公開日 2023/10/12 06:35
「ローミッドの豊かさが感じられる」
“ヒゲダン”作品にも携わる名エンジニアがオンキヨー旗艦AVアンプ「TX-RZ70」を体験。古賀健一さんが感じた魅力とは?
構成:ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
Official髭男dismの音楽制作はもとより、イマーシブオーディオに関する情報発信を積極的に行っているエンジニアの古賀健一さん。学生時代からオンキヨーのコンポも使用しており、オンキヨーブランドに人一倍愛着を持っているという古賀さんに、オンキヨーの最新フラグシップAVアンプ「TX-RZ70」を体験してもらった。
古賀さんは以前から、「普通のコンシューマーの環境では、自分たちの作ったドルビーアトモス音源がどんなふうに聴かれているのか」ということに非常に興味を持っていたという。ヘッドホンやサウンドバーなど、ドルビーアトモスが再生できる環境は増えてきているが、やはりAVアンプ+スピーカーという本格的なシステムでどう聴こえるのか知りたい、その要望にオンキヨーが応える形で、今回の企画が実現した。
まずはオンキヨーテクノロジー(株)の渡邉彰久さんより、現在のオンキヨーのAVアンプのポジションについて説明がなされた。
2021年の9月より、オンキヨーのホームエンタテイメント事業部は、アメリカのPREMIUM AUDIO COMPANY(以下PAC)という会社の傘下にある。PACの子会社として、東大阪にオンキヨー製品の設計・開発を担当するオンキヨーテクノロジー(株)(以下OTKK)が存在する。この部隊は以前からオンキヨー製品に関わっていた開発チームがほぼそのまま移管している。「開発は日本で行われるアメリカのブランド」というのが現在のオンキヨー(※注:AVアンプを中心とするホームオーディオ関連製品)の位置付けである。
そして2022年7月より、ティアック(株)が“輸入商社として”国内での展開や修理などのサポートを開始した。そのため、この試聴もティアック社内の試聴室にオールクリプシュスピーカーで7.2.4chのドルビーアトモス環境を構築することで実現した。
続いて最新モデル「TX-RZ70」の技術詳細について、東大阪のOTKK事務所とオンラインで繋いで解説がなされた。渡邉さんによると、TZ-RZ70は「PAC傘下になって初めて開発、設計した製品」になるという。
「オンキヨーには、これまで培ってきたアナログのアンプ技術があります。PACからは、オンキヨーのAVアンプとして、ディテールや奥行きをしっかり描いてほしい、といった要望をもらいました。ライブのディスクなどを聴きながら音質を追い込んでいったのですが、最初はなかなかOKが出なかったんです。しかし、回路設計に手を入れることで、だんだんと狙った音を実現できるようになってきました。
AVレシーバーはデジタルの回路がとても多く搭載されており、どうしてもアナログの回路に影響を与えてしまいます。アンプのミュート回路や、測定用のマイク端子、ヘッドホン回路などもノイズが入り込む原因となります。そういった問題を解決するために、回路のレイアウト、配線、定数を細かく調整することで、音質を追い込んでいます。ある程度は測定で行いますが、最後のチューニングはやはり人間の耳が大切です」(開発担当・浅原宏之さん)
こうした浅原さんの説明を受け、古賀さんからは「今の時代のAVアンプは11chなど非常に多くのチャンネルが必要になってきていますが、スペースが足りないと感じることはありませんか?」と質問が。
まさにAVアンプはスペースとの戦い。浅原さんも、「アンプは発熱するので、それを効率的に逃すことも必要です。チャンネル数が増えると必然的にどんどん苦しくなってきます」とコメント。「今回のTX-RZ70ではファンをヒートシンクの下に搭載し、ゴムを使って固定しています。そうすることで、ファンの影響を受けにくくなっています。実は、15年ほど前にオンキヨーがソーテックというパソコンメーカーを買収したことがありました。その時にオーディオパソコンというジャンルに挑戦したことがあり、ファンの静音化は大きな課題でした。その時に得た技術も今回のAVアンプには搭載されているんです」と長年のノウハウの積み重ねがしっかり生かされていると語る。
「TX-RZ70」の目玉機能の一つが、音場補正機能「Dirac Live」を標準で搭載していることにある。Dirac Liveは部屋の中の何箇所かにマイクを置いて部屋の特性を計測、スピーカーの位相を揃えることで最適な試聴環境になるように補正してくれるテクノロジーである。
さらに有償オプション(499ドル)として「Dirac Live Bass Control」という上位バージョンも利用できる。こちらはクロスオーバーエリアの低域再生を補正する他、フロントとサブウーファーの位相を合わせるなどの機能が追加されている。
