公開日 2024/07/09 06:40
“Founderシリーズ” は、カナダの老舗メーカーであるParadigm(パラダイム)のミドルクラスのスピーカーだ。自然な響きを追求し、キャビネット、ユニット、部品もすべて自社製で作り上げられている。ミドルとはいえ、フラグシップモデルの「Persona」譲りの音響レンズを搭載し、このシリーズオリジナルのプレミアムグレードの美しいキャビネットで仕上げられた逸品だ。
この日はピアニストの西本夏生さんに、ブックシェルフ型スピーカー「Founder 40B」(2ウェイ・バスレフ型)を聴いてもらった。数々のアルバムをリリースし、日頃の演奏活動で磨きをかけている西本さんの耳で、Founderの実力を味わっていただこう。
まずは、2020年に西本さんがリリースしたアルバム『パスカル・ヒメノ演奏会用リズム・エチュード第1集・第2集』(ALM RECORDS)より、トラック12「演奏会用リズム・エチュード第2集:クール」を試聴した。
ヒメノは1974年生まれの現代スペインの作曲家。リズミカルでエネルギッシュ、フレンドリーでもあるそのピアノ作品は、近年注目を集めている。このアルバムは、ヒメノが西本さんに書き下ろした作品も含む、最高にクールな作品集なのだ。
「すごい……自分の演奏の録音なのにドキドキしてくる。すっごくリアル!!」いきなり興奮モードに入った西本さん。Founder 40Bが、耳の肥えたピアニストを唸らせる。
「低音の細かい音までとてもよく聴こえてきます。音の丸みを持ったまま、芯の部分が感じられますね。これは、ピアニストにとってはなかなかに恐ろしいスピーカーです。自分が思っている以上に、表現したことが伝わる喜びがある一方で、どのように打鍵しているかなどが精細に伝えられるので、奏者の緊張感も増しますね(笑)」
まさに、ピアニストの息遣いやタッチの一つ一つまでもを描き出すFounder 40Bの実力には、筆者も驚きを隠せない。生々しくヴィヴィッドだが、どこか落ち着きもあって色気も漂う。西本さんのヒメノ作品の演奏との相性の良さを感じる。
「繊細な響きも再現してくれそうなので、少し落ち着いた曲の演奏も聴いてみたいです。」そう言って西本さんが次に試聴したのは、アルバム『クロード・ドビュッシーの墓』(R-resonance)より、コダーイ作曲の「墓碑銘(7つのピアノ小品 Op.11〜第4曲)」だ。しっとりとした和音が奏でる、どこか陰影のある曲想ゆえに、ピアニストの音色のコントロールが肝となる。
「これもすごい……まるでコンサートホールで聴いているようです。それでいて、つぶやくような低音のタッチや、ペダルをどう扱っているかまで、しっかりと聴き取れますね。7年前の自分が、本当に目の前で弾いているような感覚を覚えました」
弦の残響を抑えるダンパーの上げ下げを、ピアニストは繊細なペダル操作によって行うわけだが、ダンパーが弦に触れる微細な音までFounder 40Bが伝える。ホールならではの芳醇な響きも感じつつ、ピアノのすぐそばで聴いているような、情報量の多い再生を楽しめた。
「解像度が高いと、ここまで聴こえるんですね。他のピアニストの演奏を聴いてみたくなります。奏者との距離が近く感じられて、実際にホールで聴くよりもディテールが詳細にわかるので、楽器を学ぶ人にとっては、すごく勉強にもなると思います。私は自宅でピアノレッスンもしているので、若い生徒たちにもこういったスピーカーで、音楽鑑賞をさせてあげたくなります。今は自宅にオーディオシステムを置いていないのですが、私自身もこうしたシステムで聴いてこなかったことが悔やまれます!」
コンサートでもレコーディングでも、作品の隅々まで解釈し、極限まで神経を張り巡らせて一音一音に意味を込める。アルバムは丹念に制作されるだけに、再生環境は奏者にとっても大きな関心事となるはずだ。
「今私は驚きと感動でいっぱいです。Founder 40Bでの再生で、生演奏とはまた一味違う、録音ならではの楽しみ方があるんだということがよくわかりました。
正直なところ、これまでは“録音で聴いても、ここまでの細かい表現が伝わるといいな”と祈るような気持ちもありました。でも今回の体験を通じて、録音でもこれだけ伝わるんだと、アルバム作りがますます楽しみな気持ちになってきました。録音への意欲が湧きますね」
