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公開日 2020/07/30 17:09
「ミュージック・エクセレンス・プロジェクト」
ソニー、10代の音楽家を支援するアカデミープログラム。独自センシング技術など活用
編集部:川田菜月
ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)は、音楽芸術活動に携わるアーティストの成長を支援する「ミュージック・エクセレンス・プロジェクト」を立ち上げ。初のプログラムとして、10代のピアニストを対象とした身体および芸術教育を包括的に提供するアカデミープログラムを8月1日からスタートする。
一般的に音楽家は幼少期からの膨大な訓練を必要とし、その過程で身体故障や心理不安を抱え、音楽家として演奏活動の継続が困難となる例が少なくないという。本プログラムではそうした課題の解決に向けて、まずピア二ストを対象に「音楽表現の高みを追求し、技術と精神両面の持続的向上に繋げる包括的な教育」を推進する “世界初の取り組み” として、河合楽器製作所と国立研究開発法人JSTの協力のもと実施される。
また指導現場で明らかになる課題や解決法を体系的に整理し、“暗黙知” の継承を可能にする研究開発と教育のシームレスな循環の実現にも取り組むとのこと。「ピアニストが生涯に渡ってクリエイティブな演奏を健やかに行える、文化的に豊かな社会の創造と持続可能性の実現に貢献することを目指す」としている。
具体的には、身体教育と芸術教育を合わせた包括的なプログラムとした点を特徴としており、身体教育では、「ダイナフォーミックス」と呼ばれる研究開発の成果を一気通貫に練習や指導に還元するプラットフォームのもと、テクノロジーを用いたスキルの評価に基づく感覚運動機能のトレーニングの推薦や熟達支援、 指導、練習のサポート等を実施する。
ソニーCSLが開発した「Physical Education for Artist Curriculum (PEAC)」を活用し、高精度センシングシステムを用いた受講生の動きの癖や演奏中の姿勢、感覚運動機能などの認識を促すという。また、科学研究の成果に基づく効率の良い暗譜の方法や不要な力みの回避方法なども指導する。
受講者はこれらのことから、脳や身体の働き(機能)や適切な身体の使い方(技能)、効果的な練習法、怪我や心理不安の予防法などを、身体運動学や神経科学の知見に基づいて学ぶことができるとしている。講師にはソニーCSLのプロジェクトメンバー4名が参加する。
芸術教育では、音楽に関する国際標準の解釈や、音楽表現の学習と探求を支援。世界的ピアニストのディーナ・ヨッフェ(Dina Yoffe)氏をミュージカル・ディレクターに、国際舞台での経験も豊富な6名のピアニストをアシスタント講師と迎えて教育を提供する。
これらの取り組みにより参加者は、10代のうちに身体的な基礎力を身につけ、芸術的な表現を学べるとアピール。さらに練習の効率化を図ることで、自身の思考や創造のための模索を育む時間が確保できるようになることから、音楽表現の能力拡張へも寄与するとしている。
8月1日にスタートする本プログラムには、オーディションを通過した10歳から17歳のピアニスト9名が参加。音楽監督および講師によるマスタークラスを月1回、また楽器の構造や音響についてのレクチャー、PEACの受講を用意し、2021年5月まで実施する。9名とも日本国籍で、海外在住のメンバーもいるとのことでオンラインレッスンも積極的に提供していくという。
ソニーCSLでは本日オンライン発表会を開催。プロジェクトリーダーである古屋晋一氏が登場し、アカデミープログラムの展開に至るまでの背景やミュージック・エクセレンス・プロジェクトの目的、具体的な実施プログラムのデモンストレーションなどを紹介した。
古屋氏自身も3歳の頃からピアノを習っており、練習のしすぎで19歳の時に体を痛めてしまった経験があるという。その際、スポーツで活躍するアスリートには故障した際にもスポーツ科学という研究のもとサポート体制が整備されているが、音楽家に対してはそういった体制が整っていないことに気付き、また多くの音楽家がこういった身体の故障に悩んでいるという現状から、自身で研究開発に取り組み始めたとのこと。
これまで18年間にわたって日本やアメリカ、ドイツで音楽演奏支援と故障予防のための研究開発に取り組み、「ダイナフォーミックス」を構築。研究で得た知見を実際の演奏や指導現場に展開するプログラムを開発し、2012年からは日本や海外各所の音楽家個人や音楽大学などに展開してきたという。
身体教育プログラムとして開発した「PEAC」では、サイエンス/テクノロジーの両面からサポートを実施。大きく分けて「レクチャー」「コーチング」「練習・指導支援」「スキルチェック」の4つの側面から教育を推進するとのこと。