今回は、「TX-RZ70」の「Dirac Live」なし、「Dirac Live」あり、「Dirac Live Bass Control」ありという3パターンを聴き比べた。もちろんソースは古賀さんがミックスした『Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』である。
古賀さんは「まずはTX-RZ70のそのままの状態でも、ポテンシャルが非常に高いことが感じられました。ここではイネーブルドスピーカーを使っていますが、天井からの音もしっかり聴こえてきますね」とコメント。
「このオンラインライブは、コロナ禍で無観客で開催されたライブだったので、マイクやカメラの位置も実験的に置くことができたんです。ですから、初めから7.1.4chを意識してレコーディングからミックスまで行っています」と、関係者の立場から当時の状況を説明。「ちゃんと狙ったところから音が出ていることも感じますし、低音感も非常に良いと感じます」とDiracの音場補正機能についても効果を実感。
特に有料の「Dirac Live Bass Control」では、低域のボリューム感が明らかに上がり、よりリッチな低域表現が展開される。「ゲインの調整はやっていないんですよね? 低域の位相をちゃんと揃えるだけで、ここまでの変化があるとは思っていませんでした」と驚きを隠せない。
他にも、AdoのライブBlu-ray『カムパネルラ』や、NeSTREAM LIVEのアプリからキャストしたOfficial髭男dismの音源、Amazon Music Unlimitedで配信されているKeiichi Yoshioka (善岡慧一)「Sleepless」といったクラシック録音まで、古賀さんが作成したドルビーアトモス音源をさまざまにチェック。「どの音源からもローミッドの豊かさが感じられて、これがオンキヨーのサウンドなのかなとわかってきました」と音質を評価する。
「ドルビーアトモスはユーザーの側でこれだけきちんと再生ができるのだから、エンジニアの側もまだまだ勉強しなければいけないことがあると理解できました」と古賀さん。次回以降の作品作りのヒントにもつながったようだ。
最後にエンジニアサイドからの要望として、「キャノンアウトがあると嬉しい!」とリクエスト。スタジオではスピーカーはアクティブモデルが使われていることが多いため、パワーアンプは不要で、XLR出力から直接スピーカーに入力することになる。「キャノンアウトのあるAVアンプは数が少ないので、ぜひ作ってください!」と熱く語っていた。
古賀さんは以前から、「普通のコンシューマーの環境では、自分たちの作ったドルビーアトモス音源がどんなふうに聴かれているのか」ということに非常に興味を持っていたという。ヘッドホンやサウンドバーなど、ドルビーアトモスが再生できる環境は増えてきているが、やはりAVアンプ+スピーカーという本格的なシステムでどう聴こえるのか知りたい、その要望にオンキヨーが応える形で、今回の企画が実現した。
まずはオンキヨーテクノロジー(株)の渡邉彰久さんより、現在のオンキヨーのAVアンプのポジションについて説明がなされた。
2021年の9月より、オンキヨーのホームエンタテイメント事業部は、アメリカのPREMIUM AUDIO COMPANY(以下PAC)という会社の傘下にある。PACの子会社として、東大阪にオンキヨー製品の設計・開発を担当するオンキヨーテクノロジー(株)(以下OTKK)が存在する。この部隊は以前からオンキヨー製品に関わっていた開発チームがほぼそのまま移管している。「開発は日本で行われるアメリカのブランド」というのが現在のオンキヨー(※注:AVアンプを中心とするホームオーディオ関連製品)の位置付けである。
そして2022年7月より、ティアック(株)が“輸入商社として”国内での展開や修理などのサポートを開始した。そのため、この試聴もティアック社内の試聴室にオールクリプシュスピーカーで7.2.4chのドルビーアトモス環境を構築することで実現した。
続いて最新モデル「TX-RZ70」の技術詳細について、東大阪のOTKK事務所とオンラインで繋いで解説がなされた。渡邉さんによると、TZ-RZ70は「PAC傘下になって初めて開発、設計した製品」になるという。
「オンキヨーには、これまで培ってきたアナログのアンプ技術があります。PACからは、オンキヨーのAVアンプとして、ディテールや奥行きをしっかり描いてほしい、といった要望をもらいました。ライブのディスクなどを聴きながら音質を追い込んでいったのですが、最初はなかなかOKが出なかったんです。しかし、回路設計に手を入れることで、だんだんと狙った音を実現できるようになってきました。
