音質担当の澤田氏との開発エピソードも披露
マランツ「HD-DAC1」設計担当者に聞く “キャリア集大成” モデルに込めた想い
■限られたスペースに基板を納めることの難しさ
ーー HD-DAC1については澤田さんにもじっくりインタビューをさせていただきましたが(澤田氏インタビュー)、今日はまったく別のサイドから光が当たっています。
高山 澤田と八ッ橋はタイプが全然ちがうので、同じ内容を喋っていても、全然違って聞こえるということもあるかもしれません(笑)。
八ッ橋 澤田の指摘を受けたり、思うように性能が出ないというときは、部品を追加する必要がでてきます。しかし、部品が入らないなんてこともよくあります。悩みますよね。1つ2つの部品を追加するのに、2・3日考えることもよくありますから。ほとんどパズルです。だから、やっぱりうまく収まったときは嬉しいですよ。これでまた音が良くなるよって。
ーー HD-DAC1は中身がぎっしりですよね。
八ッ橋 ええ。最初、正直言って入らなかったのです。企画段階でモックアップを作るのですが、そのときは実際の製品化したサイズより奥行きが5cm大きかった。でも机の上に置いて、PCと組み合わせて手軽に使うなら奥行きがもう少し短いほうがいいなという話になって。偉い人が一言いったのです、「ちょっと大きいんじゃないか」と。それで5cm縮めたら、もう入らなくてね。今見てもギリギリでしょう? それで最終的には、基板を縦にしたんですけど、まだ入んなくてね。
ーー それでも入れなくてはならないと。
結局全部の部品を納めるのに、まるまる1・2週間はかかりました。これはもう物理的に入らないな、諦めてケツをまくろうかと思ったくらいですね。でもそうも言ってられなくて、押し込みました。でも、押し込むことができたからといって性能が取れなければ意味がないので、熱設計なども考慮して、最適な配置に追い込んでいきました。設計で1番難しいところだったかもしれないです。澤田は「コンデンサーを変えよう」の一言で良いんだけれども、こっちは違うんだぞと。
高山 これが記事になったら、澤田さんに怒られちゃうなあ。
ーー いや、記事にします(笑)。澤田さんがお話されている理想がどのようなプロセスで実現されていたのか、よくわかりました。一方で八ッ橋さんにも様々なアイデアがあって、そこにまたせめぎ合いがあるのだろうなと。そして、最後に製品に落とし込むという役割を八ッ橋さんが担っているという。
八ッ橋 これは書いておいて下さい、 八ッ橋が「澤田ふざけんな、馬鹿野郎」って言ってたって。
ーー それは書けないです(笑)。
高山 八ッ橋と澤田は同期なんですね。サウンドマネージャーという立場にある澤田本人にそうやって言える人間っていうのも、八ッ橋さんがいなくなったら、役職に関わらず誰もいないかもしれません。
八ッ橋 ああ、そうだね。澤田に面と向かってということになると。そういう意味では、自分は澤田にざっくばらんに「今はこっちに入るなよ」って言えるからね。
ーー そこのせめぎ合いは、モノづくりという本質から考えてもとても興味深いと思います。
八ッ橋 音質を調整する人間と、実際に設計を行う人間でのせめぎ合いというのはありますね。だからこそ、より良いものができるのです。HD-DAC1もそうです。
■HD-DAC1の壮絶な追い込みについての回想
八ッ橋 正直に言うと、メルフ抵抗で音がさらに良くなるとか、そこまでの音の検出能力は私には無いんです。そこはやはり澤田の領域です。でも彼は簡単なわけですよ、「音がよくなるから、ここの抵抗はこれを使って」って。それで、その後に私が悩むわけです。そのパーツが基板に入るのか、いや、そもそもそのパーツがいまから調達できるのかと。コストの計算もしなければいけない。心の中では「澤田、おまえが言うのは簡単だけどよ」って思っているわけです(笑)。
ーー 実際に製品に落とし込むのは八ッ橋さんの役割ですからね。
八ッ橋 あとは時間との戦いですよね。だいたい、生産開始の直前までそんなことをやっていますから。それで一番怖いのは、もう最後の最後だから失敗できないという状況です。例えば試作というものはだいたい3回は行いますが、たとえ失敗しても次の試作で改善すればいいだけです。でも、最後の最後の追い込みで失敗したら生産が止まってしまうわけです。
ーー 話を聞いているだけで、直前の追い込みの壮絶さが伝わってきます…。
八ッ橋 最後は本当に神経を使います。時間がないから急がなくてはいけないけれど、ミスをしたら終わりなので慎重にやらなければいけません。HD-DAC1を追い込んでいたのが5月だったのですが、連休はまったくなかったですね。まあ、今考えれば良い思い出です。やっぱり苦労した製品ほど印象に残ります。
ーー お腹を痛めて産んだ子供はかわいいということですね。
