音質担当の澤田氏との開発エピソードも披露
マランツ「HD-DAC1」設計担当者に聞く “キャリア集大成” モデルに込めた想い
■HD-DAC1の開発を通してヘッドホンアンプへの認識が変わった
ーー ところで、八ッ橋さん自身にUSB-DACやヘッドホンアンプを作りたいという気持ちはそもそもあったのでしょうか。
八ッ橋 正直に言えば、ヘッドホンにはあまり興味がなかったんです。というのは、私はスピーカーでガンガン聴く方なんですね。とは言いながらも、マランツがプリメインアンプやプレーヤーに搭載したヘッドホンアンプに非常に力を入れていたのはご存じだと思います。どうせ搭載するのならば、中途半端なものは作りたくなかったんですね。
ーー 確かにマランツは、そもそもヘッドホンアンプに力を入れているイメージが強いです。
八ッ橋 驚いたのは、HD-DAC1の試作機を作って自分でヘッドホンを聴いてみたときです。「えっ、ヘッドホンってこんな良い音するの」と。NA-11S1やNA8005のヘッドホンアンプも価格の割にはかなりの力を入れてフル・ディスクリートで作ったのですが、HD-DAC1は力強さを含めて1ケタ2ケタ違う音が出ているなと思いました。手応えがあったからこそ、そこからさらにヘッドホンアンプに力を入れました。
ーー HD-DAC1のヘッドホンアンプについては、ファイル・ウェブでもマランツのサウンドマネージャーである澤田龍一さんにくわしくお話を伺いました(澤田氏のインタビュー記事)。八ッ橋さんの立場では、ヘッドホンアンプへのこだわりはいかがでしたでしょうか。
八ッ橋 やっぱり前提にあったのは「自分でも欲しくなるものを作りたい」ということで、ヘッドホンアンプも妥協はしたくなかったのです。ただ、具体的に細かい指示は何にもなかったので、どうやるべきか自分で考えたわけですけどね。見栄えも大事だから、まずヒートシンクは大きいものを付けたいと思いました。ハッタリではないですよ。ゲイン0dBの無帰還型バッファーアンプという命題がありましたから、大きなヒートシンクを付けて、電流もたっぷりと流したかったのです。でも、実際にやっていくと難しいところがいっぱいありました。
ーー 澤田さんも、ゲイン0dBの無帰還型バッファーアンプを実現するにはいろいろと苦労があったとお話されていました。八ッ橋さんがそれを実際に形にしたわけですよね。澤田さんの掲げた理想を実際に形にするというのは、やはり大変な作業だったのでしょうか。
八ッ橋 ゲイン0dB無帰還型バッファーアンプの基本となる技術や回路設計は、すでにマランツに蓄積されていました。しかしそれはフルサイズのHi-Fiアンプの話です。ディスクリートによる電圧増幅部とバッファー部の2段構成となると、そのままではHD-DAC1の筐体に入るはずがありません。ですから、回路を凝縮する必要があるのですが、どの部分を残して、どの部分を省くかというのは開発の腕の見せどころでした。それでも最初は歪みが取れないとか、なかなか満足いくものができなくて、試作の3回目でようやくほぼ最終の回路に落ち着きました。
ーー 試作を繰り返すというプロセスは、やはり試聴テストを繰り返しながら行うものなのでしょうか。
八ッ橋 そうですね。音質テストをして、特性を測定して、これでは駄目だな、ここのところはもっと手を入れなければとか、そういうことの繰り返しです。
ーー その段階では、八ッ橋さんが自分で音を聴きながら自分で調整を行って、まずはある程度追い込んでいくというイメージでしょうか。
八ッ橋 それはごく初期の段階だけです。音は澤田が最終的に決めますので。ただ、ベースの段階では、私の判断で部品を変えることがありました。今回でいえば、普段はあまり使わないWIMAのコンデンサーを私の判断で採用しました。とりあえず私が部品を選んで、「澤田、これでどうだよ」なんてやり取りもしていましたね。ただ、マランツの場合はどこにどういうコンデンサーを使うというセオリーはある程度あります。
ーー HD-DAC1に限った話ではないですが、オーディオ製品の音作りで八ッ橋さんが大切だと思われることは何でしょうか。
八ッ橋 音づくりにおいては、基板のレイアウトや回路の構成がとても大事になります。よく、コンデンサーを変えて音を調整すると言いますよね。あれは料理で言えば、最後に塩やコショウをパッパッと振るところなんですよ。ですから基本の音というのは、回路の構成や基板のレイアウトの時点で決まってしまっています。回路構成や基板のレイアウトは、料理でいうところの素材みたいなものなので、そこで音の根幹は決まってしまいます。
ーー そもそも回路やレイアウトが駄目だったら、塩やコショウをいくら振っても駄目ということですね。
