国内の展開時期にも言及
<IFA>テクニクス復活のキーマンにインタビュー。名門ブランド復活の経緯や技術の詳細、今後の展開を聞く
■今後のラインナップ展開は?
−− 今後の戦略についても教えてください。今回の新製品はHiFiのハイエンド〜ミドルクラスモデルで、高価格帯製品ですが、今後はこの技術を活かしてポータブル製品やヘッドホンなどを出して行くのでしょうか。それとも敢えて高級オーディオに絞るのでしょうか。
小川氏:今回はローンチの段階なので、リファレンスクラス、そしてプレミアムクラスの2ラインでターゲットユーザー等を絞ってブランドバリューを高めるのに集中しています。しかしブランド戦略としては、ラインナップも広げていかなければいけません。価格レンジも、どのあたりまでが適切なのかも含め、現在検討しているところです。
またヘッドホンについても、現在はパナソニックで展開していますが、もちろんテクニクスブランドで展開することも検討しております。
−− カーオーディオも検討していますか?
小川氏:はい。パナソニックグループ全体として、車載分野や住設分野は重要な戦略になっています。その強みを活かしてテクニクスがどういったビジネスを展開していけるかは、今後考えていきたいと思っています。
■新製品の技術詳細に迫る
−− 今回の新製品には核になる技術として注目すべきものがいくつかあります。ひとつはネットワーク再生で、どちらのシリーズにも取り入れています(リファレンスクラスは「SU-R1」、プレミアムクラスは「ST-C700」)。これは時代の流れとして必然ですね。
DLNAによるネットワーク再生と、PCを接続したUSB-DAC再生の2つの方法に対応していますが、ハイエンドオーディオにおいてはネットワーク再生とUSB-DAC、どちらが中心になるとお考えですか? 私としては、ネットワークなのではと思っているのですが。
井谷氏:それは色々議論があるところだと思いますが、私自身にもまだ見えていません。実際自分でやっていても、USB-DACを使うときもあればネットワークを使うときもある…両方ニーズがあると思います。
■信号劣化の少ないプリ・パワー間信号伝送をおこなう独自の「Technics Digital Link」
−− また、デジタルファイルを音源として再生することになると、デジタル伝送をどうするかが重要になりますね。今回はR1シリーズのパワーアンプ「SE-R1」とネットワークプレーヤー「SU-R1」の間は、独自のリンク技術「Technics Digital Link」を採用しています。この狙いは何なのでしょうか?
井谷氏:実は両製品間の接続については、当初HDMIやS/PDIFなども候補に挙がっていました。しかしHDMIはちょっと違うし、S/PDIFには限界がある。何がいいかなと考えたときに、イーサネットケーブルを使った方法なら、技術的にもオープンで信頼性も高いので、良いのではないかと。しかもネットオーディオが普及している今は高品質なケーブルも発売されており、高音質を実現するにも環境が整っていると判断しました。
−− 独自リンクを使うと、各コンポーネントを選んで組み合わせるというユーザーの楽しみを狭めてしまうデメリットもあると思いますが?
井谷氏:それはそのとおりです。内部でも色々議論はありましたが、我々はフルデジタルということを特徴にしたかったので、敢えて独自リンクを選びました。デジタルリンクは将来性も考えて双方向のバスにしているので、メインアンプ側からもプリアンプ側に情報を送れる仕組みは考えています。
■点音源、リニアフェーズ思想を実現する新開発「同軸平板2ウェイユニット」
−− スピーカーも、新開発の「同軸平板2ウェイユニット」を採用していますね。同軸ユニットを使うことにはこだわっていたのですか?
井谷氏:これも、実は内部では侃侃諤諤だったのですが。このユニットは、私のちょうど同期にあたる人間が担当しているのですが、80年代に“やり残した感”があったようで…当時は3ウェイ4ウェイが当たり前という時代で、同軸ユニットを使ったワンポイント再生はあまり認められなかったという思いがあったそうです。しかし今は、あの頃とオーディオの価値観自体が変わっていますし、材料も当時は選べなかったものが使えるようになりました。なので是非やりたいと。その意志を尊重したいと考えました。
三浦氏:同軸平板2ウェイユニットは、昨年末から何回試作したか分からないくらい、試行錯誤と作り直しを繰り返しましたね(笑)。
やはりハイエンドの音にするには、周波数特性だけでなく時間軸の位相の管理が非常に大事になってきます。スペック上の数字一辺倒だと、周波数特性といった簡単に測定できるもので評価しがちになってしまうのですが…。今回は時間軸にはこだわりたいということで、現在も調整を行っているところです。
小川氏:たとえばジャズのドラム/ベース/ピアノが一緒に出てくる瞬間や、コンサートホールでフルコンサートピアノをバッと弾いたときのあの空気の振動感は、低域から高域までの位相特性が揃わないと表現できないと思うので、そこは追求していきたいと思っています。
−− 昨日の発表会で日野皓正さんのカルテットが演奏しましたが、まさしく、それぞれの楽器の音が出るタイミングがバシッと揃っていましたね。
小川氏:そうですね。音がバシッと飛ぶには、パワーだけでなく音の密度も大事だと思います。昔、日野さんのコンサートに随行していた際「どういう音が良い音なのか?」と聞くと、「顕微鏡で見ても綺麗に密度が揃っているような音を目指している」とおっしゃっていました。密度の揃った、バシッと飛ぶ音。その粒立ちは、色々な要素はあると思いますが、位相特性に注目しないと出てこないのだろうなと思います。
−− 位相特性に注目するのは、既存オーディオからの大きな技術的ステップアップになりますね。まだ調整中とのことですが、これが実現すれば、特にハイレゾ音源の再生などは相当変わると思います。
小川氏:まだまだ調整中で道半ばではありますが、今回開発した「LAPC(Load Adaptive Phase Calibration)」技術を入れると、音の立ち上がりなどがバシッと気持ちよく出てくるなと感じています。