを取得したのは当然の流れ」と品質への徹底したこだわりを訴える。
電気製品の安全性を担保する上では電安法に基づくPSEマークが存在するのだが、「PSEの規格はまさに使用者の安全を守るもので大変重要です。日本の製品が高品質だと言われる所以のひとつもそこにあります。ただし、最低限の守るべき安全規格であって、規格通りに作れているかどうかは、メーカー自らが確認しなくてはなりません」と課題を指摘する。
■メーカー自己確認に露呈する負担と限界
製品の安全性を取り巻く環境は劇的に変化している。商品の種類も限られ、そこで大手ナショナルブランドが大きなシェアを占めていた時代とは一変。商品ジャンルは用途に応じて多岐に細分化され、参入メーカーも国内外問わず多数に及ぶ。そのようななかでSマークの取得率は残念ながら減少傾向にある。伊藤社長は「なぜSマークを取得せずに商売ができるのか不思議でなりません。海外から輸入されている事業者さんはよほど品質管理に自信があるのでしょうか」と疑問を投げ掛ける。
ワンダーシェフでは調理家電を新発売するに際してSマーク認証を取得しているが、一発で合格したことは一度もないという。「PSEマークとは違い、Sマークはなくても国内で販売することはできます。しかし、Sマークの試験に合格していないということは、消費者安全を守るための国の基準であるPSE規格にも合格していないわけです。PSEマークにおける安全性の自己確認には限界も指摘されており、使用者の安全を守る観点から大変心配でなりません」とSマーク取得の意義を強調する。
「家電製品の歴史が浅い企業や小さな企業が、社内で製品の電気的な安全性を確認するのは大変な負担になります。第三者認証であるSマークを取得するのは、お客様が安心して製品を使っていただくことを目的とするメーカーとしては当然のこと。美味しい食卓を囲んでもらっている風景を常に想像しながら日々仕事に取り組んでおり、今後もこの方針がブレることはありません」と断言する。
電気圧力鍋はコロナ禍の一時のブームは過ぎたものの、ここに来ての電気代高騰により、時短調理で省エネにつながる点が注目を集めている。「高齢化が進むなか、摂食嚥下リハビリテーション学会では飲み込みやすさの基準が定められており、手軽に柔らかく調理できる電気圧力鍋には大きなメリットがあります。調理室の設置が義務付けられるこども園からも需要が伸長しています」と活躍の場はさらに広がっている。
製品の安全性に対する意識を高めていくために、「Sマークの存在やその意味を、消費者にもっと知っていただきたい」と訴える伊藤社長。「そのためには特に販売店さんがPSEマークだけでなく、Sマークが付いた製品の安全性の高さの認識を啓発していくことも大切ではないでしょうか。メーカーや仕入れ業者に対し、『Sマークが付いているものを納品してくれ』と言えるくらいでもいいと思います」と提言する。
Sマークは消費者およびメーカーのそれぞれの立場において、我が身を守る手段となるのはもちろんのこと、製品の安全性を担保するための取り巻く環境が複雑化していくなか、ひいてはそれが、販売事業者やメーカーが販売促進にも役立てることができる武器として、今後、注目されていくことになるかもしれない。
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