西本さんに、オーケストラの録音も試聴してもらった。ラハフ・シャニ指揮、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団による、『ブルックナー:交響曲第5番』(Warner Classics)である。「残響の広がりが見事ですね。そして減衰がとても美しいです」
パーカッショニスト加藤訓子さんのアルバム『kuniko plays reich II』では「ピアノ・フェイズ (加藤訓子編曲 2台のヴィブラフォン版)」を鑑賞。「音の動きが見えるような感覚になるから不思議ですね。別世界に連れて行かれて、現実に帰ってこれなくなりそう(笑)。部屋を少し暗くして聴きたいですね。完全に沼にハマってしまいそうです!」
ここまではCDでの再生を堪能してきたが、ネットワークプレーヤーのBluesound「NODE」を接続して、ストリーミングサービスを再生。ボザール・トリオによる『メンデルスゾーン:トリオno.1 op.49 第1楽章』を試聴した。「1964年の録音ですが、レトロな音質がまた雰囲気があって素敵ですね。演奏の熱量は十分に伝わり、空気感や匂いまでが感じられそうです」
今回の試聴で、「体験すること」の大切さを痛感したという西本さん。「私は子ども時代にレコードやテープのアナログ音源を体験した記憶があり、自分で音楽を再生する年齢になってからは、デジタルに適応してきた世代です。近年ではPCやスマホで音源を聴くという便利さや気楽さにも馴染んでしまいましたが、やはりそれでは体感できない世界があることを、Founder 40Bの音を聴いてあらためて思い知りました。これは実際に聴いてみなければ、わからないですね。体感しなければ感動は味わえません。楽器を指導する立場としても、レッスン室にオーディオシステムを置きたいですね。新たな夢に出会うことができました」
photo by amigraphy
(提供:PDN)
「レッスン室にもオーディオを置きたい!」
「ピアニストには恐ろしいスピーカー!」西本夏生さんと聴くパラダイム「Founder 40B」の色気
飯田有抄■カナダのスピーカーブランド、パラダイムをピアニストはどう聴く?
“Founderシリーズ” は、カナダの老舗メーカーであるParadigm(パラダイム)のミドルクラスのスピーカーだ。自然な響きを追求し、キャビネット、ユニット、部品もすべて自社製で作り上げられている。ミドルとはいえ、フラグシップモデルの「Persona」譲りの音響レンズを搭載し、このシリーズオリジナルのプレミアムグレードの美しいキャビネットで仕上げられた逸品だ。
この日はピアニストの西本夏生さんに、ブックシェルフ型スピーカー「Founder 40B」(2ウェイ・バスレフ型)を聴いてもらった。数々のアルバムをリリースし、日頃の演奏活動で磨きをかけている西本さんの耳で、Founderの実力を味わっていただこう。
■耳の肥えたピアニストを唸らせるFounderの実力
まずは、2020年に西本さんがリリースしたアルバム『パスカル・ヒメノ演奏会用リズム・エチュード第1集・第2集』(ALM RECORDS)より、トラック12「演奏会用リズム・エチュード第2集:クール」を試聴した。
ヒメノは1974年生まれの現代スペインの作曲家。リズミカルでエネルギッシュ、フレンドリーでもあるそのピアノ作品は、近年注目を集めている。このアルバムは、ヒメノが西本さんに書き下ろした作品も含む、最高にクールな作品集なのだ。
「すごい……自分の演奏の録音なのにドキドキしてくる。すっごくリアル!!」いきなり興奮モードに入った西本さん。Founder 40Bが、耳の肥えたピアニストを唸らせる。
「低音の細かい音までとてもよく聴こえてきます。音の丸みを持ったまま、芯の部分が感じられますね。これは、ピアニストにとってはなかなかに恐ろしいスピーカーです。自分が思っている以上に、表現したことが伝わる喜びがある一方で、どのように打鍵しているかなどが精細に伝えられるので、奏者の緊張感も増しますね(笑)」
まさに、ピアニストの息遣いやタッチの一つ一つまでもを描き出すFounder 40Bの実力には、筆者も驚きを隠せない。生々しくヴィヴィッドだが、どこか落ち着きもあって色気も漂う。西本さんのヒメノ作品の演奏との相性の良さを感じる。