AVレシーバーはデジタルの回路がとても多く搭載されており、どうしてもアナログの回路に影響を与えてしまいます。アンプのミュート回路や、測定用のマイク端子、ヘッドホン回路などもノイズが入り込む原因となります。そういった問題を解決するために、回路のレイアウト、配線、定数を細かく調整することで、音質を追い込んでいます。ある程度は測定で行いますが、最後のチューニングはやはり人間の耳が大切です」(開発担当・浅原宏之さん)
こうした浅原さんの説明を受け、古賀さんからは「今の時代のAVアンプは11chなど非常に多くのチャンネルが必要になってきていますが、スペースが足りないと感じることはありませんか?」と質問が。
まさにAVアンプはスペースとの戦い。浅原さんも、「アンプは発熱するので、それを効率的に逃すことも必要です。チャンネル数が増えると必然的にどんどん苦しくなってきます」とコメント。「今回のTX-RZ70ではファンをヒートシンクの下に搭載し、ゴムを使って固定しています。そうすることで、ファンの影響を受けにくくなっています。実は、15年ほど前にオンキヨーがソーテックというパソコンメーカーを買収したことがありました。その時にオーディオパソコンというジャンルに挑戦したことがあり、ファンの静音化は大きな課題でした。その時に得た技術も今回のAVアンプには搭載されているんです」と長年のノウハウの積み重ねがしっかり生かされていると語る。
「TX-RZ70」の目玉機能の一つが、音場補正機能「Dirac Live」を標準で搭載していることにある。Dirac Liveは部屋の中の何箇所かにマイクを置いて部屋の特性を計測、スピーカーの位相を揃えることで最適な試聴環境になるように補正してくれるテクノロジーである。
さらに有償オプション(499ドル)として「Dirac Live Bass Control」という上位バージョンも利用できる。こちらはクロスオーバーエリアの低域再生を補正する他、フロントとサブウーファーの位相を合わせるなどの機能が追加されている。
今回は、「TX-RZ70」の「Dirac Live」なし、「Dirac Live」あり、「Dirac Live Bass Control」ありという3パターンを聴き比べた。もちろんソースは古賀さんがミックスした『Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』である。
古賀さんは「まずはTX-RZ70のそのままの状態でも、ポテンシャルが非常に高いことが感じられました。ここではイネーブルドスピーカーを使っていますが、天井からの音もしっかり聴こえてきますね」とコメント。
「このオンラインライブは、コロナ禍で無観客で開催されたライブだったので、マイクやカメラの位置も実験的に置くことができたんです。ですから、初めから7.1.4chを意識してレコーディングからミックスまで行っています」と、関係者の立場から当時の状況を説明。「ちゃんと狙ったところから音が出ていることも感じますし、低音感も非常に良いと感じます」とDiracの音場補正機能についても効果を実感。
特に有料の「Dirac Live Bass Control」では、低域のボリューム感が明らかに上がり、よりリッチな低域表現が展開される。「ゲインの調整はやっていないんですよね? 低域の位相をちゃんと揃えるだけで、ここまでの変化があるとは思っていませんでした」と驚きを隠せない。
他にも、AdoのライブBlu-ray『カムパネルラ』や、NeSTREAM LIVEのアプリからキャストしたOfficial髭男dismの音源、Amazon Music Unlimitedで配信されているKeiichi Yoshioka (善岡慧一)「Sleepless」といったクラシック録音まで、古賀さんが作成したドルビーアトモス音源をさまざまにチェック。「どの音源からもローミッドの豊かさが感じられて、これがオンキヨーのサウンドなのかなとわかってきました」と音質を評価する。
「ドルビーアトモスはユーザーの側でこれだけきちんと再生ができるのだから、エンジニアの側もまだまだ勉強しなければいけないことがあると理解できました」と古賀さん。次回以降の作品作りのヒントにもつながったようだ。
最後にエンジニアサイドからの要望として、「キャノンアウトがあると嬉しい!」とリクエスト。スタジオではスピーカーはアクティブモデルが使われていることが多いため、パワーアンプは不要で、XLR出力から直接スピーカーに入力することになる。「キャノンアウトのあるAVアンプは数が少ないので、ぜひ作ってください!」と熱く語っていた。
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