レクチャーやコーチングには、神経科学や身体運動学、心理学などのサイエンス分野の研究結果を反映させ、例えばこれまで膨大な時間を費やすことが多かった練習について、反復だけでなく個々人の能力や特性に合わせて「今必要な練習は何か」を明確化し、練習自体の質や効率を高め、また適切なフォームや体の使い方も正しく学ぶことで、身体の故障予防にも繋がるとしている。
デモンストレーションでは、テクノロジーによるサポートプログラムを紹介。同プログラムでは、独自のセンサー技術と機械学習によるスキルの計測・分析・比較、CGによりこれまで明文化されてこなかった暗黙知の可視化・伝達を実現、またアプリ上で生体機能の評価に基づくトレーニングの推薦も行う。
ピアノの鍵盤の中に非接触で動きや強弱を計測できるセンシングシステムを配置、また姿勢を図るセンサーや複数カメラで演奏の様子を記録して分析する。これらのシステムはどのピアノにも後から実装可能とのこと。
演奏すると鍵盤をどう押さえたか、どの程度の時間か、また指先をどのように外したかなどの動きを波形でチェックできる。さらに姿勢や手の動きも映像で確認でき、再生時には速度をスローにすることも可能で、指導者も受講者も細かく分析することが可能となっている。得られた情報から練習ポイントを見出し、また映像や計測結果がバックアップされることで、練習前後や過去の演奏と比較できる。
データはクラウド上にアップロードされ、ピアノに設置したタブレットだけでなく、アプリをダウンロードすれば自身のスマホでも情報表示が可能。アプリでは打鍵の特徴を波形表示するほか、リズムや力の加減などをグラフなどで可視化する。
さらに各指の力を計測できるシステムも用意し、力の強弱や動かしやすい指を計測結果から確認できる。この結果もクラウド連携しアプリで表示可能で、チェックして自分で課題を発見し練習に取り組んだり、アプリから推薦される方法を取り入れていくといった行動が想定される。
これにより、これまで身体技術向上に励んでいた時間を効率化し短縮することで、芸術勉強により多くの時間を充てられるとし「より豊かな芸術表現、パフォーマンスの発揮を可能にしていくことができる」と強調した。またこれらの技術はドイツのハノーファー音楽演劇大学でも今後展開予定とのこと。
なお今回は、古屋氏自身がピアノの経験があったことからピアニストを対象としているが、他の楽器展開も検討。たとえば吹奏楽とピアノでは音を生み出すために鍛えるべき体の部位も異なるが、「身体教育については学術発展が必要」だとし、分野研究がさらに進むことでより多くの音楽家サポートを実現していきたいと語った。
また、アカデミープログラムのような教育現場に研究結果を提供して、次に現場で得られた知見を研究に反映させ知見を深めていくといったサイクルを循環させることが重要だとコメント。「PEACの目指す先は、サイエンスとテクノロジーを利活用し、演奏を身体から表現を主としたステージへ引き上げること。プロジェクトを通して表現力の育成を促し、より豊かな芸術社会の創造に寄与したい」とした。
一般的に音楽家は幼少期からの膨大な訓練を必要とし、その過程で身体故障や心理不安を抱え、音楽家として演奏活動の継続が困難となる例が少なくないという。本プログラムではそうした課題の解決に向けて、まずピア二ストを対象に「音楽表現の高みを追求し、技術と精神両面の持続的向上に繋げる包括的な教育」を推進する “世界初の取り組み” として、河合楽器製作所と国立研究開発法人JSTの協力のもと実施される。
また指導現場で明らかになる課題や解決法を体系的に整理し、“暗黙知” の継承を可能にする研究開発と教育のシームレスな循環の実現にも取り組むとのこと。「ピアニストが生涯に渡ってクリエイティブな演奏を健やかに行える、文化的に豊かな社会の創造と持続可能性の実現に貢献することを目指す」としている。
具体的には、身体教育と芸術教育を合わせた包括的なプログラムとした点を特徴としており、身体教育では、「ダイナフォーミックス」と呼ばれる研究開発の成果を一気通貫に練習や指導に還元するプラットフォームのもと、テクノロジーを用いたスキルの評価に基づく感覚運動機能のトレーニングの推薦や熟達支援、 指導、練習のサポート等を実施する。
ソニーCSLが開発した「Physical Education for Artist Curriculum (PEAC)」を活用し、高精度センシングシステムを用いた受講生の動きの癖や演奏中の姿勢、感覚運動機能などの認識を促すという。また、科学研究の成果に基づく効率の良い暗譜の方法や不要な力みの回避方法なども指導する。
受講者はこれらのことから、脳や身体の働き(機能)や適切な身体の使い方(技能)、効果的な練習法、怪我や心理不安の予防法などを、身体運動学や神経科学の知見に基づいて学ぶことができるとしている。講師にはソニーCSLのプロジェクトメンバー4名が参加する。
芸術教育では、音楽に関する国際標準の解釈や、音楽表現の学習と探求を支援。世界的ピアニストのディーナ・ヨッフェ(Dina Yoffe)氏をミュージカル・ディレクターに、国際舞台での経験も豊富な6名のピアニストをアシスタント講師と迎えて教育を提供する。
