ソニーの技術を結集した「オールソニー」製品
「自分たちが欲しい商品を作った」 − ソニーのヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T1」開発者インタビュー
森:商品企画を行った際のポイントとしては、先ほど楢原が申し上げた、ミラーで作った試作の「3D小屋」を見たときの印象が非常に良かったと言うことに尽きます。2Dに比べて3Dは映像が暗いという印象があったのですが、これは明るく、とても鮮明なので、ぜひ世に出したいと強く思いました。
商品企画を進める上では、住環境から考えると、この製品が必要とされるケースがありありと目に浮かんだことも大きかったです。たとえばワンルームマンションにお住まいで、ふだん映画がお好きでよくご覧になっている方でも、部屋にプロジェクターを置くのはなかなか難しいですよね。だけどHMZ-T1なら、1台で大画面とサラウンド音声が手に入るわけです。
もう一つはデバイスの部分ですね。有機ELの大画面は、これまでまだ誰も体験したことがありません。ソニーとしてもXEL-1や、試作機レベルでは24インチ、27インチのものなどを出していましたが、大画面のコンテンツ鑑賞でしかも有機ELの画質だと、どういう映像体験になるのか、ということには前々から興味がありました。
そこで小型の有機ELパネルができると聞いたとき、それは凄いものになるはず、という確信が初めから持てたということが大きかった。この凄さを分かってもらえる方は必ずいらっしゃるだろうということで、商品化に動き出したわけです。
■AVのしっかりとした鑑賞に耐えうる製品を
とにかく商品化する段階では、目標を非常に高いところに設定しました。「ウェアラブルで面白いからいいじゃない」では終わらせたくなかったんです。AVの鑑賞に耐えうる、しっかりとした商品を作りたかったということです。
2011年1月の、CESの参考展示の段階でもある程度商品化を目指していたわけですが、2011年2月にソニービルでCESと同じものを展示して、一般の方々にアンケートを取りました。そうしたら非常にポジティブな結果だったんですね。「このままでいいから売って」という方までいらっしゃったくらいで(笑)。そこでさらに商品化が加速しました。デバイスのタイミングや要素技術との兼ね合いもありますが、何とか年内に出したいと、企画をどんどん前へ進めました。
■「グラストロン」との決定的な違いはクオリティと3D
ーー ソニーさんのヘッドマウントディスプレイと言うと、グラストロンを思い出す方も多いと思います。
楢原:当時と決定的に違うのは3Dの存在ですね。3Dの大作映画が出てきたことも背景としては大きかった。裸眼3Dはまだこれからの技術ですから、3Dを快適に楽しむためには、メガネを装着していただく必要がある。どうせメガネを掛けて頂くなら、HMDのようなスタイルも受け入れられるはず、と考えました。
森:本当に、3Dコンテンツのクオリティが上がってきましたことは大きかったですね。ですから、一人でコンテンツに浸りたい、というときにはテレビやプロジェクターとは別のスタイルがあっても良いだろう、と。自由な姿勢で見られますし、映像と音のバランスも取れていますし。
楢原:グラストロンは新しいユーザー体験の提案だったのですが、映像表示品質という観点では解像度もQVGA等で、当時のテレビにかないませんでした。逆にHMZ-T1の場合は、3D映像のクロストークが原理的に発生しないなど、HMDならではの3D表示品位の高さもある。とにかく画質に妥協せずに、本格的なクオリティーを目指せば良いと考えました。
ーー 画質を高めるために工夫された点はどういったところですか?
森:コンセプトとしては、有機ELという非常にポテンシャルの高いパネルを使っているので、そのパネルの良さを素直に出そうということです。そう考えたときに、ポイントとして有機ELならではの黒の表現、色の表現性能をどうやって出すかがポイントになります。