公開日 2023/11/06 06:45
2週間使い続けて実感
聴覚パーソナライズドだけじゃない。デノン「PerL Pro」は多機能かつ高機能な近未来のTWSだ
山本敦
新生児の難聴検査技術を応用した独自のパーソナライズ機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホン「PerL Pro(パール・プロ)」。個人差の大きい聴覚補正を行うだけでなく、多彩な機能性を備えているのもユニークなモデルだ。そこで今回は筆者が2週間みっちり使い込み、便利だと感じた点を中心に解説していこう。
今は私たちの生活のまわりにAI(人工知能)のテクノロジーを活用するサービスが広く普及した。モバイル向け音楽配信サービスもそのひとつだ。ユーザーが好む音楽のジャンルやアーティストをAIが学び、ユーザーが次に聴きたくなる楽曲をおすすめする機能を多くの音楽配信サービスが実現している。
そして今は、AIのテクノロジーに基づくパーソナライゼーション(個人最適化)の機能やサービスを搭載するデバイスも増えた。ワイヤレスイヤホンもその例外ではない。特にプレミアムクラスの体験を看板に掲げるデバイスには、もはやパーソナライゼーションの機能が欠かせなくなった。
今回はとてもユニークな、ソフトウェアによるサウンドのパーソナライゼーションに対応するデノンのワイヤレスイヤホン「PerL Pro(AH-C15PL)」を長期間に渡って試す機会を得た。
■精緻でいて生々しい音を個人差なく楽しめる
日本を代表するオーディオブランドのデノンは、ヘルスケアなどの医療機器を開発し、世界中にビジネスを展開するアメリカのMasimo(マシモ)グループのブランドとして新しいスタートを切った。Masimoが持つ人間の聴覚支援に関わる技術とノウハウが、デノンのオーディオエンターテインメントの技術と出会い、生まれた第1弾のデバイスがPerL(パール:Personalized Listeningを略した愛称)シリーズのワイヤレスイヤホンだ。
今回筆者が試したのは上位モデルの「PerL Pro」だ。価格はオープンだが、57,200円前後で発売されているプレミアム価格帯のワイヤレスイヤホンだ。
肝になる機能はiOS/Androidに対応するコンパニオンアプリ「Denon Headphones」に搭載する、ユーザーの耳に対して「音の聞こえ方」を自動で最適化する「Masimo AAT(Adaptive Acoustic Technology)」だ。
このパーソナライゼーション機能の特徴や、PerL ProのスペックについてはPHILE WEBのニュース、ならびに野村ケンジ氏のハンズオンレポートが詳細に伝えているので本稿と併せて読んでほしい。
昨今ではパーソナライゼーション機能を有するワイヤレスイヤホンも少なくない。誰もがその名を知っている、いくつもの人気ワイヤレスイヤホンがよく似た機能を実装している。ただし、PerL Proのパーソナライゼーション機能はひと味違う。Masimoによる新生児の難聴検査に用いられる医療技術をベースにした自動最適化技術が搭載されていることから、中耳・内耳まで正確かつ入念な測定が行われることと、ユーザーはオールハンズフリーで手間なく機能が使えることの2点に大きな特徴があるからだ。
イヤホンを耳に装着して、アプリから機能を起ち上げれば数分程度で左右両耳の聴覚プロファイルが自動的に作成される。ユーザーは静かに測定ができる場所を確保して、イヤホンから再生される電子音に耳を澄ませるだけだ。
1台のイヤホンに対して作成できる聴覚プロファイルは3件まで。ユーザー固有のプロファイルを1件つくって登録できれば十分ではないかと思ったが、筆者はイヤホンに装着するイヤーピースの種類ごとに3つのプロファイルを作って、切り換えながら使った。
プロファイルごとにサウンドは異なるバランスになったが、いずれもアプリから「パーソナライズ済」の音と「ニュートラル」な音を聴き比べると、自分の耳に合わせた方が明らかに活き活きとして、楽しく聴けるサウンドになるところは共通だ。