これらの取り組みにより参加者は、10代のうちに身体的な基礎力を身につけ、芸術的な表現を学べるとアピール。さらに練習の効率化を図ることで、自身の思考や創造のための模索を育む時間が確保できるようになることから、音楽表現の能力拡張へも寄与するとしている。
8月1日にスタートする本プログラムには、オーディションを通過した10歳から17歳のピアニスト9名が参加。音楽監督および講師によるマスタークラスを月1回、また楽器の構造や音響についてのレクチャー、PEACの受講を用意し、2021年5月まで実施する。9名とも日本国籍で、海外在住のメンバーもいるとのことでオンラインレッスンも積極的に提供していくという。
ソニーCSLでは本日オンライン発表会を開催。プロジェクトリーダーである古屋晋一氏が登場し、アカデミープログラムの展開に至るまでの背景やミュージック・エクセレンス・プロジェクトの目的、具体的な実施プログラムのデモンストレーションなどを紹介した。
古屋氏自身も3歳の頃からピアノを習っており、練習のしすぎで19歳の時に体を痛めてしまった経験があるという。その際、スポーツで活躍するアスリートには故障した際にもスポーツ科学という研究のもとサポート体制が整備されているが、音楽家に対してはそういった体制が整っていないことに気付き、また多くの音楽家がこういった身体の故障に悩んでいるという現状から、自身で研究開発に取り組み始めたとのこと。
これまで18年間にわたって日本やアメリカ、ドイツで音楽演奏支援と故障予防のための研究開発に取り組み、「ダイナフォーミックス」を構築。研究で得た知見を実際の演奏や指導現場に展開するプログラムを開発し、2012年からは日本や海外各所の音楽家個人や音楽大学などに展開してきたという。
身体教育プログラムとして開発した「PEAC」では、サイエンス/テクノロジーの両面からサポートを実施。大きく分けて「レクチャー」「コーチング」「練習・指導支援」「スキルチェック」の4つの側面から教育を推進するとのこと。
レクチャーやコーチングには、神経科学や身体運動学、心理学などのサイエンス分野の研究結果を反映させ、例えばこれまで膨大な時間を費やすことが多かった練習について、反復だけでなく個々人の能力や特性に合わせて「今必要な練習は何か」を明確化し、練習自体の質や効率を高め、また適切なフォームや体の使い方も正しく学ぶことで、身体の故障予防にも繋がるとしている。
デモンストレーションでは、テクノロジーによるサポートプログラムを紹介。同プログラムでは、独自のセンサー技術と機械学習によるスキルの計測・分析・比較、CGによりこれまで明文化されてこなかった暗黙知の可視化・伝達を実現、またアプリ上で生体機能の評価に基づくトレーニングの推薦も行う。
ピアノの鍵盤の中に非接触で動きや強弱を計測できるセンシングシステムを配置、また姿勢を図るセンサーや複数カメラで演奏の様子を記録して分析する。これらのシステムはどのピアノにも後から実装可能とのこと。
演奏すると鍵盤をどう押さえたか、どの程度の時間か、また指先をどのように外したかなどの動きを波形でチェックできる。さらに姿勢や手の動きも映像で確認でき、再生時には速度をスローにすることも可能で、指導者も受講者も細かく分析することが可能となっている。得られた情報から練習ポイントを見出し、また映像や計測結果がバックアップされることで、練習前後や過去の演奏と比較できる。
データはクラウド上にアップロードされ、ピアノに設置したタブレットだけでなく、アプリをダウンロードすれば自身のスマホでも情報表示が可能。アプリでは打鍵の特徴を波形表示するほか、リズムや力の加減などをグラフなどで可視化する。
さらに各指の力を計測できるシステムも用意し、力の強弱や動かしやすい指を計測結果から確認できる。この結果もクラウド連携しアプリで表示可能で、チェックして自分で課題を発見し練習に取り組んだり、アプリから推薦される方法を取り入れていくといった行動が想定される。
これにより、これまで身体技術向上に励んでいた時間を効率化し短縮することで、芸術勉強により多くの時間を充てられるとし「より豊かな芸術表現、パフォーマンスの発揮を可能にしていくことができる」と強調した。またこれらの技術はドイツのハノーファー音楽演劇大学でも今後展開予定とのこと。
なお今回は、古屋氏自身がピアノの経験があったことからピアニストを対象としているが、他の楽器展開も検討。たとえば吹奏楽とピアノでは音を生み出すために鍛えるべき体の部位も異なるが、「身体教育については学術発展が必要」だとし、分野研究がさらに進むことでより多くの音楽家サポートを実現していきたいと語った。
また、アカデミープログラムのような教育現場に研究結果を提供して、次に現場で得られた知見を研究に反映させ知見を深めていくといったサイクルを循環させることが重要だとコメント。「PEACの目指す先は、サイエンスとテクノロジーを利活用し、演奏を身体から表現を主としたステージへ引き上げること。プロジェクトを通して表現力の育成を促し、より豊かな芸術社会の創造に寄与したい」とした。
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