公開日 2023/12/28 06:30
3名の批評家のサウンド・インプレッションも公開
AVアンプでよく聞く「Dirac Live」とは?“室内音響最適化”を実践する新世代のキーテクノロジーを徹底詳解
大橋伸太郎/生形三郎/野村ケンジ/構成(編集部:長濱行太朗)
各社の最新世代AVアンプに、急速に搭載され始めている機能がある。AVアンプには、AudysseyやAVアンプブランドが各々で開発した自動音場補正技術を搭載しているが、それらと並ぶ形で導入が進んでいるのが、“室内音響最適化ソリューション”と銘打つ「Dirac Live」だ。
オンキヨー、パイオニア、デノン、マランツなど、名立たるブランドのハイエンドモデルで使用でき、AVアンプのトレンドといっても過言ではない技術だ。では、具体的にDirac Liveとは一体どのような技術なのか、そしてDirac Liveを使用した場合どういったサウンドになるのか。本稿ではDIRACの担当者への取材を基にした技術解説、3名の批評家によるDirac Liveのサウンド・インプレッションをお届けする。
DIRACはスウェーデンのブランドであり、2001年にウブサラ大学の研究者たちによって設立。研究開発拠点をデンマークやインドに置き、アメリカ/ドイツ/中国/韓国/台湾/日本に営業拠点が設置されている。アルゴリズム開発に特化していることが大きな特徴で、現状で17個の特許技術を持っているとのこと。
「当社は“サウンドで世界を革新する”をスローガンとして掲げており、特許取得済のアルゴリズムによって、高価なハードウェアへのアップグレードなしに、優れたサウンド体験を提供することを目指している。そして、コンテンツ制作者が聴かせたい音、製品開発のエンジニアが届けたい音、これらを可能な限りリスナーに体感してもらえるソリューションを開発したい、その思想がDIRACの技術開発の根底にある」とDIRACの甲野氏はいう。
自動車をはじめ、PC/タブレット、ヘッドホン、モバイル、ストリーミングサービス、そしてホーム&プロオーディオのカテゴリーでDIRACのサウンド技術が採用されており、パートナーシップブランドも幅広く、オートモーティブではBMW、ボルボ、ベントレー、ロールスロイス、オーディオブランドではハーマンインターナショナルやフォーカル、ARCAMなどとも提携を結んでいる。
「自動車のリスニング環境というのは、スピーカーの配置や車体形状などさまざまな要因によって、ホームオーディオよりも高音質を実現する環境として非常にハードルが高いが、DIRACのDSP技術で大幅に改善させることができる。また、スマホは性能の悪いスピーカーを搭載しているが、こちらでもDSP技術を用いることでクオリティの安定化を図ることが可能だ」と、DIRACの技術が多数のジャンルで活用されていることを甲野氏はアピールした。
そして、ホーム&プロオーディオのジャンルで、オーディオファンのための“室内音響最適化ソリューション”として誕生したのが「Dirac Live」だ。ホームオーディオではAVアンプに搭載されており、プロオーディオではDAWのプラグイン・ソフトウェアとして導入されている。海外では、グラミー賞の受賞経験のあるアーティストのプロデューサーが愛用しているなど、確かな信頼度を確保しているようだ。
Dirac Liveの最大の特徴は、人間は周波数特性よりも時間軸特性によって音を捉えていることに着目し、インパルス応答の最適化を図るデジタル処理を用いた技術であること。サウンドの傾向としては、イメージングと明瞭さが改善され、引き締まった低音も実現するという。また、サラウンドや高さ方向も含めたマルチスピーカーとマルチサブウーファーに対応していることも特徴だ。
Dirac Liveのライセンスには「ビルトイン」と「ライセンス購入」のタイプが存在する。AVアンプがDirac Liveに対応しており、機器を購入したときから使用できるのが「ビルトイン」タイプ。機器がDirac Liveに対応しているが、使用するためにライセンスを別途購入(有料)しなければいけないのが、文字通り「ライセンス購入」タイプとなる。
Dirac Liveは、「Room Correction」のカテゴリーに属しており、「Ready」「Limited Frequency」「Full Frequency」の3つのバリエーションを備えている。「Ready」はDirac Live対応モデルであり、使用するにあたり「ライセンス購入」が必要なもの。20〜20,000Hzの周波数特性で、Dirac Liveの補正を掛けることができるのが「Full Frequency」としている。
「Limited Frequency」は、周波数特性の上限が500Hzまでとなっているもの。部屋の形状などの音への悪影響は低域に発生することが最も多いため、低域の周波数帯域まで限定的なアプローチを図るタイプとなる。本機能は、高級モデルのスピーカーを持っていて、優れた特性のリスニングルームで試聴しているユーザーに効果的で、高域などに表れる高級スピーカーの特徴を活かしながらDirac Liveの効果も味わうことができる。
