公開日 2020/11/05 06:30
【特別企画】チューンナップで新次元へ挑戦
コスト度外視で“深淵”へ挑戦。デノン110周年AVアンプ「AVC-A110」の半端ない実力とは
小原由夫
デノンの創業110周年記念モデルが話題になっているが、私はその中にAVアンプが含まれていることに、近年の同社の製品戦略がしっかり反映されていると感じて嬉しかった。すなわち、ピュアオーディオだけでなく、ホームAV市場にもきっちりとミートしていこうというメーカーの意志が感じられることを頼もしく思ったのである。
では、そのAVアンプ「AVC-A110」のどのような点がアニバーサリーモデルとしてふさわしい内容なのかを、同社サウンドマネージャーの高橋佑規氏から受けたレクチャーを元に説き明かしていきたい。
■『深淵』をコンセプトに、コスト度外視でチューンナップ
AVC-A110は、2018年発売のフラグシップAVアンプ「AVC-X8500H」をベースにチューンナップを図ったモデル。ただし、その内容が半端ない。具体的には、コストを度外視し、高橋氏がやりたいように徹底してこだわってチューンナップしているのである。
コンセプト・ワードは、ズバリ『深淵(しんえん)』だ。辞書を引くと「深いふち」とあり、奥深い、底知れない様子を表す。未到の領域といったイメージだろうか、SF映画に喩えれば、果てしない宇宙のブラックホールを想起させる。すなわちAVC-A110には、“これまでのAVアンプが到達し得なかった次元への挑戦”という思惑がありそうだ。
主な改善ポイントは大まかに4つある。第1点は、高い低域解像度を目指したこと。それには電源部のブラッシュアッブが最善策であると高橋氏は判断したそうだ。目を付けたのが、平滑用の大型ブロックコンデンサー。サプライヤー(供給元の部品メーカー)に協力を仰ぎ、これまで温めていた構造面のアイディアを採り入れてもらったのだ。
具体的には、陰極箔の引き張り強度と電解紙の巻きテンションの双方を、従来よりも数段緩くしてもらった。こうして柔らかな巻き構造とすることで、低域の重厚さと同時に分解能を高めることができたという。
第2点は機構安定性、要は筐体をよりリジットにするということだ。これによって低域のエネルギーをしっかりと伝達することができ、音像描写も一段と明瞭となる。ここで採用されたのが特製の鋳鉄製フット。かつてのフラグシップ機「AVC-A1HD」に採用されて以来、実に13年ぶりの復活だ。
また、電源トランスの下に2mm厚の純銅ベースを搭載。これも筐体全体のスタビリティー向上に貢献している。これら純銅製材料を含めた154点の機構系変更などを加えると、総重量は2.1kg増となった。
第3点は、低域の表現力のハイスピード化。これについては、パワーアンプ部の回路基板の銅箔厚を2倍(35ミクロン→70ミクロン) とすることで低インピーダンス化を実現。さらに位相保証のコンデンサーや抵抗など20点ほどの電気部品を変更し、より反応の早い音を目指したという。
本体のトッププレートを外すと、内部はほぼ真っ黒だ。これは高級感を狙ったデザイナーの意図もあるが、ヒートシンクを含めた筐体の冷却効果のアップにも一役買っている。これが第4点目の放熱安定度の向上で、純銅製放熱ブロックなどがさらなる相乗効果をあげている。
音質チューンナップのアプローチの話の中で、高橋氏は所々で低域の表現力に言及されたが、私が特に興味深く感じたのは、電源の平滑用電解コンデンサーを構造的に緩くする一方で、筐体のリジット化を徹底して推し進めたことだ。
つまり、何から何までガチガチに固めるのではなく、強固にすべきところはしっかり押さえた上で、あたかも手綱を緩めるがごとく、力を抜く(分散させる)部分を設けたという点だ。この辺りは長年の経験と職人的な勘に裏打ちされた部分であり、一朝一夕では生み出せないノウハウに違いない。
