公開日 2023/04/27 07:00
HDMIの画質/音質も進化!
デノン“孤高”の15.4ch一体型AVアンプ「AVC-A1H」レビュー。どこまでも懐の深い、想像を絶する逸品だ
大橋伸太郎
デノンから15.4chプロセッシング出力に対応した新フラグシップAVアンプ「AVC-A1H」が登場した。2007年の「AVC-A1HD」以来、実に15年ぶりの “A1ネームド” モデルということからも分かる通り、現在のデノンの粋が詰まった孤高のAVアンプだ。本機の実力を、大橋伸太郎氏が徹底検証する。
■足掛け9年……ついに到達した「アトモス・リアル原器」たる15ch AVアンプ「AVC-A1H」
デノンの110周年アニバーサリーAVアンプ「AVC-A110」を試聴した時、これを凌ぐAVサラウンドアンプは当分作れないだろうと正直思った。当時のフラグシップ機「AVC-X8500H」を母体に音質改良をはたした13ch一体型である。
A110は早々に完売になり、現在、8500Hの発展形でHDMI 8K入出力に対応した「AVC-X8500HA」がレギュラーモデル最上位の地位にある。「もうこれ以上一体型でやることがないのでは?」とデノンのT氏に率直に訊ねると、「いいえ、もう少々お待ち下さい」という答えが返ってきた。昨秋のことだ。そして、当時海外発表されたばかりの新製品の開発テーマがX8500HA/A110の13chを越えるモアチャンネル、具体的には「実は、15chなのです」と教えてもらった。
なぜ15chなのか。それを知るためにはドルビーアトモスが公開された2011年にさかのぼらなければならない。
従来のチャンネルベースを脱したオブジェクトオーディオ、ドルビーアトモスが公開されたのは2011年初夏のこと、サンフランシスコのドルビーラボラトリーズにおいてであった。スピーカー間のクロストークのない素晴らしいセパレーションと俊敏、自由自在な音の動きに新時代の開幕を実感したことを今も生々しく記憶している。
ドルビーの要請に応え、デノンはアトモスのソフトウェアを実装したアンプを検証用に製作。2014年に世界初のドルビーアトモス対応9ch一体型アンプ「AVR-X5200W(日本未発売)」を送り出す。
同年、ドルビーラボラトリーズからデノン設計陣に1枚の試技用ソフトが送られてきた。翌2015年にBLU-RAY DEMO DISCとして頒布されるディスクだが、その中の5パターンのテスト信号の最後に15.1ch(9.1.6ch)があったのである。デノン開発陣はこれをドルビーのメッセージ、強い要望と認識した。アトモスがアトモスであるために、7でも9でもなく、15chを実現しなければいけない……新たな探求が始まる。
2015年に9chパワーアンプ一体型の「AVR-X7200W」、2017年にモノリスコンストラクションで11chを標準サイズに収めた「AVR-X6300H」、2018年に13ch一体型の“モンスター”「AVC-X8500H」を発売。いずれも名作だが、ゴールではなく「アトモス・リアル原器」への旅は続いていた。
そして9年を要して今年、15ch一体型「AVC-A1H」が誕生した。デノンAVサラウンドアンプの技術密度の象徴である“A1”の名を冠して。
■15ch独立アンプ、10kg超え超級トランス……デノンの粋が詰まった“孤高”の仕様
それではイマーシブサウンド時代、「AVC-A1HD」以来15年ぶりに登場したA1ネームド機「AVC-A1H」について具体的にみていこう。
全体のコンストラクションは、真ん中に電源トランス、左右にパワーアンプ部、浮かせるように上部にプリ部があり、パワーアンプがchごとに独立している構成だ。2011年の9ch一体型「AVR-4520」に始まるデノンマルチチャンネルアンプの文法に則る。増幅方式は差動一段のアナログAB級リニアパワーアンプ回路。上のクラスになるほど差動の段数は三段→二段と減っていくが、A1Hで採用したのは究極の差動一段だ。
その内部には、15chパワーアンプが両側に屹立して壮観。しかしサイズ上はプラス2ch分、奥行きが16mm(8500HA比)伸びたに留まる。久方ぶりの新モデルだからといってむやみに大型化せず、最小限の延伸に留めたのは、ユーザーの旧製品からの置き換えを考えた場合、見識といえよう。
大型化せずモアチャンネル化する有効な手法に、クラスDデジタルアンプ(スイッチングアンプ)の採用がある。ここからはサイドストーリーだが、デノンは20年以上前からクラスDアンプの研究開発を行い、2003年には「POA-X」というフルデジタルマルチチャンネルパワーアンプを試作、翌2004年には出音デモも行っている。さらに2006年にはICE Powerを使った薄型プリメインアンプ「PMA-CX3」を発売している。ちなみに、POA-XとPMA-CX3を手掛けたのは今回A1Hの開発を行った高橋佑規氏である。
デジタルかアナログ堅守か……A1Hまで続く岐路がやはり「AVR-4520」だった。この時にパワー部をスイッチングでいくのか、それともアナログAB級でいくのか、エンジニアたちの間で議論が交わされ、かれらが出した結論はアナログだった。
