公開日 2020/10/30 10:00
本日公開「相撲道 〜サムライを継ぐ者たち〜」
「鬼滅の刃」にも通ずる“心のあり方”描く。国内初ドルビーアトモス採用ドキュメンタリー映画を観てきた
多賀一晃(生活家電.com 主宰)
■国内初のドルビーアトモス採用ドキュメンタリー映画、本日公開
筆者は20年以上、両国国技館で相撲をナマで観ている。そうすると、NHKの大相撲中継には不満が溜まる。
関取のまわし、化粧まわしは、実に色鮮やかなのである。また、力士の肌ツヤは、とても綺麗だ。新陳代謝も良いし、陽の光に当たることも少ない。色白の力士だとピンクに見えるほどだ。そして放送は音も寂しい。国技館で、拍子木を打つと、すこぶる綺麗な余韻が残る。また、観客席の歓声が、一番盛り上がった時などは、上から下に声援が降ってくる感じがする。
コロナ禍で観客がいなくなったとき、それなりに鮮明に録れた音に驚いた人は多いが、海外では、スポーツを映画の特殊なオーディオ技術、ドルビーアトモスなどを駆使して、スタジアムの臨場感をお茶の間に届けるのはもはや当たり前だ。日本は、スポーツエンターテインメントに関して、海外よりかなり遅れている。
そんな中、相撲の醍醐味を、面白さを、美しさを伝える映画ができ上がった。「相撲道 〜サムライを継ぐ者たち〜」である。音声はドルビーアトモス。これは日本のドキュメンタリー映画で初の採用となる。スポーツ中継のレベルを上げたいという願いのもと、ドルビージャパンが協力したと聞く。
さて、相撲は格闘技でも珍しい無差別級だ。しかも足の裏以外を土俵についたら負け、土俵から押し出されたら負けという、世界に類を見ないシンプルルール。当然、大きく重い力士の方が有利だ。今の力士の平均体重は160kgを越すので、幕内の取り組みの多くは、巨漢が、白星を求めて激しくぶつかり合う。頭からぶつかるのだ。流血しないのは稽古で頭を鍛えるからだが、力士の言葉を借りると「毎日が交通事故に遭っているものだ」という。
このため力士のほとんどは、どこかに怪我をしている。それでも勝つためには、土俵に上がらなければならない。普通の人だと考えられないことだろう。ドキュメンタリーは、境川部屋の元大関 豪栄道(現・武隈親方)と高田川部屋の竜電を中心に話を進めていく。
タイトルに「相撲道」とあるように、この映画は、心のあり方を中心に相撲を俯瞰していく。詳しくは書かないが、実は、今、超ヒット街道を驀進中の「鬼滅の刃」で語られる心のあり方にとても似ている。鬼滅と相撲、全く違うようだが、この2つの映画で、日本人という生き方を考えるのも一興だ。
この心が縦軸なら、横軸は日常。力士が生活している相撲部屋の日常をカメラは捉える。ちゃんこを作るときの様子、関取(十両以上)がもらえる個室と力士養成員が寝る共同部屋の違いなども描かれる。笑ったのは、本作の坂田栄治監督が境川部屋のみんなを焼肉屋に連れてご馳走した時。厨房に「どのくらいご飯を炊きましたか」と聞くと「6升、肉は200食」。これで途中経過である。丼飯が箸を5回くらい往復させると空になるわけで、実にすごい。結局、2時間半で、焼肉屋から食べるものがなくなるのだが、支払い額もすごい(レシートが何メートルにもなる)。是非映画で確かめてほしい。そしてまた稽古が始まる。
さて本編は、相撲の取り組みを交えながら進む。その時、ドルビーアトモスによる国技館の臨場感のリアリティはこのうえない。上から下に降ってくる歓声は、映画を観る者の身体を包み込む。力士どうしがぶつかり合う音、息遣い、気合いは、コロナによる無観客開催で初めて知った方も多いかもしれないが、本作はきちんとマイクが拾っている。
日本はドキュメンタリー映画が極めて少ない。そのためか、この映画の上映館は非常に少ない。アメリカなどでは考えられないことだ。しかも現時点で上映館に「ドルビーアトモス対応館」が予定されていないのだ。もちろん標準的な5.1chサラウンドでも作られているので、この映画の良さは伝わるとは思う。
