公開日 2023/03/03 06:50
【連載】佐野正弘のITインサイト 第47回
中国新興メーカーから発表相次ぐ折りたたみスマホ、日本になぜ投入されないのか
佐野 正弘
スペイン・バルセロナで毎年開催されている、携帯電話業界最大の見本市イベント「MWC Barcelona」。新型コロナウイルスの影響で2020年には開催直前に中止となったり、それ以降もオンラインとオフラインとの併催になったりと紆余曲折があったものの、コロナ禍が落ち着いたこともあってリアル主体のイベントへと戻りつつある。
そして、先日2月28日から開催されている今年の「MWC Barcelona 2023」は、筆者も実際に会場を訪れて取材をしている。
5G時代に入り、ネットワーク技術に対する注目が高まる一方、スマートフォンの存在感が薄れてきていた携帯電話業界。MWC Barcelonaでもここ数年来、その傾向が強かったのだが、2023年の会場を取材してみると意外にもスマートフォンの展示が増え、元気を取り戻してきている印象を受けた。
といっても、その傾向は以前とはかなり違っていて、最も大きな違いを感じるのがメーカーである。スマートフォンから撤退したLGエレクトロニクスだけでなく、かつて「Xperia」シリーズのフラッグシップモデルを発表していたソニーもブース出展を見送り。HTCはブースこそ構えているものの、VRゴーグルの展示が主でスマートフォンの姿はなく、サムスン電子を除けば古参メーカーの存在感は軒並み失われている。
それと入れ替わるかたちで大規模なブースを構え、存在感を高めているのが設立20年未満の中国の新興メーカーだ。日本にも進出しているOPPO(オッポ)やXiaomi(シャオミ)がその象徴的な例といえ、Xiaomiは同イベント開催前日の2月26日にフラッグシップモデル「Xiaomi 13」シリーズのグローバル展開を発表するイベントを実施。ソニー製の1インチサイズイメージセンサーを採用し、独ライカカメラと共同開発したカメラを搭載した「Xiaomi 13 Pro」などを中心に、欧州などに向けても展開していくようだ。
OPPOも会場内に大規模なブースを構え、折りたたみスマートフォン「OPPO Find N2 Flip」を主体とした展示を実施。傘下のスマートフォンメーカー・OnePlus(ワンプラス)が発表した新機種「OnePlus 11 5G」や、それをベースに液体冷却機能を搭載したコンセプトモデルなども展示して盛り上がりを見せている。
そしてもう1つ注目を集めたのが、HONOR(オナー)だ。HONORは元々、中国ファーウェイ・テクノロジーズの1ブランドだったが、同社が米国から制裁を受け、スマートフォンの開発が難しくなったことを受けて独立して設立された企業だ。同社も今回のMWC Barcelonaでは大規模なブースを構え、100倍ズームが可能なカメラを備えた「HONOR Magic5 Pro」や、折りたたみスマートフォン「HONOR Magic Vs」のグローバル展開などを明らかにしている。
そして、これら新興メーカーのアピールポイントにはある共通点がある。それは、非常に高いカメラ性能を備えていたり、折りたためるディスプレイを搭載したりするなど、高い性能を持つハイエンドモデルの世界展開に力を注いでいることだ。
中国の新興スマートフォンメーカーは、元々中国や新興国を中心として、コストパフォーマンスが高いミドル〜ローエンドのモデルで支持を獲得し、急成長して世界トップクラスのシェアを獲得するに至った経緯がある。だが、コロナ禍以降スマートフォンを取り巻く市場環境は大きく変わってきており、新興国の市場飽和、そしてコロナ禍における中国市場の減速などによって、伸び悩みが顕著になってきているのだ。
そこで、低価格モデルに重点を置く従来の戦略を改め、フラッグシップモデルに重点を置いて欧州などの先進国で販売を拡大。それによって、ブランド力と収益性を高め成長を維持したいというのが、これらメーカーに共通した狙いとなっているわけだ。