以下は私見だが、デノンはAVサラウンドアンプの広範なラインナップを擁する唯一のメーカーである。そこには設計と技術の連続性が求められる。旗艦機種だからといって、アンプ作りの中核の手法において他の機種と断絶するわけにいかない。回路構成やデータ、使用部品の上から下への不断のフィードバックが好循環を生み、音質の向上と性能の安定、一貫性につながる。だからこそアナログアンプにこだわったのではないかと私は考える。
■足掛け9年……ついに到達した「アトモス・リアル原器」たる15ch AVアンプ「AVC-A1H」
デノンの110周年アニバーサリーAVアンプ「AVC-A110」を試聴した時、これを凌ぐAVサラウンドアンプは当分作れないだろうと正直思った。当時のフラグシップ機「AVC-X8500H」を母体に音質改良をはたした13ch一体型である。
A110は早々に完売になり、現在、8500Hの発展形でHDMI 8K入出力に対応した「AVC-X8500HA」がレギュラーモデル最上位の地位にある。「もうこれ以上一体型でやることがないのでは?」とデノンのT氏に率直に訊ねると、「いいえ、もう少々お待ち下さい」という答えが返ってきた。昨秋のことだ。そして、当時海外発表されたばかりの新製品の開発テーマがX8500HA/A110の13chを越えるモアチャンネル、具体的には「実は、15chなのです」と教えてもらった。
なぜ15chなのか。それを知るためにはドルビーアトモスが公開された2011年にさかのぼらなければならない。
従来のチャンネルベースを脱したオブジェクトオーディオ、ドルビーアトモスが公開されたのは2011年初夏のこと、サンフランシスコのドルビーラボラトリーズにおいてであった。スピーカー間のクロストークのない素晴らしいセパレーションと俊敏、自由自在な音の動きに新時代の開幕を実感したことを今も生々しく記憶している。
ドルビーの要請に応え、デノンはアトモスのソフトウェアを実装したアンプを検証用に製作。2014年に世界初のドルビーアトモス対応9ch一体型アンプ「AVR-X5200W(日本未発売)」を送り出す。
同年、ドルビーラボラトリーズからデノン設計陣に1枚の試技用ソフトが送られてきた。翌2015年にBLU-RAY DEMO DISCとして頒布されるディスクだが、その中の5パターンのテスト信号の最後に15.1ch(9.1.6ch)があったのである。デノン開発陣はこれをドルビーのメッセージ、強い要望と認識した。アトモスがアトモスであるために、7でも9でもなく、15chを実現しなければいけない……新たな探求が始まる。
2015年に9chパワーアンプ一体型の「AVR-X7200W」、2017年にモノリスコンストラクションで11chを標準サイズに収めた「AVR-X6300H」、2018年に13ch一体型の“モンスター”「AVC-X8500H」を発売。いずれも名作だが、ゴールではなく「アトモス・リアル原器」への旅は続いていた。
そして9年を要して今年、15ch一体型「AVC-A1H」が誕生した。デノンAVサラウンドアンプの技術密度の象徴である“A1”の名を冠して。
■15ch独立アンプ、10kg超え超級トランス……デノンの粋が詰まった“孤高”の仕様
それではイマーシブサウンド時代、「AVC-A1HD」以来15年ぶりに登場したA1ネームド機「AVC-A1H」について具体的にみていこう。
全体のコンストラクションは、真ん中に電源トランス、左右にパワーアンプ部、浮かせるように上部にプリ部があり、パワーアンプがchごとに独立している構成だ。2011年の9ch一体型「AVR-4520」に始まるデノンマルチチャンネルアンプの文法に則る。増幅方式は差動一段のアナログAB級リニアパワーアンプ回路。上のクラスになるほど差動の段数は三段→二段と減っていくが、A1Hで採用したのは究極の差動一段だ。
その内部には、15chパワーアンプが両側に屹立して壮観。しかしサイズ上はプラス2ch分、奥行きが16mm(8500HA比)伸びたに留まる。久方ぶりの新モデルだからといってむやみに大型化せず、最小限の延伸に留めたのは、ユーザーの旧製品からの置き換えを考えた場合、見識といえよう。
大型化せずモアチャンネル化する有効な手法に、クラスDデジタルアンプ(スイッチングアンプ)の採用がある。ここからはサイドストーリーだが、デノンは20年以上前からクラスDアンプの研究開発を行い、2003年には「POA-X」というフルデジタルマルチチャンネルパワーアンプを試作、翌2004年には出音デモも行っている。さらに2006年にはICE Powerを使った薄型プリメインアンプ「PMA-CX3」を発売している。ちなみに、POA-XとPMA-CX3を手掛けたのは今回A1Hの開発を行った高橋佑規氏である。
デジタルかアナログ堅守か……A1Hまで続く岐路がやはり「AVR-4520」だった。この時にパワー部をスイッチングでいくのか、それともアナログAB級でいくのか、エンジニアたちの間で議論が交わされ、かれらが出した結論はアナログだった。
以下は私見だが、デノンはAVサラウンドアンプの広範なラインナップを擁する唯一のメーカーである。そこには設計と技術の連続性が求められる。旗艦機種だからといって、アンプ作りの中核の手法において他の機種と断絶するわけにいかない。回路構成やデータ、使用部品の上から下への不断のフィードバックが好循環を生み、音質の向上と性能の安定、一貫性につながる。だからこそアナログアンプにこだわったのではないかと私は考える。