公開日 2024/02/06 06:30
<特別企画>オーディオアクセサリー銘機賞2024 特別賞受賞モデル
まさに“スピーカースタンド革命”。ルームチューニング機能も搭載したティグロンのRTSシリーズを検証
林 正儀/生形三郎
ティグロンの15周年記念モデル第2弾として登場したのは、スピーカースタンドの「RTSシリーズ」。2006年に誕生したマグネシウム製スタンドをベースに、ルームチューニング機構を融合。「オーディオアクセサリー銘機賞2024」にて“特別賞”を獲得した同モデルの実力を、2人の審査委員がレポートする。
ティグロンは、2006年に発売した世界初のマグネシウム製スピーカースタンド「MGTシリーズ」から事業をスタートしている。これは世界最速のマテリアルだ。マグネシウムの振動吸収性能を活用した優れたスタンドとして、このジャンルをリードしてきたのは周知だろう。以来15年。次々に記念モデルを開発する中で、D-RENシートに続く第2弾として登場したのがスピーカースタンドのRTSシリーズだ。
そのコンセプトが実にユニークで、「スピーカーだけが宙に浮く、理想のスタンド像を具現化した」という。どういうことか? 開発者であり同社代表の沖野氏によれば、マグネシウム一筋でスタンドを作ってきたが、やはり支柱がネックだったそうだ。
そもそもスピーカーを支えて振動抑制する役目だが、であればそれにルームチューニングの機構を持たせたらどうだろう。わざわざルームチューニング材を置くのは制限が多いが、この発想であれば一石二鳥で合理的なはずだ。
開発コンセプトは「スピーカースタンドの存在を消したい」というもの。マグネシウムの四角支柱で1本脚タイプである。室内音響のエキスパートであるエスカートの協力を得て、支柱内部にルームチューニング材を仕込んだのがポイントだ。これまでぎっしりと詰めていた砂の量を、聴感で微妙にコントロールしつつチューニングしたという。
併せて支柱上部と天板の間を、特殊素材のスペーサーで10mmほど浮かせた状態だ。支柱のストレスを逃がし自然減衰させる。空気そのものが自由に解放されるためだろうか。これによってスピーカーのみが仮想的に宙に浮く。世界初のルームチューニング機能付きスピーカースタンドが実現したわけだ(特許取得)。
15年間培ってきた制振技術の全てを踏襲し、天・底板の材質、塗装、全40本のネジ類すべて妥協なく追求した渾身の作品となっている。標準モデルの「RTS-60」とBowers&Wilkins「805 D4」専用の2モデルが用意され、高さは50、60、70cmの3タイプがある。
拙宅では事前に、支柱1本のみで効果を確認したことがある。梱包から出すだけで空気が整うというか、室内音響のバランスが変化して驚いた。支柱を生かす作りになっており、製品バージョンではさらにフリーな空間にスピーカー自体が解き放たれるような印象だ。
過去に聴いたことのない、まったくストレスフリーな音調だ。振動の影響を柳に風といなし、音楽ソースのみが気持ちよくプレイバックされる感じである。特筆すべきは“清々しいほどの音場の広がり”だろう。声や楽器がスピーカーにまとわりつかず生音楽のように溌剌として明快そのもの。ぽっと空間に浮いており、マルゴー・フランケンの『ソングブック』は、北欧シンガーらしいデリカシーに富む天然ボイスに包まれた。
S/Nも格別に優秀だ。ノイズがさらに下がって聴感的な情報量や解像力をはっきりと体感させる。バッティストーニ指揮/東京フィルの「マーラー:交響曲第5番」では、アダージェットの弦合奏やハープがもう1、2段階静寂のかなたにあるようで、心が穏やかになる。ホールの響きにも温かみがあり、映画「ベニスに死す」のワンシーンが蘇るようだ。
これもスピーカーが宙に浮いたのではないかという感触だが、一方ブラスや打楽器が活躍する大音量の楽章やジャズ再生でも、マグネシウムの特質が活きたハイスピードかつ高ダイナミックレンジなサウンドを引き出してくれるのだ。
ほかにもキース・ジャレットの「枯葉」ライブやクリス・ボッティのトランペット演奏ライブ。さらにラップではリゾの「スペシャル」など様々なジャンルを歌心たっぷりに楽しませる。
スピード感と空間的ダイナミズムが伴えば鬼に金棒である。無気質だったり響きをおさえこむスタンドも見受けられるなか、ティグロンがルームチューニング機能を持たせたRTSシリーズを生み出した意義は大きい。
誰も思いつかない斬新な発想とこだわりの作り込みは、オーディオアクセサリー銘機賞の特別賞にふさわしい。音のパフォーマンスも別格で、究極のリアリティがそこにある。スピーカースタンド革命といってよいだろう。
スピーカースタンドでありながらルームチューニング効果も得られるというそのユニークな効果を確認するため、筆者宅にて支柱部分のみを用いた試聴実験をした。まず左右スピーカー間中央に支柱を一本設置してみたところ、中低域の響きが整音されるような調音効果を確認。
そこで、より詳しく効果を確認するために、2本の支柱を左右スピーカーのウーファー横にそれぞれ1本ずつ設置してみたところ、中低域の飽和感がよりいっそう軽減されることが体感できた。
これらの帯域は典型的な日本の住宅環境ではブーミングが生じやすい周波数帯と推察するが、音楽全体の解像感を左右する帯域だけに、ここが整うと非常に明快な出音が得られるのだ。定在波対策を壁内にすでに組み込んでいる筆者宅でもその効果が確認でき、すっかり常設で愛用するに至っている。
とりわけ、中低域以下の低音域の滲みが減るとともに、ヴォーカル帯域やそれ以上の高域も自然に雑味が取れることに驚かされた。実に画期的なスピーカースタンドである。