次に、「Dirac Live Bass Control」というサブウーファー用の補正機能がラインナップされており、Dirac Live Bass Controlを「ライセンス購入」することで使用できる「Ready」、サブウーファーを1台だけ使用しているユーザーに向けた「Single Subwoofer」、数台のサブウーファーをシステムに導入しているユーザー用として「Multi Subwoofer」と、全部で3つのバリエーションが用意されている。
ちなみに、現状で国内購入できるAVアンプを区分けしてみると、オンキヨーとパイオニアのAVアンプではDirac Liveは「Full Frequency」まで無料で使用でき、Dirac Live Bass Controlは「Ready」(有料でライセンス購入)となる。デノンとマランツのAVアンプは、Dirac Liveが「Ready」(有料でライセンス購入)のモデルがラインナップされている。
Dirac Liveの特徴を解説していく。まずDirac Liveの主な技術内容だが、「ソースからオーディオコンポーネントを介して音がリスナーに届くまでの間に、『リスニングルーム』が存在する。そのリスニングルームを、当社は“見えない重要なオーディオコンポーネント”として捉えており、その室内音響によって発生する音質悪化にメスを入れること」だと、甲野氏は語る。
機器のセッティングやルームチューニングなど室内音響に関わるものが音に与える影響は、スピーカーやアンプ/プレーヤー、オーディオアクセサリーなどの使いこなしよりも大きく、リスニングルームの悪影響を受けてしまった音には濁りが発生すると同社は考えている。Dirac Liveは、室内音響によって起きる音の濁りを限りなく低減することで、音源が持つ本来のクオリティ、オーディオ機器の本来のサウンドを引き出すことを目指しているようだ。
室内音響によって、どういったことが起きるのか。リスナーはスピーカーからの直接音だけでなく、リスニングルームによって発生する無数の反射音の両方を聴いており、本来の音と遅れて耳に届く反射音が重なった、つまり“時間軸が異なった音”を重ねて聴いている。直接音のみであればフラットな周波数特性になるが、遅れて届く反射音が無数に重なるとフラットだった周波数特性が激しく波打った周波数特性になり、聴感上では本来の音よりも一定の周波数帯域だけ極端に強調/減衰されたりしてしまう。これが室内音響による音への悪影響だ。
しかし、この室内音響による悪影響がどのように発生しているかは、リスニングルームでの音を実際に測定しないと確認できないと同社は考えているため、Dirac Liveでは“リスニングルームを正しく測定”し、“音の時間軸の最適化”を図ることを実践する「インパルス応答の最適化」を用いて、元来の音に近付けるようにしている。また、Dirac Liveはあらゆるリスニング環境に対応するため、スピーカーなどの機器の設置位置、壁や窓などの場所などが理想的な位置ではない一般的な環境でこそ効果を発揮するようだ。
また他社の自動音場補正技術との違いに対して、「一般的な自動音場補正技術は、音場マイクで測定した結果に対して、EQ(イコライザー)を用いて周波数特性のみを補正し、時間軸が無視されがちだが、 Dirac Liveでは時間軸/インパルス応答を最適化することによって、要求された周波数特性を実現する部分が、他の自動音場補正技術とは明確に異なる部分である」と明らかにした。
Dirac Liveを使用するにはインターネットコネクションが必要なのだが、これは測定値をDIRAC本社のバックエンドサーバーに送り、そこから演算してインパルス応答を最適にするフィルターをあてがうためだという。また、デジタルフィルターの構成方法は無数にあるのだが、そこから最適なパターンを選び抜く能力に長けている部分がDirac Liveの見逃せないポイントだ。
次にDirac Live Bass Controlについて解説していきたい。本技術の背景について、「映画コンテンツは、基本的に“映画館で観る”ことを想定した音作りが施されているが、ホームと映画館は部屋の構造はもちろんのこと、設置されているスピーカーの音の傾向、特に低音の再生能力が異なる。またホームと映画館では部屋の広さが大きく異なるため、狭い環境下のホームのほうがリスナーの位置のよって聴こえる音がシビアに変わってしまうため、サブウーファーを用いる“バスマネージメント”によって解決しようとした」と、ホームシアター特有の問題点を改善することが目的だと甲野氏はいう。
バスマネージメントについて、THXの定義によると映画館ではLFEの部分を低音補強用として独立したチャンネルで管理しているため、80Hz以下の帯域は全てサブウーファーから出力することを推奨している。しかし、バスマネージメントの定義に基づいて低音を出力しても、多数の問題点が残るとDIRACは考察する。
定義のとおりにサブウーファーを用いたとしても定在波による問題の解決にはならず、リスニング位置によって低域過多/不足が発生する。また、複数のサブウーファーを使用することで定在波の問題を改善するともされているが、サブウーファーの設置場所やリスニングポイントからの距離やサブウーファー間の相対的な距離など、サブウーファー自体の管理が非常に困難になる。
