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公開日 2023/10/19 10:21
【連載】佐野正弘のITインサイト 第79回
通信品質改善を進めるNTTドコモ、競合に出遅れた理由はどこに
佐野正弘
コロナ禍からの人流回復を機として、大都市圏を中心に著しい通信品質低下が起き、利用者からの不満の声が大幅に増えているNTTドコモ。そこで同社は、通信品質の低下が顕著な、東京の渋谷・新宿・池袋・新橋の4エリアに向けた通信品質対策を急ピッチで進めてきたが、NTTドコモの通信品質に対するユーザーの不満はそれで収まったわけではない。
その一方で、ソフトバンクが人流回復後も通信品質を維持していることをアピールしており、競合の通信品質に対する評価が急速に高まっている状況にある。このような状況が続けば、通信品質低下を嫌うNTTドコモユーザーが大挙して他社に流れてしまう可能性も出てきてしまうだろう。
そうしたことからNTTドコモは、先の4エリアでの通信品質低下を受け、全国的に通信品質の大幅な改善を進める方針のようだ。実際10月10日に同社は記者説明会を実施し、現在進めている通信品質改善に向けた新たな取り組みを打ち出している。
それは、300億円の先行投資をして全国規模で将来を見据えた通信品質対策を、2023年12月までに進めること。対策を進めている場所の1つは、既にトラフィックが多い場所だけでなく、今後トラフィックの増加で対策が必要になる箇所も含めた、全国2,000箇所以上の“点”と位置付けるエリアである。
そしてもう1つは全国の鉄道動線であり、乗降客数の多い路線を中心に“線”でのトラフィック対策を進める方針だという。一連の対策は、NTTドコモの通信品質に対する問題が顕著になった春頃から進められているそうで、“点”に向けた対策は既に90%以上が完了しているとのこと。一方で“線”の対策は、現在情報分析を進めている最中であり、12月までの既存基地局を中心とした対策を進めるとしている。
では、実際のところどのような対策をしているのだろうか。NTTドコモでは従来、全国のネットワークを監視して通信品質を確認し、対策が必要な場所を見つけたら具体的な対策を検討し、実施するというサイクルを回して品質対策を進めてきたというが、それら一連のサイクルに新しい技術を導入することで対策強化を図っていくとのことだ。
まず、通信品質を確認する部分に関してだが、NTTドコモでは新たに昨今話題となっている「生成AI」を活用した分析を導入している。NTTドコモはこれまでにも機械学習技術を活用し、ネットワークのトラフィック情報とユーザーからの声を掛け合わせてトラフィックが増加する予兆を検知することに力を入れてきたが、今回それに加えてNTTドコモが開発したLLM(大規模言語モデル)を活用。SNS上の「つながらない」などの投稿を生成AIによって分析し、通信品質対策が必要な場所を抽出できるようにしたとのことだ。
続いて、通信品質低下が低下している、あるいはその予兆がある場所に向けた対策についてだが、こちらに関しても新たな取り組みを行っている。1つは5Gのアップロード通信品質の改善で、基地局の高度化によって5Gと4Gのうち最適なアップロード経路を選択できるようにすることで、5Gエリアの端付近でのアップロード速度が2倍に向上したという。
そしてもう1つは、5Gの通信容量を大幅に向上する切り札とされる「Massive MIMO」対応設備の導入だ。NTTドコモは、Massive MIMOの主要技術の1つ「ビームフォーミング」に対応した設備は既に導入しているが、もう1つの主要技術である「MU-MIMO」に対応した設備は導入していなかった。
その理由は設備のサイズが大きく、消費電力も大きいことから、耐震性などが重視される日本では、基地局を設置するビルのオーナーなどからの設置許可が得られなかったためである。だがNTTドコモは今回、MU-MIMOに対応しながらサイズも消費電力も従来より小さい設備を導入、ビルのオーナーなどからの許可が得やすくなったことから、今後積極的に設置を進めていく方針だとしている。
