ソニーの技術を結集した「オールソニー」製品
「自分たちが欲しい商品を作った」 − ソニーのヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T1」開発者インタビュー
■有機ELパネルのポテンシャルを引き出す「SBMV」
楢原:黒の階調表現能力を高めるためには「Super Bit Mapping for Video」(SBMV)を搭載しました。8ビット映像を14ビット相当の階調表現で出力できるというものですね。レコーダーなどでおなじみのものですが、これを有機ELパネル用に、新たにチューニングして採用しました。また、このSBMVを採用することで、色の純度も高めることができました。
■映像の迫力に見合うサウンドを
ーー 音質にも非常にこだわられたということですね。
楢原:音が非常に重要というのは、初めから認識していました。映画館の音の基準が非常に高いものであることも理解していましたし、実感として、映像だけでなく音声のクオリティも良くないと、映画の視聴体験の感動がかなり薄れるということを感じていました。
森:映像がピックアップされがちな製品ですが、音についても非常に重要と考えて作り込みました。しかも一体型ですから、映像と音のマッチングが取れたシステムを手軽に持ち運ぶことができます。
いきなり5.1chシステムというのは、どうしても敷居が高いようなんですね(笑)。奥様も「どこにそんな場所があるの!」と言われるでしょうし。
まずこのHMZ-T1を使ってサラウンド等の良さを知ってもらうことで、「これをリビングの大画面でも5.1chスピーカーを置いて楽しんでみようよ」という風に、3Dワールドがさらに広がるのではないかと期待しています。
■試作機開発と試用を繰り返し装着感を向上させた
ーー ヘッドマウントディスプレイということで、装着感が非常に重要となります。開発時で苦労された点などはありますか?
楢原:CESの段階の試作機は、参考展示ということもありますし、短時間の視聴を想定したもので良かったので、結構重かったんです。色々な部品が入っていると温度が上昇するので、それに熱対策部品を入れたりすると、どんどん重くなっていく。これでは長時間視聴は難しいというレベルです。
商品化にあたっては、パネルや駆動LSIもなるべく省電力にするなどの工夫を行い、熱対策も最小限で済むようにし、色々な部品を削減しました。その結果、最終的に420gというところにまで追い込めました。
形状については、5万円程度で、視野角30度くらいのヘッドマウントディスプレイは他社からも出ているので、それも見てみました。ですが、あの画面サイズではやはり満足できない。ある程度画面を大きくすると、光学系との関係で、それなりに大きくなってしまうんですね。
そこで、メガネ型のスタイルではないかたちで、快適な装着スタイルを模索しました。まずはいろいろな装着機構の試作機を作って、社内でテストしてもらってアンケートをとり、その結果をもとに、改良しテストをするということを繰り返し行いました。
森:装着感というのはノウハウの固まりで、しかもアナログ的な部分ですから、色々難しいところがあります。付け心地も満足させないと行けないし、デザインも重要だし、何と言っても、かんたんに装着できるということも必要条件になります。
ーー 人種や個人間で、頭の大きさや形状も違いますよね。
森:そうですね。ですが、ソニーには装着感など人間工学的な部分にも色々なノウハウを持っている人材が多いので助かりました。メカエンジニアが様々なアイデアを出してくれたので、どれを採用するか、どれとどれを組み合わせたらもっと良くなるかなど、検討に検討を重ねました。
楢原:装着については、何回かやると勘所がつかめるようになると思います。装着の設定方法と付け心地の、良いバランスが取れたのではと考えています。
ーー ところでHMZ-T1は、映画はもちろん、ゲームにも非常に適していると感じました。
楢原:試作段階でSCEの方にも見てもらいましたが、クロストークが全く無いことと、没入感の高さに高い評価をいただきました。