一方でAVC-A110のアウトラインとして、創業110周年という節目から思い切ってカスタム部品を大胆に投入できたという、主にコスト面の制約から解放されたことは大きい。しかも本機は“記念モデル”ではあるが、“リミテッド・モデル”ではないという点が、私たちカスタマー側からすれば嬉しいところ。気が付いたら完売していたという限定モデルにありがちな事象の心配がないわけだ。
では、そのAVアンプ「AVC-A110」のどのような点がアニバーサリーモデルとしてふさわしい内容なのかを、同社サウンドマネージャーの高橋佑規氏から受けたレクチャーを元に説き明かしていきたい。
■『深淵』をコンセプトに、コスト度外視でチューンナップ
AVC-A110は、2018年発売のフラグシップAVアンプ「AVC-X8500H」をベースにチューンナップを図ったモデル。ただし、その内容が半端ない。具体的には、コストを度外視し、高橋氏がやりたいように徹底してこだわってチューンナップしているのである。
コンセプト・ワードは、ズバリ『深淵(しんえん)』だ。辞書を引くと「深いふち」とあり、奥深い、底知れない様子を表す。未到の領域といったイメージだろうか、SF映画に喩えれば、果てしない宇宙のブラックホールを想起させる。すなわちAVC-A110には、“これまでのAVアンプが到達し得なかった次元への挑戦”という思惑がありそうだ。
主な改善ポイントは大まかに4つある。第1点は、高い低域解像度を目指したこと。それには電源部のブラッシュアッブが最善策であると高橋氏は判断したそうだ。目を付けたのが、平滑用の大型ブロックコンデンサー。サプライヤー(供給元の部品メーカー)に協力を仰ぎ、これまで温めていた構造面のアイディアを採り入れてもらったのだ。
具体的には、陰極箔の引き張り強度と電解紙の巻きテンションの双方を、従来よりも数段緩くしてもらった。こうして柔らかな巻き構造とすることで、低域の重厚さと同時に分解能を高めることができたという。
第2点は機構安定性、要は筐体をよりリジットにするということだ。これによって低域のエネルギーをしっかりと伝達することができ、音像描写も一段と明瞭となる。ここで採用されたのが特製の鋳鉄製フット。かつてのフラグシップ機「AVC-A1HD」に採用されて以来、実に13年ぶりの復活だ。
また、電源トランスの下に2mm厚の純銅ベースを搭載。これも筐体全体のスタビリティー向上に貢献している。これら純銅製材料を含めた154点の機構系変更などを加えると、総重量は2.1kg増となった。
第3点は、低域の表現力のハイスピード化。これについては、パワーアンプ部の回路基板の銅箔厚を2倍(35ミクロン→70ミクロン) とすることで低インピーダンス化を実現。さらに位相保証のコンデンサーや抵抗など20点ほどの電気部品を変更し、より反応の早い音を目指したという。
本体のトッププレートを外すと、内部はほぼ真っ黒だ。これは高級感を狙ったデザイナーの意図もあるが、ヒートシンクを含めた筐体の冷却効果のアップにも一役買っている。これが第4点目の放熱安定度の向上で、純銅製放熱ブロックなどがさらなる相乗効果をあげている。
音質チューンナップのアプローチの話の中で、高橋氏は所々で低域の表現力に言及されたが、私が特に興味深く感じたのは、電源の平滑用電解コンデンサーを構造的に緩くする一方で、筐体のリジット化を徹底して推し進めたことだ。
つまり、何から何までガチガチに固めるのではなく、強固にすべきところはしっかり押さえた上で、あたかも手綱を緩めるがごとく、力を抜く(分散させる)部分を設けたという点だ。この辺りは長年の経験と職人的な勘に裏打ちされた部分であり、一朝一夕では生み出せないノウハウに違いない。
一方でAVC-A110のアウトラインとして、創業110周年という節目から思い切ってカスタム部品を大胆に投入できたという、主にコスト面の制約から解放されたことは大きい。しかも本機は“記念モデル”ではあるが、“リミテッド・モデル”ではないという点が、私たちカスタマー側からすれば嬉しいところ。気が付いたら完売していたという限定モデルにありがちな事象の心配がないわけだ。