八ッ橋 そう、駄目ですね。そこで塩コショウでなんとかしようとしたら、どんどんごまかしの世界にいってしまいます。味を濃くしてしまえばわからない、みたいなことでは問題ですよね。
ーー ところで、八ッ橋さん自身にUSB-DACやヘッドホンアンプを作りたいという気持ちはそもそもあったのでしょうか。
八ッ橋 正直に言えば、ヘッドホンにはあまり興味がなかったんです。というのは、私はスピーカーでガンガン聴く方なんですね。とは言いながらも、マランツがプリメインアンプやプレーヤーに搭載したヘッドホンアンプに非常に力を入れていたのはご存じだと思います。どうせ搭載するのならば、中途半端なものは作りたくなかったんですね。
ーー 確かにマランツは、そもそもヘッドホンアンプに力を入れているイメージが強いです。
八ッ橋 驚いたのは、HD-DAC1の試作機を作って自分でヘッドホンを聴いてみたときです。「えっ、ヘッドホンってこんな良い音するの」と。NA-11S1やNA8005のヘッドホンアンプも価格の割にはかなりの力を入れてフル・ディスクリートで作ったのですが、HD-DAC1は力強さを含めて1ケタ2ケタ違う音が出ているなと思いました。手応えがあったからこそ、そこからさらにヘッドホンアンプに力を入れました。
ーー HD-DAC1のヘッドホンアンプについては、ファイル・ウェブでもマランツのサウンドマネージャーである澤田龍一さんにくわしくお話を伺いました(澤田氏のインタビュー記事)。八ッ橋さんの立場では、ヘッドホンアンプへのこだわりはいかがでしたでしょうか。
八ッ橋 やっぱり前提にあったのは「自分でも欲しくなるものを作りたい」ということで、ヘッドホンアンプも妥協はしたくなかったのです。ただ、具体的に細かい指示は何にもなかったので、どうやるべきか自分で考えたわけですけどね。見栄えも大事だから、まずヒートシンクは大きいものを付けたいと思いました。ハッタリではないですよ。ゲイン0dBの無帰還型バッファーアンプという命題がありましたから、大きなヒートシンクを付けて、電流もたっぷりと流したかったのです。でも、実際にやっていくと難しいところがいっぱいありました。
ーー 澤田さんも、ゲイン0dBの無帰還型バッファーアンプを実現するにはいろいろと苦労があったとお話されていました。八ッ橋さんがそれを実際に形にしたわけですよね。澤田さんの掲げた理想を実際に形にするというのは、やはり大変な作業だったのでしょうか。
八ッ橋 ゲイン0dB無帰還型バッファーアンプの基本となる技術や回路設計は、すでにマランツに蓄積されていました。しかしそれはフルサイズのHi-Fiアンプの話です。ディスクリートによる電圧増幅部とバッファー部の2段構成となると、そのままではHD-DAC1の筐体に入るはずがありません。ですから、回路を凝縮する必要があるのですが、どの部分を残して、どの部分を省くかというのは開発の腕の見せどころでした。それでも最初は歪みが取れないとか、なかなか満足いくものができなくて、試作の3回目でようやくほぼ最終の回路に落ち着きました。
ーー 試作を繰り返すというプロセスは、やはり試聴テストを繰り返しながら行うものなのでしょうか。
八ッ橋 そうですね。音質テストをして、特性を測定して、これでは駄目だな、ここのところはもっと手を入れなければとか、そういうことの繰り返しです。
ーー その段階では、八ッ橋さんが自分で音を聴きながら自分で調整を行って、まずはある程度追い込んでいくというイメージでしょうか。
八ッ橋 それはごく初期の段階だけです。音は澤田が最終的に決めますので。ただ、ベースの段階では、私の判断で部品を変えることがありました。今回でいえば、普段はあまり使わないWIMAのコンデンサーを私の判断で採用しました。とりあえず私が部品を選んで、「澤田、これでどうだよ」なんてやり取りもしていましたね。ただ、マランツの場合はどこにどういうコンデンサーを使うというセオリーはある程度あります。
ーー HD-DAC1に限った話ではないですが、オーディオ製品の音作りで八ッ橋さんが大切だと思われることは何でしょうか。
八ッ橋 音づくりにおいては、基板のレイアウトや回路の構成がとても大事になります。よく、コンデンサーを変えて音を調整すると言いますよね。あれは料理で言えば、最後に塩やコショウをパッパッと振るところなんですよ。ですから基本の音というのは、回路の構成や基板のレイアウトの時点で決まってしまっています。回路構成や基板のレイアウトは、料理でいうところの素材みたいなものなので、そこで音の根幹は決まってしまいます。
ーー そもそも回路やレイアウトが駄目だったら、塩やコショウをいくら振っても駄目ということですね。
八ッ橋 そう、駄目ですね。そこで塩コショウでなんとかしようとしたら、どんどんごまかしの世界にいってしまいます。味を濃くしてしまえばわからない、みたいなことでは問題ですよね。