「繊細な響きも再現してくれそうなので、少し落ち着いた曲の演奏も聴いてみたいです。」そう言って西本さんが次に試聴したのは、アルバム『クロード・ドビュッシーの墓』(R-resonance)より、コダーイ作曲の「墓碑銘(7つのピアノ小品 Op.11〜第4曲)」だ。しっとりとした和音が奏でる、どこか陰影のある曲想ゆえに、ピアニストの音色のコントロールが肝となる。
「これもすごい……まるでコンサートホールで聴いているようです。それでいて、つぶやくような低音のタッチや、ペダルをどう扱っているかまで、しっかりと聴き取れますね。7年前の自分が、本当に目の前で弾いているような感覚を覚えました」
弦の残響を抑えるダンパーの上げ下げを、ピアニストは繊細なペダル操作によって行うわけだが、ダンパーが弦に触れる微細な音までFounder 40Bが伝える。ホールならではの芳醇な響きも感じつつ、ピアノのすぐそばで聴いているような、情報量の多い再生を楽しめた。
「解像度が高いと、ここまで聴こえるんですね。他のピアニストの演奏を聴いてみたくなります。奏者との距離が近く感じられて、実際にホールで聴くよりもディテールが詳細にわかるので、楽器を学ぶ人にとっては、すごく勉強にもなると思います。私は自宅でピアノレッスンもしているので、若い生徒たちにもこういったスピーカーで、音楽鑑賞をさせてあげたくなります。今は自宅にオーディオシステムを置いていないのですが、私自身もこうしたシステムで聴いてこなかったことが悔やまれます!」
■アルバム作りがますます楽しみにな気持ちに
コンサートでもレコーディングでも、作品の隅々まで解釈し、極限まで神経を張り巡らせて一音一音に意味を込める。アルバムは丹念に制作されるだけに、再生環境は奏者にとっても大きな関心事となるはずだ。
「今私は驚きと感動でいっぱいです。Founder 40Bでの再生で、生演奏とはまた一味違う、録音ならではの楽しみ方があるんだということがよくわかりました。
正直なところ、これまでは“録音で聴いても、ここまでの細かい表現が伝わるといいな”と祈るような気持ちもありました。でも今回の体験を通じて、録音でもこれだけ伝わるんだと、アルバム作りがますます楽しみな気持ちになってきました。録音への意欲が湧きますね」
西本さんに、オーケストラの録音も試聴してもらった。ラハフ・シャニ指揮、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団による、『ブルックナー:交響曲第5番』(Warner Classics)である。「残響の広がりが見事ですね。そして減衰がとても美しいです」
パーカッショニスト加藤訓子さんのアルバム『kuniko plays reich II』では「ピアノ・フェイズ (加藤訓子編曲 2台のヴィブラフォン版)」を鑑賞。「音の動きが見えるような感覚になるから不思議ですね。別世界に連れて行かれて、現実に帰ってこれなくなりそう(笑)。部屋を少し暗くして聴きたいですね。完全に沼にハマってしまいそうです!」
■録音した時代の空気感や匂いまで伝わってくる
ここまではCDでの再生を堪能してきたが、ネットワークプレーヤーのBluesound「NODE」を接続して、ストリーミングサービスを再生。ボザール・トリオによる『メンデルスゾーン:トリオno.1 op.49 第1楽章』を試聴した。「1964年の録音ですが、レトロな音質がまた雰囲気があって素敵ですね。演奏の熱量は十分に伝わり、空気感や匂いまでが感じられそうです」
今回の試聴で、「体験すること」の大切さを痛感したという西本さん。「私は子ども時代にレコードやテープのアナログ音源を体験した記憶があり、自分で音楽を再生する年齢になってからは、デジタルに適応してきた世代です。近年ではPCやスマホで音源を聴くという便利さや気楽さにも馴染んでしまいましたが、やはりそれでは体感できない世界があることを、Founder 40Bの音を聴いてあらためて思い知りました。これは実際に聴いてみなければ、わからないですね。体感しなければ感動は味わえません。楽器を指導する立場としても、レッスン室にオーディオシステムを置きたいですね。新たな夢に出会うことができました」
photo by amigraphy
(提供:PDN)