巻頭言
貝山知弘先生を偲んで
和田光征
WADA KOHSEI
オーディオ評論家の貝山知弘先生が、1月7日に永眠されました。八十四才でした。
私は先生の遺言で葬儀委員長を拝命し、すべてを滞りなく終えることができました。新年のご多用な中、葬儀には三百名を超える皆様にご列席を賜り、改めて御礼申し上げます。誠に有難うございました。
ここに私のご挨拶文を掲載し、故人を偲びたいと存じます。
ご承知のように先生は大学を出られて映画のプロデューサーとして『南極物語』など多くの名作を世に送り出しました。また生来のオーディオマニアであり、オーディオ評論においても独自の世界を構築され、その素晴らしいこだわりは多くのファンから圧倒的な支持を受けていました。さらに映画批評は作り手である確かな目で作品を紹介、映像機器の鋭い批評ともども人気を博していました。また、ミュージックペンクラブの活動にも積極的に取り組まれ、その発展に全力で寄与されました。
先生の独自の思想、そこから生まれるうつくしく重厚な文章とことばによる表現力は、私はもとより読者の心を捉えて離しませんでした。今日においても執筆活動を続け、まさに生涯現役でございました。私との公私にわたるお付き合いも40年を超え、文化人としての先生から本当に多くを学ばさせていただきました。
そうした先生は小社が運営するアワード、『ビジュアルグランプリ』誕生と同時に審査委員長に就任され、昨年の審査会で30年目でございました。『オーディオ銘機賞』審査員も35年を数えております。主催者側と致しまして、ビジュアルグランプリに『貝山知弘賞』を新設し、その功績を永久に讃え、褒賞して参りたいと思います。
先生は『ビジュアルグランプリ』審査委員長の後任として大橋伸太郎先生の名を既に私に告げておりました。この度大橋伸太郎先生に委員長、鴻池賢三先生に副委員長への就任を快諾頂きましたので、ここにご報告申し上げます。
貝山先生のゆるぎない哲学と強い意志、そして本質を基盤とした巨視的な行動力は、残された者たちへの指針であります。そして、何よりも人に優しいたいじんでありました。
今も微笑みながら語る顔が目に浮かびます。ここに心から哀悼の意を表します。
貝山先生、長い間本当にありがとうございました。安らかにお休みください。