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公開日 2023/04/20 10:43
【連載】佐野正弘のITインサイト 第54回
携帯3社がサービスを開始した「5G SA」、その移行が“茨の道”となっている理由
佐野正弘
携帯各社がネットワーク整備を進めている5G。だが現在、大半のエリアは4Gのネットワークに5Gの基地局を追加し、5Gの一部機能だけを利用できるようにするノンスタンドアローン(NSA)運用で整備がなされている。
それゆえ5Gの性能をフルに活かすには、基地局だけでなくコアネットワークも5G仕様のもので運用する、スタンドアローン(SA)運用に移行する必要がある。最終的にはネットワーク全体がSA運用に移行しなければ、5Gのネットワーク整備が完了したとは言えないことから、携帯各社もNSAからSAへの移行を進めつつあるようだ。
5GのSA運用によるサービスは、これまで法人向けが先行していたが、ここ最近コンシューマー向けにもサービスを提供する動きが相次いでいる。実際、ソフトバンクは3月28日に、ソフトバンクブランドでコンシューマー向けの5G SAサービスを提供開始すると発表。対応機種は米アップルの「iPhone 14」シリーズなどになるという。
またKDDIも4月11日、auブランドの利用者向けにSA運用によるサービスの提供を、4月13日より開始すると発表。対応機種は発表されたばかりの新機種であるサムスン電子の「Galaxy S23」シリーズなどで、利用するには対応するSIMへの交換が必要になるとのことだ。
NTTドコモは既に、2022年8月からスマートフォン向けのSA運用によるサービスを提供していることから、これで携帯大手3社がコンシューマー向けに5GのSA運用によるサービスを提供開始することとなる。いずれも当面、追加料金は無料で利用できるというが、将来的には有料サービスへの移行を検討しているようで、NTTドコモやソフトバンクの事例を見ると月額550円が想定されている。
なぜ有料でのサービス提供を想定しているのに、現在は無料なのか?というと、対応するエリアがあまりにも狭いためだ。実際執筆時点では、NTTドコモとソフトバンクが5G SA提供エリアを公開していることからそちらを確認すると、双方共に利用できる場所が地図ではなくリスト形式で記されており、その数も非常に少ない上に「1F 店内」「正面入り口周辺」など、利用できる場所がかなり具体的に記されていることが分かる。
エリアを公開していないKDDIも同様の状況にあると考えられるが、その内容を見て思い起こされるのは、5Gのサービスが開始した2020年当初のエリアである。当時各社が公開していた5G対応エリアも一覧形式で、使える場所もかなり具体的に記載されており、その場所以外では5Gの通信自体ができない状況だった。
つまり現在の5G SAサービスは、5Gのサービス開始当初と同様、非常に限られたごくごく一部のスポットでしか利用できず、多くの人にとって体験することさえ困難な状況にある。そのような状況でお金を取るとなれば、ユーザーの不満が噴出するだけに、面で利用できるエリアが増えるまでは無料で提供せざるを得ないというのが正直なところだろう。
ゆえに、SA運用によるサービスの恩恵を多くの人が受けるには時間がかかると考えられるが、エリア以外にも5G SAのサービスには課題が少なからずある。対応する端末がまだまだ少ないというのも理由の1つだが、より大きな理由は、SA運用に移行したところでメリットがほぼ見出だせないことだ。
SA運用への移行で最もメリットが大きいとされているのが、「ネットワークスライシング」が利用できることだ。これは、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じたリソースを確保する技術であり、モバイルで通信の中に専用線を設け、安定した通信を保証する仕組みといえば分かりやすいだろうか。
それゆえネットワークスライシングは、例えば4Kの映像を確実に中継したい放送事業者など、モバイルで安定・確実な通信ができる専用のネットワークを欲している企業にとってはメリットが大きいのだが、コンシューマー向けとなると明確な活用用途が開拓されていないのが現状だ。一般消費者がSA運用に移行しても、受けられる恩恵が非常に限定的なだけに、サービスが有料で提供されるとなれば利用が進まない可能性も十分に考えられる。
