公開日 2021/01/18 06:30
【特別企画】銀河通信 -中編-
オーディオ・ノートのアナログプレーヤー「GINGA」。緻密な計算とこだわりから生まれる贅沢な構成パーツを探る
林 正儀
AUDIO NOTEのアナログプレーヤー「GINGA」をめぐるロマンの旅、その第2回目である。4極シンクロナスモーターによる糸ドライブで、重量級プラッターが静粛に回転する姿は、まさに宇宙的壮大さを喚起させる。
AUDIO NOTE
アナログプレーヤー「GINGA」
7,854,000円(税込)
※取材時はトーンアーム (KONDO V-12) 付属
「GINGA」のルーツは、先代の近藤公康社長(故人)が創業時に作ったカートリッジ「イオ」にあった。「イオ」は木星の惑星だ。それを回すターンテーブルなら「GINGA(銀河)」しかない。というわけで2012年に初代GINGAを発表。今回はその贅沢で精密な構成パーツの詳細を探ってみよう。
■空気の力で結び目のない糸を実現、プラッターを確実にドライブする
前回の記事ではドライブは糸で、駆動するモーターは有機的で躍動感のあるACシンクロナス、というところまで触れた。まず木綿のワイヤーだが、この糸には結び目がない。どうやって実現したのだろう。実際には両端の糸をほどき、重ね合わせて編み込む作業を空気の力で行っているそうだ。
「空気を用いるという発想はよかったのですが、加工できる業者探しが大変でした」と開発担当の廣川嘉行さん。糸テンションの調整にテンションプーリーを用いた、実にうまい方式だ。
GINGAのドライブユニットは凝りに凝っている。モーターは金属削り出しのハウジングに取りつけられた4極のシンクロナスタイプだ。進相コンデンサを使っていないとのことだが、どうやって正確にモーターを回すのか。
答えは電子工学にでてくる「ウイーンブリッジ発振回路」にあった。サイン波と90度進んだコサイン波の発振回路を内蔵。メインとサブの2つのコイルから、アンプや昇圧トランスを介してきっちり90度ずれた100Vレベルの交流波形をモーターに供給するわけである。話が難しくなったが、サインとコサイン用の電圧調整は“聴診器”で音が最小になるポイント(ノイズの谷)を探すという、実にマニアックなものだ。
GINGAの構成パーツを見ながら廣川さんに解説を聞いていく。目の醒めるような精密部品がずらりと並ぶのは壮観だ。巨大な本体ベースや重量級プラッター。それを支える極太軸受け、いま説明したシンクロナスモータユニットにトーンアームなどなど。
「ご覧のとおり金属を多用した構造になっていますが、これは曖昧な部分をなくし、しっかり振動を受け止めるという発想です。しかし、金属は固有振動を持つために“マルチエレメント”と呼ばれる看板技術で解決しています。異種金属、異種素材を合わせて使うことで単一共振を避けることが可能です。具体的にはアルミ、クロム銅(砲金)、ステンレス、真鍮、アクリル、ガラスという6素材を効果的に用いて単一素材の弱点をカバーしています」と語ってくれた。
■金属ブロックからの削り出しで躍動感や生命力を引き出す
金属部は全て削り出し。鋳造部品を使うとS/Nは良くなるが、音自体がマットになりやすい。躍動感や生命力を引き出すという点で、コストはかかるがブロックからの削り出しを選んでいるそうだ。
主要パーツを見てみよう。まず目を引くのは、土台となる巨大なシャーシベースだ。28キロもある。アルミを基礎とするソリッドタイプで、宇宙船のような優雅なシルエット。これを削り出すのはすごい。センターポールの取りつけネジがベース本体(アルミ)を貫通して、底面に密着する巨大かつ重量級のスペーサーベース(ステンレス製)に止める構造となっている。これにより、センターポールが大きな面積でベース部に接地するのと同じ効果があるとのことだ。上面はアクリルベースにて、チューニングされている。
一方、プラッターはずっしりとした18?の無垢アルミ材だ。厚みもかなりある。底板外周部には15本のチューニング用銅ネジが配置されていた。ターンテーブルマットは、抜けがよく反応が早いガラス製である。
仕上がった本体は、叩くとプラッター部は尾を引かず締まった音。ベースは硬質な木を叩いているような音で、思わずニンマリである。さらに本体脚部は、ステンレスのネジ式3点スパイク(同じく円周上に配置)として、支点の明確化としっかりした接地安定性が確保されていた。全てが綿密な計算づくで、試聴を重ねた結果である。
シャーシ関連では、スピンドルからメインアームベースに向かって伸びている。ここにも配慮がある。「わざと振動しやすいところにオイルダンパーと砂が入っています」。このパーツは重心点から遠いところに、オイルで満たした真鍮ダンパーという振動を抑える機構まで盛り込まれていたのだ。この発想は飛行機の翼から得たそうだ。先端に比重の重い金属が埋め込まれていて、ぴたっと振動が消える効果を狙っている。
もうひとつが手前に突き出た手がけである。針を載せる際に便利で、これも振動を誘いながら実はオイルダンパーや砂を入れ、綺麗にダンプするものだ。最後はセンターから伸びた金色の板。スライドベースだが、これはクロム銅というアルミと硬さも重さもまったく違うマテリアルで、やはりマルチエレメントベースという発想のもと、微振動をキャンセルするわけである。