そして、フロントスピーカーをはじめ、センタースピーカーやサラウンドスピーカーからも低音が出力されているため、各スピーカーとのサブウーファーのクロスオーバー周波数付近で、周波数特性の悪化も生じてしまう。特に悪化する帯域が40〜160Hzだとされており、サウンドのパンチとダイナミクスさに直結する重要な帯域だともされている。
そこでDirac Live Bass Controlでは、まず全てのサブウーファーの位相、次に左右のフロントスピーカーの位相、最後にサブウーファーとフロントスピーカーの位相を揃える処理を行う。これらによって複数のサブウーファーとメインスピーカーの全体的なレスポンスの最適化でき、リスニング位置による聴こえ方の変動の最小化も可能にする。また、本機能を使用すれば、サブウーファーの設置位置も柔軟に決められ、リスナーも視聴位置を気にせず、映像コンテンツを楽しめるという。
ちなみにDirac Live Bass Controlは、サブウーファーに特化したアドオンの機能となるため、本機能単体で使用することはできず、Dirac Liveに対応していることが必須条件となる。
今回、Dirac Liveの実際の測定方法について、オンキヨーテクノロジー(株)の渡邉彰久氏が解説。測定方法は、PCのソフトウェアとAVアンプを使用する方法の2種類を用意する。PCでDirac Liveのソフトウェアを立ち上げると画面上に「Dirac Live3」と表示され、進んでいくと同じネットワーク上に存在するAVアンプが選択できるようになり、次に測定に使用するマイクの選択画面へと移っていく。
測定マイクは、DIRACの認証を取得しているもので測定できるようになっており、miniDSP社の「UMIK-1」やオンキヨーとパイオニアのDirac Live対応AVアンプに付属する測定マイクなど、マイクの周波数特性(キャリブレーション特性)がDIRACの方で確認できるモデルを推奨している。USB接続のマイクはPCと繋げ、AVアンプの付属マイクは、普段の自動音場補正のときのようにAVアンプ本体に接続して使用する。
次にテストトーンの設定画面に入っていくと、スピーカーから出力するテストトーンの音量、マイクの入力ゲイン、スピーカーごとの音量調整ができる画面に移動する。最新世代のソフトウェアは、GUIの改良が進んでいるため視覚的にわかりやすく調整しやすい表示内容になっているという。
テストトーンを決めた後、「Focused Imaging」の部分で試聴イメージを選択していく。リスナー1人で一人掛けのイスに座って聴くイメージのタイトフォーカスのものから、複数人で広めのソファに腰かけて試聴するワイドフォーカスのものなど、ユーザー自身のリスニングスタイルに合わせて3つのモードからフォーカス設定を行うことができる。
ここまで進んでいくとマイク測定の段階になる。測定にはインパルスと同等のスイープ信号が採用されており、Dirac Liveのソフトウェア側でインパルス応答への信号変換を行っている。インパルス応答用の信号をスピーカーから出力させないのは、スピーカーユニットへのダメージを軽減させるための配慮とのこと。測定ポイント数に上限を設けておらず、ユーザー側で選択できるようだ。
測定が終了すると、測定結果とユーザーが自由に調整できるターゲットカーブにDirac Liveで合わせ込んだ数値が表示できるようになっている。また、ここでは「カーテン」という周波数特性を調整しない範囲を決められるオプション機能の操作も可能。周波数特性の表示画面でグレーアウトの帯域を操作できるのだが、グレーアウトしているところが周波数特性の補正を掛けない部分となる。
Dirac Live Bass Controlは、Dirac Liveの測定が全て終了した後、サブウーファーだけの測定結果を合わせ込む形になっている。そして最後に測定結果のデータをDIRAC社のサーバーへと送り、最適なフィルターがフィードバックされ、AVアンプに転送する流れとなる。
今回、オンキヨーのAVアンプ「TX-RZ70」で操作方法を確認した。AVアンプを使用した測定では、細かい調整項目はなく、全自動で調整される。操作にはスマホ/タブレット用のコントロールアプリを使用。オンキヨーは「Onkyo Controller」、パイオニアは「Pioneer Remote App」が対象となる。
付属マイクをAVアンプ本体に接続すると、コントロールアプリの表示がDirac Liveの自動測定画面へと移り、スピーカー構成の確認、Dirac Live Bass Controlのあり/なし、測定回数の選択画面に入っていく。測定回数は、簡易測定は3点、推奨測定は9点となる。測定できる位置は自由だが、最初の測定ポイントのみリスニングルームの中心にマイクを設置する。
レベル/距離/クロスオーバーは、アプリによって自動で調整される。テストトーンも自動で出力されていき、測定が終了するとDIRAC社のサーバーへとデータを転送し、測定結果に対するフィルターがリターンされ、AVアンプ側にデータを転送する。PC版と測定の項目は基本的に同じだが、全自動なので操作が簡単だ。
自動調整だけでなく、コントロールアプリでターゲットカーブをマニュアルでも調整できる。TX-RZ70には、フィルターを記録できるスロットが3つ用意されているため、例えばスロット1には自動調整のフィルター、スロット2と3にはマニュアル調整したフィルターを記録させ、聴き比べることも可能だ。また、パイオニアのVSA-LX805も同様のスロット数が用意されている
