公開日 2021/09/30 06:30
【特別企画】“似て非なる”プロダクト
往年の銘機へのオマージュ、JBLのプリメインアンプ「SA750」を体験
小原由夫
創立75周年を迎えたJBL。その記念モデルのひとつとして登場したのは、スピーカーではなくアンプだった。そのモチーフは1960年代に登場したJBLの歴史的アンプ「SA600」。ここに120Wの出力を備えた先進のクラスGアンプや、MQA対応の高解像度DACを搭載。ストリーミング再生やRoonにも対応。さらにMC/MMのフォノイコラーザーも搭載し、あらゆるオーディオソースにこの1台で対応することができる。かつてのJBLアンプへのオマージュながら、内容はまったくの別物。その音質はいかなるものか? 小原由夫氏が体験している。
現代的にアップデートされた、新技術と多彩な機能
SA750は、JBLの創立75周年を記念してリリースされたプリメインアンプだ。その外観を見れば、キャリアの長いオーディオマニアならば思わずニヤッとしてしまうのではないだろうか。往年の銘機SA600のデザインモチーフをまとったオマージュモデルといえるからだ。だからといって、完全な復刻版ではなく、現代的なアップデートも実施されている。いわば、オールドタイマーな装いに現代的フィーチャーを内包したプリメインアンプなのである。
アナログPHONO回路を搭載する一方で、デジタル系にも万端という仕様。具体的には、最新スペックを有したUSB入力端子付きDAコンバーターを内蔵すると共に、ストリーミング再生機能やワイヤレス再生にも対応している。つまり、これ1台でデジタルセンター的な役目も果たせることになる。実に頼もしいではないか。
高効率なクラスG駆動で、強力な電源部にも注目
では、各々のフィーチャーをもう少し詳しく見ていこう。内蔵パワーアンプは、8Ω負荷時に120WをギャランティーするクラスGアンプ(出力の大きさで素子にかける電圧を制御する方式。小型化と低コスト化が実現できる。デジタルアンプではない)。低出力域ではAクラス増幅で動作し、大出力時はABクラス増幅にシフトする。それを支える大型トロイダルトランスを擁した電源部はたいへん強力だ。なお、プリアウトも装備しているので、将来パワーアンプを増強したシステム拡張も見据えることができる。
フォノや高精度DACを搭載し、自動補正も可能
MM/MC対応のフォノ入力を含むアナログ入力は、全5系統を装備。ボリューム操作は、ラダー型抵抗のレジスター切り替え方式を採用する。
デジタル系の中枢を担うのは、ESS社のSabreES9038K2MのDACチップ。PCM 192kHz/32bit等のデータフォーマットに準拠し、MQA対応も果たしている。デジタル入力は4系統を装備。
ユニークな機能は、Dirac Live対応による再生環境のルームアコースティックキャリブレーション。付属マイクと専用PCソフトとの連携で、再生音の帯域バランスや位相の分析を行ない、それを自動補正することが可能。これは実に有益なフィーチャーといえよう。
マニア心をくすぐる、遊び心も満載の機能
本機のコスメティックデザインが往年のSA600を踏襲していることは冒頭で触れたが、そっくり同じではない。左右で異なるヘアラインのツートン仕上げは、SA600へのリスペクト。サイドウッドパネルも伝承された一方で、ボリュームノブやレバースイッチは往時の形と異なっている。
最も大きな相違点は、大型ディスプレイが設けられ、そのパネルに占める割合が大きなところ。これはいかにも現代的で、ボリューム値はもちろん、入力ファンクション名の表示やストリーミングの固有名称、音楽データのフォーマットやサンプリング周波数などもここに表示される。
また、遊び心もあって、電源を投入するとJBLの「!」マークが左右に流れる。また、電源のスタンバイ時には赤、起動するとオレンジ色に変わる、JBL創成期のエクスクラメーション・マークのパワーインジケーターもなかなか楽しい。
こうしてみるとSA750は、SA600に似てはいるが、デザインフィロソフィーを参考にはしたものの、異なるコンセプトに基づく“似て非なる”プロダクトという解釈が正しいかもしれない。
豊潤で厚みのある音質で、クラシック再生も満足
まずはストリーミングから。TidalでMQA音源、44.1kHz/24bitのダイアナ・クラール「This Dream of You」を聴いた。ピアノの瑞々しい旋律にエレキギターが加わり、やがてアコースティックギターも入ってくる。カントリー風にも聴こえるこの楽曲のオーガニックな雰囲気がとてもニュアンス豊かに再現された印象だ。肝心のヴォーカルも、音像に立体的なフォルムと厚みを感じる。
次にアナログレコードを聴いてみよう。オーディオテクニカ「AT-VM750SH」を使い、山本剛のダイレクトカッティング/45回転LP「Misty」を試聴。がっちりとした骨格を感じさせる、とても濃密なピアノトリオ演奏が奏でられた。アコースティック楽器の質感再現のよさはもちろんだが、響きの鮮度がとても高く、3つの楽器の距離感が透明なステレオイメージの中に立体的に展開して、実に心地よい。
続いてアナログ入力にCDプレーヤーからの出力をつなぎ、パトリシア・バーバーのCDを聴いた。彼女特有の語尾のアクセントの強さと鋭さがよく出た再現で、声の持つそこはかとない色気とツヤがナチュラルに出ていた。ガッドギターの雰囲気もよく、全体の温かみとインティメイトなムードがいい按配だ。
ヒラリー・ハーンの独創ヴァイオリンによる「ショーソン/詩曲」では、デリケートなニュアンスを実に細やかに描写。ハーンの巧みな演奏技能が前面に出過ぎることなく、オーケストラのハーモニーと絶妙にブレンドしたリッチな雰囲気がしっかりと味わえた。特にどっしりとしたエネルギーバランスは、クラシック再生時の満足度も高い。
