哲学者と宗教学者がオーディオを語り尽くす
黒崎政男×島田裕巳のオーディオ哲学宗教談義 Season 2「存在とはメンテナンスである」<第1回>
LPプレーヤーのモーター電源を改良すると、音は変わるのか
黒崎 かつては時間が経てば経つほど豊かになるという、「右肩上がり」と考えていた時代がありました。これは「バージョンアップ」に繋がりますよね。1960年代って「科学が未来を豊かにしてくれる。もう戦争もない、皆がニコニコして平和になるのが21世紀だよね」と。21世紀になったら全て問題解決されてバラ色になると思っていた。でも蓋を開けたら全然そうじゃなくて、21世紀に入る頃に、「世界はダメになって行くんだ、朽ちていくんだ」という思想がやってきたわけです。1982年には『ブレードランナー』という映画がありました。都市はしとしと雨が降っていて、わざと汚い未来を描いたんだ、と思ったけれど。
島田 実際にそうなった。
黒崎 そう思います。
島田 この辺で、LP12の「バージョンアップ」は具体的にどうなるのかを、実例として聴いてみましょう。
黒崎 今、「大地の歌」の再生に使ったLP12は(1)最上位機種KLIMAX LP12です。これと別に、ここに用意してもらったのは、(2)スタンダードモデルのMAJIK LP12。内蔵電源のものです。そして、最近、LINGOという外部電源が新しくなりました。LINGOの改良、つまりバージョンアップもこれで4代目ですね。(3)内蔵電源の代わりにLINGO /4搭載したMAJIK LP12。
島田 (2)と(3)つまり、電源だけを換えた2台を用意して、音がどう変わるかを聴いてみます。他の部位、アームも、カートリッジも全て同じです。
LINGO/4は先日出たばかりの新製品なので、本邦初公開。まずは(2)スタンダードバージョン、次に(3)外部電源のみをアップグレードしたバージョンという順で聴きたいと思います。
サウンドクリエイト この比較に、スピーカーはEXAKT AKUBARIKを使います。フォノイコライザーはAKURATE DSM内蔵のものを使います。レコードは島田先生からのリクエストでマイルスの『Live Around the World』から「Human Nature」。1988年の録音です。音量も同じにします。
〜マイルス・デイヴィス「Human Nature」をまずMAJIK電源(2)で聴く。その後、LONGO/4に替えた(3)で聴く〜
黒崎 スケールがひとつ大きくなっています。明るさというか、クリアネス、存在感が際立っていますし、後ろの弦の音がちゃんと聴こえるようになっていますよね。分析的に……というと冷たい言い方ですが、音が色々聴こえてきて、楽しいですよね。
いかがですか?(と会場の方々に訊く)
男性A ミュート・トランペットの明晰さが増すというだけでなく、柔らかさも同時でていましたね。
黒崎 そうですね!マイルスって音をよく外すでしょう……?
一同 (笑)
島田 亡くなる前の頃?
黒崎 若い時も結構外していた。聴こえた方がいいのか、聴こえない方がいいのか分かりませんが、LINGO /4にした時は、おぉ、へくっている、マイルス〜って。音の粒立ちがいいから、より鮮明に分かっちゃうのかも。昔は、オーディオって低域が出たとか、高域が出たとかっていう感じの基準でしたが、今は、音楽が豊かになるか、意味を持ってくるか、が基準になる感じがしますね。皆さん、いかがですか。
もうひとつ、クラシック音楽で、アルベニスをかけます。
ものすごくいいレコードです。これも初期盤に近いものなのですが、とんでもなく面白い音がするんです。ラファエル・フルーベック・デ・ブルゴスが編曲して指揮もしているですけども(1967年録音)、演奏が概念的じゃなくて、意味深い音楽になっているの。
〜アルベニスのスペイン組曲から「セヴィリア/グラナダ」をLINGO/4、その後、MAJIK電源で聴く〜
黒崎 ノーマルバージョンも悪くないですよね。聴きようによっては渋くて良いです。スケール感は減りますが。
男性B LINGO/4の方が、カスタネットのビビッドさが良いと思います。
黒崎 その通りですね。電源とかモーターが変わるだけで音楽性が変わるなんて面白いですよね。
島田 それがオーディオの面白さ。この電源の比較はリンのプレーヤーの独特なところですね。