新音場補正技術「MCACC Pro」が三次元音場に与える恩恵とは
パイオニア開発者に訊く、Dolby Atmos対応AVアンプ「SC-LX58」が実現する新音場
劇場用と家庭用のDolby Atmosに違いはあるのか?
−− Atmosの研究はいつ頃から始めたのですか?
平塚氏::2年前ほどからDolby Atmosの原理を興味深く注視していました。昨年ドルビージャパンでのデモを受け、研究を重ねました。先日試聴室に天井スピーカーを導入してからは、実証効果検証も始まりました。MCACCなどパイオニアの持っている技術と組み合わせると、頭上に音源があること以外にも、空間のつながりをよくすることができるだろうという目論見のものと設計を行っていったかたちですね。
−− Dolby Atmosは既にTOHOシネマズ日本橋など既に何カ所かの映画館で導入されていますよね。劇場に導入されているものと家庭用のものとの間に何か違いはあるのでしょうか。
佐野氏::劇場用と家庭用のAtmosの大きな違いは「チャンネル数」です。劇場用のほうは最大64chに対応。沢山スピーカーを使える分、きめ細かい空間描写が可能です。一方家庭用は最大34ch(24台のフロアスピーカー+10台の天井スピーカー)までとなります。
−− 34chですか。しかし普通の家庭にサラウンド環境を導入する場合、大抵の場合スピーカーは多くても7.1chくらいまでだと思います。34本のスピーカーと8本のスピーカー……そのギャップはどのように埋めるのでしょうか?
佐野氏::そもそもAtmosはスピーカーの位置に応じて音の座標軸データを割り振るという考え方なので、スピーカーが何本であろうが音の出る位置は変わりません。ただ、本数が増えればそれがもっと誤差無く再生できるようになるということなんです。
−− なるほど。では5.1ch以下の、たとえば2.1chシステムでもAtmosのサウンドは体験できるのですか?
佐野氏::理論的にはできます。コンフィグレーションとして「ここがマスト」ということはなく、スピーカーの数にあわせてフレキシブルにレンダリングすることができるので、たとえばフロントスピーカー2台+天井スピーカー2台というシステムも可能です。ただ、もちろんスピーカーの数が多い方がAtmosの効果はアップしますが。
なのでドルビーは“リファレンス”スピーカー構成として、従来の5.1chシステムに2つの天井スピーカーまたはドルビーイネーブルドスピーカーを追加した5.1.2構成、また従来の7.1chシステムに4つの天井スピーカーまたはドルビーイネーブルドスピーカーを追加した7.1.4構成を紹介しています。
「SC-LX58」は9.2ch対応アンプですので、「5.1.2」「5.1.4」「7.1.2」のメニューを用意しています。
−− たとえば家庭用では、通常のBDを擬似Atmos再生したりといったことはできるのでしょうか。
佐野氏::はい、可能です。「Dolby Surround(ドルビーサラウンド)」という機能です。今までのチャンネルベースの音を擬似的にレンダリングして出力するしくみですね。通常のサラウンド音源はメタデータなども無いですから、飽くまでも入っている音を基準に割り振るというかたちになります。
−− Atmosの効果を最大限に体験できるスイートスポットは、これまでのサラウンドと比べて狭めになってしまうのでしょうか。
平塚氏::まだそこも検討中で、十分な試聴環境で確認できている訳ではないのですが、現状ではまだ若干狭めだなと感じています。ただ、スピーカーの置き方によっても変わってくると思いますので、どういうスピーカー配置が効果的かなどはこれから詰めていきたいと考えています。
−− 音声信号をリアルタイムレンダリングするということは、DSPにもかなりの性能が求められますよね。
佐野氏::はい。DSPはこれまでのモデルよりもスペックアップしたものを搭載しています。でないと処理が追いつかないのです。レンダリングという手法も新しいですし、オブジェクトも最大32オブジェクトある。扱う信号が多いので、処理能力がかなり高いものが必要です。
−− では既に発売されているモデルがアップデートでAtmos対応になる可能性はないということですね。
佐野氏::はい、残念ながら…。DSPは「SC-LX57」から2基搭載しているのですが、そのどちらもグレードアップする必要がありますし、クロック周波数も上げないといけません。対応するだけならできるかも知れないのですが、MCACC Proなども含めてきちんと動作する状態にならなければ製品として成り立ちませんから。
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