公開日 2023/04/03 13:46
2009年のインタビュー記事などから足跡を振り返る
追悼:坂本龍一が語った「これからの音楽のかたちと価値」
ファイルウェブ編集部
ミュージシャンの坂本龍一氏が3月28日に亡くなったことが明らかにされた。当ファイルウェブでも2009年に「これからの音楽のかたちと価値」をテーマにインタビューに登場いただくなど、音楽配信や映像配信にも初期段階から積極的にトライし、音楽のあり方を常に考えていた坂本氏。その足跡を振り返る。
上記インタビュー記事が掲載された2009年当時といえば、まだまだMP3ファイルが主流だった時代。一方で、「e-onkyo music store」などCD以上のクオリティを持つデータでの配信を行うサービスが登場し始め、音楽配信の新たな潮流を感じさせるタイミングでもあった。
当時のツアー「Ryuichi Sakamoto Playing the Piano 2009」では、全24公演を終演後最短24時間でiTunes Storeにて配信するという試みを行ったが、その音質は128kbpsのMP3。「いろいろな都合があってMP3の128kbpsだったのですが、音質的には非常に不満でね」と語っていた。
そこで、2009年3月に発売したアルバム「out of noise」の配信版では、“320kbpsのMP3”に加え、より高音質な“48kHz/24bitのAIFFファイル”が用意されていた。これは作り手としての「なるべくいい音で聴いて欲しい」という思いが根底にあったという。
「生で鳴っている音って、データにしようと思ったらきっと相当な重さになりますね。でも作り手としてはやっぱり、ライブの音になるべく近いものを聴いてもらいたいんです」。
ただ一方で、音楽の価値は高音質だけにあるのではないとも語る。
「武満徹さんの話ですけど、戦争中に空襲に遭って防空壕に逃げ込んだら、居合わせた将校が、蓄音機でシャンソンをかけた。もちろんノイズがいっぱいだったんだろうけれど、その時もの凄く感動して、彼のその後の音楽活動の原点の一つになったんだそうです。だから、“音のS/N”と“音楽のS/N”って全然違うんです。MP3の128kbpsでギザギザの音でも、心を大きく揺さぶることはできる。必ずしも『高音質=音楽性が高い』というわけではないんですね」。
また、音楽の楽しみ方として、ライブ・コンサートへの回帰にも言及。
「もともと音楽って何万年もの間、かたちのない『ライブ』だったんです。メディアを再生して音楽を聴くというスタイルは、レコード誕生以後の約100年くらいの歴史しかないんですね。メディアがなく録音もできない時代、音楽は100%ライブだった。音楽が目に見えない、触れられないデータ化されたものになっている今、もう一度音楽のおおもとのかたち − ライブへの欲求が強くなっている。これはすごく面白いことだなと思っています。なにか必然的な理由があるような気がしてね」。
「たとえばいま携帯電話で音楽を聴いている子供たちにも、もっと生を聴く機会ができればいいと思います。シャカシャカした携帯電話の音楽と、ライブで聴く生音は全く別のものだって、1回聴けば分かりますよ。録音した音楽は、どうやっても生を超えることはできない。だから、生の音楽に接する機会を、多く持ってもらいたいと思います」。
その後2011年には、韓国で行ったライブをUstreamで配信。ソフトバンクのスマートフォン「GALAPAGOS SoftBank 003SH」向けに3Dでの動画配信も行った。「GALAPAGOS SoftBank 003SH」はAndroid 2.2、画面は解像度480×800の3.8インチ。映像配信が当たり前になった現在の視点ではかなり低スペックにも思えてしまうが、そんな時代から、今につながる先鋭的な取り組みを行っていたのだ。
そして、2013年12月には「戦場のメリークリスマス」が5.6MHz DSDでリマスタリングされ、「Merry Christmas Mr.Lawrence - 30th Anniversary Editon -」として配信。インタビューで語っていた「なるべくいい音で聴いて欲しい」という想いが形になったとも言える。なお、「戦場のメリークリスマス」5.6MHz DSD配信については、リマスタリングを担当したオノ セイゲン氏のインタビューを別記事で掲載しているので、そちらも参考にしてもらえればと思う。
そのほか、オーディオビジュアル的な観点だと、坂本氏が主催する音楽レーベル/プロジェクト「commmons(コモンズ)」主催で開催された2016年の音楽イベント「健康音楽」に、ソニーやAstell&Kernといったオーディオブランドも協賛。
同イベントは、当時、中喉頭ガンから復帰を果たした坂本氏にとっても、そして世の中にとっても大きな関心事である「健康」の在り方を、「音楽」「食」「運動」「笑」「知」などの切り口から提案するというもの。ワークショップやトークショー、ライブパフォーマンスとともに、ソニーおよびAstell&Kernの製品を体験することもできるイベントだった。