試聴では、あえて難関ソフトをぶつけてみた。ケイト・ブランシェット主演の4K UHD BD『TAR』のCH8。女性指揮者リディア・ターがアパルトマンで過ごしていると、ドアチャイムがサラウンドスピーカーから微かに聴こえる。ターがピアノに向かい鍵盤に指を降ろすと、メインスピーカーからオンマイク収録の鋭い現実音が出音され、次に指揮台でタクトを振り下ろすターが画面一杯に現れ、マーラーの交響曲第五番第一楽章に変わる。音場に設置した全スピーカーからフル音量で出音される、静から動へ、小音量から大音量への鮮やかな転換。しかも屈指の名ホール、フィルハーモニーの明晰な音場がなければならないシーンだ。
Dirac Liveをオンにすると、最初のドアチャイムが音場高く遠く、彼女の幻聴のような感覚に変わる。Dirac Liveが室内の初期反射の影響を抑え定位と音の滲みを改善、ドラマの導線としての役割を明らかにする。ピアノの単音はリアルな具体性を増している。ターは現実と幻想を行き来しているのだ。そして、マーラーは、ローエンドが伸びフルオーケストラのスケールが場面転換効果を研ぎ澄ます。Dirac Live Bass Controlが加わった時のDレンジ、fレンジの拡張を印象付ける。
“ホームシアター”と一口に表現するが、家庭と映画館の間に空間のサイズ、音量(ダイナミックレンジ)、サービスエリア、スピーカー設置台数等々の大きな差があるが、Dirac Liveは部屋のスケールを認識、初期反射の干渉を減らし、ソフト本来の音質とサウンドデザインを取り戻す。ようやく登場した“ホーム”と“シアター”の距離を縮める、音場補正の最前線といえよう。
取材での試聴は、Dirac Liveの効果を音楽ソースで確認するため、ピンク・フロイド『狂気』のDolby Atmos音源を試聴した。オン/オフを比較すると、一聴してすぐさま実感させられるのが、リバーブ要素の明瞭度だ。オフ時では響きの質感までは明瞭に出ていなかったが、オンでは響きの広さや音色感までが明瞭に浮かび上がる。室内環境による高域成分の減衰が大幅に補完され、乱れも適正化されたような印象で、なおかつ、各スピーカーの発音やトーンが揃うかのような明快さを味わえる。
後者はまさに、Dirac Liveが謳う“時間特性の最適化”を如実に感じさせる効果であろう。音像や移動が瞭然とし、音楽の方向性やミキシングの意図がよりはっきりと伝わるのだ。さらに、Dirac Live Bass Controlもオンにすると、やはりバスドラムやエレクトリックベースなどの低音楽器の輪郭や分離が明確化し、より一層ミキシングが鮮明になる。音楽の世界観に、まさに体ごと飲み込まれる体験を味わえた。
筆者は、自宅でDirac Live(Full Frequency)内蔵のパイオニア「VSA-LX805」を常用しているが、聴き慣れた環境で効果を確認すると、よりはっきりとその恩恵を実感することが出来る。特に顕著なのは、部屋内で生じた中・高域方向の反射を適正化し、それに由来していたであろう歪み感を抑えてくれることだ。周知のように、スピーカー再生は、スピーカー自身が発する直接音よりも、概して壁や天井、床などで反射した音の割合が大きくなり、それが再生音に大きく影響する。 Dirac Liveの適用によってそこから離れて、コンポーネント本来の、そして音楽ソース本来のバランスが違和感やストレスなく取り戻されることに大変好感を抱いている。
今回、Dolby Atmos音源での効用はおおよそ把握できていたため、配信サービスの映像などチャンネル数の少ないコンテンツでもどのような効果があるのがチェックしてみた。YouTubeのYOASOBI「アイドル」from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』を、まずはDirac Liveをオフにして再生すると、今回の視聴に使用していたクリプシュ製スピーカーならではのキレのよさ、勢いのよさはあるものの、何100回と視聴した馴染みある音色が聴こえてきた。
Dirac Liveをオンにすると、格段にキレのよい、メリハリに富んだ演奏に化けてくれた。さらに、情報量の多さや音場表現の確かさにも驚いた。生ドラムならではのグルーブ感もしっかりと伝わってくるし、何よりもスピーカーの存在感が消え、視聴位置の両側まで大きく広がる、高さ方向への広がりも持ち合わせた半ドーム上のサウンドフィールドが生み出されているのだ。YouTubeコンテンツがここまでの情報量を持ち合わせているとは思わなかったし、ただのステレオ再生が見事な音場表現に生まれ変わってくれるのは嬉しいかぎり。しかも、疑似サラウンド的な違和感はなく“元々こういう音でしたよ”といったイメージ。印象的で、楽しいライブに生まれ変わっている。
ちなみに、ステレオ音声に関してはDirac Liveそのものの効果が大きく、Dirac Live Bass ControlはDolby Atmosなどで圧倒的な向上が見られるようだ。Dirac Live最大の利点は、本来の音場を巧みに、しかも手軽に実現してくれることだろう。普段から音場表現や定位感が気になる人には、ぜひオススメしたい。
