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公開日 2024/04/26 18:51
「Ryuichi Sakamoto | Opus」/5月10日全国公開
坂本龍一 最初で最後の長編コンサート映画、先行公開スタート。教授自身がデザインした映画館で観てきた
永井光晴
今年の東京の桜が開花した「3月29日」は例年より遅く、坂本龍一が亡くなって早1年が経った(2023年3月28日逝去)。昨年、その訃報を聞いたのは、新宿・歌舞伎町に誕生した「109シネマズプレミアム新宿」のプレオープンと同時期だった。
全席プレミアムシートのハイクラス映画館(鑑賞料金4,000円〜6,500円)として話題となった「109シネマズプレミアム新宿」は、全館のコンセプトにおいて、坂本龍一が監修に関わっている。また坂本が音響プロデュースしたスクリーン「SAION -SR EDITION-」があり、まさに坂本龍一が遺した文化遺産のひとつといえる。
同館では開館1周年を迎えて、坂本龍一の関連作品を上映するイベント『Ryuichi Sakamoto Premium Collection』を昨年に続き、今年も開催している(3月8日〜6月27日)。坂本が音楽を担当した新旧の映画作品、自身のドキュメンタリー映画、ライブ作品などが上映される。(上映作品リストはこちら)
なかでも目玉となるのが、新作として公開される、坂本龍一の最初で最後の長編コンサート映画「Ryuichi Sakamoto | Opus」だ。全国公開は5月10日(金)のところ、本日4月26日より「109シネマズプレミアム新宿」では先行公開された。筆者は早速、初日の上映に参加した。
「Ryuichi Sakamoto | Opus」は、坂本が亡くなる半年前に収録された、最後のソロコンサートの模様を収録した長編コンサート映画である。闘病生活のなかですでに通常の形式でコンサートをやりきる体力が残っていなかったため、1日数曲のペースで収録した演奏をつなぎ、1本のコンサートになるように編集された。収録場所は坂本自身が「いい音のスタジオ」と評価する「NHKのスタジオ509」で、監督の空音央(そら・ねお)とビル・キルスタイン撮影監督によって行われた。
坂本龍一の家族は少し複雑だが、監督の空音央は、晩年の坂本のパートナーであった空里香(そら・のりか)との間の息子である。
空音央は、「坂本龍一が意図したコンサートをできるかぎり忠実に映画化するため、本人含めスタッフ一同、全身全霊でOpusを作り上げました。出来上がった映画には物語やセリフはありません。ピアノと身体、音楽と表情だけのコンサート映画です。ウトウトしたら音楽に揺さぶられながら寝ちゃうのも一興。本物のコンサートのつもりで音に身を預け、体験していただければ、本人も嬉しかったんじゃないかと思います。Enjoy the concert! 」とコメント。
撮影監督のビル・キルスタインは、「坂本さんの演奏、美しいオーケストラ・レコーディング・ホール、入念なサウンド・レコーディングが相まって、まるで大聖堂で撮影しているかのような、あるいは森の中でじっと座っているかのような、独特の雰囲気が生まれました」と振り返る。
タイトルの「Opus」(オーパス)はラテン語由来の「作品」という意味の単語。「坂本龍一の作品」という意味になる。クラシック楽曲タイトルによく見られる「Op.n(nは番号)」は作曲家の一連の作品番号表記として「Opus」が使われる。ちなみにOpera(オペラ)は、たくさんの作品の集合体という意味の「Opus」の複数形だ。
全編モノクローム作品。綿密にセッティングされた収録マイクで完璧に捉えられたグランドピアノの音。坂本自身が「いい音」と評する「NHKのスタジオ509」で収録されたラストパフォーマンスを、自身がチューニングしたスクリーン「SAION -SR EDITION-」で再生する意味を知ることができる。これは特別な体験だ。
先に述べたとおり、筆者は1年前の劇場プレオープンに参加しているが、そのときの「SAION -SR EDITION-」とは、次元の違う音に驚くことになる。オーディオ的には「部屋の音が馴染んだ」または「エージングがすすんだ」というべきか。1年前は、新鮮だけど固くてどこかよそよそしかった空間が、いまは実にこなれている。
静寂が美しい。一曲一曲の渾身の集中力でのピアノ演奏はもちろんのこと、楽曲終わりの余韻、そして続く静寂を全身で浴びるような空間に包まれる本作は、自分が映画館にいるのではなく、その場にスタジオ509がそのまま再現される「再生芸術」だ。自分の唾を飲み込むことさえ躊躇する。
本作の入場チケットには「食べ物持込NG」とある。 109シネマズプレミアム新宿は入場時にドリンクとポップコーンが提供されることがウリだが、この理由にも納得だ。 劇場内でのわずかなポップコーンを食べる音さえも許せないほどの緊張感がそこにある。(5/1:記事修正 ※すべての上映回が食べ物持込NGというわけではありません。通常上映回もあります)