銀河の旅はさらに続く。心臓部の軸受けやトーンアームなどは次号最終回に譲ろう。
(協力:オーディオ・ノート)
本記事は季刊アナログ vol.66からの転載です。本誌の詳細及び購入はこちらから
アナログプレーヤー「GINGA」
7,854,000円(税込)
※取材時はトーンアーム (KONDO V-12) 付属
「GINGA」のルーツは、先代の近藤公康社長(故人)が創業時に作ったカートリッジ「イオ」にあった。「イオ」は木星の惑星だ。それを回すターンテーブルなら「GINGA(銀河)」しかない。というわけで2012年に初代GINGAを発表。今回はその贅沢で精密な構成パーツの詳細を探ってみよう。
■空気の力で結び目のない糸を実現、プラッターを確実にドライブする
前回の記事ではドライブは糸で、駆動するモーターは有機的で躍動感のあるACシンクロナス、というところまで触れた。まず木綿のワイヤーだが、この糸には結び目がない。どうやって実現したのだろう。実際には両端の糸をほどき、重ね合わせて編み込む作業を空気の力で行っているそうだ。
「空気を用いるという発想はよかったのですが、加工できる業者探しが大変でした」と開発担当の廣川嘉行さん。糸テンションの調整にテンションプーリーを用いた、実にうまい方式だ。
GINGAのドライブユニットは凝りに凝っている。モーターは金属削り出しのハウジングに取りつけられた4極のシンクロナスタイプだ。進相コンデンサを使っていないとのことだが、どうやって正確にモーターを回すのか。
答えは電子工学にでてくる「ウイーンブリッジ発振回路」にあった。サイン波と90度進んだコサイン波の発振回路を内蔵。メインとサブの2つのコイルから、アンプや昇圧トランスを介してきっちり90度ずれた100Vレベルの交流波形をモーターに供給するわけである。話が難しくなったが、サインとコサイン用の電圧調整は“聴診器”で音が最小になるポイント(ノイズの谷)を探すという、実にマニアックなものだ。
GINGAの構成パーツを見ながら廣川さんに解説を聞いていく。目の醒めるような精密部品がずらりと並ぶのは壮観だ。巨大な本体ベースや重量級プラッター。それを支える極太軸受け、いま説明したシンクロナスモータユニットにトーンアームなどなど。
「ご覧のとおり金属を多用した構造になっていますが、これは曖昧な部分をなくし、しっかり振動を受け止めるという発想です。しかし、金属は固有振動を持つために“マルチエレメント”と呼ばれる看板技術で解決しています。異種金属、異種素材を合わせて使うことで単一共振を避けることが可能です。具体的にはアルミ、クロム銅(砲金)、ステンレス、真鍮、アクリル、ガラスという6素材を効果的に用いて単一素材の弱点をカバーしています」と語ってくれた。
■金属ブロックからの削り出しで躍動感や生命力を引き出す
金属部は全て削り出し。鋳造部品を使うとS/Nは良くなるが、音自体がマットになりやすい。躍動感や生命力を引き出すという点で、コストはかかるがブロックからの削り出しを選んでいるそうだ。
主要パーツを見てみよう。まず目を引くのは、土台となる巨大なシャーシベースだ。28キロもある。アルミを基礎とするソリッドタイプで、宇宙船のような優雅なシルエット。これを削り出すのはすごい。センターポールの取りつけネジがベース本体(アルミ)を貫通して、底面に密着する巨大かつ重量級のスペーサーベース(ステンレス製)に止める構造となっている。これにより、センターポールが大きな面積でベース部に接地するのと同じ効果があるとのことだ。上面はアクリルベースにて、チューニングされている。
一方、プラッターはずっしりとした18?の無垢アルミ材だ。厚みもかなりある。底板外周部には15本のチューニング用銅ネジが配置されていた。ターンテーブルマットは、抜けがよく反応が早いガラス製である。
仕上がった本体は、叩くとプラッター部は尾を引かず締まった音。ベースは硬質な木を叩いているような音で、思わずニンマリである。さらに本体脚部は、ステンレスのネジ式3点スパイク(同じく円周上に配置)として、支点の明確化としっかりした接地安定性が確保されていた。全てが綿密な計算づくで、試聴を重ねた結果である。
シャーシ関連では、スピンドルからメインアームベースに向かって伸びている。ここにも配慮がある。「わざと振動しやすいところにオイルダンパーと砂が入っています」。このパーツは重心点から遠いところに、オイルで満たした真鍮ダンパーという振動を抑える機構まで盛り込まれていたのだ。この発想は飛行機の翼から得たそうだ。先端に比重の重い金属が埋め込まれていて、ぴたっと振動が消える効果を狙っている。
もうひとつが手前に突き出た手がけである。針を載せる際に便利で、これも振動を誘いながら実はオイルダンパーや砂を入れ、綺麗にダンプするものだ。最後はセンターから伸びた金色の板。スライドベースだが、これはクロム銅というアルミと硬さも重さもまったく違うマテリアルで、やはりマルチエレメントベースという発想のもと、微振動をキャンセルするわけである。
銀河の旅はさらに続く。心臓部の軸受けやトーンアームなどは次号最終回に譲ろう。
(協力:オーディオ・ノート)
本記事は季刊アナログ vol.66からの転載です。本誌の詳細及び購入はこちらから