オンキヨー、パイオニア、デノン、マランツなど、名立たるブランドのハイエンドモデルで使用でき、AVアンプのトレンドといっても過言ではない技術だ。では、具体的にDirac Liveとは一体どのような技術なのか、そしてDirac Liveを使用した場合どういったサウンドになるのか。本稿ではDIRACの担当者への取材を基にした技術解説、3名の批評家によるDirac Liveのサウンド・インプレッションをお届けする。
■時間特性に着目し、「インパルス応答の最適化」を実践した技術
DIRACはスウェーデンのブランドであり、2001年にウブサラ大学の研究者たちによって設立。研究開発拠点をデンマークやインドに置き、アメリカ/ドイツ/中国/韓国/台湾/日本に営業拠点が設置されている。アルゴリズム開発に特化していることが大きな特徴で、現状で17個の特許技術を持っているとのこと。
「当社は“サウンドで世界を革新する”をスローガンとして掲げており、特許取得済のアルゴリズムによって、高価なハードウェアへのアップグレードなしに、優れたサウンド体験を提供することを目指している。そして、コンテンツ制作者が聴かせたい音、製品開発のエンジニアが届けたい音、これらを可能な限りリスナーに体感してもらえるソリューションを開発したい、その思想がDIRACの技術開発の根底にある」とDIRACの甲野氏はいう。
自動車をはじめ、PC/タブレット、ヘッドホン、モバイル、ストリーミングサービス、そしてホーム&プロオーディオのカテゴリーでDIRACのサウンド技術が採用されており、パートナーシップブランドも幅広く、オートモーティブではBMW、ボルボ、ベントレー、ロールスロイス、オーディオブランドではハーマンインターナショナルやフォーカル、ARCAMなどとも提携を結んでいる。
「自動車のリスニング環境というのは、スピーカーの配置や車体形状などさまざまな要因によって、ホームオーディオよりも高音質を実現する環境として非常にハードルが高いが、DIRACのDSP技術で大幅に改善させることができる。また、スマホは性能の悪いスピーカーを搭載しているが、こちらでもDSP技術を用いることでクオリティの安定化を図ることが可能だ」と、DIRACの技術が多数のジャンルで活用されていることを甲野氏はアピールした。
そして、ホーム&プロオーディオのジャンルで、オーディオファンのための“室内音響最適化ソリューション”として誕生したのが「Dirac Live」だ。ホームオーディオではAVアンプに搭載されており、プロオーディオではDAWのプラグイン・ソフトウェアとして導入されている。海外では、グラミー賞の受賞経験のあるアーティストのプロデューサーが愛用しているなど、確かな信頼度を確保しているようだ。
Dirac Liveの最大の特徴は、人間は周波数特性よりも時間軸特性によって音を捉えていることに着目し、インパルス応答の最適化を図るデジタル処理を用いた技術であること。サウンドの傾向としては、イメージングと明瞭さが改善され、引き締まった低音も実現するという。また、サラウンドや高さ方向も含めたマルチスピーカーとマルチサブウーファーに対応していることも特徴だ。
■「Room Correction」と「Bass Control」の2種類をラインナップ
Dirac Liveのライセンスには「ビルトイン」と「ライセンス購入」のタイプが存在する。AVアンプがDirac Liveに対応しており、機器を購入したときから使用できるのが「ビルトイン」タイプ。機器がDirac Liveに対応しているが、使用するためにライセンスを別途購入(有料)しなければいけないのが、文字通り「ライセンス購入」タイプとなる。
Dirac Liveは、「Room Correction」のカテゴリーに属しており、「Ready」「Limited Frequency」「Full Frequency」の3つのバリエーションを備えている。「Ready」はDirac Live対応モデルであり、使用するにあたり「ライセンス購入」が必要なもの。20〜20,000Hzの周波数特性で、Dirac Liveの補正を掛けることができるのが「Full Frequency」としている。
「Limited Frequency」は、周波数特性の上限が500Hzまでとなっているもの。部屋の形状などの音への悪影響は低域に発生することが最も多いため、低域の周波数帯域まで限定的なアプローチを図るタイプとなる。本機能は、高級モデルのスピーカーを持っていて、優れた特性のリスニングルームで試聴しているユーザーに効果的で、高域などに表れる高級スピーカーの特徴を活かしながらDirac Liveの効果も味わうことができる。
次に、「Dirac Live Bass Control」というサブウーファー用の補正機能がラインナップされており、Dirac Live Bass Controlを「ライセンス購入」することで使用できる「Ready」、サブウーファーを1台だけ使用しているユーザーに向けた「Single Subwoofer」、数台のサブウーファーをシステムに導入しているユーザー用として「Multi Subwoofer」と、全部で3つのバリエーションが用意されている。