であれば、ネットワークスライシングのニーズが大きい、法人向けのSA運用によるサービスは順調に開拓が進むのだろうか。たしかに企業向けの場合、ニーズが明確に存在するのに加え、5Gを使いたい施設周辺のネットワークをSA運用に移行すればよく、コンシューマー向けのように広いエリアをカバーしなくても満足できるサービスを提供できることから、ビジネスの立ち上がりも早いと見られている。
実際NTTドコモもKDDIも、法人向けのSA運用によるサービスは既に提供を開始しているし、ソフトバンクも3月29日にSA運用による企業向け5Gサービス「プライベート5G」の提供を発表。法人向けのサービスはコンシューマー向けより、積極的な取り組みがなされていることが分かる。
だが、こちらも利用を広げるには課題が少なからずあり、中でも大きな課題となりそうなのがネットワーク容量である。ネットワークスライシングで4K、8Kの映像をやり取りするような大きな容量を確保するためには、他の通信も維持する必要があるため、ネットワークにもより大きな容量が求められる。
そのためには、大容量通信に耐えられる幅の広い周波数帯が必要になってくることから、5G向けに割り当てられた高い周波数帯でのネットワーク整備が必要不可欠だ。だが、日本の携帯電話会社は5G向けの周波数帯よりも、広域のカバーを優先して4Gから転用した低い周波数帯を積極的に用いて5Gのネットワーク整備を進めている。
そこには、全国一律での5G整備を強く求める政府の意向や、5G向け周波数帯の一部が衛星通信と干渉して思うように整備が進められなかったこと、そして政府主導の料金引き下げで業績が大幅に悪化し、投資コストを抑制していることなど複数の要因が働いている。だがどのような理由にせよ、携帯各社の5Gネットワークが現状、通信容量よりエリアに重点を置いていることはたしかだろう。
そしてネットワークの容量が少なければ、ネットワークスライシングで大きな容量を確保するのが難しくなる。それゆえ、ネットワークスライシングで大きな容量を保証して欲しいという企業が増えれば、コンシューマー向けの通信サービスに向けた容量を十分確保できなくなるなど、通信容量の少なさがボトルネックになって問題が発生する可能性も考えられるわけだ。
将来を考慮すれば、SA運用への移行は欠かせないものだが、移行に向けてはコンシューマー・法人共に多くの課題が残っており、携帯各社にとって茨の道になってしまっている…というのが正直なところだろう。世界的に遅れているとされる日本の5Gを再興する上でも、早期の課題解決が求められるだろう。
■5Gをフルに活かすSA運用への移行
それゆえ5Gの性能をフルに活かすには、基地局だけでなくコアネットワークも5G仕様のもので運用する、スタンドアローン(SA)運用に移行する必要がある。最終的にはネットワーク全体がSA運用に移行しなければ、5Gのネットワーク整備が完了したとは言えないことから、携帯各社もNSAからSAへの移行を進めつつあるようだ。
5GのSA運用によるサービスは、これまで法人向けが先行していたが、ここ最近コンシューマー向けにもサービスを提供する動きが相次いでいる。実際、ソフトバンクは3月28日に、ソフトバンクブランドでコンシューマー向けの5G SAサービスを提供開始すると発表。対応機種は米アップルの「iPhone 14」シリーズなどになるという。
またKDDIも4月11日、auブランドの利用者向けにSA運用によるサービスの提供を、4月13日より開始すると発表。対応機種は発表されたばかりの新機種であるサムスン電子の「Galaxy S23」シリーズなどで、利用するには対応するSIMへの交換が必要になるとのことだ。
NTTドコモは既に、2022年8月からスマートフォン向けのSA運用によるサービスを提供していることから、これで携帯大手3社がコンシューマー向けに5GのSA運用によるサービスを提供開始することとなる。いずれも当面、追加料金は無料で利用できるというが、将来的には有料サービスへの移行を検討しているようで、NTTドコモやソフトバンクの事例を見ると月額550円が想定されている。
なぜ有料でのサービス提供を想定しているのに、現在は無料なのか?というと、対応するエリアがあまりにも狭いためだ。実際執筆時点では、NTTドコモとソフトバンクが5G SA提供エリアを公開していることからそちらを確認すると、双方共に利用できる場所が地図ではなくリスト形式で記されており、その数も非常に少ない上に「1F 店内」「正面入り口周辺」など、利用できる場所がかなり具体的に記されていることが分かる。