こうした新しい技術の導入によって、品質改善が進むこと自体は歓迎されるのだが、一連の説明を聞くに、同社の5Gネットワーク整備戦略が通信品質の低下に大きく影響したという部分が、少なからずあるのではないかとも感じる。中でも、そのことを象徴しているのが“線”、つまり鉄道動線に向けた対策だ。
なぜなら競合他社、特にKDDIは5Gの整備開始からかなり早い時点で、鉄道路線に重点を置いて5Gのエリア整備を進めていることをアピールしていた。それだけに、最近になって鉄道動線のトラフィック対策を打ち出したNTTドコモの取り組みは遅いと言わざるを得ない。
他社との違いという点でいえば、“線”だけでなく“面”に関する取り組みの違いも見逃せない。ソフトバンクの通信品質改善が進んでいる要因の1つとして、5Gの基地局を密に設置することで5Gエリアの“端”を減らす取り組みに力を入れていることを挙げていたが、NTTドコモは5Gを面的に広げるという部分でも他社に大きく後れを取っている。
基地局から飛ぶ電波は遠くに行くほど弱くなるため、電波がかろうじて届くかどうかという“端”の場所では接続こそできるが、通信速度は著しく低下しやすい。NTTドコモは高速通信に重点を置き、電波が飛びにくく広範囲をカバーしづらい高い周波数帯を主に使用して5Gのエリア整備を進めてきたことから、他社より5Gの基地局数が少なく面でのカバーで出遅れており、“端”の場所が発生しやすいことが通信品質低下の要因の1つとなっている。
他社は、4Gから転用した周波数帯を積極的に使って5Gのエリアを広げてきたが、NTTドコモは転用周波数帯では4Gと通信速度が変わらず、5Gらしい高速通信ができないとしてその利活用に消極的だった。それが結果的に、面での5Gエリア整備が進まず、通信品質を落とす要因になってしまったといえるだろう。
それだけに、NTTドコモの通信品質対策を進める上で強く求められるのは、5Gのエリアを“点”ではなく“線”や“面”で広げることに尽きる。政府による料金引き下げ要請で、同社の事業も厳しい状況にあるが、コストをかけてでも5Gの基地局整備を急ぐことこそが、やはり通信品質を向上させ顧客からの信頼回復につながる近道なのではないだろうか。
その一方で、ソフトバンクが人流回復後も通信品質を維持していることをアピールしており、競合の通信品質に対する評価が急速に高まっている状況にある。このような状況が続けば、通信品質低下を嫌うNTTドコモユーザーが大挙して他社に流れてしまう可能性も出てきてしまうだろう。
■全国的な通信品質の大幅改善を発表したNTTドコモ
そうしたことからNTTドコモは、先の4エリアでの通信品質低下を受け、全国的に通信品質の大幅な改善を進める方針のようだ。実際10月10日に同社は記者説明会を実施し、現在進めている通信品質改善に向けた新たな取り組みを打ち出している。
それは、300億円の先行投資をして全国規模で将来を見据えた通信品質対策を、2023年12月までに進めること。対策を進めている場所の1つは、既にトラフィックが多い場所だけでなく、今後トラフィックの増加で対策が必要になる箇所も含めた、全国2,000箇所以上の“点”と位置付けるエリアである。
そしてもう1つは全国の鉄道動線であり、乗降客数の多い路線を中心に“線”でのトラフィック対策を進める方針だという。一連の対策は、NTTドコモの通信品質に対する問題が顕著になった春頃から進められているそうで、“点”に向けた対策は既に90%以上が完了しているとのこと。一方で“線”の対策は、現在情報分析を進めている最中であり、12月までの既存基地局を中心とした対策を進めるとしている。
では、実際のところどのような対策をしているのだろうか。NTTドコモでは従来、全国のネットワークを監視して通信品質を確認し、対策が必要な場所を見つけたら具体的な対策を検討し、実施するというサイクルを回して品質対策を進めてきたというが、それら一連のサイクルに新しい技術を導入することで対策強化を図っていくとのことだ。