ちなみに、現状で国内購入できるAVアンプを区分けしてみると、オンキヨーとパイオニアのAVアンプではDirac Liveは「Full Frequency」まで無料で使用でき、Dirac Live Bass Controlは「Ready」(有料でライセンス購入)となる。デノンとマランツのAVアンプは、Dirac Liveが「Ready」(有料でライセンス購入)のモデルがラインナップされている。
■室内環境を測定して各周波数の“時間軸”を最適化
Dirac Liveの特徴を解説していく。まずDirac Liveの主な技術内容だが、「ソースからオーディオコンポーネントを介して音がリスナーに届くまでの間に、『リスニングルーム』が存在する。そのリスニングルームを、当社は“見えない重要なオーディオコンポーネント”として捉えており、その室内音響によって発生する音質悪化にメスを入れること」だと、甲野氏は語る。
機器のセッティングやルームチューニングなど室内音響に関わるものが音に与える影響は、スピーカーやアンプ/プレーヤー、オーディオアクセサリーなどの使いこなしよりも大きく、リスニングルームの悪影響を受けてしまった音には濁りが発生すると同社は考えている。Dirac Liveは、室内音響によって起きる音の濁りを限りなく低減することで、音源が持つ本来のクオリティ、オーディオ機器の本来のサウンドを引き出すことを目指しているようだ。
室内音響によって、どういったことが起きるのか。リスナーはスピーカーからの直接音だけでなく、リスニングルームによって発生する無数の反射音の両方を聴いており、本来の音と遅れて耳に届く反射音が重なった、つまり“時間軸が異なった音”を重ねて聴いている。直接音のみであればフラットな周波数特性になるが、遅れて届く反射音が無数に重なるとフラットだった周波数特性が激しく波打った周波数特性になり、聴感上では本来の音よりも一定の周波数帯域だけ極端に強調/減衰されたりしてしまう。これが室内音響による音への悪影響だ。
しかし、この室内音響による悪影響がどのように発生しているかは、リスニングルームでの音を実際に測定しないと確認できないと同社は考えているため、Dirac Liveでは“リスニングルームを正しく測定”し、“音の時間軸の最適化”を図ることを実践する「インパルス応答の最適化」を用いて、元来の音に近付けるようにしている。また、Dirac Liveはあらゆるリスニング環境に対応するため、スピーカーなどの機器の設置位置、壁や窓などの場所などが理想的な位置ではない一般的な環境でこそ効果を発揮するようだ。
また他社の自動音場補正技術との違いに対して、「一般的な自動音場補正技術は、音場マイクで測定した結果に対して、EQ(イコライザー)を用いて周波数特性のみを補正し、時間軸が無視されがちだが、 Dirac Liveでは時間軸/インパルス応答を最適化することによって、要求された周波数特性を実現する部分が、他の自動音場補正技術とは明確に異なる部分である」と明らかにした。
Dirac Liveを使用するにはインターネットコネクションが必要なのだが、これは測定値をDIRAC本社のバックエンドサーバーに送り、そこから演算してインパルス応答を最適にするフィルターをあてがうためだという。また、デジタルフィルターの構成方法は無数にあるのだが、そこから最適なパターンを選び抜く能力に長けている部分がDirac Liveの見逃せないポイントだ。
■サブウーファーの帯域を改善して低域の過不足を適正化
次にDirac Live Bass Controlについて解説していきたい。本技術の背景について、「映画コンテンツは、基本的に“映画館で観る”ことを想定した音作りが施されているが、ホームと映画館は部屋の構造はもちろんのこと、設置されているスピーカーの音の傾向、特に低音の再生能力が異なる。またホームと映画館では部屋の広さが大きく異なるため、狭い環境下のホームのほうがリスナーの位置のよって聴こえる音がシビアに変わってしまうため、サブウーファーを用いる“バスマネージメント”によって解決しようとした」と、ホームシアター特有の問題点を改善することが目的だと甲野氏はいう。
バスマネージメントについて、THXの定義によると映画館ではLFEの部分を低音補強用として独立したチャンネルで管理しているため、80Hz以下の帯域は全てサブウーファーから出力することを推奨している。しかし、バスマネージメントの定義に基づいて低音を出力しても、多数の問題点が残るとDIRACは考察する。
定義のとおりにサブウーファーを用いたとしても定在波による問題の解決にはならず、リスニング位置によって低域過多/不足が発生する。また、複数のサブウーファーを使用することで定在波の問題を改善するともされているが、サブウーファーの設置場所やリスニングポイントからの距離やサブウーファー間の相対的な距離など、サブウーファー自体の管理が非常に困難になる。
そして、フロントスピーカーをはじめ、センタースピーカーやサラウンドスピーカーからも低音が出力されているため、各スピーカーとのサブウーファーのクロスオーバー周波数付近で、周波数特性の悪化も生じてしまう。特に悪化する帯域が40〜160Hzだとされており、サウンドのパンチとダイナミクスさに直結する重要な帯域だともされている。