全国公開作品なので、他のスクリーンでの再生環境でどうなるかは分からない。もちろん作品自体の良さは格別だ。近年こだわりの音響設備を導入しているスクリーンが増えているので、収録の素晴らしさはきっと届くことだろう。
しかし、そのうえで109シネマズプレミアム新宿で、この「再生芸術」を自らの目と耳でぜひ体験してみてほしいとも思う。ゴールデンウィークに東京へ小旅行して鑑賞するのはどうだろう。世界のサカモトが 「SAION -SR EDITION-」で意図していた音がここに帰結する。
映画はエンドロール後、教授が好んだという、やはりラテン語の一節、「Ars lohga, vita brevis. (芸術は長く、人生は短し)」で締めくくられる。
(2024/4/26/109シネマズプレミアム新宿/Screen7/ビスタ/モノクロ)
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「Ryuichi Sakamoto | Opus」セットリスト
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・Lack of Love
・BB
・Andata
・Solitude
・for Johann
・Aubade 2020
・Ichimei - small happiness
・Mizu no Naka no Bagatelle
・Bibo no Aozora
・Aqua
・Tong Poo
・The Wuthering Heights
・20220302 - sarabande
・The Sheltering Sky
・20180219(w prepared piano
・The Last Emperor
・Trioon
・Happy End
・Merry Christmas, Mr. Lawrence
・Opus - ending
(c) KAB America Inc. KAB Inc.
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入場者特典として、ポストカードがプレゼントされることも決定した。表面は坂本とグランドピアノのシルエットが浮き上がるデザインとなっており、裏面にはセットリストが記載される。ポストカードは4月26日に先行公開が行われる109シネマズプレミアム新宿や、5月10日公開の各劇場で配布される。枚数限定・先着順。
全席プレミアムシートのハイクラス映画館(鑑賞料金4,000円〜6,500円)として話題となった「109シネマズプレミアム新宿」は、全館のコンセプトにおいて、坂本龍一が監修に関わっている。また坂本が音響プロデュースしたスクリーン「SAION -SR EDITION-」があり、まさに坂本龍一が遺した文化遺産のひとつといえる。
同館では開館1周年を迎えて、坂本龍一の関連作品を上映するイベント『Ryuichi Sakamoto Premium Collection』を昨年に続き、今年も開催している(3月8日〜6月27日)。坂本が音楽を担当した新旧の映画作品、自身のドキュメンタリー映画、ライブ作品などが上映される。(上映作品リストはこちら)
なかでも目玉となるのが、新作として公開される、坂本龍一の最初で最後の長編コンサート映画「Ryuichi Sakamoto | Opus」だ。全国公開は5月10日(金)のところ、本日4月26日より「109シネマズプレミアム新宿」では先行公開された。筆者は早速、初日の上映に参加した。
「Ryuichi Sakamoto | Opus」は、坂本が亡くなる半年前に収録された、最後のソロコンサートの模様を収録した長編コンサート映画である。闘病生活のなかですでに通常の形式でコンサートをやりきる体力が残っていなかったため、1日数曲のペースで収録した演奏をつなぎ、1本のコンサートになるように編集された。収録場所は坂本自身が「いい音のスタジオ」と評価する「NHKのスタジオ509」で、監督の空音央(そら・ねお)とビル・キルスタイン撮影監督によって行われた。
坂本龍一の家族は少し複雑だが、監督の空音央は、晩年の坂本のパートナーであった空里香(そら・のりか)との間の息子である。
空音央は、「坂本龍一が意図したコンサートをできるかぎり忠実に映画化するため、本人含めスタッフ一同、全身全霊でOpusを作り上げました。出来上がった映画には物語やセリフはありません。ピアノと身体、音楽と表情だけのコンサート映画です。ウトウトしたら音楽に揺さぶられながら寝ちゃうのも一興。本物のコンサートのつもりで音に身を預け、体験していただければ、本人も嬉しかったんじゃないかと思います。Enjoy the concert! 」とコメント。