八ッ橋 そうですね、お腹痛めました。下痢したくらい(笑)。
ーー HD-DAC1については澤田さんにもじっくりインタビューをさせていただきましたが(澤田氏インタビュー)、今日はまったく別のサイドから光が当たっています。
高山 澤田と八ッ橋はタイプが全然ちがうので、同じ内容を喋っていても、全然違って聞こえるということもあるかもしれません(笑)。
八ッ橋 澤田の指摘を受けたり、思うように性能が出ないというときは、部品を追加する必要がでてきます。しかし、部品が入らないなんてこともよくあります。悩みますよね。1つ2つの部品を追加するのに、2・3日考えることもよくありますから。ほとんどパズルです。だから、やっぱりうまく収まったときは嬉しいですよ。これでまた音が良くなるよって。
ーー HD-DAC1は中身がぎっしりですよね。
八ッ橋 ええ。最初、正直言って入らなかったのです。企画段階でモックアップを作るのですが、そのときは実際の製品化したサイズより奥行きが5cm大きかった。でも机の上に置いて、PCと組み合わせて手軽に使うなら奥行きがもう少し短いほうがいいなという話になって。偉い人が一言いったのです、「ちょっと大きいんじゃないか」と。それで5cm縮めたら、もう入らなくてね。今見てもギリギリでしょう? それで最終的には、基板を縦にしたんですけど、まだ入んなくてね。
ーー それでも入れなくてはならないと。
結局全部の部品を納めるのに、まるまる1・2週間はかかりました。これはもう物理的に入らないな、諦めてケツをまくろうかと思ったくらいですね。でもそうも言ってられなくて、押し込みました。でも、押し込むことができたからといって性能が取れなければ意味がないので、熱設計なども考慮して、最適な配置に追い込んでいきました。設計で1番難しいところだったかもしれないです。澤田は「コンデンサーを変えよう」の一言で良いんだけれども、こっちは違うんだぞと。
高山 これが記事になったら、澤田さんに怒られちゃうなあ。
ーー いや、記事にします(笑)。澤田さんがお話されている理想がどのようなプロセスで実現されていたのか、よくわかりました。一方で八ッ橋さんにも様々なアイデアがあって、そこにまたせめぎ合いがあるのだろうなと。そして、最後に製品に落とし込むという役割を八ッ橋さんが担っているという。
八ッ橋 これは書いておいて下さい、 八ッ橋が「澤田ふざけんな、馬鹿野郎」って言ってたって。
ーー それは書けないです(笑)。
高山 八ッ橋と澤田は同期なんですね。サウンドマネージャーという立場にある澤田本人にそうやって言える人間っていうのも、八ッ橋さんがいなくなったら、役職に関わらず誰もいないかもしれません。
八ッ橋 ああ、そうだね。澤田に面と向かってということになると。そういう意味では、自分は澤田にざっくばらんに「今はこっちに入るなよ」って言えるからね。
ーー そこのせめぎ合いは、モノづくりという本質から考えてもとても興味深いと思います。
八ッ橋 音質を調整する人間と、実際に設計を行う人間でのせめぎ合いというのはありますね。だからこそ、より良いものができるのです。HD-DAC1もそうです。
■HD-DAC1の壮絶な追い込みについての回想
八ッ橋 正直に言うと、メルフ抵抗で音がさらに良くなるとか、そこまでの音の検出能力は私には無いんです。そこはやはり澤田の領域です。でも彼は簡単なわけですよ、「音がよくなるから、ここの抵抗はこれを使って」って。それで、その後に私が悩むわけです。そのパーツが基板に入るのか、いや、そもそもそのパーツがいまから調達できるのかと。コストの計算もしなければいけない。心の中では「澤田、おまえが言うのは簡単だけどよ」って思っているわけです(笑)。
ーー 実際に製品に落とし込むのは八ッ橋さんの役割ですからね。
八ッ橋 あとは時間との戦いですよね。だいたい、生産開始の直前までそんなことをやっていますから。それで一番怖いのは、もう最後の最後だから失敗できないという状況です。例えば試作というものはだいたい3回は行いますが、たとえ失敗しても次の試作で改善すればいいだけです。でも、最後の最後の追い込みで失敗したら生産が止まってしまうわけです。
ーー 話を聞いているだけで、直前の追い込みの壮絶さが伝わってきます…。
八ッ橋 最後は本当に神経を使います。時間がないから急がなくてはいけないけれど、ミスをしたら終わりなので慎重にやらなければいけません。HD-DAC1を追い込んでいたのが5月だったのですが、連休はまったくなかったですね。まあ、今考えれば良い思い出です。やっぱり苦労した製品ほど印象に残ります。
ーー お腹を痛めて産んだ子供はかわいいということですね。
八ッ橋 そうですね、お腹痛めました。下痢したくらい(笑)。
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