今回の試聴で本機SA750は、音楽を克明に再構築するポテンシャルを有していることがよくわかった。往年のJBLファンはもちろん、シンプルにシステムを組みたい人や、多機能なプリメインアンプを探していたマニアにも支持されそうな予感だ。
本記事は季刊オーディオアクセサリー vol.182 AUTUMNからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから
現代的にアップデートされた、新技術と多彩な機能
SA750は、JBLの創立75周年を記念してリリースされたプリメインアンプだ。その外観を見れば、キャリアの長いオーディオマニアならば思わずニヤッとしてしまうのではないだろうか。往年の銘機SA600のデザインモチーフをまとったオマージュモデルといえるからだ。だからといって、完全な復刻版ではなく、現代的なアップデートも実施されている。いわば、オールドタイマーな装いに現代的フィーチャーを内包したプリメインアンプなのである。
アナログPHONO回路を搭載する一方で、デジタル系にも万端という仕様。具体的には、最新スペックを有したUSB入力端子付きDAコンバーターを内蔵すると共に、ストリーミング再生機能やワイヤレス再生にも対応している。つまり、これ1台でデジタルセンター的な役目も果たせることになる。実に頼もしいではないか。
高効率なクラスG駆動で、強力な電源部にも注目
では、各々のフィーチャーをもう少し詳しく見ていこう。内蔵パワーアンプは、8Ω負荷時に120WをギャランティーするクラスGアンプ(出力の大きさで素子にかける電圧を制御する方式。小型化と低コスト化が実現できる。デジタルアンプではない)。低出力域ではAクラス増幅で動作し、大出力時はABクラス増幅にシフトする。それを支える大型トロイダルトランスを擁した電源部はたいへん強力だ。なお、プリアウトも装備しているので、将来パワーアンプを増強したシステム拡張も見据えることができる。
フォノや高精度DACを搭載し、自動補正も可能
MM/MC対応のフォノ入力を含むアナログ入力は、全5系統を装備。ボリューム操作は、ラダー型抵抗のレジスター切り替え方式を採用する。
デジタル系の中枢を担うのは、ESS社のSabreES9038K2MのDACチップ。PCM 192kHz/32bit等のデータフォーマットに準拠し、MQA対応も果たしている。デジタル入力は4系統を装備。
ユニークな機能は、Dirac Live対応による再生環境のルームアコースティックキャリブレーション。付属マイクと専用PCソフトとの連携で、再生音の帯域バランスや位相の分析を行ない、それを自動補正することが可能。これは実に有益なフィーチャーといえよう。
マニア心をくすぐる、遊び心も満載の機能
本機のコスメティックデザインが往年のSA600を踏襲していることは冒頭で触れたが、そっくり同じではない。左右で異なるヘアラインのツートン仕上げは、SA600へのリスペクト。サイドウッドパネルも伝承された一方で、ボリュームノブやレバースイッチは往時の形と異なっている。
また、遊び心もあって、電源を投入するとJBLの「!」マークが左右に流れる。また、電源のスタンバイ時には赤、起動するとオレンジ色に変わる、JBL創成期のエクスクラメーション・マークのパワーインジケーターもなかなか楽しい。
こうしてみるとSA750は、SA600に似てはいるが、デザインフィロソフィーを参考にはしたものの、異なるコンセプトに基づく“似て非なる”プロダクトという解釈が正しいかもしれない。
豊潤で厚みのある音質で、クラシック再生も満足
まずはストリーミングから。TidalでMQA音源、44.1kHz/24bitのダイアナ・クラール「This Dream of You」を聴いた。ピアノの瑞々しい旋律にエレキギターが加わり、やがてアコースティックギターも入ってくる。カントリー風にも聴こえるこの楽曲のオーガニックな雰囲気がとてもニュアンス豊かに再現された印象だ。肝心のヴォーカルも、音像に立体的なフォルムと厚みを感じる。
次にアナログレコードを聴いてみよう。オーディオテクニカ「AT-VM750SH」を使い、山本剛のダイレクトカッティング/45回転LP「Misty」を試聴。がっちりとした骨格を感じさせる、とても濃密なピアノトリオ演奏が奏でられた。アコースティック楽器の質感再現のよさはもちろんだが、響きの鮮度がとても高く、3つの楽器の距離感が透明なステレオイメージの中に立体的に展開して、実に心地よい。
続いてアナログ入力にCDプレーヤーからの出力をつなぎ、パトリシア・バーバーのCDを聴いた。彼女特有の語尾のアクセントの強さと鋭さがよく出た再現で、声の持つそこはかとない色気とツヤがナチュラルに出ていた。ガッドギターの雰囲気もよく、全体の温かみとインティメイトなムードがいい按配だ。
ヒラリー・ハーンの独創ヴァイオリンによる「ショーソン/詩曲」では、デリケートなニュアンスを実に細やかに描写。ハーンの巧みな演奏技能が前面に出過ぎることなく、オーケストラのハーモニーと絶妙にブレンドしたリッチな雰囲気がしっかりと味わえた。特にどっしりとしたエネルギーバランスは、クラシック再生時の満足度も高い。
今回の試聴で本機SA750は、音楽を克明に再構築するポテンシャルを有していることがよくわかった。往年のJBLファンはもちろん、シンプルにシステムを組みたい人や、多機能なプリメインアンプを探していたマニアにも支持されそうな予感だ。
本記事は季刊オーディオアクセサリー vol.182 AUTUMNからの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから