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公開日 2024/03/14 06:30
【特別企画】伝統と新しさが高度にバランス

確かなアンプ技術をベースにネットワーク再生も追求。カナダブランド・MOONの繊細で上質なサウンドを聴く

山之内 正

伝統と最新技術を融合。カナダ・モントリオールのオーディオブランド



MOON(ムーン)はカナダを代表するオーディオブランドの一つである。母体となるSimaudio(シムオーディオ)社の創業から数えるとすでに40年以上の歴史を重ねている。独自技術がもたらす上質な音と息の長い製品ライフで不動の地位を築きつつ、ストリーマーをはじめとする最先端のコンポーネント開発にも意欲的に取り組んでおり、次世代へのブリッジとなる製品を続々と投入。伝統と新しさが高度にバランスしたブランドというのが筆者の個人的な印象だ。

MOON ネットワークプレーヤー/DAC「280D Streaming DAC」(上・715,000円/税込)とプリメインアンプ「240i」(下・605,000円/税込)。「280D streaming DAC」の仕上げはSilver、「240i」の仕上げはTwo Tone photo by 田代法生

今回はエントリーグレードながらMOONらしさが満喫できる200シリーズに焦点を合わせ、ネットワークプレーヤー「280D streaming DAC」とプリメインアンプ「240i」の2機種を紹介しよう。

280Dは8系統のデジタル入力(USB、AES/EBU、同軸x2、光x2、Bluetooth)を装備する多機能なDACで、オプションで用意される「MiND2」モジュールを組み合わせることでストリーミング再生にも対応し、Roon ReadyとMQAもサポート。異種信号間の干渉を抑えるアイソレーションを徹底した高音質設計を導入し、最大384kHz/24bitのPCMと11.2MHzのDSD信号のデコードに対応する。アナログ出力はRCA1系統とXLR1系統を装備する。

「280D streaming DAC」の背面端子。中央上部のネットワーク入力モジュール(MiND2)を追加している。USB等各種デジタル入力も備える

「280D」の内部構造。中央上方にMiND2モジュールが組み込まれている

280Dと同様にボディの高さを抑えたスリムな外観が目を引く240iは、チャンネルあたり50W(8Ω)の出力を実現したDAC内蔵仕様のプリメインアンプだ。280Dとの組み合わせではDACが重なることになるが、LAN入力は非搭載なので、今回はネットワーク再生とDA変換を280Dに任せ、240iはアナログ入力の純粋なプリメインアンプとしてスピーカー駆動に専念させることにした。

「240i」とその背面端子。3系統のアナログRCA入力と1系統のRCA出力を搭載。こちらもUSB入力等のデジタル入力も装備する

MOONのコンポーネントはグレードが異なるシリーズ間でもデザインに一貫性があり、洗練された雰囲気をたたえていることに特長があるのだが、もちろん200シリーズもその例外ではない。無駄を排した立体的な造形は飽きが来ない優れたデザインだと思う。280Dのフロントパネルにはサンプリング周波数を表示するLEDが並んでおり、信号の種類と解像度をひと目で把握することができる。

リズムのキレの良さ、勢いとスピードもリアルに感じられる



fidataのミュージックサーバーを280Dに接続し、MOON独自の操作アプリ「MiND」を操作してファイル音源を再生。スピーカーはBowers&Wilkinsの「803 D4」を使用した。

MOONの専用操作アプリ「MiND」。サーバーとプレーヤーをそれぞれ選択することで直感的な楽曲選択や再生指示などを行える

280Dと240iの組み合わせで聴いた「アルベニスの管弦楽曲」(DSD11.2MHz)は複数の楽器セクションの関係を3次元に描き出す立体的な空間表現を引き出し、ステージの楽器配置を正確に再現した。弦楽器、管楽器、打楽器のアタックがピタリと揃うのは、回路全体の負帰還を使わず位相特性の確保にこだわるMOONの設計思想がもたらす恩恵の一つだ。低音楽器の立ち上がりが遅れないので、前向きのリズムを刻むパーカッションの勢いとスピードをリアルに感じられるのがとても気持ちいい。

再生中は入力系統と該当する音源フォーマットのランプが点灯する

リズムの切れの良さはアタックだけでなく音が減衰する瞬間の振る舞いからも伝わってきた。マイルズ・フロストの「Beat It」では低音域でのバスドラムとベースの音色やスピードの違いを正確に鳴らし分け、一音一音のインパクトは強靭そのもの。余分な低音を引きずってしまうと、ここまで切れの良いリズムを再現するのは難しくなる。

803 D4は280Dと240iの価格を基準に考えるとやや格上のスピーカーだし、アンプへの負荷が大きいかとも考えたのだが、駆動力と制動力どちらもなんら不安はなく、十分な音圧感を得ることができた。ヴォーカルはエッジの強調や余分なふくらみがなく、発音のタイミングも低音から高音まできれいに揃っている。

会場の空気感など、アコースティックな情報の描き方も見事



ツィンマーマンとヘルムヒェンによるベートーヴェンのスプリングソナタは、ヴァイオリンの楽器イメージが平板にならず、やや後方に展開するピアノの澄んだ響きを支えに鮮度の高い音色で旋律が浮かび上がってきた。中高音域の艷やかな感触や低音域の潤いも含め、ヴァイオリンの音色を描き分けるバレットが大きく、強弱の幅も非常に広い。CDでは引き出すのが難しいような細かいニュアンスまで確実に聴き取ることができ、ハイレゾ再生ならではのていねいな描写が見事である。

オーケストラとピアノの伴奏でソプラノが歌うモーツァルトのアリアは高音域が美しく澄み切っているが、音量が上がっても硬い声にはならず、瑞々しくウォームな中音域との対比が実に美しい。ピアノの高音域も付帯音がなく、ピュアな質感がソプラノと共通する。密度は高いが見通しの良い余韻も含め、音調に統一感が感じられることにも感心させられた。余韻や音場の空気感など、アコースティックな情報をていねいに描写するのは上位モデルも含めたMOONのコンポーネントに共通する美点の一つである。

入力の切り替えもアプリから設定できる

TIDALやQobuz等のストリーミングサービスとの連携も可能

MOONは技術志向が強いブランドで、独自のこだわりを貫き通す堅固な姿勢が強みだ。その姿勢は「質実剛健」という言葉で表現するのがふさわしいのだが、今回の試聴からは、40年を超える歴史を重ねることで獲得した「洗練」も聴き取ることができた。特に、演奏の表情をていねいに描き出す繊細な描写力は注目に値する。

【編集部注】MOONブランドの製品は、現在PROSTO株式会社(旧DYNAUDIO JAPAN株式会社)が国内取扱を行っています。

(提供:PROSTO株式会社)

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