公開日 2019/08/26 06:00
REGZA X930の実力を画質マニアが検証
“有機ELテレビ界のポルシェ” REGZA新モデルに驚嘆。「完璧画質」にはさらに先があった!
秋山 真
東芝の4K有機ELテレビ最新モデル“REGZA”「X930」。元エンジニアとして高画質なBD/DVDに多数携わった経歴も持つ“画質マニア”なライター秋山真氏が、同機の画質をチェックした。
■「これ以上、何を望むのか?」
ソニーのマスターモニター「BVM-X300」は全ての有機ELテレビにとって北極星のような存在である。テレビメーカー各社がBVM-X300をリファレンスとしているのは周知の事実であり、画質の神様と言っても過言ではない。
にも関わらず、私は前回のレビューで東芝“REGZA”「65X920」の画質を「BVM-X300をそのまま拡大しているみたい」とまで絶賛した。「性能差ではなく、あくまで印象差」というエクスキューズはつけたものの、これは筆者にとって最大級の賛辞である。
後継機の画質にこれ以上、何を望むのか? 正式発売開始前に行われた内覧会で、最終チューニング前のX930をチェックする機会もあったのだが、正直、その時点ではX920との違いがよく分からなかった。プレゼンの内容自体も新AIモードやDolby Vision、HDR10+のデモが中心。有機ELパネルのスペックも昨年から劇的には変わっていなかったこともあり、「どうやらX930はX920の機能強化版に留まりそう」というのが筆者の“読み”だった。
むしろ画質よりも印象に残ったのは、内蔵スピーカーとは思えないほどに澄んだ音を聴かせるサウンドシステムや、北欧インテリアを思わせるシンプルなデザインの純正壁寄せスタンドであり、今回のレビューもそちらをメインに書こうと思っていた。最新の画質チューニングが施された65X930を観るその日までは……。
■「HDRエンハンサー」進化の効果か?「とんでもない没入感」
今回の取材は、長年REGZAの画質マイスターを務める東芝映像ソリューションの住吉氏にも同席いただいた。「あれからそんなに変わりました?」と訊くと、「とにかく観てください」と不敵な笑みを浮かべる住吉氏。
まずは画質モードを前回のX920で褒めちぎった「映画プロ」にして、『Train Night View 夜の山手線 4K HDR 内回り』のUHD BDから出発進行。夜間を走行する山手線の運転席に固定カメラを設置して、内回り1周分をまるまる4K/60P/HDR10収録したマニアックな映像だが、品川を出発して田町に着く頃には、前述の内覧会時における筆者の“読み”が完全な的外れであったことに気付かされた。
実はこのコンテンツには少し残念なところがある。すれ違う電車のヘッドライトや、駅やビルの看板などが白飛びしているのだ。自宅のX910で明部の調整を試みたこともあるが、撮影の時点でクリップしているようでどうにもならない。これはX920でも同じだった。
ところが、X930だけは白飛びしている面積が明らかに小さい。ブラウン管時代を経験している読者には「電子ビームが絞られた状態」と言えば、状況をイメージしてもらえるだろうか。もちろんディスクに収録された階調以上にはならないが、明部の露出が適正にコントロールされたことで、光源のフォーカスが定まり、X920では見えていなかった光の凹凸が出現した。
その結果、X930が手に入れたのは、画面の奥へ奥へと展開する異様なまでの遠近感だ。行き交う電車や遠くに見えるビル群のなんと立体的なことか。眼前に広がる光景はもはやフラットディスプレイが映し出す電子映像の範疇ではなく、まるでX930の有機ELパネルが、運転席の窓ガラスに置き換わったかのような、とんでもない没入感だ。
この完全に予想外な画質の変貌ぶりを、住吉氏は「HDRエンハンサー」の動作が変わったことが理由ではないかと推測する。
HDRエンハンサーとは、RGBW方式の有機ELパネルにおいて、W(ホワイト)のみをブーストし、白や彩度の低いエリアの輝度を最大2倍に伸張するスイッチのこと。これにより各社最新の有機ELテレビは部分ピーク輝度1000nitを実現している。
ただし、この機能は基本的にパネル側とセットで供給されるもので、これまではオンかオフ(500nit)の二択しか選べなかった。それがX930ではREGZA側でのゲイン制御が可能になったのだという(メニュー上の「オート」がこれに当たる)。