(提供:ティグロン)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.191』からの転載です
支柱内部にルームチューニング材を仕込み、理想のスタンドを追求(文:林 正儀)
ティグロンは、2006年に発売した世界初のマグネシウム製スピーカースタンド「MGTシリーズ」から事業をスタートしている。これは世界最速のマテリアルだ。マグネシウムの振動吸収性能を活用した優れたスタンドとして、このジャンルをリードしてきたのは周知だろう。以来15年。次々に記念モデルを開発する中で、D-RENシートに続く第2弾として登場したのがスピーカースタンドのRTSシリーズだ。
そのコンセプトが実にユニークで、「スピーカーだけが宙に浮く、理想のスタンド像を具現化した」という。どういうことか? 開発者であり同社代表の沖野氏によれば、マグネシウム一筋でスタンドを作ってきたが、やはり支柱がネックだったそうだ。
そもそもスピーカーを支えて振動抑制する役目だが、であればそれにルームチューニングの機構を持たせたらどうだろう。わざわざルームチューニング材を置くのは制限が多いが、この発想であれば一石二鳥で合理的なはずだ。
開発コンセプトは「スピーカースタンドの存在を消したい」というもの。マグネシウムの四角支柱で1本脚タイプである。室内音響のエキスパートであるエスカートの協力を得て、支柱内部にルームチューニング材を仕込んだのがポイントだ。これまでぎっしりと詰めていた砂の量を、聴感で微妙にコントロールしつつチューニングしたという。
併せて支柱上部と天板の間を、特殊素材のスペーサーで10mmほど浮かせた状態だ。支柱のストレスを逃がし自然減衰させる。空気そのものが自由に解放されるためだろうか。これによってスピーカーのみが仮想的に宙に浮く。世界初のルームチューニング機能付きスピーカースタンドが実現したわけだ(特許取得)。
15年間培ってきた制振技術の全てを踏襲し、天・底板の材質、塗装、全40本のネジ類すべて妥協なく追求した渾身の作品となっている。標準モデルの「RTS-60」とBowers&Wilkins「805 D4」専用の2モデルが用意され、高さは50、60、70cmの3タイプがある。
清々しいほどに広がる音場で、究極のリアリティを再現
拙宅では事前に、支柱1本のみで効果を確認したことがある。梱包から出すだけで空気が整うというか、室内音響のバランスが変化して驚いた。支柱を生かす作りになっており、製品バージョンではさらにフリーな空間にスピーカー自体が解き放たれるような印象だ。
過去に聴いたことのない、まったくストレスフリーな音調だ。振動の影響を柳に風といなし、音楽ソースのみが気持ちよくプレイバックされる感じである。特筆すべきは“清々しいほどの音場の広がり”だろう。声や楽器がスピーカーにまとわりつかず生音楽のように溌剌として明快そのもの。ぽっと空間に浮いており、マルゴー・フランケンの『ソングブック』は、北欧シンガーらしいデリカシーに富む天然ボイスに包まれた。
S/Nも格別に優秀だ。ノイズがさらに下がって聴感的な情報量や解像力をはっきりと体感させる。バッティストーニ指揮/東京フィルの「マーラー:交響曲第5番」では、アダージェットの弦合奏やハープがもう1、2段階静寂のかなたにあるようで、心が穏やかになる。ホールの響きにも温かみがあり、映画「ベニスに死す」のワンシーンが蘇るようだ。
これもスピーカーが宙に浮いたのではないかという感触だが、一方ブラスや打楽器が活躍する大音量の楽章やジャズ再生でも、マグネシウムの特質が活きたハイスピードかつ高ダイナミックレンジなサウンドを引き出してくれるのだ。
ほかにもキース・ジャレットの「枯葉」ライブやクリス・ボッティのトランペット演奏ライブ。さらにラップではリゾの「スペシャル」など様々なジャンルを歌心たっぷりに楽しませる。
スピード感と空間的ダイナミズムが伴えば鬼に金棒である。無気質だったり響きをおさえこむスタンドも見受けられるなか、ティグロンがルームチューニング機能を持たせたRTSシリーズを生み出した意義は大きい。
誰も思いつかない斬新な発想とこだわりの作り込みは、オーディオアクセサリー銘機賞の特別賞にふさわしい。音のパフォーマンスも別格で、究極のリアリティがそこにある。スピーカースタンド革命といってよいだろう。
中低域の響きを見事に整音。自宅でも常設で愛用する(文:生形三郎)
スピーカースタンドでありながらルームチューニング効果も得られるというそのユニークな効果を確認するため、筆者宅にて支柱部分のみを用いた試聴実験をした。まず左右スピーカー間中央に支柱を一本設置してみたところ、中低域の響きが整音されるような調音効果を確認。
そこで、より詳しく効果を確認するために、2本の支柱を左右スピーカーのウーファー横にそれぞれ1本ずつ設置してみたところ、中低域の飽和感がよりいっそう軽減されることが体感できた。
これらの帯域は典型的な日本の住宅環境ではブーミングが生じやすい周波数帯と推察するが、音楽全体の解像感を左右する帯域だけに、ここが整うと非常に明快な出音が得られるのだ。定在波対策を壁内にすでに組み込んでいる筆者宅でもその効果が確認でき、すっかり常設で愛用するに至っている。
とりわけ、中低域以下の低音域の滲みが減るとともに、ヴォーカル帯域やそれ以上の高域も自然に雑味が取れることに驚かされた。実に画期的なスピーカースタンドである。
(提供:ティグロン)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.191』からの転載です