まず、通信品質を確認する部分に関してだが、NTTドコモでは新たに昨今話題となっている「生成AI」を活用した分析を導入している。NTTドコモはこれまでにも機械学習技術を活用し、ネットワークのトラフィック情報とユーザーからの声を掛け合わせてトラフィックが増加する予兆を検知することに力を入れてきたが、今回それに加えてNTTドコモが開発したLLM(大規模言語モデル)を活用。SNS上の「つながらない」などの投稿を生成AIによって分析し、通信品質対策が必要な場所を抽出できるようにしたとのことだ。
続いて、通信品質低下が低下している、あるいはその予兆がある場所に向けた対策についてだが、こちらに関しても新たな取り組みを行っている。1つは5Gのアップロード通信品質の改善で、基地局の高度化によって5Gと4Gのうち最適なアップロード経路を選択できるようにすることで、5Gエリアの端付近でのアップロード速度が2倍に向上したという。
そしてもう1つは、5Gの通信容量を大幅に向上する切り札とされる「Massive MIMO」対応設備の導入だ。NTTドコモは、Massive MIMOの主要技術の1つ「ビームフォーミング」に対応した設備は既に導入しているが、もう1つの主要技術である「MU-MIMO」に対応した設備は導入していなかった。
その理由は設備のサイズが大きく、消費電力も大きいことから、耐震性などが重視される日本では、基地局を設置するビルのオーナーなどからの設置許可が得られなかったためである。だがNTTドコモは今回、MU-MIMOに対応しながらサイズも消費電力も従来より小さい設備を導入、ビルのオーナーなどからの許可が得やすくなったことから、今後積極的に設置を進めていく方針だとしている。
■5Gネットワーク整備戦略における通信品質低下への影響
こうした新しい技術の導入によって、品質改善が進むこと自体は歓迎されるのだが、一連の説明を聞くに、同社の5Gネットワーク整備戦略が通信品質の低下に大きく影響したという部分が、少なからずあるのではないかとも感じる。中でも、そのことを象徴しているのが“線”、つまり鉄道動線に向けた対策だ。
なぜなら競合他社、特にKDDIは5Gの整備開始からかなり早い時点で、鉄道路線に重点を置いて5Gのエリア整備を進めていることをアピールしていた。それだけに、最近になって鉄道動線のトラフィック対策を打ち出したNTTドコモの取り組みは遅いと言わざるを得ない。
他社との違いという点でいえば、“線”だけでなく“面”に関する取り組みの違いも見逃せない。ソフトバンクの通信品質改善が進んでいる要因の1つとして、5Gの基地局を密に設置することで5Gエリアの“端”を減らす取り組みに力を入れていることを挙げていたが、NTTドコモは5Gを面的に広げるという部分でも他社に大きく後れを取っている。
基地局から飛ぶ電波は遠くに行くほど弱くなるため、電波がかろうじて届くかどうかという“端”の場所では接続こそできるが、通信速度は著しく低下しやすい。NTTドコモは高速通信に重点を置き、電波が飛びにくく広範囲をカバーしづらい高い周波数帯を主に使用して5Gのエリア整備を進めてきたことから、他社より5Gの基地局数が少なく面でのカバーで出遅れており、“端”の場所が発生しやすいことが通信品質低下の要因の1つとなっている。
他社は、4Gから転用した周波数帯を積極的に使って5Gのエリアを広げてきたが、NTTドコモは転用周波数帯では4Gと通信速度が変わらず、5Gらしい高速通信ができないとしてその利活用に消極的だった。それが結果的に、面での5Gエリア整備が進まず、通信品質を落とす要因になってしまったといえるだろう。
それだけに、NTTドコモの通信品質対策を進める上で強く求められるのは、5Gのエリアを“点”ではなく“線”や“面”で広げることに尽きる。政府による料金引き下げ要請で、同社の事業も厳しい状況にあるが、コストをかけてでも5Gの基地局整備を急ぐことこそが、やはり通信品質を向上させ顧客からの信頼回復につながる近道なのではないだろうか。