そこでDirac Live Bass Controlでは、まず全てのサブウーファーの位相、次に左右のフロントスピーカーの位相、最後にサブウーファーとフロントスピーカーの位相を揃える処理を行う。これらによって複数のサブウーファーとメインスピーカーの全体的なレスポンスの最適化でき、リスニング位置による聴こえ方の変動の最小化も可能にする。また、本機能を使用すれば、サブウーファーの設置位置も柔軟に決められ、リスナーも視聴位置を気にせず、映像コンテンツを楽しめるという。
ちなみにDirac Live Bass Controlは、サブウーファーに特化したアドオンの機能となるため、本機能単体で使用することはできず、Dirac Liveに対応していることが必須条件となる。
■PCのソフトウェアでの測定では細かくカスタムが可能
今回、Dirac Liveの実際の測定方法について、オンキヨーテクノロジー(株)の渡邉彰久氏が解説。測定方法は、PCのソフトウェアとAVアンプを使用する方法の2種類を用意する。PCでDirac Liveのソフトウェアを立ち上げると画面上に「Dirac Live3」と表示され、進んでいくと同じネットワーク上に存在するAVアンプが選択できるようになり、次に測定に使用するマイクの選択画面へと移っていく。
測定マイクは、DIRACの認証を取得しているもので測定できるようになっており、miniDSP社の「UMIK-1」やオンキヨーとパイオニアのDirac Live対応AVアンプに付属する測定マイクなど、マイクの周波数特性(キャリブレーション特性)がDIRACの方で確認できるモデルを推奨している。USB接続のマイクはPCと繋げ、AVアンプの付属マイクは、普段の自動音場補正のときのようにAVアンプ本体に接続して使用する。
次にテストトーンの設定画面に入っていくと、スピーカーから出力するテストトーンの音量、マイクの入力ゲイン、スピーカーごとの音量調整ができる画面に移動する。最新世代のソフトウェアは、GUIの改良が進んでいるため視覚的にわかりやすく調整しやすい表示内容になっているという。
テストトーンを決めた後、「Focused Imaging」の部分で試聴イメージを選択していく。リスナー1人で一人掛けのイスに座って聴くイメージのタイトフォーカスのものから、複数人で広めのソファに腰かけて試聴するワイドフォーカスのものなど、ユーザー自身のリスニングスタイルに合わせて3つのモードからフォーカス設定を行うことができる。
ここまで進んでいくとマイク測定の段階になる。測定にはインパルスと同等のスイープ信号が採用されており、Dirac Liveのソフトウェア側でインパルス応答への信号変換を行っている。インパルス応答用の信号をスピーカーから出力させないのは、スピーカーユニットへのダメージを軽減させるための配慮とのこと。測定ポイント数に上限を設けておらず、ユーザー側で選択できるようだ。
測定が終了すると、測定結果とユーザーが自由に調整できるターゲットカーブにDirac Liveで合わせ込んだ数値が表示できるようになっている。また、ここでは「カーテン」という周波数特性を調整しない範囲を決められるオプション機能の操作も可能。周波数特性の表示画面でグレーアウトの帯域を操作できるのだが、グレーアウトしているところが周波数特性の補正を掛けない部分となる。
Dirac Live Bass Controlは、Dirac Liveの測定が全て終了した後、サブウーファーだけの測定結果を合わせ込む形になっている。そして最後に測定結果のデータをDIRAC社のサーバーへと送り、最適なフィルターがフィードバックされ、AVアンプに転送する流れとなる。
■オンキヨー/パイオニアのスマホアプリでは全自動で手軽に操作できる
今回、オンキヨーのAVアンプ「TX-RZ70」で操作方法を確認した。AVアンプを使用した測定では、細かい調整項目はなく、全自動で調整される。操作にはスマホ/タブレット用のコントロールアプリを使用。オンキヨーは「Onkyo Controller」、パイオニアは「Pioneer Remote App」が対象となる。
付属マイクをAVアンプ本体に接続すると、コントロールアプリの表示がDirac Liveの自動測定画面へと移り、スピーカー構成の確認、Dirac Live Bass Controlのあり/なし、測定回数の選択画面に入っていく。測定回数は、簡易測定は3点、推奨測定は9点となる。測定できる位置は自由だが、最初の測定ポイントのみリスニングルームの中心にマイクを設置する。
レベル/距離/クロスオーバーは、アプリによって自動で調整される。テストトーンも自動で出力されていき、測定が終了するとDIRAC社のサーバーへとデータを転送し、測定結果に対するフィルターがリターンされ、AVアンプ側にデータを転送する。PC版と測定の項目は基本的に同じだが、全自動なので操作が簡単だ。
自動調整だけでなく、コントロールアプリでターゲットカーブをマニュアルでも調整できる。TX-RZ70には、フィルターを記録できるスロットが3つ用意されているため、例えばスロット1には自動調整のフィルター、スロット2と3にはマニュアル調整したフィルターを記録させ、聴き比べることも可能だ。また、パイオニアのVSA-LX805も同様のスロット数が用意されている
■大橋伸太郎氏のサウンド・インプレッション