Masimo AATはユーザーに合わせた音の聴こえ方をパーソナライゼーションするための機能なので、ノイズキャンセリングを調整するものではない。ただ「ニュートラル」の状態で聴きづらい音域を整えてくれるので、必然的にノイズキャンセリングON時の音のバランスや密閉感も心地よくなる。
さらに低音域を持ち上げたり、イマーシブ感を高めたい場合にはアプリから「低音モード」とDiracによるバーチャライザーをベースにした「空間オーディオ」を効かせることもできる。左右イヤホンの側面にタッチセンサー式リモコンが内蔵されている。アプリの設定をパーソナライゼーションすれば、ノイズキャンセリングと外音取り込みの切り換え、音声アシスタントの呼び出し、空間オーディオや低音モードのオン・オフまで任意に設定を変えてタップで操作できる使い勝手がとても良かった。
アプリにはイヤホンのサウンドをより自分好みに追い込める「ProEQ」(イコライザー)機能もあるが、PerL Proはほかならぬデノンのワイヤレスイヤホンだ。サウンドマスターの山内慎一氏が監修したサウンドは「基本が充実」している。先述の空間オーディオ機能も含めて味付けを加えても、あるいは加えなくても臨場感に富んだサウンドが楽しめる。
Apple MusicからOvallのアルバム『Ovall』の幕開けを飾る楽曲「Stargazer」を再生した。肉厚な重低音の上に、透明で煌びやかなメロディが無限に広がる宇宙空間のような音場を描いた。しなやかなビートに耳が潤う。
アリス=紗良・オットのアルバム『Alice Sara Ott plays Chopin』では、シルキーなピアノの音色が耳にピタリとフィットする。とても不思議な感覚を味わった。演奏が近くて生々しい。精緻で美しいだけでなく、音に人肌の温もりを感じられるのだ。
デノンがPerLシリーズを出展したイベントではいずれも良好な反響が返っていると聞く。アプリによるパーソナライゼーションをしっかりと済ませたうえで、最先端のデノンサウンドを体験する価値は大いにある。アダプティブ・ノイズキャンセリングの高い遮音効果、イヤホン本体がIPX4の防滴対応であるところなど、多彩な機能に加えて、日常的な実用性にも富むワイヤレスイヤホンの実力が多くの音楽ファンに伝わることを期待している。
長期間使用して「PerL Pro」がスゴイと感じたポイント
1.医療用技術を使ったパーソナライズ機能
イヤホンを耳に装着して、アプリから機能を起ち上げれば数分程度で左右両耳の聴覚プロファイルが自動的に作成される。ユーザーは静かに測定ができる場所を確保して、イヤホンから再生される電子音に耳を澄ませるだけ。なお写真は実際に編集部が測定した結果。左右で耳の聞こえが異なっているのもわかる。
2.サウンドマスターが作る音 空間オーディオにも対応
音のチューニングはデノンのサウンドマスターが行っている。aptX Adaptiveなど高音質コーデックに対応する以外にも、低音の調整機能やDiracによるバーチャライザーをベースにした「空間オーディオ」を効かせることも可能だ。タップで行う操作はアプリで任意に設定できるため使い勝手はとてもよい。
3.ウイング付きで装着性も良好 ノイズキャンセリングも優秀
着脱できるウイングサポートを同梱し、耳の窪みにしっかりフィットする。アプリでパーソナライズする際に、密閉度テストもあるので最適なイヤーチップサイズがわかるのも嬉しい。また幹線道路沿いで試したが、アクティブ・ノイズキャンセリングの効果も高く、低音の走行音がかなり消音された。
Specification
●通信方式:Bluetooth Ver.5.3 ●対応コーデック:SBC、AAC、aptX Adaptive( 96kHz /24bi t )、aptX Lossless(44.1kHz/16bit) ●ドライバー口径:10mm ●連続再生時間(ノイズキャンセリングOFF時):8時間(ケース込み24時間) ●質量:8g(イヤホン片耳)、51.2g(ケース)●付属品:イヤーチップ(シリコン XS/S/M/L、低反発 1種)、ウイングアタッチメント2種、充電ケーブル