映画館がコロナ禍のなか、映画界を救った「鬼滅の刃」に上映スクリーンを回したい心情はよくわかる。映画はあくまでも興行だが、いい映画をいろいろな人に観てもらうのも、映画館の重要な仕事だ。コロナ禍前の国技館の状況をリアルに感じられ、漢(おとこ)の、サムライの心情に触れるに実にいい映画だ。ぜひ限られた回数でもいいので、ドルビーアトモス対応館がこれから上映に手を挙げてほしい。
また、海外にも積極的に売り込んでほしいと思う。かつて日本の「茶の湯」、「武士道」は、それぞれ岡倉天心、新渡戸稲造が英語で本を書き、海外のインテリゲンチャに働きかけた。正しく自分たちを知ってもらうためだ。今は、映像の時代。相撲レスラーは刀こそ持っていないが、心のありようがサムライ。それが国技と言われ、古代から連綿と続く人気ある興行にもなっている。しかも神事であり、礼に始まり礼に終わる。それが日本人の一つの側面であることをわかってもらうことは非常に大切と思う。
今回は、土俵に上がる心、下を導く心など、心を中心に映画化された。次は、別の切り口からの映画も欲しい。いろいろな意味で余韻が残る、今までにないドキュメンタリー映画だ。
相撲道 〜サムライを継ぐ男たち〜
●10月30日から東京・TOHOシネマズ錦糸町、10月31日からポレポレ東中野ほか全国順次公開
●出演:境川部屋 ?田川部屋
●監督・製作総指揮:坂田栄治
●コーディネートプロデューサー・劇中画:琴剣淳弥
●ナレーション:遠藤憲一
●2020年製作/カラー/シネスコ/5.1ch/106分/G/日本
●製作:「相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜」製作委員会
●配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
(C) 2020「相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜」製作委員会
筆者は20年以上、両国国技館で相撲をナマで観ている。そうすると、NHKの大相撲中継には不満が溜まる。
関取のまわし、化粧まわしは、実に色鮮やかなのである。また、力士の肌ツヤは、とても綺麗だ。新陳代謝も良いし、陽の光に当たることも少ない。色白の力士だとピンクに見えるほどだ。そして放送は音も寂しい。国技館で、拍子木を打つと、すこぶる綺麗な余韻が残る。また、観客席の歓声が、一番盛り上がった時などは、上から下に声援が降ってくる感じがする。
コロナ禍で観客がいなくなったとき、それなりに鮮明に録れた音に驚いた人は多いが、海外では、スポーツを映画の特殊なオーディオ技術、ドルビーアトモスなどを駆使して、スタジアムの臨場感をお茶の間に届けるのはもはや当たり前だ。日本は、スポーツエンターテインメントに関して、海外よりかなり遅れている。
そんな中、相撲の醍醐味を、面白さを、美しさを伝える映画ができ上がった。「相撲道 〜サムライを継ぐ者たち〜」である。音声はドルビーアトモス。これは日本のドキュメンタリー映画で初の採用となる。スポーツ中継のレベルを上げたいという願いのもと、ドルビージャパンが協力したと聞く。
さて、相撲は格闘技でも珍しい無差別級だ。しかも足の裏以外を土俵についたら負け、土俵から押し出されたら負けという、世界に類を見ないシンプルルール。当然、大きく重い力士の方が有利だ。今の力士の平均体重は160kgを越すので、幕内の取り組みの多くは、巨漢が、白星を求めて激しくぶつかり合う。頭からぶつかるのだ。流血しないのは稽古で頭を鍛えるからだが、力士の言葉を借りると「毎日が交通事故に遭っているものだ」という。