音楽を届けることへ真摯に向き合ってきた坂本氏。そんな彼の功績は決して色褪せることなく、これからも輝き続けていくことだろう。
上記インタビュー記事が掲載された2009年当時といえば、まだまだMP3ファイルが主流だった時代。一方で、「e-onkyo music store」などCD以上のクオリティを持つデータでの配信を行うサービスが登場し始め、音楽配信の新たな潮流を感じさせるタイミングでもあった。
当時のツアー「Ryuichi Sakamoto Playing the Piano 2009」では、全24公演を終演後最短24時間でiTunes Storeにて配信するという試みを行ったが、その音質は128kbpsのMP3。「いろいろな都合があってMP3の128kbpsだったのですが、音質的には非常に不満でね」と語っていた。
そこで、2009年3月に発売したアルバム「out of noise」の配信版では、“320kbpsのMP3”に加え、より高音質な“48kHz/24bitのAIFFファイル”が用意されていた。これは作り手としての「なるべくいい音で聴いて欲しい」という思いが根底にあったという。
「生で鳴っている音って、データにしようと思ったらきっと相当な重さになりますね。でも作り手としてはやっぱり、ライブの音になるべく近いものを聴いてもらいたいんです」。
ただ一方で、音楽の価値は高音質だけにあるのではないとも語る。
「武満徹さんの話ですけど、戦争中に空襲に遭って防空壕に逃げ込んだら、居合わせた将校が、蓄音機でシャンソンをかけた。もちろんノイズがいっぱいだったんだろうけれど、その時もの凄く感動して、彼のその後の音楽活動の原点の一つになったんだそうです。だから、“音のS/N”と“音楽のS/N”って全然違うんです。MP3の128kbpsでギザギザの音でも、心を大きく揺さぶることはできる。必ずしも『高音質=音楽性が高い』というわけではないんですね」。
また、音楽の楽しみ方として、ライブ・コンサートへの回帰にも言及。
「もともと音楽って何万年もの間、かたちのない『ライブ』だったんです。メディアを再生して音楽を聴くというスタイルは、レコード誕生以後の約100年くらいの歴史しかないんですね。メディアがなく録音もできない時代、音楽は100%ライブだった。音楽が目に見えない、触れられないデータ化されたものになっている今、もう一度音楽のおおもとのかたち − ライブへの欲求が強くなっている。これはすごく面白いことだなと思っています。なにか必然的な理由があるような気がしてね」。
「たとえばいま携帯電話で音楽を聴いている子供たちにも、もっと生を聴く機会ができればいいと思います。シャカシャカした携帯電話の音楽と、ライブで聴く生音は全く別のものだって、1回聴けば分かりますよ。録音した音楽は、どうやっても生を超えることはできない。だから、生の音楽に接する機会を、多く持ってもらいたいと思います」。
その後2011年には、韓国で行ったライブをUstreamで配信。ソフトバンクのスマートフォン「GALAPAGOS SoftBank 003SH」向けに3Dでの動画配信も行った。「GALAPAGOS SoftBank 003SH」はAndroid 2.2、画面は解像度480×800の3.8インチ。映像配信が当たり前になった現在の視点ではかなり低スペックにも思えてしまうが、そんな時代から、今につながる先鋭的な取り組みを行っていたのだ。
そして、2013年12月には「戦場のメリークリスマス」が5.6MHz DSDでリマスタリングされ、「Merry Christmas Mr.Lawrence - 30th Anniversary Editon -」として配信。インタビューで語っていた「なるべくいい音で聴いて欲しい」という想いが形になったとも言える。なお、「戦場のメリークリスマス」5.6MHz DSD配信については、リマスタリングを担当したオノ セイゲン氏のインタビューを別記事で掲載しているので、そちらも参考にしてもらえればと思う。
そのほか、オーディオビジュアル的な観点だと、坂本氏が主催する音楽レーベル/プロジェクト「commmons(コモンズ)」主催で開催された2016年の音楽イベント「健康音楽」に、ソニーやAstell&Kernといったオーディオブランドも協賛。
同イベントは、当時、中喉頭ガンから復帰を果たした坂本氏にとっても、そして世の中にとっても大きな関心事である「健康」の在り方を、「音楽」「食」「運動」「笑」「知」などの切り口から提案するというもの。ワークショップやトークショー、ライブパフォーマンスとともに、ソニーおよびAstell&Kernの製品を体験することもできるイベントだった。
音楽を届けることへ真摯に向き合ってきた坂本氏。そんな彼の功績は決して色褪せることなく、これからも輝き続けていくことだろう。