試聴では、あえて難関ソフトをぶつけてみた。ケイト・ブランシェット主演の4K UHD BD『TAR』のCH8。女性指揮者リディア・ターがアパルトマンで過ごしていると、ドアチャイムがサラウンドスピーカーから微かに聴こえる。ターがピアノに向かい鍵盤に指を降ろすと、メインスピーカーからオンマイク収録の鋭い現実音が出音され、次に指揮台でタクトを振り下ろすターが画面一杯に現れ、マーラーの交響曲第五番第一楽章に変わる。音場に設置した全スピーカーからフル音量で出音される、静から動へ、小音量から大音量への鮮やかな転換。しかも屈指の名ホール、フィルハーモニーの明晰な音場がなければならないシーンだ。
Dirac Liveをオンにすると、最初のドアチャイムが音場高く遠く、彼女の幻聴のような感覚に変わる。Dirac Liveが室内の初期反射の影響を抑え定位と音の滲みを改善、ドラマの導線としての役割を明らかにする。ピアノの単音はリアルな具体性を増している。ターは現実と幻想を行き来しているのだ。そして、マーラーは、ローエンドが伸びフルオーケストラのスケールが場面転換効果を研ぎ澄ます。Dirac Live Bass Controlが加わった時のDレンジ、fレンジの拡張を印象付ける。
“ホームシアター”と一口に表現するが、家庭と映画館の間に空間のサイズ、音量(ダイナミックレンジ)、サービスエリア、スピーカー設置台数等々の大きな差があるが、Dirac Liveは部屋のスケールを認識、初期反射の干渉を減らし、ソフト本来の音質とサウンドデザインを取り戻す。ようやく登場した“ホーム”と“シアター”の距離を縮める、音場補正の最前線といえよう。
■生形三郎のサウンド・インプレッション
取材での試聴は、Dirac Liveの効果を音楽ソースで確認するため、ピンク・フロイド『狂気』のDolby Atmos音源を試聴した。オン/オフを比較すると、一聴してすぐさま実感させられるのが、リバーブ要素の明瞭度だ。オフ時では響きの質感までは明瞭に出ていなかったが、オンでは響きの広さや音色感までが明瞭に浮かび上がる。室内環境による高域成分の減衰が大幅に補完され、乱れも適正化されたような印象で、なおかつ、各スピーカーの発音やトーンが揃うかのような明快さを味わえる。
後者はまさに、Dirac Liveが謳う“時間特性の最適化”を如実に感じさせる効果であろう。音像や移動が瞭然とし、音楽の方向性やミキシングの意図がよりはっきりと伝わるのだ。さらに、Dirac Live Bass Controlもオンにすると、やはりバスドラムやエレクトリックベースなどの低音楽器の輪郭や分離が明確化し、より一層ミキシングが鮮明になる。音楽の世界観に、まさに体ごと飲み込まれる体験を味わえた。
筆者は、自宅でDirac Live(Full Frequency)内蔵のパイオニア「VSA-LX805」を常用しているが、聴き慣れた環境で効果を確認すると、よりはっきりとその恩恵を実感することが出来る。特に顕著なのは、部屋内で生じた中・高域方向の反射を適正化し、それに由来していたであろう歪み感を抑えてくれることだ。周知のように、スピーカー再生は、スピーカー自身が発する直接音よりも、概して壁や天井、床などで反射した音の割合が大きくなり、それが再生音に大きく影響する。 Dirac Liveの適用によってそこから離れて、コンポーネント本来の、そして音楽ソース本来のバランスが違和感やストレスなく取り戻されることに大変好感を抱いている。
■野村ケンジのサウンド・インプレッション
今回、Dolby Atmos音源での効用はおおよそ把握できていたため、配信サービスの映像などチャンネル数の少ないコンテンツでもどのような効果があるのがチェックしてみた。YouTubeのYOASOBI「アイドル」from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』を、まずはDirac Liveをオフにして再生すると、今回の視聴に使用していたクリプシュ製スピーカーならではのキレのよさ、勢いのよさはあるものの、何100回と視聴した馴染みある音色が聴こえてきた。
Dirac Liveをオンにすると、格段にキレのよい、メリハリに富んだ演奏に化けてくれた。さらに、情報量の多さや音場表現の確かさにも驚いた。生ドラムならではのグルーブ感もしっかりと伝わってくるし、何よりもスピーカーの存在感が消え、視聴位置の両側まで大きく広がる、高さ方向への広がりも持ち合わせた半ドーム上のサウンドフィールドが生み出されているのだ。YouTubeコンテンツがここまでの情報量を持ち合わせているとは思わなかったし、ただのステレオ再生が見事な音場表現に生まれ変わってくれるのは嬉しいかぎり。しかも、疑似サラウンド的な違和感はなく“元々こういう音でしたよ”といったイメージ。印象的で、楽しいライブに生まれ変わっている。
ちなみに、ステレオ音声に関してはDirac Liveそのものの効果が大きく、Dirac Live Bass ControlはDolby Atmosなどで圧倒的な向上が見られるようだ。Dirac Live最大の利点は、本来の音場を巧みに、しかも手軽に実現してくれることだろう。普段から音場表現や定位感が気になる人には、ぜひオススメしたい。
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