トップページへ戻る

レビュー

HOME > レビュー > レビュー記事一覧

公開日 2021/02/01 06:30
【特別企画】スタイルの違いに表れるアプローチの差異

北欧AMPHIONのスピーカー、どっちを買うべき? ブックシェルフとトールボーイを徹底比較

鈴木 裕
AMPHION(アンフィオン)は、フィンランドで設立されたスピーカーメーカーだ。1998年からのスタートだが、ホームオーディオ(コンシューマーライン)から音楽製作用のモニターまで充実したラインアップを持っている。コンシューマー用としては3つのラインがあり、その中間がArgon(アルゴン)シリーズ。中でも興味深いのは「Argon3S」と「Argon3LS」だ。この2機種、同じドライバーユニットを使った2ウェイで、3Sがブックシェルフ、3LSがフロアスタンディングというスタイルを持っている。しかし、結論から言うとけっこう音が違う。ということでこの2機種を比較しつつ、紹介してみよう。

ブックシェルフ型の「Argon3S」とフロアスタンディング型の「Argon3LS」

まずドライバーユニットは共通で、トゥイーターは1インチ径のチタンのダイアフラム。ウーファーは6.5インチ径で、振動板はアルミ。パッシブネットワークも共通で、クロスオーバーポイントは1.6kHz。ノミナルインピーダンスも8Ωと一緒だ。ただし、能率が違う。ブックシェルフの3Sが87dB。フロアスタンディングの3LSが85dB。一般的にはエンクロージャーの容積の小さい方が能率は下がるが、このシリーズの場合、大きい3LSの方が低くなっている。

そして、最低域のレンジも違う。3Sは30Hz〜(±6dB)という表示であるのに対して、3LSは22Hz〜(±3dB)。両機とも、後ろ側に取り付けられているパッシブラジエーターによって低音を補っているが、この方式は振動板自体の重さによってf0(最低共振周波数)をコントロールすることになるので、エンクロージャーの容積だけでなく、パッシブラジエーター自体も違う仕様なのかもしれない。

Argon3Sの背面部。下部にパッシブラジエーターが設置されている

ちなみにエンクロージャーの幅と奥行きは共通だが、3Sは380mmの高さで全体の質量が12kg。3LSは968mmで22kgというところから推測すると、内部には特別な仕切りを持った音道などは設置されていないようだ。とにかく聴いてみよう。テストは音元出版の試聴室で行った。レファレンスのアキュフェーズのエレクトロニクスで鳴らしている。まずはArgon3Sから。

■開放的なブックシェルフ、対する3LSは低音感が強い

竹内まりや「シングル・アゲイン」から聴きだすと気持ちのいい低音感。反応は良く、ドラムスのタムやキックなどを気持ち良く聴かせてくれる。音の色彩感は濃いめで、いい意味で鷹揚な、音楽のグルーヴ感がよく出てくるスピーカーだ。

ベン・ハーパーが黒人のコーラスグループ、ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマと作ったアルバムを聴くと、濃密で分厚いコーラスやヒューマンな感じが素晴らしい。ベースの沈み込む感じも楽しく、ソウルミュージックへの適性は高い。クラシックの編成の大きいオーケストラでは分解能を誇示しないが細かい音はきちんと出てくるし、低域の馬力も持っている。

これに対して、Argon3LSは「さすがフロアスタンディング」というエンクロージャーの大きさを感じさせる。表示通り、3Sよりもさらに最低域のレンジが伸び、押し出しも強い。実際よりも大きなウーファーが鳴っている感じが特徴的で、かなり低音感が強い個性派のトーンだ。

Argon3SLのパッシブラジエーターは、ウーファーユニットの真後ろの背面上部に設置

ベン・ハーパーとコーラスを聴くと、濃密な低音感と深い鳴りが印象的だ。同時に興味深いのは、トゥイーター領域の存在感もきちんとあり、コーラスに、ある種の骨格感のようなものも感じさせてくれる点だ。

ジャズでもウッドベースやドラムスのバスドラム(キック)の存在感が高くなりつつ、演奏の推進力が出てくる。この低音の量の多さは60〜70年代のスピーカーのようなニュアンスも持っているが、反応自体はいい。

まとめてみると、同じユニットを装着する2ウェイだが、開放的で多くの音楽に適性の高いブックシェルフの3S。それに対して3LSは個性派の帯域バランスを持ち、より低音の量が多く、ジャズやクラシックなど、AV用途で生きてくる音を持っているように感じる。

いずれも分析的に音楽を聴かせるのではなく、生活の中で音楽を楽しませようとしているのは、さすがアンフィオンだ。以前、CEOであるアンシ・ヘヴォネン氏にインタビューしたが「私たちは“男の子のおもちゃ”を作っているのではなく、“家族全員で音楽を楽しめる道具”を作りたいということを何よりも重視しています」と語ってくれた。その基本がふたつのスピーカーにも生きている。


・Argon3S
●型式:2ウェイ パッシブラジエーター●ユニット:トゥイーター 1インチ チタニウム、ミッドウーファー 6.5インチ アルミニウム●クロスオーバー:1600Hz●入力インピーダンス:8Ω●感度:87dB●周波数特性:30Hz〜25kHz ±6dB●許容電力:20〜150W●サイズ:191W×380H×305Dmm●質量:12kg●カラー:ホワイト/フルホワイト/ブラック(各¥314,000/ペア、税別)、ウオールナット(¥342,000/ペア、税別)


・Argon3LS
●型式:2ウェイ パッシブラジエーター●ユニット:トゥイーター 1インチ チタニウム、ミッドウーファー 6.5インチ アルミニウム●クロスオーバー:1600Hz●入力インピーダンス:8Ω●感度:85dB●周波数特性:22Hz〜25kHz ±3dB●許容電力:30〜150W●サイズ:191W×968H×305Dmm●質量:22kg●カラー:ホワイト/フルホワイト/ブラック(各¥458,000/ペア、税別)、ウオールナット(¥502,000/ペア、税別)●取り扱い:ウインテスト(株)


本記事は季刊 オーディオアクセサリーVol.179からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

関連リンク

新着クローズアップ

クローズアップ

アクセスランキング RANKING
1 「オーディオのオンキヨー」復活へ。新スピーカーとセパレートシステムを年明けのCESで発表
2 【完全ワイヤレスイヤホン特集 PART.10】音のプロが選ぶベストバイは?
3 CD再生とファイル再生の架け橋に!Shanlingからリッピング機能付きトランスポート「CR60」が登場
4 今こそ「ミニコンポ」が面白い! デノン/マランツ/B&Wの令和ライフにマッチする厳選5モデルレビュー
5 水月雨、『崩壊:スターレイル』とのコラボ完全ワイヤレス。ダイナミック+環状平面駆動の同軸ドライバー搭載
6 【ミニレビュー】空き電源コンセントに挿入するだけ。オーディオみじんこ「SILVER HARMONIZER AC-ADVANCE」
7 モニターオーディオ「GOLDシリーズ」レビュー。ユニット大幅刷新の第6世代機は「ハイスピードで焦点の明確な音調」
8 AVIOT、『らんま1/2』コラボ完全ワイヤレスイヤホン。完全新録ボイス240種類以上搭載
9 Nothing、スマホ/イヤホンが最大30%オフ価格になるウィンターキャンペーン。先着順で靴下もらえる
10 要注目の新興ブランド、ラトビア「アレタイ」スピーカー試聴レビュー!広大な空間描写力が魅力
12/20 10:05 更新

WEB