その流れは、より広いメーカーに波及しているようだ。「Tecno」などのブランドでアフリカを中心にローエンド主体のスマートフォンを販売し、世界シェアトップ10に入る急成長を遂げた伝音科技(Transsion)も、今回のMWC Barcelonaに合わせて新たに折りたたみ型の「Phantom V Fold」を投入することを発表した。ローエンド主体のビジネスモデルから抜け出そうとしている様子をうかがわせている。
なのであれば、そうした中国新興メーカーが作り出すハイエンドモデルの世界的な潮流が日本にも流れてくる可能性があるのでは?と思われる方もいるかもしれないが、可能性はあまり高くないと筆者は見ている。そこには、日本において彼らが得意とするオープン市場(いわゆるSIMフリー市場)の規模が小さく、携帯電話会社経由でのスマートフォン販売が多くを占めるという日本市場の特異性がある。
そして日本では、2019年の電気通信事業法改正以降、スマートフォンの値引き販売に大きな逆風が吹いており、携帯各社が値段が高いハイエンドモデルの数を絞る傾向にある。この法改正が、低価格に強みを持つOPPOやXiaomiに市場参入の機会を与えたことは確かだが、一方で硬直化した値引き規制でハイエンドモデルの販売へという道筋を付けられないジレンマとなっていることも、またたしかである。
しかも日本市場では、ハイエンドモデルの販売が大きく落ち込んでいるとはいえ、アップルやサムスン電子に加え国内メーカーもハイエンドモデルに力を注ぐ傾向にあることから、この領域での競争が非常に激しく、新しい企業が市場に入り込みにくい傾向にある。実際、Xiaomi 13 Proの特徴でもある1インチイメージセンサーの搭載や、ライカカメラと共同開発したカメラなどの特徴は、ここ最近のシャープのハイエンドモデル「AQUOS R」と共通しており、差異化が難しい部分があると感じてしまう。
とはいえソフトバンクが、Xiaomiの「Xiaomi 12T Pro」を「神ジューデン」と打ち出して販売したように、他のメーカーにない特徴をうまく市場に合わせて打ち出すことができれば、ハイエンドモデルの販売にこぎつけられる可能性は十分あり得る。ただそれには、自社製品と日本の市場を知るスタッフ、さらに言えば日本法人の力も大きく関わってくることから一筋縄ではいかず、やはりハードルが高いというのが正直なところである。
そして、先日2月28日から開催されている今年の「MWC Barcelona 2023」は、筆者も実際に会場を訪れて取材をしている。
5G時代に入り、ネットワーク技術に対する注目が高まる一方、スマートフォンの存在感が薄れてきていた携帯電話業界。MWC Barcelonaでもここ数年来、その傾向が強かったのだが、2023年の会場を取材してみると意外にもスマートフォンの展示が増え、元気を取り戻してきている印象を受けた。
といっても、その傾向は以前とはかなり違っていて、最も大きな違いを感じるのがメーカーである。スマートフォンから撤退したLGエレクトロニクスだけでなく、かつて「Xperia」シリーズのフラッグシップモデルを発表していたソニーもブース出展を見送り。HTCはブースこそ構えているものの、VRゴーグルの展示が主でスマートフォンの姿はなく、サムスン電子を除けば古参メーカーの存在感は軒並み失われている。
■存在感が高まる中国の新興メーカー
それと入れ替わるかたちで大規模なブースを構え、存在感を高めているのが設立20年未満の中国の新興メーカーだ。日本にも進出しているOPPO(オッポ)やXiaomi(シャオミ)がその象徴的な例といえ、Xiaomiは同イベント開催前日の2月26日にフラッグシップモデル「Xiaomi 13」シリーズのグローバル展開を発表するイベントを実施。ソニー製の1インチサイズイメージセンサーを採用し、独ライカカメラと共同開発したカメラを搭載した「Xiaomi 13 Pro」などを中心に、欧州などに向けても展開していくようだ。
OPPOも会場内に大規模なブースを構え、折りたたみスマートフォン「OPPO Find N2 Flip」を主体とした展示を実施。傘下のスマートフォンメーカー・OnePlus(ワンプラス)が発表した新機種「OnePlus 11 5G」や、それをベースに液体冷却機能を搭載したコンセプトモデルなども展示して盛り上がりを見せている。