このため力士のほとんどは、どこかに怪我をしている。それでも勝つためには、土俵に上がらなければならない。普通の人だと考えられないことだろう。ドキュメンタリーは、境川部屋の元大関 豪栄道(現・武隈親方)と高田川部屋の竜電を中心に話を進めていく。
タイトルに「相撲道」とあるように、この映画は、心のあり方を中心に相撲を俯瞰していく。詳しくは書かないが、実は、今、超ヒット街道を驀進中の「鬼滅の刃」で語られる心のあり方にとても似ている。鬼滅と相撲、全く違うようだが、この2つの映画で、日本人という生き方を考えるのも一興だ。
この心が縦軸なら、横軸は日常。力士が生活している相撲部屋の日常をカメラは捉える。ちゃんこを作るときの様子、関取(十両以上)がもらえる個室と力士養成員が寝る共同部屋の違いなども描かれる。笑ったのは、本作の坂田栄治監督が境川部屋のみんなを焼肉屋に連れてご馳走した時。厨房に「どのくらいご飯を炊きましたか」と聞くと「6升、肉は200食」。これで途中経過である。丼飯が箸を5回くらい往復させると空になるわけで、実にすごい。結局、2時間半で、焼肉屋から食べるものがなくなるのだが、支払い額もすごい(レシートが何メートルにもなる)。是非映画で確かめてほしい。そしてまた稽古が始まる。
さて本編は、相撲の取り組みを交えながら進む。その時、ドルビーアトモスによる国技館の臨場感のリアリティはこのうえない。上から下に降ってくる歓声は、映画を観る者の身体を包み込む。力士どうしがぶつかり合う音、息遣い、気合いは、コロナによる無観客開催で初めて知った方も多いかもしれないが、本作はきちんとマイクが拾っている。
日本はドキュメンタリー映画が極めて少ない。そのためか、この映画の上映館は非常に少ない。アメリカなどでは考えられないことだ。しかも現時点で上映館に「ドルビーアトモス対応館」が予定されていないのだ。もちろん標準的な5.1chサラウンドでも作られているので、この映画の良さは伝わるとは思う。
映画館がコロナ禍のなか、映画界を救った「鬼滅の刃」に上映スクリーンを回したい心情はよくわかる。映画はあくまでも興行だが、いい映画をいろいろな人に観てもらうのも、映画館の重要な仕事だ。コロナ禍前の国技館の状況をリアルに感じられ、漢(おとこ)の、サムライの心情に触れるに実にいい映画だ。ぜひ限られた回数でもいいので、ドルビーアトモス対応館がこれから上映に手を挙げてほしい。
また、海外にも積極的に売り込んでほしいと思う。かつて日本の「茶の湯」、「武士道」は、それぞれ岡倉天心、新渡戸稲造が英語で本を書き、海外のインテリゲンチャに働きかけた。正しく自分たちを知ってもらうためだ。今は、映像の時代。相撲レスラーは刀こそ持っていないが、心のありようがサムライ。それが国技と言われ、古代から連綿と続く人気ある興行にもなっている。しかも神事であり、礼に始まり礼に終わる。それが日本人の一つの側面であることをわかってもらうことは非常に大切と思う。
今回は、土俵に上がる心、下を導く心など、心を中心に映画化された。次は、別の切り口からの映画も欲しい。いろいろな意味で余韻が残る、今までにないドキュメンタリー映画だ。
相撲道 〜サムライを継ぐ男たち〜
●10月30日から東京・TOHOシネマズ錦糸町、10月31日からポレポレ東中野ほか全国順次公開
●出演:境川部屋 ?田川部屋
●監督・製作総指揮:坂田栄治
●コーディネートプロデューサー・劇中画:琴剣淳弥
●ナレーション:遠藤憲一
●2020年製作/カラー/シネスコ/5.1ch/106分/G/日本
●製作:「相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜」製作委員会
●配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
(C) 2020「相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜」製作委員会