撮影監督のビル・キルスタインは、「坂本さんの演奏、美しいオーケストラ・レコーディング・ホール、入念なサウンド・レコーディングが相まって、まるで大聖堂で撮影しているかのような、あるいは森の中でじっと座っているかのような、独特の雰囲気が生まれました」と振り返る。
109シネマズプレミアム新宿で「Ryuichi Sakamoto | Opus」を聴く特別な理由
タイトルの「Opus」(オーパス)はラテン語由来の「作品」という意味の単語。「坂本龍一の作品」という意味になる。クラシック楽曲タイトルによく見られる「Op.n(nは番号)」は作曲家の一連の作品番号表記として「Opus」が使われる。ちなみにOpera(オペラ)は、たくさんの作品の集合体という意味の「Opus」の複数形だ。
全編モノクローム作品。綿密にセッティングされた収録マイクで完璧に捉えられたグランドピアノの音。坂本自身が「いい音」と評する「NHKのスタジオ509」で収録されたラストパフォーマンスを、自身がチューニングしたスクリーン「SAION -SR EDITION-」で再生する意味を知ることができる。これは特別な体験だ。
先に述べたとおり、筆者は1年前の劇場プレオープンに参加しているが、そのときの「SAION -SR EDITION-」とは、次元の違う音に驚くことになる。オーディオ的には「部屋の音が馴染んだ」または「エージングがすすんだ」というべきか。1年前は、新鮮だけど固くてどこかよそよそしかった空間が、いまは実にこなれている。
静寂が美しい。一曲一曲の渾身の集中力でのピアノ演奏はもちろんのこと、楽曲終わりの余韻、そして続く静寂を全身で浴びるような空間に包まれる本作は、自分が映画館にいるのではなく、その場にスタジオ509がそのまま再現される「再生芸術」だ。自分の唾を飲み込むことさえ躊躇する。
本作の入場チケットには「食べ物持込NG」とある。 109シネマズプレミアム新宿は入場時にドリンクとポップコーンが提供されることがウリだが、この理由にも納得だ。 劇場内でのわずかなポップコーンを食べる音さえも許せないほどの緊張感がそこにある。(5/1:記事修正 ※すべての上映回が食べ物持込NGというわけではありません。通常上映回もあります)
全国公開作品なので、他のスクリーンでの再生環境でどうなるかは分からない。もちろん作品自体の良さは格別だ。近年こだわりの音響設備を導入しているスクリーンが増えているので、収録の素晴らしさはきっと届くことだろう。
しかし、そのうえで109シネマズプレミアム新宿で、この「再生芸術」を自らの目と耳でぜひ体験してみてほしいとも思う。ゴールデンウィークに東京へ小旅行して鑑賞するのはどうだろう。世界のサカモトが 「SAION -SR EDITION-」で意図していた音がここに帰結する。
映画はエンドロール後、教授が好んだという、やはりラテン語の一節、「Ars lohga, vita brevis. (芸術は長く、人生は短し)」で締めくくられる。
(2024/4/26/109シネマズプレミアム新宿/Screen7/ビスタ/モノクロ)
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「Ryuichi Sakamoto | Opus」セットリスト
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・Lack of Love
・BB
・Andata
・Solitude
・for Johann
・Aubade 2020
・Ichimei - small happiness
・Mizu no Naka no Bagatelle
・Bibo no Aozora
・Aqua
・Tong Poo
・The Wuthering Heights
・20220302 - sarabande
・The Sheltering Sky
・20180219(w prepared piano
・The Last Emperor
・Trioon
・Happy End
・Merry Christmas, Mr. Lawrence
・Opus - ending
(c) KAB America Inc. KAB Inc.
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入場者特典として、ポストカードがプレゼントされることも決定した。表面は坂本とグランドピアノのシルエットが浮き上がるデザインとなっており、裏面にはセットリストが記載される。ポストカードは4月26日に先行公開が行われる109シネマズプレミアム新宿や、5月10日公開の各劇場で配布される。枚数限定・先着順。
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