そしてもう1つ注目を集めたのが、HONOR(オナー)だ。HONORは元々、中国ファーウェイ・テクノロジーズの1ブランドだったが、同社が米国から制裁を受け、スマートフォンの開発が難しくなったことを受けて独立して設立された企業だ。同社も今回のMWC Barcelonaでは大規模なブースを構え、100倍ズームが可能なカメラを備えた「HONOR Magic5 Pro」や、折りたたみスマートフォン「HONOR Magic Vs」のグローバル展開などを明らかにしている。
■各新興メーカーが注力する、ハイエンドモデルの世界展開
そして、これら新興メーカーのアピールポイントにはある共通点がある。それは、非常に高いカメラ性能を備えていたり、折りたためるディスプレイを搭載したりするなど、高い性能を持つハイエンドモデルの世界展開に力を注いでいることだ。
中国の新興スマートフォンメーカーは、元々中国や新興国を中心として、コストパフォーマンスが高いミドル〜ローエンドのモデルで支持を獲得し、急成長して世界トップクラスのシェアを獲得するに至った経緯がある。だが、コロナ禍以降スマートフォンを取り巻く市場環境は大きく変わってきており、新興国の市場飽和、そしてコロナ禍における中国市場の減速などによって、伸び悩みが顕著になってきているのだ。
そこで、低価格モデルに重点を置く従来の戦略を改め、フラッグシップモデルに重点を置いて欧州などの先進国で販売を拡大。それによって、ブランド力と収益性を高め成長を維持したいというのが、これらメーカーに共通した狙いとなっているわけだ。
その流れは、より広いメーカーに波及しているようだ。「Tecno」などのブランドでアフリカを中心にローエンド主体のスマートフォンを販売し、世界シェアトップ10に入る急成長を遂げた伝音科技(Transsion)も、今回のMWC Barcelonaに合わせて新たに折りたたみ型の「Phantom V Fold」を投入することを発表した。ローエンド主体のビジネスモデルから抜け出そうとしている様子をうかがわせている。
なのであれば、そうした中国新興メーカーが作り出すハイエンドモデルの世界的な潮流が日本にも流れてくる可能性があるのでは?と思われる方もいるかもしれないが、可能性はあまり高くないと筆者は見ている。そこには、日本において彼らが得意とするオープン市場(いわゆるSIMフリー市場)の規模が小さく、携帯電話会社経由でのスマートフォン販売が多くを占めるという日本市場の特異性がある。
そして日本では、2019年の電気通信事業法改正以降、スマートフォンの値引き販売に大きな逆風が吹いており、携帯各社が値段が高いハイエンドモデルの数を絞る傾向にある。この法改正が、低価格に強みを持つOPPOやXiaomiに市場参入の機会を与えたことは確かだが、一方で硬直化した値引き規制でハイエンドモデルの販売へという道筋を付けられないジレンマとなっていることも、またたしかである。
しかも日本市場では、ハイエンドモデルの販売が大きく落ち込んでいるとはいえ、アップルやサムスン電子に加え国内メーカーもハイエンドモデルに力を注ぐ傾向にあることから、この領域での競争が非常に激しく、新しい企業が市場に入り込みにくい傾向にある。実際、Xiaomi 13 Proの特徴でもある1インチイメージセンサーの搭載や、ライカカメラと共同開発したカメラなどの特徴は、ここ最近のシャープのハイエンドモデル「AQUOS R」と共通しており、差異化が難しい部分があると感じてしまう。
とはいえソフトバンクが、Xiaomiの「Xiaomi 12T Pro」を「神ジューデン」と打ち出して販売したように、他のメーカーにない特徴をうまく市場に合わせて打ち出すことができれば、ハイエンドモデルの販売にこぎつけられる可能性は十分あり得る。ただそれには、自社製品と日本の市場を知るスタッフ、さらに言えば日本法人の力も大きく関わってくることから一筋縄ではいかず、やはりハードルが高いというのが正直なところである。