(協力:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は「プレミアムヘッドホンガイド Vol.30 2023 AUTUMN」からの転載・加筆版です。本誌の詳細はこちらから
今は私たちの生活のまわりにAI(人工知能)のテクノロジーを活用するサービスが広く普及した。モバイル向け音楽配信サービスもそのひとつだ。ユーザーが好む音楽のジャンルやアーティストをAIが学び、ユーザーが次に聴きたくなる楽曲をおすすめする機能を多くの音楽配信サービスが実現している。
そして今は、AIのテクノロジーに基づくパーソナライゼーション(個人最適化)の機能やサービスを搭載するデバイスも増えた。ワイヤレスイヤホンもその例外ではない。特にプレミアムクラスの体験を看板に掲げるデバイスには、もはやパーソナライゼーションの機能が欠かせなくなった。
今回はとてもユニークな、ソフトウェアによるサウンドのパーソナライゼーションに対応するデノンのワイヤレスイヤホン「PerL Pro(AH-C15PL)」を長期間に渡って試す機会を得た。
■精緻でいて生々しい音を個人差なく楽しめる
日本を代表するオーディオブランドのデノンは、ヘルスケアなどの医療機器を開発し、世界中にビジネスを展開するアメリカのMasimo(マシモ)グループのブランドとして新しいスタートを切った。Masimoが持つ人間の聴覚支援に関わる技術とノウハウが、デノンのオーディオエンターテインメントの技術と出会い、生まれた第1弾のデバイスがPerL(パール:Personalized Listeningを略した愛称)シリーズのワイヤレスイヤホンだ。
今回筆者が試したのは上位モデルの「PerL Pro」だ。価格はオープンだが、57,200円前後で発売されているプレミアム価格帯のワイヤレスイヤホンだ。
肝になる機能はiOS/Androidに対応するコンパニオンアプリ「Denon Headphones」に搭載する、ユーザーの耳に対して「音の聞こえ方」を自動で最適化する「Masimo AAT(Adaptive Acoustic Technology)」だ。
このパーソナライゼーション機能の特徴や、PerL ProのスペックについてはPHILE WEBのニュース、ならびに野村ケンジ氏のハンズオンレポートが詳細に伝えているので本稿と併せて読んでほしい。
昨今ではパーソナライゼーション機能を有するワイヤレスイヤホンも少なくない。誰もがその名を知っている、いくつもの人気ワイヤレスイヤホンがよく似た機能を実装している。ただし、PerL Proのパーソナライゼーション機能はひと味違う。Masimoによる新生児の難聴検査に用いられる医療技術をベースにした自動最適化技術が搭載されていることから、中耳・内耳まで正確かつ入念な測定が行われることと、ユーザーはオールハンズフリーで手間なく機能が使えることの2点に大きな特徴があるからだ。
イヤホンを耳に装着して、アプリから機能を起ち上げれば数分程度で左右両耳の聴覚プロファイルが自動的に作成される。ユーザーは静かに測定ができる場所を確保して、イヤホンから再生される電子音に耳を澄ませるだけだ。
1台のイヤホンに対して作成できる聴覚プロファイルは3件まで。ユーザー固有のプロファイルを1件つくって登録できれば十分ではないかと思ったが、筆者はイヤホンに装着するイヤーピースの種類ごとに3つのプロファイルを作って、切り換えながら使った。
プロファイルごとにサウンドは異なるバランスになったが、いずれもアプリから「パーソナライズ済」の音と「ニュートラル」な音を聴き比べると、自分の耳に合わせた方が明らかに活き活きとして、楽しく聴けるサウンドになるところは共通だ。
Masimo AATはユーザーに合わせた音の聴こえ方をパーソナライゼーションするための機能なので、ノイズキャンセリングを調整するものではない。ただ「ニュートラル」の状態で聴きづらい音域を整えてくれるので、必然的にノイズキャンセリングON時の音のバランスや密閉感も心地よくなる。