エリアを公開していないKDDIも同様の状況にあると考えられるが、その内容を見て思い起こされるのは、5Gのサービスが開始した2020年当初のエリアである。当時各社が公開していた5G対応エリアも一覧形式で、使える場所もかなり具体的に記載されており、その場所以外では5Gの通信自体ができない状況だった。
つまり現在の5G SAサービスは、5Gのサービス開始当初と同様、非常に限られたごくごく一部のスポットでしか利用できず、多くの人にとって体験することさえ困難な状況にある。そのような状況でお金を取るとなれば、ユーザーの不満が噴出するだけに、面で利用できるエリアが増えるまでは無料で提供せざるを得ないというのが正直なところだろう。
ゆえに、SA運用によるサービスの恩恵を多くの人が受けるには時間がかかると考えられるが、エリア以外にも5G SAのサービスには課題が少なからずある。対応する端末がまだまだ少ないというのも理由の1つだが、より大きな理由は、SA運用に移行したところでメリットがほぼ見出だせないことだ。
■未だ見出だせないSA運用のメリット
SA運用への移行で最もメリットが大きいとされているのが、「ネットワークスライシング」が利用できることだ。これは、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じたリソースを確保する技術であり、モバイルで通信の中に専用線を設け、安定した通信を保証する仕組みといえば分かりやすいだろうか。
それゆえネットワークスライシングは、例えば4Kの映像を確実に中継したい放送事業者など、モバイルで安定・確実な通信ができる専用のネットワークを欲している企業にとってはメリットが大きいのだが、コンシューマー向けとなると明確な活用用途が開拓されていないのが現状だ。一般消費者がSA運用に移行しても、受けられる恩恵が非常に限定的なだけに、サービスが有料で提供されるとなれば利用が進まない可能性も十分に考えられる。
であれば、ネットワークスライシングのニーズが大きい、法人向けのSA運用によるサービスは順調に開拓が進むのだろうか。たしかに企業向けの場合、ニーズが明確に存在するのに加え、5Gを使いたい施設周辺のネットワークをSA運用に移行すればよく、コンシューマー向けのように広いエリアをカバーしなくても満足できるサービスを提供できることから、ビジネスの立ち上がりも早いと見られている。
実際NTTドコモもKDDIも、法人向けのSA運用によるサービスは既に提供を開始しているし、ソフトバンクも3月29日にSA運用による企業向け5Gサービス「プライベート5G」の提供を発表。法人向けのサービスはコンシューマー向けより、積極的な取り組みがなされていることが分かる。
だが、こちらも利用を広げるには課題が少なからずあり、中でも大きな課題となりそうなのがネットワーク容量である。ネットワークスライシングで4K、8Kの映像をやり取りするような大きな容量を確保するためには、他の通信も維持する必要があるため、ネットワークにもより大きな容量が求められる。
そのためには、大容量通信に耐えられる幅の広い周波数帯が必要になってくることから、5G向けに割り当てられた高い周波数帯でのネットワーク整備が必要不可欠だ。だが、日本の携帯電話会社は5G向けの周波数帯よりも、広域のカバーを優先して4Gから転用した低い周波数帯を積極的に用いて5Gのネットワーク整備を進めている。
そこには、全国一律での5G整備を強く求める政府の意向や、5G向け周波数帯の一部が衛星通信と干渉して思うように整備が進められなかったこと、そして政府主導の料金引き下げで業績が大幅に悪化し、投資コストを抑制していることなど複数の要因が働いている。だがどのような理由にせよ、携帯各社の5Gネットワークが現状、通信容量よりエリアに重点を置いていることはたしかだろう。
そしてネットワークの容量が少なければ、ネットワークスライシングで大きな容量を確保するのが難しくなる。それゆえ、ネットワークスライシングで大きな容量を保証して欲しいという企業が増えれば、コンシューマー向けの通信サービスに向けた容量を十分確保できなくなるなど、通信容量の少なさがボトルネックになって問題が発生する可能性も考えられるわけだ。
将来を考慮すれば、SA運用への移行は欠かせないものだが、移行に向けてはコンシューマー・法人共に多くの課題が残っており、携帯各社にとって茨の道になってしまっている…というのが正直なところだろう。世界的に遅れているとされる日本の5Gを再興する上でも、早期の課題解決が求められるだろう。
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