HDRエンハンサーのゲイン制御だけでここまで変わるとは俄に信じがたいが、住吉氏によれば超解像処理やノイズリダクションのパラメーターは、X920から一切変えていないというのだから二度驚く。
■「これ以上、何を望むのか?」
ソニーのマスターモニター「BVM-X300」は全ての有機ELテレビにとって北極星のような存在である。テレビメーカー各社がBVM-X300をリファレンスとしているのは周知の事実であり、画質の神様と言っても過言ではない。
にも関わらず、私は前回のレビューで東芝“REGZA”「65X920」の画質を「BVM-X300をそのまま拡大しているみたい」とまで絶賛した。「性能差ではなく、あくまで印象差」というエクスキューズはつけたものの、これは筆者にとって最大級の賛辞である。
後継機の画質にこれ以上、何を望むのか? 正式発売開始前に行われた内覧会で、最終チューニング前のX930をチェックする機会もあったのだが、正直、その時点ではX920との違いがよく分からなかった。プレゼンの内容自体も新AIモードやDolby Vision、HDR10+のデモが中心。有機ELパネルのスペックも昨年から劇的には変わっていなかったこともあり、「どうやらX930はX920の機能強化版に留まりそう」というのが筆者の“読み”だった。
むしろ画質よりも印象に残ったのは、内蔵スピーカーとは思えないほどに澄んだ音を聴かせるサウンドシステムや、北欧インテリアを思わせるシンプルなデザインの純正壁寄せスタンドであり、今回のレビューもそちらをメインに書こうと思っていた。最新の画質チューニングが施された65X930を観るその日までは……。
■「HDRエンハンサー」進化の効果か?「とんでもない没入感」
今回の取材は、長年REGZAの画質マイスターを務める東芝映像ソリューションの住吉氏にも同席いただいた。「あれからそんなに変わりました?」と訊くと、「とにかく観てください」と不敵な笑みを浮かべる住吉氏。
まずは画質モードを前回のX920で褒めちぎった「映画プロ」にして、『Train Night View 夜の山手線 4K HDR 内回り』のUHD BDから出発進行。夜間を走行する山手線の運転席に固定カメラを設置して、内回り1周分をまるまる4K/60P/HDR10収録したマニアックな映像だが、品川を出発して田町に着く頃には、前述の内覧会時における筆者の“読み”が完全な的外れであったことに気付かされた。
実はこのコンテンツには少し残念なところがある。すれ違う電車のヘッドライトや、駅やビルの看板などが白飛びしているのだ。自宅のX910で明部の調整を試みたこともあるが、撮影の時点でクリップしているようでどうにもならない。これはX920でも同じだった。
ところが、X930だけは白飛びしている面積が明らかに小さい。ブラウン管時代を経験している読者には「電子ビームが絞られた状態」と言えば、状況をイメージしてもらえるだろうか。もちろんディスクに収録された階調以上にはならないが、明部の露出が適正にコントロールされたことで、光源のフォーカスが定まり、X920では見えていなかった光の凹凸が出現した。
その結果、X930が手に入れたのは、画面の奥へ奥へと展開する異様なまでの遠近感だ。行き交う電車や遠くに見えるビル群のなんと立体的なことか。眼前に広がる光景はもはやフラットディスプレイが映し出す電子映像の範疇ではなく、まるでX930の有機ELパネルが、運転席の窓ガラスに置き換わったかのような、とんでもない没入感だ。
この完全に予想外な画質の変貌ぶりを、住吉氏は「HDRエンハンサー」の動作が変わったことが理由ではないかと推測する。
HDRエンハンサーとは、RGBW方式の有機ELパネルにおいて、W(ホワイト)のみをブーストし、白や彩度の低いエリアの輝度を最大2倍に伸張するスイッチのこと。これにより各社最新の有機ELテレビは部分ピーク輝度1000nitを実現している。
ただし、この機能は基本的にパネル側とセットで供給されるもので、これまではオンかオフ(500nit)の二択しか選べなかった。それがX930ではREGZA側でのゲイン制御が可能になったのだという(メニュー上の「オート」がこれに当たる)。
HDRエンハンサーのゲイン制御だけでここまで変わるとは俄に信じがたいが、住吉氏によれば超解像処理やノイズリダクションのパラメーターは、X920から一切変えていないというのだから二度驚く。