さらに低音域を持ち上げたり、イマーシブ感を高めたい場合にはアプリから「低音モード」とDiracによるバーチャライザーをベースにした「空間オーディオ」を効かせることもできる。左右イヤホンの側面にタッチセンサー式リモコンが内蔵されている。アプリの設定をパーソナライゼーションすれば、ノイズキャンセリングと外音取り込みの切り換え、音声アシスタントの呼び出し、空間オーディオや低音モードのオン・オフまで任意に設定を変えてタップで操作できる使い勝手がとても良かった。
アプリにはイヤホンのサウンドをより自分好みに追い込める「ProEQ」(イコライザー)機能もあるが、PerL Proはほかならぬデノンのワイヤレスイヤホンだ。サウンドマスターの山内慎一氏が監修したサウンドは「基本が充実」している。先述の空間オーディオ機能も含めて味付けを加えても、あるいは加えなくても臨場感に富んだサウンドが楽しめる。
Apple MusicからOvallのアルバム『Ovall』の幕開けを飾る楽曲「Stargazer」を再生した。肉厚な重低音の上に、透明で煌びやかなメロディが無限に広がる宇宙空間のような音場を描いた。しなやかなビートに耳が潤う。
アリス=紗良・オットのアルバム『Alice Sara Ott plays Chopin』では、シルキーなピアノの音色が耳にピタリとフィットする。とても不思議な感覚を味わった。演奏が近くて生々しい。精緻で美しいだけでなく、音に人肌の温もりを感じられるのだ。
デノンがPerLシリーズを出展したイベントではいずれも良好な反響が返っていると聞く。アプリによるパーソナライゼーションをしっかりと済ませたうえで、最先端のデノンサウンドを体験する価値は大いにある。アダプティブ・ノイズキャンセリングの高い遮音効果、イヤホン本体がIPX4の防滴対応であるところなど、多彩な機能に加えて、日常的な実用性にも富むワイヤレスイヤホンの実力が多くの音楽ファンに伝わることを期待している。
1.医療用技術を使ったパーソナライズ機能
イヤホンを耳に装着して、アプリから機能を起ち上げれば数分程度で左右両耳の聴覚プロファイルが自動的に作成される。ユーザーは静かに測定ができる場所を確保して、イヤホンから再生される電子音に耳を澄ませるだけ。なお写真は実際に編集部が測定した結果。左右で耳の聞こえが異なっているのもわかる。
2.サウンドマスターが作る音 空間オーディオにも対応
音のチューニングはデノンのサウンドマスターが行っている。aptX Adaptiveなど高音質コーデックに対応する以外にも、低音の調整機能やDiracによるバーチャライザーをベースにした「空間オーディオ」を効かせることも可能だ。タップで行う操作はアプリで任意に設定できるため使い勝手はとてもよい。
3.ウイング付きで装着性も良好 ノイズキャンセリングも優秀
着脱できるウイングサポートを同梱し、耳の窪みにしっかりフィットする。アプリでパーソナライズする際に、密閉度テストもあるので最適なイヤーチップサイズがわかるのも嬉しい。また幹線道路沿いで試したが、アクティブ・ノイズキャンセリングの効果も高く、低音の走行音がかなり消音された。
Specification
●通信方式:Bluetooth Ver.5.3 ●対応コーデック:SBC、AAC、aptX Adaptive( 96kHz /24bi t )、aptX Lossless(44.1kHz/16bit) ●ドライバー口径:10mm ●連続再生時間(ノイズキャンセリングOFF時):8時間(ケース込み24時間) ●質量:8g(イヤホン片耳)、51.2g(ケース)●付属品:イヤーチップ(シリコン XS/S/M/L、低反発 1種)、ウイングアタッチメント2種、充電ケーブル
(協力:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は「プレミアムヘッドホンガイド Vol.30 2023 AUTUMN」からの転載・加筆版です。本誌の詳細はこちらから
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