<山本敦のAV進化論 第51回>LDACキーマンインタビュー(2)
ソニーのLDACは将来192/32対応に? 他社への“オープン”展開の詳細も
なおLDACの規格としては将来、周波数は192kHz、ビット深度は32bitまで拡張することができるという。ちなみに現状では192kHz/24bitのデータを再生した場合は、いったん周波数を96kHzまでダウンサンプリングする仕様になる。
「LDACは様々なプラットフォームに移植した場合にもプロセッサーに処理負担をかけないよう軽くつくられています。そのため現在あるプロセッサーを使って192kHzの信号を処理できないこともないのですが、同時に行われる様々な処理が追いつかなくなってしまうので、現状は96kHz/24bitまでの対応としています。
また一方で、そもそもBluetoothのレシーバーチップに96kHz/24bit対応のものが非常に少なかったため、MDR-1ABTのLDAC対応はとても苦労しました。既存のチップセットによるシステム構成が組めないため、そこは現時点で入手できるシステムの中でどうやって実現するか、頭をひねりながら裏技を使って既存のチップセットとDSPを上手く組み合わせることで実現しています」(鈴木氏)
■CD品質の音楽ファイルもLDACなら高品位に楽しめる
なお、ハイレゾ音源を再生した場合だけでなく、CD品質の44.1kHz/16bitの音源を再生した場合もSBCに比べてLDACは音が良いのが特徴だ。単純にSBCの328kbps以上のビットレートが確保できているからというだけでなく、レガシーなコーデックであるSBCに対して、LDACは符号化レベルでロスレスの概念が組み込まれている新しいコーデックならではの優位性を持っている。
「SBCの場合はコーデック設計として、最大でもCD品質をターゲットにおいて作られているため、600kbps前後でサチュレーション(飽和)を起こしてしまい、それ以上品質が上がることがありません。一方のLDACでは990kbpsまでリニアに音質を上げることができます。また44.1kHz/16bitの音源の場合、低域にビット方向を割り当てなくても良くなるぶん、高域とのデータの貸し借りが不要になることもあり、音源次第では990kbpsの範囲内で十分に通せて、結果としてロスレスで伝送できてしまっていることもあり得ます」(鈴木氏)
LDACではこれらの複雑な信号処理をリアルタイムで行いながら、最大990kbpsの情報量にオーディオ信号を符号化することによって、ハイレゾ音源の高品位なワイヤレスリスニングを実現している。鈴木氏は何よりも96kHz/24bitの“ハコ”を維持できていることが大事だと強調する。
「映像の場合に例えて考えると、4Kという解像度がこの“ハコ”に相当するものです。中の信号はAVCやHEVCで圧縮をしていても4Kでは十分に美しい映像が楽しめます。同じような考え方をオーディオにも当てはめることができ、例えばCDはロスレスですが、映像に例えればVGAでSD品質といえるかもしれません。一方、LDACではハイビジョンの画サイズを持っていて、そこを通すデータは圧縮していますが、削っている情報は人の耳で知覚できないノイズ成分であり、音楽成分はなるべくそのままに記録しているので、ワイヤレスでもいい音が楽しめるというわけです」(鈴木氏)
筆者は以前MDR-1ABTとウォークマンのNW-ZX2をリファレンスにLDACの接続性能に関する実験を行ってみたが、最大990kbpsの「音質優先モード」に設定して通勤ラッシュの電車の中や、人が多く集まる場所で音楽を聴いてみても、音切れや干渉ノイズはほとんど発生しなかった。
「音質を良くした分だけ、データレートが上がって音切れが発生してしまっては本末転倒なので、接続性の確保には十分に気を配りました。990kbpsでも標準的な環境であれば問題ないのですが、一般的には様々な環境があるため、660kbpsのスタンダードモードも用意しました。スタンダードモードでは現状のSBCと同等以上の接続性能が担保できたためです。
660kbpsでもCD音質は超えているので、従来からの飛躍は感じていただけると思いますが、それ以上を求める方は990kbpsの音質優先モードを切り替えながら使っていただきたいと考えています。
また、万一のために330kbpsの接続優先モードをつくっています。お客様にもわかりやすいよう、モードは以上の3種類に集約しています。なお、各々を整数倍にすることで同じフレームワークが使えるので、パケットを有効に使うことができ、再送の余裕度も上がることから音切れなどに対する耐性も強くなるメリットがあります」(鈴木氏)
またコーデックによる再生遅延についても、aptX等のコーデックと比べて差が無く、発生する遅延も人間が感知できるレベルのものではないという。我々がふだんの動画再生時に発生するリップシンクのズレなどの音声遅延は、大半がハードウェアのシステム構成などセット側に起因するものであり、コーデックが原因になっているものではないのだと鈴木氏は説明を加える。
■ソニーは今後LDACをスタンダード機にも広げて行く
今年1月のCESでLDACがベールを脱いで以来、ウォークマン「NW-ZX2」を皮切りにLDAC対応製品が次々に発表されている。特徴的なのは、ウォークマンのフラグシップモデルや、MDR-1ABTのようなプレミアムヘッドホンだけでなく、ワイヤレススピーカーでは「SRS-X55/X33」といったスタンダードクラスに位置づけられる製品にもLDACが搭載されることだ。今後ソニーではLDACをどんな製品に搭載していくのか、宮原氏に訊ねた。